「賃貸のアパートの1階に住んでます。大雨で床上浸水しました。何からしたらいいのか分かりません。市役所に電話してから掃除にとりかかればいいのでしょうか?」——Yahoo!知恵袋に、この質問がそのまま残っています。
答えは、市役所でも掃除でもありません。先にやるのは写真です。ただし「撮り終わるまで泥に触らない」という意味ではありません。ここが逆になると、今度は片付けが止まります。
浸水後に待っている期限は、ひとつではありません。罹災証明書は原則6か月(横浜市の場合)、生活再建支援金の基礎支援金は13か月、加算支援金は37か月、保険金の請求権は3年。片付けが終わるころ、いちばん短いものが近づいています。
この記事でわかること
- ✓ 「市役所が先か、掃除が先か」——その前にやること
- ✓ 換気・写真・泥出し・乾燥・消毒をどの順でやるか(出典つき)
- ✓ 6か月・13か月・37か月・3年——4つの期限が切れる日
- ✓ 床下浸水だけだった家が、それでも役所に行く理由
「市役所が先か、掃除が先か」——答えはどちらでもありません
罹災証明書は、市区町村が住家の被害の程度を認定する書類です。材料になるのは片付ける前の家で、掃除の終わった家からは、どこまで水が来ていたかを読み取れません。
横浜市が申請に必要な写真として挙げているのは「被害箇所、外観(4方向)、表札、浸水状況(深さ)等」。4方向は家の周りを一周するということで、表札もこの一覧に入っています。
先に消えるのは浸水の深さです。水が引いたあと、どこまで浸かったかは壁や柱に残った泥の線でしか分かりません。線は掃除で消えます。撮り方は罹災証明書は「片付ける前の写真」で決まるにまとめてあります。
受付の開始日や災害ごみの出し方は市区町村が決めます。ただ、電話がつながらない日でも、写真は撮れます。
読者
水が引いたばかりで、家の中がぐちゃぐちゃです。この状態でも撮るんですか?
その状態を撮ります。きれいにしてから撮った写真では、被害が伝わりません。ただ、危ない場所には入らないでください。傾いた壁や割れたガラスは、外から撮れる範囲で足ります。
水が引いた日から3年後まで、期限を1枚に並べます
「浸水したらどうする」と打ち込んだ人が知りたいのは、作業の手順だけではないはずです。片付けと手続きが同じ日から同時に走り、締め切りの形が違います。並べておきます。
| いつ | やること | 期限と、その根拠 |
|---|---|---|
| 水が引いた日〜数日 | 換気→撮る→泥出し→乾燥→消毒 | 期限は無い。ただし片付けたあとに撮り直せない |
| 被災から6か月 | 罹災証明書の申請 | 「原則被災した日から6か月以内」(横浜市)。自治体ごとに違う |
| 13か月 | 生活再建支援金・基礎支援金 | 「災害発生日から13ヶ月以内」(都道府県センター) |
| 37か月 | 同・加算支援金 | 「災害発生日から37ヶ月以内」(同) |
| 3年 | 火災保険の保険金請求 | 保険法第九十五条第1項 |
罹災証明書の申請期限は全国一律ではありません。原則6か月は横浜市の値で、期間は自治体ごとに決められています。住んでいる市区町村のページで日付を確認してください。
写真を撮り終わるまで、泥を待たせない
「証拠が要るなら、全部撮り終えるまで何も動かさないほうがいい」。そう考えて手を止めると、今度は泥のほうが不利になります。
岐阜県の防災課は「できるだけ早く乾燥させることで、悪臭、カビ、シロアリなどの被害を大幅に軽減することが可能」としています。乾燥の前には泥出しがあるので、泥出しも早いほうがいいという順番になります。
宮城県は作業時の服装として「手袋を着用しましょう」「ほこりを吸わないようにマスクを着用しましょう」を挙げ、家の中は「ドアと窓を開けて、しっかり換気してください」としています。ほこりが問題になるのは、泥が乾いてからです。
写真は「撮ってから作業」であって、「撮り終わるまで待つ」ではありません。先に押さえるのは、外観4方向・表札・浸水の深さ・部屋ごとの被害の4種類だけ。あとは作業しながら足していけます。
撮った深さと、その場所が災害の想定でどう扱われていたかを見比べておくと、直すか移るかを考えるときの材料になります。
消毒は最後です。順番を逆にすると効きません
「泥をかき出したら、次は消石灰」。この順番で覚えている人がいます。逆です。
厚生労働省は、一般家屋の浸水後についてこう書いています。
まずは、土砂撤去や十分な清掃及び乾燥を行うことが重要です。その上で、消毒を行う
汚れが残ったまま薬をまいても、薬は汚れに使われて終わります。消毒は工程のいちばん最後です。
| やること | その順である理由 | 出典 |
|---|---|---|
| 1. 換気する | 「ドアと窓を開けて、しっかり換気してください」 | 宮城県 |
| 2. 撮る | 片付けたあとの家からは、浸水の深さを読み取れない | 横浜市 |
| 3. 泥を出す・水で洗う | 乾いてからではほこりになる。手袋とマスクで | 川崎市・宮城県 |
| 4. 乾かす | 「できるだけ早く乾燥させることで、悪臭、カビ、シロアリなどの被害を大幅に軽減することが可能」 | 岐阜県 |
| 5. 消毒する | 「土砂撤去や十分な清掃及び乾燥を行うことが重要です。その上で、消毒を行う」 | 厚生労働省 |
消毒薬の種類と薄め方は、対象が家具か食器かで濃度が変わります。ここは自治体のページの数字に従ってください。屋外まで消毒するかどうかも別の話で、千葉県が8月14日に更新したページの中身は千葉県のページには「屋外の消毒は原則不要です」と書いてありますで扱っています。

この記事は、全国どこでも共通する順番だけを扱います。消毒薬の希釈のように対象物ごとに数値が変わるものと、申請の期限は、市区町村のページの数字が優先します。
床下が乾くまで、およそ1か月かかります
「床下浸水 乾燥 期間」は実際に検索されている言葉です。何日で乾くかを集計した官公庁の統計は見つかりませんでした。ただ、水害の現場に入っている団体が二つ、別々に同じ日数を書いています。
床下空間(基礎内部)を完全に乾燥させるには 約1ヶ月程度 の日数が 必要 となります。
佐賀県建築士会の危機管理対策部会がまとめた資料です。もう一方は、被災地で実際に床下へ風を送っている災害支援のネットワークです。
家屋を十分に乾かすには1か月以上かかります。
床板をはがし、機械で風を送りながら、最低でも1か月かけて床下を乾燥させます。
震災がつなぐ全国ネットワークの冊子「水害にあったときに」3ページと19ページです。設計する側と、実際に床下へもぐる側が、それぞれ「1か月」と書いています。検索すると「1週間ほど」という数字も出てきますが、そちらは工事会社が自社の記事に書いたもので、出典も母数もありません。
もちろん建物の造りも床下の高さもそのあとの天気も家ごとに違うので、1か月は上限でも保証でもありません。ただ、数日で戻れる前提で予定を立てると、まず外れます。
そうなると決めることが変わります。「いつ戻れるか」ではなく「戻れるまでどこにいるか」を先に決めることになります。1か月ぶんの居場所を後回しにすると、そのあいだに宿も物件も埋まります。
住み続けられない家を最低限直す制度に、住宅の応急修理があります。現金が振り込まれる制度ではないところが誤解されやすいので、仕組みは住宅の応急修理で最大75万7,000円もらえる?実は現金給付ではないにまとめています。
読者
畳も壁も濡れています。乾くのを待つ間、この家に住んでいて大丈夫ですか?
住めるかどうかは家ごとに違います。ただ、床下が乾くまで1か月と見ておくなら、乾いてから決めるのでは遅いんです。先に市区町村の窓口で、仮の住まいの相談をしておいてください。
罹災証明は6か月。床下だけの家も、取ってください
期限は自治体ごとに決まっている
横浜市は「罹災証明書又は被災非住家建物証明書の申請期間は、原則被災した日から6か月以内です。」としています。半年あると思っていると、片付けと修理の見積りで過ぎます。
被害の程度は「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「準半壊に至らない(一部損壊)」の6区分で認定されます。浸水の深さがどの区分になるかは浸水の罹災証明は「床上か床下か」だけではありませんで扱っています。
床下だけなら「自己判定方式」で早く出る
横浜市は軽い被害についてこう案内しています。「被害の程度が軽微で、『準半壊に至らない(一部損壊)』の場合は、申請者ご自身により、『準半壊に至らない(一部損壊)』と判定していただくことで、通常よりも迅速に罹災証明書が発行できます。」現地調査の順番を待たずに発行される仕組みです。
読者
罹災証明って、支援金をもらう人のためのものですよね?
それだけではありません。住宅の応急修理を頼むときも、税の減免を受けるときも、入口はこの1枚です。支援金の出ない区分でも、持っていると使い道があります。
支援金は13か月と37か月。ただし出ない人がいます
申請期間は、基礎支援金が「災害発生日から13ヶ月以内」、加算支援金が「災害発生日から37ヶ月以内」。加算のほうは、住まいを建てる・買う・直す・借りるという行動とセットで申請します。
この支援金は、罹災証明書さえ取れば出るものではありません。対象は、住家が全壊した世帯、やむを得ず解体した世帯、長期避難世帯、大規模半壊、中規模半壊の世帯です。しかも中規模半壊は基礎支援金が0円で、加算支援金だけ。それより軽い認定だと、この一覧に自分の区分がありません。
金額の早見表は全壊と半壊で、受け取れる額は最大300万円ちがうにあります。世帯が1人の場合は、複数世帯の4分の3です。
保険金を請求する権利は、3年で消えます
4つのうち、いちばん長いのが保険です。保険法(平成二十年法律第五十六号)第九十五条第1項は、こう定めています。
保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第六十三条又は第九十二条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3年あるから大丈夫、という条文ではありません。3年で請求権そのものが時効によって消滅する、と書いてあります。期間内なら必ず支払われる、という意味も含んでいません。
水災の補償が付いているか、付いていても支払いの条件を満たすかは契約ごとに違います。その仕組みは床上浸水でも火災保険が出ない?水災補償の45cm・30%基準を整理で扱っています。
役所の調査を待ってから保険会社に電話する必要もありません。判定する主体が別なので、同じ日に両方動けます。この点は罹災証明と火災保険はどっちが先?にまとめてあります。

条文はe-Gov法令検索で確認したものです。実際に保険金が出るかどうかは契約の約款によります。自分の契約は保険証券と保険会社で確認してください。
わたしはこう考えています
浸水したその日にやることは、結局のところ写真だけです。換気して、外観4方向・表札・浸水の深さ・部屋ごとの被害を撮る。あとの工程は、順番さえ守れば翌日以降でも間に合います。
それでも「何からしたらいいのか分かりません」となるのは、片付けと手続きが同じ日に始まるからだと私は見ています。体を使う作業と、締め切りのある書類が同時に来る。順番を決めること自体が負担になっています。
だから、4つの期限のうちどれが先に来るかだけ覚えておけばいいと考えています。いちばん短いのは罹災証明で、忘れられやすいのもここです。保険の3年と比べると6分の1しかありません。
体調のことはこの記事では扱いません。汚れた水に触れたあとの手当てや感染症の心配は、自治体の窓口か保健所に聞いてください。
よくある質問
床下浸水だけでも罹災証明書は取れますか
取れます。被害が軽い場合には自己判定方式があり、横浜市はこれを「通常よりも迅速に罹災証明書が発行できます」と説明しています。ただし申請期間は自治体ごとに決まっているので、軽いからと後回しにすると期限に当たります。
消毒に消石灰を使ってもいいですか
使う自治体の案内もありますが、順番は清掃と乾燥のあとです。川崎市は消石灰について「水に溶けると強アルカリ性となるため、使用する場合には、目や皮膚につかないように、また、口に入らないよう十分注意してください」と書いています。
出典
- 横浜市「罹災証明書・被災非住家建物証明書」(申請期間・必要な写真・6区分・自己判定方式)
- 公益財団法人 都道府県センター「被災者生活再建支援制度」(対象世帯・13ヶ月・37ヶ月・単数世帯は4分の3)
- 厚生労働省「一般家屋や食品営業施設における浸水後の消毒の相談について」
- 川崎市「水害時の衛生対策と消毒方法について」(片付けの順・消石灰の注意)
- 宮城県「浸水した家屋の感染症対策について」(換気・手袋・マスク)
- 岐阜県「自宅が浸水した場合の参考情報」(できるだけ早い乾燥・参考資料の一覧)
- (一社)佐賀県建築士会 危機管理対策部会「浸水被害にあった住宅の壁・床の対応について」https://www.kenchikushikai.or.jp/data/torikumi/shinsuihigaitaiou_kabeyuka.pdf(床下の乾燥に約1か月)
- 震災がつなぐ全国ネットワーク「水害にあったときに 浸水被害からの生活再建の手引き」2025年7月版 P.3・P.19 https://www.shintsuna.org/img/tools/suigai_leaflet_2507.pdf(最低でも1か月かけて床下を乾燥)
- e-Gov法令検索 保険法(平成二十年法律第五十六号)第九十五条
- Yahoo!知恵袋(冒頭の質問・2023年7月17日投稿)
※ 2026年8月25日時点で各公式サイトに掲載されている内容にもとづいています。申請の期限・窓口・消毒薬の濃度は自治体ごとに異なります。手続きの前に、住んでいる市区町村の案内を確認してください。


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