「相場より高いので下げましょう」と言うとき、その相場はどこの数字でしょうか。神戸市の賃貸の㎡単価は、中央区が2,548円に対して北区は1,453円です。同じ50㎡でも、月54,750円ぶん基準が違います。
賃料を3,000円下げると、2年契約で72,000円が消えます。下げるかどうかを決める前に、5分で終わる検証があります。
先に結論:4手順
- 総額ではなく㎡単価に直す(賃料 ÷ 専有面積)
- 市や県の平均ではなく、同じ区の中央値と照合する
- 中央値との差を「月額」と「2年ぶん」の金額に換算する
- その金額の中で、下げるか設備で埋めるかを決める
金曜の18時、オーナーから電話が入ります。
隣町、8万で決まったらしいよ。うちも下げたほうがいいんじゃないの
その隣町が別の区なら、8万円は比較の材料になりません。ただ、電話口でそう言い返す材料が手元にないと、話はたいてい「ではひとまず3,000円」で終わります。手元に置いておく数字の話をします。
神戸市9区の賃貸㎡単価(中央値)|同じ市内で1.75倍

神戸市9区の賃貸261,350件を集計した、㎡単価の中央値です。
最も高い中央区が2,548円、最も低い北区が1,453円。1.75倍の開きがあります。 50㎡に換算すると月54,750円、年間では657,000円の差になります。
全国1,195市区町村で見ると中央値は1,673円/㎡で、神戸市中央区はその中の61位です。一方で北区の1,453円は全国中央値を下回ります。同じ「神戸市」の中に、全国上位5%の区と全国平均以下の区が同居しているということです。
つまり「神戸市の相場」という単位は、賃料を判断するには粗すぎます。区をまたいだ瞬間、比較は成立しなくなります。
同じ「50㎡・80,000円」が、区によって割高にも割安にもなる
50㎡で80,000円の部屋を、2つの区に置いてみます。

東灘区の中央値は2,277円/㎡なので、50㎡なら113,850円。80,000円は中央値の70%、つまり約30%安い部屋です。
北区の中央値は1,453円/㎡なので、50㎡なら72,650円。80,000円は中央値の110%、つまり約10%高い部屋になります。
賃料も面積も同じです。変わったのは比べた相手だけで、判定は正反対になりました。
この差は実務に直結します。東灘区の70%で反響が来ないなら、原因は賃料ではありません。写真か、設備の記載か、公開している条件のどれかです。ここで3,000円下げても、おそらく反響は戻りません。下げ幅が足りないのではなく、詰まっている場所が違うからです。
募集賃料を検証する4手順
1. 総額を㎡単価に直す
賃料 ÷ 専有面積。80,000円 ÷ 50㎡ = 1,600円/㎡です。
管理費・共益費を含めるかどうかは社内で統一しておきます。含める運用にしたなら、比較する中央値も込みの数字で揃えます。ここが揃っていないと、5%程度のズレが毎回まぎれ込みます。
2. 同じ区の中央値と照合する
照合先は市でも県でもなく、区(政令市以外なら市町村)の中央値です。
平均値ではなく中央値を使うのは、一部の高額物件に引っ張られないためです。賃貸は下限が家賃補助や築古で厚く、上限は青天井なので、平均は実感より高く出ます。
3. 差を月額と2年ぶんの金額にする
中央値との差は、比率のままにせず金額に直します。判断が変わるからです。
北区の例なら 80,000円 − 72,650円 = 月7,350円が中央値からの上振れ分。2年契約なら176,400円です。
「10%高い」と言われてもピンときませんが、「2年で176,400円ぶん、何かで納得してもらう必要がある」なら、次に何をすべきかが決まります。
4. 「下げる」と「埋める」を同じ金額で比べる
手順3で出た金額が、そのまま予算枠になります。
| 選択 | 内容 | 2年ぶんの影響 |
|---|---|---|
| 下げる | 7,350円下げて中央値に合わせる | 176,400円の減収。以後の更新賃料もこの水準が基準になる |
| 埋める | 同じ176,400円の枠内で設備・条件を足す | 減収なし。設備は次の入居者にも残る |
下げるか埋めるかを決めるのは、賃料の高低ではなく差額の金額です。
月曜の朝、この1枚を持ってオーナーのところへ行きます。
「隣町の8万円は北区の話でした。こちらは東灘区で、区の中央値の70%です。賃料は下げなくていいと思います。決まらない原因は写真だと見ています」
金曜に「ひとまず3,000円」で終わった話が、月曜には別の議題になります。数字を持っているかどうかの差です。
私が総額より㎡単価を先に出す理由
ここからは私の意見です。
賃料の相談は、総額から始まるのが普通だと思います。オーナーも入居希望者も総額で考えるので、自然ではあります。ただ私は、社内で賃料を検討する最初の1手としては、総額を先に出すべきではないと考えています。
根拠は、この記事で出した1.75倍という開きです。総額はこの差を隠します。「8万円」という数字は、東灘区では割安、北区では割高という正反対の意味を同時に持ちますが、総額のまま会話するとその区別が消えます。消えたまま「じゃあ下げよう」に進むのが、いちばんもったいない。
㎡単価は、電卓を1回叩けば出ます。それだけで、値下げの議論を「感覚の話」から「金額の話」に移せます。
なお、この記事の中央値は実勢取引データの集計値で、個別物件の適正賃料を保証するものではありません。築年数・駅距離・設備で当然に上下します。中央値は結論ではなく、話を始める基準線として使うものだと考えています。
まとめ
- 神戸市内の賃貸㎡単価は中央区2,548円〜北区1,453円で、1.75倍の開きがある
- 「市の相場」では粗すぎる。照合は同じ区の中央値で行う
- 同じ50㎡・80,000円が、東灘区では中央値の70%、北区では110%になる
- 中央値との差は比率でなく金額に直す。その金額が、下げるか埋めるかの予算枠になる
値下げが悪いわけではありません。ただ、下げると決める前に電卓を1回叩くだけで、下げずに済む物件が見つかります。
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賃料以外の「決まらない原因」は、こちらでも扱っています。
👉 反響が来ない物件ページに共通する、地味だけど見落としがちな原因
👉 反響が増えても決まらない理由|AI加工写真と内見のギャップ
👉 レントロールの作り方|項目一覧と、数字をどの資料から拾うか
この記事の数字について
神戸市9区の㎡単価は、国土交通省「不動産情報ライブラリ」の賃貸の実勢取引データ(9区あわせて261,350件)をもとに当サイトが集計した中央値です。全国の比較は、同じ集計方法で数値が得られた1,195市区町村を対象としています(データ件数が不足し都道府県の値で補完した自治体は除外)。㎡単価は専有面積あたりの月額賃料で、管理費・共益費の扱いは物件により異なります。50㎡換算・2年契約の金額は、いずれも本文中の数値をもとにした計算例で、個別物件の適正賃料を示すものではありません。本文中の「私は〜と考えています」で示した部分は筆者の見解です。数値は2026年8月時点のデータによります。


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