「引っ越し先の学校に支援級がないので、普通級に戻ってください」と言われて、引っ越しそのものを諦めかけている人がいます。神戸市で数えると、特別支援学級が置かれていない市立小学校は162校のうち2校、児童44人と24人の学校だけでした。
この記事でわかること
- ✓ 神戸市で特別支援学級が無い市立小学校は162校のうち2校、中学校は84校のうち分校4つだけ
- ✓ 半分しかないのは通級のほう。自校通級指導教室がある小学校は81校で50.0%、中学校は84校中17校
- ✓ 転入後にどの学校へ通うかを指定するのは、前の学校ではなく転入先の市町村教育委員会(学校教育法施行令6条)
「前の学校から許可をもらいに行くといいです」7人が答えて、誰も前提を確かめていない
Yahoo!知恵袋に、2024年4月15日の夕方6時すぎに出た相談があります。閲覧は3,182件、共感は100、回答は7件つきました。
支援級に通っている子供が普通級に戻ることは可能ですか?
この度引っ越しとともに、転校する予定でしたが引越し先の学校は支援級がないため普通級に戻る予定でしたが、今通っている学校の許可が無いと普通級に通うことはできず支援級に通わないといけないと言われました。
これはおかしくないでしょうか?
家の事情的にも送り迎えはできません。
正直認めてもらえないと引っ越しも諦めざるを得ない状況です。
Yahoo!知恵袋 q11296579376(2024年4月15日)
子どもは小学3年生から特別支援学級に入り、いまは1科目だけそこで受けています。知的障害はなく、知能指数は100くらいです。7件の答えは、どれも「誰をどう説得するか」に集まりました。
それでしたら、前の学校から許可をもらいに行くといいです。
同・回答1件目
今の学校に、このままだと転校先がなくなってしまうので、許可を出してくださいってお願いしてみては?
同・回答6件目
ほかにも「教育委員会に子供と一緒に相談にいきましょう」「在籍変更の手続きを行えばよいのです」と続きます。ところが7件を並べても、引っ越し先の学校に支援級が無いという前提を確かめた人が1人もいません。そして質問者がいちばん強く書いた制約、送り迎えができないという一文に答えた回答も、7件のなかにありません。
読者
支援級がある学校って、そんなに少ないんですか?
数えると逆でした。少ないのは支援級ではなく、通級のほうです。
神戸市で特別支援学級が無い小学校は、162校のうち2校
神戸市教育委員会は毎年5月1日現在の学級数と児童生徒数を学校ごとに公表しています。2026年のファイルを学校単位で数えました。

小学校162校のうち特別支援学級があるのは160校で、98.8%。無いのは北区の藍那小学校と西区の高和小学校の2校だけで、児童数はそれぞれ44人と24人、市内でいちばん小さい部類の学校です。中学校は84校のうち80校にあり、無い4校はすべて分校でした。
市全体では524学級に2,437人。1学級あたり4.65人で、通常の学級の27.46人とは密度が違います。
ただし支援学級があることと、その子に合う学級があることは別の話です。神戸市の案内はこう書いています。
市立小・中学校に児童生徒の障害等の状況に応じて、知的障害、自閉症・情緒障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱の学級を設置しています。
神戸市「障害のある子供たちのための学校・学級」
置かれている種別は学校ごとに違います。同じページには難聴学級について「小・中学校各1校に難聴学級を設置しています。」とあり、市内では神戸祇園小学校と湊翔楠中学校の2校しかありません。98.8%を「どこでも大丈夫」に読み替えないでください。
数字は2026年5月1日現在。学級の種別と設置校は年度で動くので、候補の学校が決まったら市の窓口で個別に確かめてください
半分しかないのは通級のほう。小学校81校、中学校17校
通級指導教室は、通常の学級に在籍したまま、週に何時間かだけ別の場所で指導を受ける仕組みです。1科目だけ支援を受けているこの相談の子に、いちばん近い形です。
神戸市はこの教室を、自分の学校の中にある「自校通級」と、他校まで通う「拠点校」に分けています。市の一覧を数えると、自校通級があるのは小学校162校のうち81校でちょうど半分、中学校は84校のうち17校でした。

区でも差があります。東灘区は14校のうち11校、北区は33校のうち12校。設置校の数はほぼ同じなのに、率は79%と36%に分かれます。中学校にいたっては中央区の7校すべてにありません。神戸市自身も、これが途中の状態だと書いています。
2036年度までに、必要な全ての小・中学校への設置を目指して順次拡充していきます。
神戸市「障害のある子供たちのための学校・学級」
自校通級が無い学校の子は、市内14か所の拠点校まで通います。その案内文に、質問者の制約とまっすぐぶつかる一行があります。
事故防止のため、幼児、小学生は保護者の付添いによる通級となります。
神戸市「神戸市の拠点校通級指導教室」令和8年度版
しかも同じ資料に「※申し込まれる方の住所により、相談する教室が決まっています。」とあり、近い教室を選ぶこともできません。送り迎えができないという事情が効いてくるのは、支援学級ではなく通級のほうでした。

もうひとつ、回答に出てきた「普通級に戻ったら何のフォローもしてもらえなくなります。通級なども受け入れ不可。」という話は、制度としては逆向きです。学校教育法施行規則140条は通級の対象を並べたうえで、かっこ書きに「(特別支援学級の児童及び生徒を除く。)」と置いています。通級は通常の学級にいる子の制度で、支援学級にいる間はそもそも使えません。
引っ越したあとの学校を指定するのは、転入先の教育委員会
前の学校の許可、という言葉が法令のどこから来ているのかを確かめました。結論からいうと、出てきません。
学校教育法施行令5条2項は、市町村に小学校が2校以上あるとき、教育委員会が通う学校を指定しなければならないと定めています。6条は、引っ越してきた子にこの規定をそのまま当てはめます。
前条の規定は、次に掲げる者について準用する。この場合において、同条第一項中「翌学年の初めから二月前までに」とあるのは、「速やかに」と読み替えるものとする。
学齢児童若しくは学齢生徒でその住所地の変更により当該学齢簿に新たに記載されたもの
学校教育法施行令 第六条(第一号から抜粋)
住所が変われば、新しい住所の市町村の教育委員会が、速やかに学校を指定する。前に住んでいた市町村も、前の学校も、この条文には出てきません。
では前の学校の校長に法令が課している義務は何かというと、学校教育法施行規則24条3項です。転学した子の指導要録の写しを作り、転学先の校長に送らなければならない。送る義務であって、可否を決める権限ではありません。
読者
じゃあ、前の学校に頼みに行く必要はないということですか。
法令に許可の規定は無い、というところまでが事実です。前の学校が書いた資料が判断材料になること自体は、否定できません。
政令に「特別支援学級」は1回も出てこない
では、どの学級に入るかは誰がどう決めるのか。学校教育法施行令の本文6万1,123字を機械で数えました。

「特別支援学校」は60回、「就学」は69回、「住所」は33回出てきます。「特別支援学級」は0回でした。どの学校に通うかは政令が細かく決めているのに、どの学級に入るかは政令に1行も無い、ということです。
法律の側も対称ではありません。学校教育法80条は特別支援学校について「設置しなければならない」と都道府県に義務づけていますが、特別支援学級のほうはこう書かれています。
小学校、中学校、義務教育学校、高等学校及び中等教育学校には、次の各号のいずれかに該当する児童及び生徒のために、特別支援学級を置くことができる。
学校教育法 第八十一条第二項
置くことができる、です。だから引っ越し先に無いこと自体は、違法でも例外でもありません。
国の通知は「固定したものではなく」と書いている
手続きが政令に無いぶんを埋めているのが、文部科学省の通知です。平成25年10月4日の25文科初第756号は、就学先を決めたあとの扱いをこう書いています。
就学時に決定した「学びの場」は,固定したものではなく,それぞれの児童生徒の発達の程度,適応の状況等を勘案しながら,柔軟に転学ができることを,すべての関係者の共通理解とすることが適当であること。
25文科初第756号「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」
すべての関係者の共通理解とすることが適当、という書き方です。前の学校の許可が要るという説明は、この文と向きが合いません。
同じ通知のなかに、もうひとつ気づきにくい差があります。特別支援学校への就学を説明する第1の2(1)には「市町村の教育委員会が」という主語がはっきり書かれています。ところが特別支援学級を説明する第1の3(1)は、同じ「適当であると認める者」という言い回しを使いながら、誰が認めるのかを書いていません。
私はこう見ています
法令が主語を書かなかったところに、現場の言葉が入り込んでいる。私はこの相談をそう読んでいます。
どの学校に通うかは、政令が手続きを組み立て、市町村の教育委員会が指定すると決めています。ところがどの学級に入るかは、政令に条文が無く、通知にも主語がありません。空いた場所を埋めるのは、その地域のやり方です。だから「今の学校の許可が要る」という説明と、支援級が無いなら開設するという説明が、同じ制度のもとで同時に成り立ちます。
家を決める側からいえば、確かめる相手は引っ越し先の市町村の教育委員会です。聞くべきは「支援級はありますか」ではありません。神戸で数えたとおり、その答えはほぼ「あります」になります。聞くのは、どの種別の学級があるか、自校通級はあるか、無い場合はどの拠点校になるかの3つです。
神戸市は相談の入口を低くしています。
就学相談を受けるために、医師による診断等は必要ありません。
神戸市「就学相談」
診断書も手帳も、相談を始める条件ではありません。
引っ越し先を決める前に確かめる3つ
神戸市の就学相談のページには「転入」「転校」「引っ越」「転居」がいずれも1回も出てきません。窓口は入学前と中学進学の2つで案内されているので、年度の途中に動く場合は自分から切り出す必要があります
- 候補の住所で、通う小学校と中学校を先に確定させる。同じ町名でも丁目で分かれることがあります
- その学校の特別支援学級の種別と、自校通級指導教室の有無を市の一覧で確かめる
- 自校通級が無いなら、住所で決まる拠点校がどこかと、付添いの時間帯を確かめる
家の条件を先に決めてから学校を調べると、この3つで引っ越しごとやり直しになります。順番を逆にしてください。線の引かれ方は学区の調べ方に、住所を移すことの是非は住民票だけ移す方法にまとめています。
よくある質問
引っ越し先に特別支援学級が無かったら、どうなりますか
学校教育法81条2項は「置くことができる」と定めていて、設置は義務ではありません。無い場合の扱いは市町村の運用によります。神戸市立小学校では162校のうち2校が該当し、いずれも児童数が50人を下回る学校です。
前の学校の許可が無いと、転校先で通常の学級に入れないのですか
学校教育法施行規則24条3項が前の学校の校長に課しているのは、指導要録の写しを転学先の校長に送ることです。許可を出す権限を定めた条文はありません。
通級指導教室は、特別支援学級と一緒に使えますか
使えません。学校教育法施行規則140条が対象から「(特別支援学級の児童及び生徒を除く。)」と明記しています。通級は通常の学級に在籍している子の制度です。
出典
- 神戸市教育委員会「神戸市立学校園 学級数・児童生徒数等」(令和8年5月1日現在)https://www.city.kobe.lg.jp/a61516/kosodate/education/gakkoen/children.html
- 神戸市「障害のある子供たちのための学校・学級」https://www.city.kobe.lg.jp/a98017/kosodate/sodan/special/school.html
- 神戸市「就学相談」https://www.city.kobe.lg.jp/a98017/kosodate/sodan/special/shugakusodan.html
- 神戸市「神戸市の拠点校通級指導教室」令和8年度版(PDF)https://www.city.kobe.lg.jp/documents/5748/20260507104427.pdf
- 文部科学省 25文科初第756号「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340331.htm
- e-Gov法令検索 学校教育法/学校教育法施行令/学校教育法施行規則/公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律
集計条件は、小学校シートの特別支援学級の列を学校ごとに読み、区計と合計の行を除いて数えたものです。表の合計行(学級2,805・特別支援学級524・児童65,076・特別支援学級児童2,437)と自前の集計が一致することを確認しています。
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