SUUMOで気に入った家を見つけて問い合わせるとき、どの不動産会社を選んでも同じだと思っていると、値段の交渉に入ってから「この担当者は誰の側の人なんだろう」と分からなくなります。あなたが今メールを送ろうとしている会社は、売主から直接頼まれた会社かもしれないし、その物件を一度も預かったことがない会社かもしれません。
実際に、こういう質問が投稿されています。
この度、中古マンションを購入しようと思い見てみたところ、同じ物件でも4つの不動産業者が取引していました。そこで質問ですが、元付業者と客付業者のどちらで取引をした方が良いでしょうか。
Yahoo!不動産 教えて!住まいの先生
この4社は、4社とも売主から売却を頼まれているわけではありません。売主と契約しているのは1社だけ、という並び方をしていることがあります。この記事では、その仕組みと、いま自分が話している会社が売主とどれくらい近いのかを客の側から測る方法を書きます。
先に結論
- 売主から売却を頼まれた会社が元付(もとづけ)、買主を連れてくる会社が客付(きゃくづけ)。どちらも法律用語ではなく、業界の中だけで使われる呼び方です
- ポータルサイトに同じ家が何社も出るのは、元付が登録した情報を他社が紹介できる仕組みがあるから。掲載社数は人気の証拠ではありません
- 「この物件の元付ですか」と聞くのは失礼ではありません。答えたがらない会社もありますが、聞いてはいけない決まりはありません
- 買主が払う仲介手数料の上限は国の告示で決まっていて、元付に頼んでも客付に頼んでも上限は同じです
- 元付が有利で客付が不利、と決まってはいません。効いてくるのは売主が結んだ契約の種類と、担当者が売主とどれだけ話せているかです
同じ物件が何件も載る仕組み
家を売る人は、まず不動産会社と媒介契約という契約を結びます。「この家を売ってください」と正式に頼む契約です。そして頼まれた会社は、その物件をレインズという業者専用のデータベースに登録します。レインズは国土交通大臣が指定した組織が運営していて、全国4つの機構に分かれています。
レインズに載ると、その情報は他の不動産会社からも見えるようになります。つまり、売主から直接頼まれていない会社でも「うちのお客さんに紹介していいですか」と元付に許可を取れば、自社のサイトやSUUMOに載せられます。
だから、SUUMOに同じ物件が4件載っていても、売主と媒介契約を結んでいるのは1社ということが起こります。残りの3社は、レインズ経由で見つけて、掲載の許可を取って載せた会社です。掲載している会社の数は、その家の人気とは関係ありません。
どんな会社がどのくらいいるのか、数で見てみます。国土交通省の検索システムから集計すると、兵庫県内にある不動産会社の事務所は6,437件、全国の免許業者は約105,937社です。この中の何社がひとつの物件に群がるかは、そのときどきで変わります。
なお、業者側が「どこまで載せていいか」をどう確認しているかは、実務側から書いた記事があります。先物物件をポータル掲載してよい?広告転載許可の確認方法と記録の残し方。他社の物件が並ぶ裏側で何が起きているのかは、こちらのほうが具体的です。
売主に頼まれた会社が「元付」、あなたを連れてきた会社が「客付」
ここで用語を整理します。
元付(もとづけ)は、売主から「売ってください」と直接頼まれた会社です。売る側の窓口なので、売主の事情(いつまでに売りたいのか、いくらまでなら下げられるのか)を知っている立場にあります。
客付(きゃくづけ)は、買いたい人を見つけて物件を紹介する会社です。買主の側に立って、元付に「内見させてください」「この値段まで下がりませんか」と持っていきます。
架空の例で流れを書きます。田中さんが自宅を3,000万円で売りたいと考え、A不動産に相談して媒介契約を結びました。この時点でA不動産が元付です。一方、佐藤さんが3,000万円くらいの家を探してB不動産に相談し、B不動産がレインズで田中さんの家を見つけて紹介しました。このときB不動産が客付です。
この2つの言葉は、宅地建物取引業法には出てきません。法律の条文にあるのは「媒介」という言葉だけです。元付・客付は現場で生まれた呼び分けなので、会社や地域によって使い方が少しずつ違います。
売主が結ぶ契約は3種類あって、そこが効いてくる
売主とA不動産が結ぶ媒介契約には3種類あり、どれを選んだかで「A社以外の会社も売主から頼まれているのか」が変わります。
| 契約の種類 | 他社にも同時に頼めるか | レインズ登録 | 売主への報告 |
|---|---|---|---|
| 一般媒介 | 頼める | 義務なし | 法律上の義務なし |
| 専任媒介 | 頼めない | 契約日の翌日から7日以内 | 2週間に1回以上 |
| 専属専任媒介 | 頼めない(自分で買主を見つけても直接契約できない) | 契約日の翌日から5日以内 | 1週間に1回以上 |
出典は東日本レインズと不動産ジャパン(公益財団法人 不動産流通推進センター)です。専任媒介では、売主が自分で買主を見つけたときは不動産会社を通さずに契約できます。それができないのが専属専任媒介です。
つまり売主が一般媒介を選んでいれば、複数の会社が同時に元付ということもあり得ます。SUUMOに並ぶ4社が全部元付という並び方も、理屈の上では起こります。「掲載社数=元付の数」でも「掲載社数=1社が元付で残りは客付」でもなく、外からは見えない、というのが正確なところです。
登録期限の数え方は業者側でもよく間違うところで、実務向けにまとめた記事があります。媒介契約を結んだ後の期限管理|レインズ登録の7日・5日と、報告義務の数え方。
「この物件の元付ですか?」と聞いてもいいのか
外から見えないなら聞くしかありませんが、聞いていいものか迷う人がいます。これも実際の投稿があります。
不動産業者に「この物件の元付ですか?」と聞くのはNGですか?
借りる側としては、もし元付だったら仲介手数料が安くなるかも、とか、内見等についても何かと融通がきくかも、などと考えるとできるだけ元付業者に当たりたいのですが、客付の場合は答えたくないでしょうし、そのへんを考えるとなんとなく気が引けてしまいます。
Yahoo!知恵袋(賃貸を探している人の投稿)
この投稿へのベストアンサーは「問題ないです」から始まっています。聞いてはいけない決まりはありません。答えたくない会社はあるかもしれませんが、質問すること自体を止める法律はありません。
ただし、この投稿の人が期待している「元付だったら仲介手数料が安くなるかも」のほうは、後で書くとおり売買では成り立ちません。
1社は「もう決まりました」、別の1社は「内見できます」──物件確認とは何か
同じ家について複数の会社に問い合わせると、返ってくる答えが割れることがあります。
同じ物件で複数の不動産会社に問い合わせたら、1つの会社からはもう他の人に決まったので無理と言われ、もう1つには内見して良いと言われたのですが、なぜ、違う答えが返ってきたのですか
Yahoo!知恵袋
どちらかが嘘をついている、とは限りません。ここに物件確認という業界の作業が関わっています。
客付の会社はその物件を預かっていないので、いま売れているのかどうかを自社では分かりません。だから元付に電話やFAXや専用システムで問い合わせます。これが物件確認です。確認しているのは、だいたい次のようなことです(会社によって項目は違います)。
- まだ売れていないか、申し込みが入っていないか
- 値段の交渉に応じる余地があるか
- その物件だけの注意点(進入路、私道の負担、管理規約、越境など)
- 鍵をどこで預かるか
- 内見できる時間帯
ポータルサイトの表示と実際の状況の間には、ずれが生まれます。申し込みが入っても、掲載を止めるのは人が手で行う作業だからです。答えが割れたのは、片方が新しい情報を持っていて、もう片方がまだ確認していなかった、ということが起こり得ます。
掲載を止める側がどんな手順を踏んでいるかは、実務側から書いた記事があります。成約済み物件の掲載はいつ止める?おとり広告を防ぐ判断基準と停止フロー。更新が止まったまま載り続けるとおとり広告になります。
ここは私の見方です。目の前の営業担当者が「確認しますので少々お待ちください」と席を立ったなら、その会社はその物件の元付ではない、と私は見ています。自社で預かっている物件なら、自社の台帳を見れば分かるからです。ただしこれは業界の慣習からの推測で、根拠になる法令や公的資料があるわけではありません。担当者が念のため確認しているだけ、ということもあります。
元付に頼むと仲介手数料は安くなる?
先ほどの投稿にあった「元付だったら仲介手数料が安くなるかも」を確かめます。
売買の仲介手数料の上限は、国土交通省の告示(昭和45年建設省告示第1552号)で決まっています。物件の価格を区切って、それぞれに料率をかけて合計します。
| 価格の区分 | 上限の料率(消費税込み) |
|---|---|
| 200万円以下の部分 | 5.5% |
| 200万円を超え400万円以下の部分 | 4.4% |
| 400万円を超える部分 | 3.3% |
3,000万円の家なら、200万円×5.5%=11万円、200万円×4.4%=8.8万円、残り2,600万円×3.3%=85.8万円で、合計105.6万円が上限です。よく言われる「3%+6万円」の速算式は、この計算を1行にまとめたものです。
この上限は、依頼者ひとりから受け取れる額の上限です。買主が払う額の上限は、相手が元付でも客付でも同じ105.6万円です。元付だから安い、という仕組みにはなっていません。値引きがあるとすれば、それは法律ではなくその会社の営業方針の話です。
なお800万円以下の家には特例があり、売主から受け取れる額は30万円の1.1倍にあたる33万円が上限とされています。安い空き家では手数料の割合が上がる、ということが起こります。
元付だから有利、客付だから不利、では決まりません
では元付に行くべきなのか。ここは業界の中でも見解が割れています。冒頭の投稿へのベストアンサーには、こう書かれていました。
他の業者から買主を斡旋された場合、元付業者は売主からしか仲介手数料を貰えません。売主に有利な条件で話を進めようとするのは当たり前です。
Yahoo!不動産 教えて!住まいの先生 ベストアンサー
元付は情報が早く、売主の事情も知っています。買主から見れば頼もしく見えます。一方で元付は売主から依頼を受けた立場でもあるので、値段を下げる交渉では利害が正面からぶつかります。
客付は物件のことを又聞きで知る立場ですが、買主だけの側に立てます。売主の事情を把握していないことがある代わりに、買主のために値段を下げにいく理由があります。
どちらが得かは、その会社と担当者と、売主の事情で入れ替わります。「元付のほうが値引きが通りやすい」と書いている記事も「通りにくい」と書いている記事も両方あって、業界の中で答えが出ていません。
私はこう考えています。買主にとって効くのは元付か客付かというラベルではなく、その担当者が売主とどれだけ直接話せているかです。元付でも売主と月に一度しか連絡していない担当者より、客付でも元付の担当者とその日のうちに話せる担当者のほうが、交渉は前に進みます。ラベルは立場を表しているだけで、動きの速さまでは保証しません。
いま話している会社と売主の距離を測る、3つの質問
外からは見えない、と書きました。ただ、客の側から測る方法はあります。次の3つを聞くと、その会社が売主にどれくらい近いかが見えてきます。
1.「この物件は御社が売主さんから直接お預かりですか」
聞いていい質問です。元付なら「はい」と返ってきます。客付でも正直に答える会社はあります。答えをはぐらかされたら、それも情報になります。
2.「売主さんはいつまでに売りたいとおっしゃっていますか」
元付なら知っているはずのことです。客付でも、元付とよく話せている担当者なら答えられます。「確認します」と言ってその日のうちに返事が来るかどうかで、その会社と元付の距離が分かります。
3.「レインズの取引状況は今どうなっていますか」
売れているか、申し込みが入っているかを、業者はレインズ上の区分で見ています。この質問に具体的に答えられる担当者は、物件確認をきちんとやっています。
家を売る側の人は、これを自分でも確かめられます。2025年1月から、売主に渡されるレインズの登録証明書を使って、自分の家がいまどう登録されているかを売主自身が画面で確認できる仕組みになりました。頼んだ会社が他社からの問い合わせを断っていないかを確かめる方法として、別の記事にまとめています。
まとめ
- 元付は売主から直接頼まれた会社、客付は買主を連れてくる会社。どちらも法律用語ではなく業界の呼び方です
- ポータルに同じ家が何社も並ぶのは、元付が登録した情報を他社が許可を得て掲載できるからです
- 「元付ですか」と聞くのは失礼ではありません
- 買主が払う仲介手数料の上限は告示で決まっていて、元付でも客付でも変わりません
- 効いてくるのは肩書きではなく、担当者が売主とどれだけ話せているかです
この記事は不動産業界用語シリーズの1本目です。ここから先、業者同士のやりとりで飛び交う言葉を順番に解いていきます。次は同じレインズ絡みで、物件の種目を表す業界表記の話です。レインズの「売外全」「売外一」とは?物件種目の読み方と使い分け。
出典
- 媒介契約制度(登録期限・報告義務・自己発見取引)… 公益社団法人 東日本不動産流通機構 https://www.reins.or.jp/contract/ / 公益財団法人 不動産流通推進センター「不動産ジャパン」 https://www.fudousan.or.jp/kiso/sale/3_4.html
- 報酬額の上限(昭和45年建設省告示第1552号・令和6年7月1日施行)… 国土交通省 告示本文PDF(本文の料率は大阪府が掲載する告示本文でも照合)
- 宅地建物取引業者の事務所数… 国土交通省 建設業者・宅建業者等企業情報検索システムから集計(2026年8月時点。政府標準利用規約 第2.0版)
- 読者の声として引用した投稿… Yahoo!知恵袋/Yahoo!不動産 教えて!住まいの先生(本文中に各出典を記載)


コメント