実家を空き家のまま持っておく費用は、国の調査だと税金を入れても年5万円未満が47.8%。月に直すと4,000円ほどで、これは実際そのとおりです。ただし同じ期間に、神戸市で売れた中古戸建ての中央値なら191万円から609万円ぶんの税金が「かからない側」から「かかる側」へ移ります。
先に結論
- 空き家1軒の年間維持費は、税金込みで5万円未満が47.8%(国土交通省・令和6年調査)。「月数千円」は本当
- 見落とされているのは費用ではなく期限。自分が住んでいた家は「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日」まで(国税庁 No.3302)
- 相続した実家に自分が住んでいた人は、よく紹介される「相続から3年」の空き家特例(No.3306)が最初から使えない
- 神戸市9区のうち6区は、中央値の家なら期限内に売れば税金ゼロ。過ぎると191万〜521万円が出る
- 親の購入時の資料が残っていないと、売った額の95%が課税対象になる(No.3258)
神戸の実家について「いま売るべきか、待つと値段が上がるか」を知りたい場合は、9区×3種別の推移を実取引データで出した相続した神戸の実家「待てば上がる」は本当かのほうが直接の答えになります。この記事は値段の話ではなく、値段と関係なく進む期限の話です。
空き家の維持費は、税金を入れても年5万円未満が47.8%
Yahoo!知恵袋に、こういう相談があります。両親が他界した実家にいま夫と子どもと住んでいる人が、将来ひとりになったら利便性の良い地域のアパートへ移りたいと考えていて、そのときに実家を空き家として維持するといくらかかるのかを、実際に維持している人に聞いている(q14283181524・2023年7月)。寒冷地なので凍結防止ヒーターの電気を止めていいのかも気にしています。
この「月いくらか」には、国の統計に答えがあります。国土交通省が2025年8月に公表した令和6年空き家所有者実態調査(全国・138万1千戸)によると、年間の維持管理費用は5万円未満が47.8%。この調査の「維持管理に要する費用」は管理委託料や電気・ガス・水道のほか、空き家までの交通費と税金も含む定義なので、固定資産税を払ったうえで年5万円未満という世帯が半分近くいることになります。

「費用はかかっていない」が12.1%あるのも、実態を知っている人には納得のいく数字だと思います。電気・水道・ガスを解約してしまえば、月々の請求はほぼ止まるからです。
同じ質問に付いた2つの回答は、どちらも同じものを数えていない
この相談に付いた回答が興味深いのは、答えている内容が2種類に分かれていることです。
1人目は、実際に空き家を持っている人でした。父親が亡くなり母親は施設にいて、実家は誰も住んでいない。売却は不動産会社に依頼中。「火災保険と固定資産税は支払っていますが電気・水道・ガス等すべて解約しました」と書いています。訪問したときには「庭がジャングルのようになって軒先にハチの巣ができていました」とも。水道を止めたので冬の凍結を心配しなくてよくなり、寒い時期は行く回数を減らしている、という状況です。
もう1人は「週一、最低限月一の見回りが必要」と書き、費用そのものは大したことがないとしたうえで、使わない不動産は手放したほうがよいと結んでいます。
前者は出ていく現金を数えていて、後者は取られる時間を数えている。そして、どちらも期限は数えていません。
「3年」は2つあって、起点が違う
家を売ったときの税金には、利益から3,000万円まで差し引ける特例が2つあります。名前も金額も似ているのに、時計の始まる場所が違います。

検索して先に出てくるのは、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁 No.3306)のほうです。こちらは「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」が要件で、期限の起点は相続です。
ところがこの特例には、もう1つの要件があります。「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと」。相続した実家に自分が住んだ時点で、この特例は対象から外れています。冒頭の相談者のように、親が亡くなったあと自分がその家に住んでいる人は、はじめから使えません。
この人に効くのは、マイホームを売ったときの特例(国税庁 No.3302)です。自分が住んでいた家を売る場合の3,000万円控除で、期限は「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日まで」。アパートへ移った日から、3年の時計が動き出します。
言葉としては同じ「3年」なので、混ざります。実際、「住まなくなってから3年」で検索しても、返ってくる上位は相続空き家特例(相続から3年)の解説ばかりでした。相続から数える3年と、引っ越しから数える3年は別のものです。
なお家を取り壊して土地だけで売る場合、No.3302には「譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」「家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと」という条件が付きます。更地にするか残すかで迷っている場合は、神戸の実成約で比べた更地にすると固定資産税が6倍が怖くて残した実家の話のほうに数字があります。
神戸市9区、控除が間に合うかどうかで税額はこう変わる
ここからは、その3年を過ぎるといくら違うのかを、神戸の実際の成約価格で出します。国土交通省の不動産取引価格情報から、2025年第2四半期〜2026年第1四半期に神戸市9区で成約した中古戸建て(宅地・土地と建物/住宅地)1,040件を集計した中央値が基準です。
前提を先に書きます。親が買った当時の売買契約書が残っていない場合、取得費は売った金額の5%として計算できると国税庁が定めています(No.3258)。つまり売却価格の95%が利益とみなされます。税率は所有期間5年超の長期譲渡所得で20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税、No.3208)。相続した家は被相続人が買った時期を引き継ぐので(No.3270)、親が長く持っていた家なら長期になります。仲介手数料などの譲渡費用は引いていないので、実際の税額はこれより下がります。
| 区 | 中央値 | 3年内に売った場合 | 3年を過ぎた場合 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 東灘区 | 5,700万円 | 491万円 | 1,100万円 | 609万円 |
| 灘区 | 4,800万円 | 317万円 | 926万円 | 609万円 |
| 中央区 | 4,800万円 | 317万円 | 926万円 | 609万円 |
| 垂水区 | 2,700万円 | 0円 | 521万円 | 521万円 |
| 須磨区 | 2,600万円 | 0円 | 502万円 | 502万円 |
| 西区 | 2,500万円 | 0円 | 482万円 | 482万円 |
| 兵庫区 | 1,800万円 | 0円 | 347万円 | 347万円 |
| 北区 | 1,600万円 | 0円 | 309万円 | 309万円 |
| 長田区 | 990万円 | 0円 | 191万円 | 191万円 |
取得費不明(売却価格の5%)・長期譲渡所得20.315%・譲渡費用は未控除で計算。件数は東灘区95/灘区91/中央区45/垂水区201/須磨区95/西区118/兵庫区84/北区226/長田区85。
色の付いた6区を見てください。中央値の家なら、期限内に売れば税金は出ません。利益が3,000万円に届かないので、控除で全部消えるからです。ところが3年を過ぎると、その全部が出ます。長田区の990万円の家で191万円、北区の1,600万円の家で309万円です。
年5万円の維持費なら3年で15万円。長田区でその12.7倍、北区で20.6倍、垂水区で34.7倍という開きになります。維持費の計算をどれだけ丁寧にしても、この桁には届きません。
「うちの実家は安いから税金なんて出ない」がいちばん危ない
この表で私が気になったのは、金額の大きい東灘区や灘区ではなく、下の6区のほうです。
東灘区の5,700万円の家は、3年内に売っても491万円の税金が出ます。控除を使っても利益が3,000万円を超えるからで、この人はもともと税金を意識せざるをえません。税理士にも相談するでしょうし、期限も調べるはずです。
一方、長田区の990万円の家を相続して住んでいる人は、税金の話を自分ごとだと思っていない可能性が高い。実際、期限内なら税額はゼロです。ところが期限を過ぎた瞬間、ゼロだったものが191万円になります。ゼロが191万円になる変化は、491万円が1,100万円になる変化より、当事者にとっては大きい。
私は、この特例をいちばん取り逃しやすいのは「税金が出るほどの家ではない」と思っている人だと見ています。金額が小さいほど税務署にも税理士にも縁がなく、期限があること自体を知る機会がないからです。
親の購入時の資料が残っていないと、売った額の95%が課税対象になる
上の試算で効いているのが、取得費の扱いです。
親がその家を買ったときの売買契約書が残っていれば、その金額(建物は減価償却後)を取得費にできます。1980年代に3,000万円で買った家なら、売って2,000万円でも利益は出ません。ところが契約書が見つからない場合、取得費として認められるのは売った金額の5%だけです(No.3258)。2,000万円で売れば100万円しか引けず、1,900万円が利益として扱われます。
実家を空にする作業の中で、この書類は最も捨てられやすいものの1つです。仏壇や写真は残しても、40年前の契約書一式を残す人は少ない。相続した家を売るときに集める書類にどれを取っておくかをまとめてあるので、片づけを始める前に一度見ておくと戻せなくなる失敗を避けられます。
引っ越す前に決めておく3つ
冒頭の相談者のように、これから空き家にする予定の人向けに、順番を書きます。
1つ目は、住民票を移した日を記録しておくこと。「住まなくなった日」がいつかで期限が決まります。3年を経過する日の属する年の12月31日までなので、2026年6月に引っ越したなら2029年12月31日までです。引き渡しではなく契約の日でもなく、売却が完了する日をこの期限に間に合わせる必要があるので、逆算すると動き出すのは3年目の夏では遅い。
2つ目は、引っ越す前に契約書と領収書を探すこと。家が空になってからでは探せません。売買契約書、建築請負契約書、登記費用や仲介手数料の領収書。これらが取得費になります。
3つ目は、いまの相場を1回だけ確認しておくこと。売るかどうかを決めるためではなく、3,000万円の控除で足りる家なのかどうかを知るためです。利益が3,000万円に収まるなら期限が全てで、超えるなら期限だけでは終わりません。神戸市内の実際の成約価格は下のツールで区と町名から引けます。
利益が3,000万円に収まる家かどうかは、査定額を見ないと判断できません
神戸市の実際の成約価格を町名から調べる
神戸の実家は待てば上がるのか(9区の推移)
よくある質問
空き家にしたあと、誰かに貸したら期限はどうなりますか
マイホームを売ったときの特例(No.3302)には、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることという期限があり、この間に人に貸していても特例そのものは使えます。ただし取り壊して土地で売る場合は、更地を貸駐車場などに使っていないことが条件に入っています。個別の判定は税務署か税理士に確認してください。
「空き家を放置すると固定資産税が6倍」も心配です
その勧告が実際に出た件数を全国で調べたことがあります。1年間で978件、24道府県はゼロでした。詳しくは空き家の勧告978件を都道府県別に見た記事に書いています。
親族に安く売って自分の家として使ってもらうのはどうですか
No.3302には「親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと」という条件があり、身内に売ると3,000万円控除は使えません。親族間で売買する場合の税金は解体費500万円を引いて母から実家を買う話にまとめてあります。
出典と計算の前提
- 維持管理費用:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025年8月公表)図表4-74。全国・N=138万1千戸。同調査の「維持管理に要する費用」は管理委託料・電気・ガス・水道・交通費・税金を含む
- 成約価格:国土交通省「不動産取引価格情報」より、2025年第2四半期〜2026年第1四半期に神戸市9区で成約した宅地(土地と建物)・住宅地の1,040件の取引総額の中央値
- 税額:取得費が不明な場合の5%(国税庁 No.3258)、長期譲渡所得20.315%(No.3208)、3,000万円特別控除(No.3302)で計算。譲渡費用は控除していないため、実際の税額はこれより低くなります
- 相続財産の所有期間:被相続人の取得の時期を引き継ぐ(国税庁 No.3270)
- この記事は税務の一般的な情報であり、個別の適用可否は税務署または税理士に確認してください


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