「会社が倒産しても、未払いの給料は国が8割立て替えてくれる」。これは半分だけ合っています。国の制度として、独立行政法人 労働者健康安全機構が、未払い分の8割を年齢ごとの上限つきで立て替えます。
残りの半分は期限です。退職してから6か月のうちに、会社が裁判所へ破産などを申し立てるか、働いていた人が労働基準監督署(労基署)に申請しないと、立て替えの対象から外れます。
先に結論
- ✓ 計算の元は手取りではなく額面。上限は30歳未満で88万円、45歳以上で296万円
- ✓ 社長が行方不明でも、労基署長が「事実上の倒産」と認めれば受けられる
- ✓ パート・アルバイトも対象。ボーナスと解雇予告手当は戻らない
戻る額は額面の8割まで
立て替えの対象は2つだけです。毎月の給料(定期賃金)と、退職金(退職手当)。どちらも、退職日の6か月前の日から機構に請求する日の前日までに、支払日が来ていたものに限ります。
ボーナス、解雇予告手当、支払いが遅れた分の利息、年末調整の還付金、慰労金や祝い金、立て替えていた交通費などの実費は入りません。
立て替える額は、未払い総額の8割です。ただし退職したときの年齢で、計算に入れる総額と、立て替えの額に上限があります。
| 退職時の年齢 | 未払い総額の上限 | 立て替えの上限 |
|---|---|---|
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
計算は手取りでしません。機構の「よくある質問」は、未払い総額を税金や社会保険料を引く前の額としています。給与明細なら総支給額の欄です。手取りで計算すると、引かれた税金や保険料の分だけ、戻る額を低く見積もることになります。

たとえば30代で、額面30万円の給料が2か月分未払い、退職金はない人の場合です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 未払いの給料(額面30万円×2か月) | 60万円 |
| 未払いの退職金 | 0円 |
| 未払い総額(30〜45歳未満の上限220万円の内側) | 60万円 |
| 立て替えられる額(60万円×0.8) | 48万円 |
反対に、未払いの総額が2万円に届かないときは対象外です。45歳以上で退職金を含めた未払いが370万円を超えていても、立て替えは296万円で止まります。
退職から6か月で対象外
機構のトップページには、次の一文があります。
「退職後6か月以内に、裁判所への破産手続開始等の申立て又は労働基準監督署長への認定申請がなされなかった場合は、立替払の対象になりません」
退職した日から6か月、会社が破産などを申し立てず、働いていた人も労基署に申請しなければ、未払いの給料は1円も立て替えられません。
入口は2つあります。
- 会社が裁判所に破産・特別清算・民事再生・会社更生を申し立てた(法律上の倒産)→ 破産管財人などに未払い額を証明してもらい、その証明書をつけて機構に請求する
- 会社が止まったのに、何の申立てもない(事実上の倒産)→ 労基署長に認定を申請し、認定のあと確認を申請する。届いた確認通知書をつけて機構に請求する
機構への請求の期限は、破産などの決定日、または労基署の認定日の翌日から2年以内です。会社の側にも条件があり、労災保険の適用事業として1年以上事業を続けていたことが求められます。
困るのは、給料が止まったまま会社が閉まり、誰も動かないケースです。社長が破産を申し立てる気配もなく、連絡を待っているあいだにも、6か月は進みます。
私は、会社の申立てを待たずに、退職したらすぐ最寄りの労基署へ相談に行くほうがいいと考えています。会社がいつ破産を申し立てるかは、働いていた側には決められないからです。
社長が逃げても受けられる
弁護士ドットコムの相談掲示板に、2024年1月、こんな相談が載りました。
読者
12月に突然、社長から会社が倒産すると伝えられた。11月分と12月分の給料が未払い。社長は海外に逃げていて、連絡がつかない。
社長と連絡がつかなくても、立て替えを受ける道はあります。破産などの手続きがされていなくても、労基署長が「事実上の倒産」と認めれば対象になると、機構の「よくある質問」が答えています。
認定されるのは、事業が止まり、再開の見込みがなく、給料を払う力もない状態です。この「事実上の倒産」は中小企業に限られます。自分の会社が当たるかどうかは、申請する労基署で確かめてください。
この認定の申請にも期限があります。事実上の倒産の認定申請は、退職日の翌日から6か月以内です。
制度を使っているのは、ほとんどが小さな会社です。2025年度(令和7年度)に立て替えを受けた会社は2,223件、受けた人は28,987人、立替額は118億8,500万円でした。会社の数は前の年度より15.2%減ったのに立替額は7.6%増え、1人あたりの平均は41.0万円(13.6%増)です。
2,223件のうち2,018件、90.8%が従業員30人未満の会社でした。制度が始まった1976年(昭和51年)から2025年3月までに、約137万人へ約5,651億円が立て替えられています。
小さな会社の倒産は、2026年も続いています。東京商工リサーチによると、2026年度上半期(4〜9月)の人手不足倒産は240件、そのうち人件費の高騰による倒産が130件でした。240件のうち159件は資本金1千万円未満の会社で、229件(95.4%)が破産です。この数字は賃上げ倒産/半年で130件に増加でくわしく書きました。
人件費を押し上げるものの1つが最低賃金の引き上げで、新しい額がいつから効くかは都道府県で違います(最低賃金 いつから/10月からとは限らない)。
パート・税金・振込の時期
同じ掲示板には、2019年11月にこんな相談もあります。
読者
パートで勤めていた会社が倒産して、最後の1か月分の給料が未払いのまま。
パートもアルバイトも対象です。外国人も含まれます。金額の線は未払い総額2万円で、1か月分でもそれを超えていれば計算に入ります。
ほかに聞かれやすいことを、機構の「よくある質問」からまとめます。
- 役員:原則は対象外。業務を執行する権限や代表権がなく、指示を受けて働いていた人は対象になりうる
- 税金:立て替えられたお金は原則すべて退職所得。「退職所得の受給に関する申告書」を出せば、非課税で確定申告も要らない例が多い。出さないと20.42%が源泉徴収される
- 振込の時期:機構は請求書の受付から30日以内の支払いに努めるとしている。書類に直しが入れば延びる。その前に、管財人の証明か、労基署の認定と確認が要る
- 立て替えたあと:機構が働いていた人に代わって、会社に請求する
相談は、労働者健康安全機構の未払賃金立替払相談コーナー(044-431-8663・土日祝を除く9時15分〜17時)か、最寄りの労働基準監督署へ。社長と連絡がつかないときの認定申請は、労基署の窓口です。
地震や水害で職場が止まり、倒産ではなく休業になったときの給料と失業保険は、熊本地震で職場が被災したら給料や失業保険はどうなる?にまとめています。
「国が8割払ってくれる」は合っています。その後ろに「退職から6か月以内に、破産の申立てか労基署への申請があれば」と書き足しておいてください。社長が海外にいても、その6か月は止まりません。
出典
- 労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業」
- 労働者健康安全機構「制度の概要」
- 労働者健康安全機構「Q&A」
- 厚生労働省「令和7年度の未払賃金立替払事業の実施状況」(概要PDF・企業規模別の表PDF)
- 東京商工リサーチ「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件」(2026年10月5日)
- 弁護士ドットコム みんなの法律相談(2024年1月23日の相談)
- 弁護士ドットコム みんなの法律相談(2019年11月2日の相談)
Googleで「おかあさんのおうち」の新着を優先表示する
災害・道路・住まいの新しい記事がGoogleのトップニュースに出やすくなります。ボタン1回で登録できます。










コメント