借りている家が地震で壊れたら家賃はどうなる?民法611条の「当然減額」と、退去・敷金の扱い
地震や豪雨で借りている家が被害を受けたとき、持ち家とはまったく違う論点が出てきます。修繕するのは誰か、家賃はどうなるか、出ていけるのか、敷金は戻るのかです。
そして持ち家の人と違って、借主は「建物」に保険を掛けていません。守れるのは自分の家財だけです。
この記事では、被災した賃貸物件の扱いを民法の条文に沿って整理します。不動産の実務で実際に問い合わせが多い順に並べました。
1. 建物を直すのは大家(貸主)です
まず出発点です。賃貸物件の修繕義務は貸主(大家)にあります。
民法606条1項 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
ただし書に「賃借人の責めに帰すべき事由」とありますが、地震や豪雨は借主のせいではありません。したがって、地震で壁が壊れた、給排水設備が壊れた、屋根から雨漏りするようになった——これらを直すのは貸主の義務です。
民法607条の2 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
つまり、「貸主に連絡した記録を残す」ことが、あとから費用を請求する前提になります。電話だけで済ませず、メールやLINE、管理会社のフォームなど、日付が残る形で伝えてください。連絡した日・被害の内容・写真をセットで残します。
2. 家賃は「当然に」減額される(民法611条1項)
ここがこの記事の中心です。
民法611条1項 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2020年4月1日に施行された改正民法で、この条文は大きく変わりました。
| 2020年3月31日まで | 2020年4月1日から | |
|---|---|---|
| 対象 | 「滅失」した場合 | 滅失その他の事由により使用収益できない場合 |
| 減額のしかた | 借主が減額を請求できる | 当然に減額される(請求は不要) |
改正前は「借主が請求して初めて減額される」制度でした。改正後は、借主が何も言わなくても、法律上すでに減額されているという建て付けになっています。
これが実務上の一番大事な注意点です。減額は法律上当然に生じますが、割合は自動的に決まりません。「使用収益できなくなった部分の割合に応じて」という基準しかないので、実際には次のように進めます。
- 使えなくなっている部分を具体的に書き出す(例:2部屋のうち1部屋が使用不能、風呂・トイレが断水で使用不能)
- 写真を添えて、貸主・管理会社に書面(メール可)で伝える
- 減額の割合と期間を協議し、合意した内容を書面で残す
- 合意までのあいだの家賃の扱い(いったん支払う/保留する/差額を精算する)も決めておく
独断で支払いを止めるのは避けてください。 減額されるべき額を超えて払わないと、賃料不払いとして契約解除の理由にされるおそれがあります。
ライフラインが止まった場合も対象になりうる
「一部滅失」だけでなく「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」まで広がったことで、建物自体は壊れていなくても、電気・ガス・水道が使えない状態が対象に含まれうると考えられています。
災害でライフラインが止まり、貸主に責任がない場合でも、条文の書き方からは当然に減額の効力が生じます(貸主に落ち度があったかどうかは、611条1項の要件ではありません)。
ただし、どの程度使えないのかによって割合は変わります。「断水だけで、電気は使えて住み続けている」のと「上下水道・電気とも不通で住めない」のでは、まったく違う評価になります。
3. 住み続けられないなら、借主から解除できる(611条2項)
一部が壊れただけでも、残った部分では生活が成り立たないことがあります。
民法611条2項 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
借主の側から解除できるという規定です。貸主の同意は要りません。
たとえば、風呂とトイレが使用不能で復旧の見通しが立たない、という状況は「賃借をした目的を達することができない」と評価される余地があります。
なお、この解除は借主の権利です。貸主から「壊れたから出ていってほしい」と言えるわけではありません(借地借家法の正当事由の問題になります)。
4. 全部壊れたら、契約は自動的に終わる(616条の2)
民法616条の2 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
建物が全部滅失した場合、賃貸借契約は当然に終了します。
これは実務上とても重要です。契約が終了しているのですから、
- 解約通知(1か月前予告など)は要りません
- 短期解約の違約金も発生しません
- 終了後の家賃は発生しません
罹災証明書の区分(全壊・大規模半壊など)は、公的支援のための基準です。民法の「全部滅失」は、社会通念上その建物として使えるかで判断されます。判定が近いことは多いものの、イコールではありません。
罹災証明書の手続き自体は別記事にまとめています。
👉 罹災証明書は「片付ける前の写真」で決まる|撮り方のポイントと、全壊・半壊を分ける損害割合
5. 敷金は戻ります。地震の損傷に原状回復義務はありません
契約が終了すれば、敷金は返還の対象になります。
民法622条の2 賃貸人は、(略)賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
未払家賃などがあればそれを差し引いた残りが戻ってきます。
そして、原状回復についても条文がはっきりしています。
民法621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
最後のただし書が答えです。地震でできた壁のひび、落ちた建具、割れた窓ガラス——借主のせいでない損傷を、借主が直す義務はありません。
「地震で壊れた分の修繕費を敷金から引く」と言われた場合は、この条文を根拠に説明を求めてください。
6. 借主が守れるのは「家財」だけ
ここは持ち家との決定的な違いです。
貸主が建物に掛けている火災保険・地震保険は、借主の家財を補償しません。逆に、借主が入る家財の保険は建物を補償しません。
| 建物 | 家財 | |
|---|---|---|
| 貸主(大家)の保険 | ○ | × |
| 借主の保険(家財の火災保険+地震保険) | × | ○ |
つまり、地震で家具・家電・衣類がすべて使えなくなったとき、それを補償できるのは借主自身が掛けた家財の地震保険だけです。
賃貸契約時に加入する火災保険(借家人賠償責任保険つきの家財保険)に、地震保険がセットされているかどうかを確認してください。付いていない契約は珍しくありません。家財の地震保険の認定基準(損害額が家財の時価額の10%以上で一部損)はこちらにまとめています。
👉 地震保険はいくら出る?全損・大半損・小半損・一部損の認定基準と、請求の流れ5ステップ
7. 実際にどう動くか——5ステップ
ステップ1:片付ける前に写真を撮る
これは持ち家でも賃貸でも同じで、最初にやることです。部屋ごとの全景と、被害箇所の寄り。使えなくなった設備(風呂・トイレ・キッチン・給湯器)も撮ります。減額の協議でも、家財保険の請求でも、同じ写真が使えます。
ステップ2:貸主・管理会社に、記録の残る形で連絡する
被害の内容、使えない箇所、いつから使えないかを書いて送ります。607条の2の「通知」に当たる行動なので、日付が残る手段を選びます。
ステップ3:修繕の見通しを確認する
いつ、どこを、どう直すのか。復旧の見込みが立たないなら、611条2項の解除も選択肢に入ってきます。
ステップ4:減額の割合と期間を書面で合意する
「使えない部分の割合」を具体的に示して協議し、合意内容を残します。口約束にしないこと。
ステップ5:応急仮設住宅・支援制度を確認する
災害救助法が適用されると、民間賃貸住宅を借り上げた賃貸型応急住宅などがあっせんされることがあります。賃貸に住んでいた人も対象になり得るので、市区町村の案内を確認してください。
被災者生活再建支援金についても、住宅が全壊・解体などに該当すれば、持ち家か賃貸かを問わず基礎支援金の対象になります(加算支援金は再建方法によって額が変わります)。詳しくは罹災証明書の記事で扱っています。
8. 大規模な災害では特別な法律が使われることがあります
大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法(平成25年法律第61号)という法律があります。旧「罹災都市借地借家臨時処理法」に代わって2013年に制定されたもので、大規模な災害で借地上の建物が滅失した場合に、借地権者による解約を容易にする制度などが置かれています。
ただし、この法律は自動的に適用されるものではありません。災害が「特定大規模災害」として政令で指定された場合に適用されます。該当するかどうかは、災害ごとに国の対応を確認する必要があります。
自分の家がどのリスクを持っているか、先に知っておく
賃貸の場合、建物の耐震性は自分では選び直せません。だからこそ、借りる前に土地と建物のリスクを見ておく価値があります。地震の揺れやすさ、液状化、洪水の浸水想定、土砂災害の警戒区域。
undefined では、住所を入力するだけで地震・土砂災害・洪水などのリスクをまとめて確認できます。
被災後の生活と、そのほかの手続きはこちらにまとめています。
👉 在宅避難の備えは「トイレ→水→電気」の順|4人家族で必要な量を計算しました
👉 真夏の避難生活で気をつけること7つ|熊本地震の犠牲者の約8割は「地震のあと」に亡くなった
👉 なぜ熊本でまた震度7?10年前から「次はここ」と名指しされていた日奈久断層帯の南側
まとめ
- 建物の修繕義務は貸主(民法606条1項)。地震は借主の責めに帰すべき事由ではない
- 借主が自分で修繕して費用を請求するには、先に貸主へ通知した記録が必要(607条の2)
- 一部が使えなくなったら、家賃は請求しなくても当然に減額される(611条1項・2020年4月改正)
- ただし割合は条文に書いていない。使えない箇所を示して協議し、書面で合意する。独断で支払いを止めない
- 残った部分では目的を達せないなら、借主から解除できる(611条2項)
- 全部滅失なら契約は自動終了(616条の2)。解約予告も違約金も不要
- 地震の損傷に原状回復義務はない(621条ただし書)。敷金は未払分を除いて戻る(622条の2)
- 借主が守れるのは家財だけ。家財の火災保険に地震保険がセットされているかを確認する
契約書の特約や被害の程度によって結論は変わります。減額の割合や解除の判断は、法テラス・弁護士・宅地建物取引業協会などの相談窓口で確認してください。


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