結論からいうと、「更地にすると固定資産税が6倍になるから、古家は残したまま売ったほうが得」とは言えません。神戸市で実際に成約した土地を区ごとに数えると、築40年を超えた木造の家が建ったまま売れた土地の単価は、更地より36〜41%安いという結果でした。150m²に換算すると421万円から829万円の差です。
ただし、だから今すぐ壊しましょう、という話でもありません。神戸市の解体補助金は申請より先に工事を契約すると1円も出ないので、順番を間違えるだけで最大60万円が消えます。
先に結論
- 神戸市の成約データで、築40年超の木造付きで売れた土地の単価は更地より安い。垂水区41%/兵庫区40%/須磨区37%/北区36%/長田区36%
- 北区と須磨区は、更地側と古家付き側で土地の広さも前面道路の幅もほぼ同じ。「古家付きは条件の悪い土地ばかりだから」では説明がつかない
- 「6倍」は上限の言い方。神戸市では更地の課税標準額は評価額の70%が上限なので、固定資産税の倍率は最大4.2倍で止まる
- 2024年1月以降の売却なら、買主が引渡し後に壊しても空き家の3,000万円控除が使える。売主が解体費を先に払う必要はない
- 神戸市の解体補助金は20万〜60万円。1986年12月31日以前の建物が対象で、申請前に契約・着工すると対象外。2026年度の受付は2027年1月12日まで
古家付きのまま売ると、更地よりいくら安くなるのか
Yahoo!知恵袋に、千葉県北西部の築50年の空き家を売りたいという相談があります。隣地に越境したブロック塀、セットバックの要る狭い前面道路、中身の分からない地中埋設物、雨漏りと残置物。大手の買取業者に断られ、訳あり物件を扱う会社をどう選べばいいかという内容でした。
この相談に付いた回答のなかに、業者側の相場観がそのまま書かれていました。解体費150万〜200万円、残置物の処分に20万〜50万円、埋設物が出れば撤去に50万〜200万円。これらを引いた結果、買取価格は更地を想定した金額の3〜4割引きに落ち着く、という話です。
3〜4割引き。数字としては聞き覚えがありますが、これは業者の経験則であって、実際の成約価格を数えたものではありません。そこで神戸市の成約データで確かめました。
使ったのは国土交通省の不動産取引価格情報です。神戸市9区で2024年10月〜2026年3月に成約した4,902件から、住宅地で面積80〜250m²のものだけを取り出し、更地(宅地・土地のみ)と、木造で1985年以前に建てられた家が建ったまま売れた土地(宅地・土地と建物)を、1m²あたりの単価の中央値で比べています。
| 区 | 更地の単価 | 築40年超の木造付き | 差 | 150m²なら |
|---|---|---|---|---|
| 垂水区 | 135,391円 | 80,135円 | 41%安い | 829万円 |
| 兵庫区 | 125,789円 | 75,676円 | 40%安い | 752万円 |
| 須磨区 | 135,568円 | 85,714円 | 37%安い | 748万円 |
| 長田区 | 91,667円 | 58,621円 | 36%安い | 496万円 |
| 北区 | 78,045円 | 50,000円 | 36%安い | 421万円 |
1m²あたりの成約価格の中央値。件数は更地14〜70件、築40年超の木造付き15〜89件。
業者が言っていた3〜4割引きと、実際に成約した価格の差は、ほぼ同じところに着地していました。
ここで当然の反論が出ます。古家が残ったまま売られる土地は、そもそも狭かったり前面道路が細かったりして、条件が悪いのではないか。もっともなので、同じデータで土地の広さと前面道路の幅も並べました。北区は更地の面積が中央値180m²・前面道路6mで、築40年超の家付きは185m²・6m。須磨区はどちらも155m²・6mです。広さも道の幅も実質同じ土地で、家が建っているというだけで36〜37%の差が付いていることになります。
もちろんこの数字は万能ではありません。傾斜や擁壁の有無、越境、埋設物といった個別事情はデータに入っていませんし、東灘区・灘区・西区・中央区は片側の件数が20件を切るので参考値にとどめました。市全体で1本の数字にまとめると、築40年超のサンプルが北区に偏っている分だけ差が大きく出るので、区ごとに見るのが正しい読み方です。
「6倍」は上限の話。神戸市の計算では年8万6千円
では、怖がられている「6倍」のほうはいくらなのか。神戸市の説明ページに書いてある数字だけで計算できます。
住宅が建っている土地は、200m²までの部分について固定資産税の課税標準額が評価額の6分の1、都市計画税は3分の1になります。家を壊すとこの特例が外れます。ここまでは各社の解説と同じです。
ただし更地は非住宅用地の扱いになり、神戸市の負担調整措置では、負担水準が70%を超える場合の課税標準額は評価額の70%が上限と決められています。つまり6分の1が1倍になるのではなく、6分の1が0.7倍になる。固定資産税の倍率は最大でも4.2倍で止まります。都市計画税は3分の1から0.7で2.1倍です。
神戸市の税率は固定資産税1.4%、都市計画税0.3%。評価額1,000万円の150m²の土地で置いてみます。
- 家が建っている状態: 1,000万÷6×1.4%=23,333円、1,000万÷3×0.3%=10,000円。合わせて年33,333円
- 更地にした状態: 1,000万×70%×1.4%=98,000円、1,000万×70%×0.3%=21,000円。合わせて年119,000円
差は年85,667円。合計では約3.6倍です。売れるまで2年かかったとして17万円、5年でも43万円。前の章で見た421万〜829万円の値差とは、桁が1つ違います。
2024年から、解体は買主にやってもらっても3,000万円控除が使える
それでも「解体費を先に払う現金がない」という事情は残ります。ここが2024年に変わりました。
相続した空き家を売るときの3,000万円特別控除(国税庁のタックスアンサーNo.3306)は、もともと「売る前に耐震改修するか、取り壊して更地にしてから売ること」が条件でした。令和6年1月1日以後の譲渡からは、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に耐震基準を満たすか、家屋の全部の取壊しが行われていればよくなっています。買主が引渡しを受けたあとに壊しても控除が使えるということです。
使うための条件はほかにもあります。
- 家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたもの
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 特例そのものの期限は令和9年12月31日まで
- 令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続した相続人が3人以上のときは控除額が2,000万円になる
3年という期限は思ったより短いものです。四十九日と相続登記と遺品整理をしているうちに1年が過ぎ、売り出してから買い手が付くまでにまた半年かかる。実家の売却を「そのうち」に置いている人は、まず建築年月日と相続開始日の2つを紙に書き出すところからです。
神戸市の解体補助金は、契約する前に申請しないと0円
自分で壊す道を選ぶなら、神戸市には老朽空家等解体補助制度があります。
対象は1986年(昭和61年)12月31日以前に建てられた、腐朽・破損のある空き家。補助額は登記床面積または課税床面積に応じて20万〜60万円です。2026年度の申請受付は2026年3月2日から2027年1月12日まで。窓口は神戸市すまいの安心支援センター(すまいるネット)で、相談は予約制になっています。
制度でいちばん取りこぼしが出るのはここです。補助金の申請前に解体工事の契約をしたり、工事に着手していると対象外になります。見積もりを取って「じゃあお願いします」と言った時点で権利が消える、という順番の問題なので、解体業者を探すより先に申請の段取りを確認しておくことになります。
ついでに気づいたことがあります。この補助金の線引きは1986年12月31日、3,000万円控除の線引きは昭和56年(1981年)5月31日。似ているようで別の日付です。1983年築の家は補助金の対象にはなっても、控除は使えません。実家の登記簿を出して、まず建築年月日を確定させてください。
私はこう見ています
「更地にすると6倍」がこれほど広まったのは、税額が毎年の納税通知書という形で目に見えるからだと考えています。売却価格が数百万円下がることのほうが金額としてははるかに大きいのに、そちらは請求書が届きません。比較する相手がいない損は、認識されないまま通り過ぎます。
もう一つ、買取価格の決まり方にも構造があります。買取業者は解体費を引き、さらに地中埋設物が出た場合の撤去費もリスク分として引きます。実際に埋設物が出るかどうかは掘るまで分からないので、この引き算は「出なかったとき」も戻ってきません。売主が先に更地にしていれば、この二重の引き算のうち後半は起きません。神戸のデータで出た3〜4割という幅は、解体費そのものより明らかに大きく、その差はここから来ていると私は見ています。
ただし、これは「全員が壊してから売るべきだ」という意味ではありません。傾斜地で解体後の擁壁補修が読めない土地、再建築不可の土地、隣家と密着していて重機が入らない土地では、壊した瞬間に買い手の幅が狭まることがあります。判断の材料は、更地想定の査定額と古家付きの査定額と解体見積もりの3つが揃ってはじめて出そろいます。
今日やる順番
迷っている状態で業者に会うと、最初に聞いた会社の言い分がそのまま結論になります。順番だけ決めておけば防げます。
- 登記簿で建築年月日を確認する。昭和56年5月31日以前なら3,000万円控除の入口に立っています。1986年12月31日以前なら神戸市の解体補助金の対象です
- 相続開始日から3年後の12月31日を数える。これが控除を使える最終ラインで、売り出しではなく引渡しの期限です
- 査定は「古家付きのまま」と「更地渡し」の2本で取る。1本だけ取ると比べる相手がいません。上の表の単価に自分の土地の面積を掛けた金額を、判断の目安として手元に置いておきます
- 解体の見積もりは、補助金の申請前に契約しない。金額を聞くところまでは自由です
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2本取って初めて、壊す価値があるかどうかが金額で見えます。
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住所を入れると、その地域の実際の取引価格が出ます。
この記事の数字の出どころ
成約価格は国土交通省「不動産取引価格情報」から、神戸市9区の2024年第4四半期〜2026年第1四半期の4,902件を取得し、住宅地・面積80〜250m²に絞って集計しました。更地は「宅地(土地)」、古家付きは「宅地(土地と建物)」のうち構造が木造で建築年が1985年以前のものです。数値はいずれも1m²あたりの成約価格の中央値です。
税額の試算は神戸市「宅地に対する課税と特例」および固定資産税・都市計画税の税率に基づく単純計算で、負担水準は上限の70%で置いています。実際の税額は土地ごとの負担水準や評価額で変わります。空き家の3,000万円特別控除は国税庁タックスアンサーNo.3306、解体補助金は神戸市「老朽空家等解体補助制度」の2026年度の案内を参照しました。個別の税務判断は税理士または所轄の税務署に確認してください。


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