なぜ熊本でまた震度7?10年前から「次はここ」と名指しされていた日奈久断層帯の南側
2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方でマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市豊野町と氷川町島地で震度7が観測されました。2016年の熊本地震から、わずか10年です。
「同じ場所でまた」と感じた方が多いと思いますが、正確には同じ断層帯の、前回動かなかった部分です。そして、そこは10年前から「危ない」と指摘されていた場所でした。この記事では、なぜそう言えるのかを公的な評価にもとづいて整理します。
1. 「布田川・日奈久断層帯」は6つの区間に分かれている
熊本県を南北に貫く活断層は、布田川(ふたがわ)断層帯と日奈久(ひなぐ)断層帯という2つの断層帯が連なったものです。国の地震調査研究推進本部(地震本部)は、これを次の6区間に分けて評価しています。
| 断層帯 | 区間名 | 長さ | 2016年熊本地震 |
|---|---|---|---|
| 布田川断層帯 | 布田川区間 | 約19km | 本震(M7.3)で動いた |
| 布田川断層帯 | 宇土区間 | 約20km | 動かなかった |
| 布田川断層帯 | 宇土半島北岸区間 | 約27km以上 | 動かなかった |
| 日奈久断層帯 | 高野−白旗区間 | 約16km | 前震(M6.5)で動いた |
| 日奈久断層帯 | 日奈久区間 | 約40km | 動かなかった |
| 日奈久断層帯 | 八代海区間 | 約30km | 動かなかった |
2016年4月14日の前震(M6.5)は日奈久断層帯の高野−白旗区間、2日後の4月16日の本震(M7.3)は布田川断層帯の布田川区間を含む約27kmが動いたものと評価されています。つまり2016年に動いたのは、この長い断層帯の北の端の一部だけでした。
2. 動かずに残った南側が、10年間ずっと警戒されていた
問題はここからです。2016年に動かなかった日奈久区間(約40km)と八代海区間(約30km)、いわゆる「日奈久断層帯の南側」について、専門家は一貫して警戒を続けてきました。
理由は2つあります。
理由1:もともと発生確率が高い区間だった
地震本部の長期評価では、日奈久区間と八代海区間の30年以内の地震発生確率は最大16%とされ、全国の主要な活断層の中でも発生確率が高いグループに分類されていました。想定される地震はマグニチュード7クラス。数字だけ見ると小さく感じますが、活断層の評価で16%は相当に高い部類です。
理由2:2016年の地震で、さらに動きやすくなった
産業技術総合研究所は、熊本地震によって周辺の地盤にひずみが再配分され、日奈久断層が位置しているところは地震を起こしやすい状態になっていると説明していました。そしてこの状態は、その後も変わっていないと指摘されていました。
地震で断層が動くと、そのぶんのひずみは解放されます。しかし解放された力は消えるのではなく、隣の、まだ動いていない区間に押しつけられることがあります。2016年に北の端が動いた結果、南側にかかる負担はむしろ増えていた、というのが専門家の見立てでした。
3. 今回の地震が起きた場所
2026年7月28日の地震のデータを並べると、位置関係がはっきりします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生時刻 | 2026年7月28日 16時27分 |
| 規模 | マグニチュード7.1(深さ約16km) |
| 最大震度 | 震度7(宇城市豊野町、氷川町島地) |
| 震度6強 | 熊本市、八代市、宇土市、美里町、益城町ほか |
| 被害が集中した地域 | 八代平野(八代市・氷川町・宇城市) |
| 断層のタイプ | 横ずれ断層 |
震度7を記録した宇城市・氷川町、そして被害が集中した八代平野は、まさに日奈久区間が通っている一帯です。2016年に震度7を2度記録した益城町(布田川区間の直上)よりも、南に位置しています。
なお、日奈久断層帯の南側が一括して破壊した場合はマグニチュード7.6以上の地震になり得るという想定もあります。今回のM7.1は、想定されていた最大規模ではありません。
4. 気象庁が「1週間はM7クラスに注意」と言った理由
今回、気象庁は「過去に同程度の規模の地震が1週間程度続いた事例がある。今後1週間程度はマグニチュード7クラスの地震に注意が必要で、特に最初の2〜3日はリスクが高い」と呼びかけました。さらに「震源域が広いため、場所によっては今回を上回る揺れになる可能性もある」とも述べています。
この表現のしかたには、2016年の熊本地震の教訓が直接反映されています。
2016年、4月14日のM6.5のあと、多くの人が「大きいのは終わった」と考えて自宅に戻りました。ところが2日後の4月16日、より大きいM7.3が発生し、これが本震でした。「余震」という言葉が、最初の地震のほうが大きいという前提を与えてしまったのです。
これを受けて気象庁は2016年8月、地震後の情報の出しかたを見直しました。以後は「余震の確率」ではなく「同程度の規模の地震に注意してください」という形で、大地震後の見通しを伝えるようになっています。今回のアナウンスはその方式によるものです。
つまり「1週間はM7クラスに注意」は形式的な注意書きではなく、10年前に実際に起きたことをふまえた具体的な警告だと受け取るのが正しい読み方です。
5. ここから学べること ── 自分の家の下を調べる方法
今回の一件から一般化できることは、はっきりしています。活断層は、動いた区間の隣に「まだ動いていない区間」を残すということ。そして、その評価は公開されているということです。
日奈久断層帯の南側が危ないという情報は、秘密でも予言でもありませんでした。10年前から国の評価として公開され、報道もされていました。同じことは全国の活断層について当てはまります。自分の家の近くを調べるには、次の4つが使えます。
- 地震本部の長期評価・活断層データベース … 主要な活断層帯の位置と、30年以内の発生確率、想定マグニチュードが区間ごとに公開されています
- J-SHIS 地震ハザードステーション(防災科学技術研究所) … 住所単位で「今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」を地図で見られます
- 国土地理院「都市圏活断層図」 … 市街地の活断層の位置を、より細かい縮尺で確認できます
- 自治体の揺れやすさマップ・ハザードマップ … 同じ市内でも地盤で揺れ方が変わるため、これが最も生活に近い情報です
特に大事なのは2番と4番の組み合わせです。活断層が近くになくても地盤が弱ければ大きく揺れますし、逆に活断層の真上でも揺れ方は一様ではありません。
災害リスク診断では、住所を入力するだけで地震・土砂災害・洪水などのリスクをまとめて確認できます。土地や中古住宅の購入を検討している段階なら、価格を調べるのと同じ順番で確認しておきたい項目です。
なお、揺れそのものより危険なのは、そのあとの避難生活です。過去の熊本地震では犠牲者の約8割が災害関連死でした。真夏の避難で何に気をつけるべきかは、こちらにまとめています。
👉 真夏の避難生活で気をつけること7つ|熊本地震の犠牲者の約8割は「地震のあと」に亡くなった
また、活断層の位置がわかっても地震そのものは避けられません。備えは「今できること」から先に済ませておくのが現実的です。ヘルメットや簡易トイレ、食料・水がまとまった防災グッズ32点セット(防災士監修)を1つ置いて、家族の人数分と常備薬だけ足しておくと、直下型地震への備えとして形になります。
まとめ
- 熊本県を貫くのは布田川断層帯と日奈久断層帯で、あわせて6つの区間に分けて評価されている
- 2016年熊本地震で動いたのは高野−白旗区間(前震M6.5)と布田川区間(本震M7.3)で、断層帯の北の端の一部にすぎなかった
- 動かずに残った日奈久区間(約40km)・八代海区間(約30km)は30年以内の発生確率が最大16%で、全国でも高いグループ。加えて2016年の地震でひずみが再配分され、より動きやすい状態になっていると指摘されていた
- 2026年7月28日の地震は、震度7の宇城市・氷川町と被害が集中した八代平野がまさにその南側にあたる(どの区間が動いたかの正式な評価は今後の調査を待つ)
- 気象庁の「1週間程度はM7クラスに注意」は、2016年に前震のあとで本震が来た経験をふまえた警告。2016年以降、「余震」ではなく「同程度の規模の地震に注意」と伝える方式に変わっている
- 活断層の評価は公開情報。地震本部・J-SHIS・都市圏活断層図・自治体のハザードマップの4つで、自分の家の下を確認できる
「動いた断層の隣は、まだ動いていない」。今回はその教科書どおりのことが、10年の間隔で起きました。同じ構図は全国にあります。


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