結論からいうと、「床下浸水だったから大丈夫よ」とは言えません。この一言は、水害の公的な手引きの中に、隣の人が「ダメー!」と打ち消す絵つきで載っています。
ただし「全部はがして全部やり直し」でもありません。乾かすのにかかる日数を、家を設計する側と、実際に床下へもぐる側が、別々に「1か月」と書いています。
水が引いた日にやることの順番(換気→撮る→泥出し→乾燥→消毒)は家が浸水したらまず何をするの?にまとめてあります。この記事は、そのうち「乾燥」の1工程だけを扱います。
この記事でわかること
- ✓ 「1週間ほど」と「約1か月」で日数が割れている理由
- ✓ 合板の床なら、開けるのは対角線の2か所だけ
- ✓ ベタ基礎で水が抜けないときに何が起きるか
- ✓ 床下にもぐってはいけない理由
- ✓ 床下乾燥の費用相場が、公的な資料に1円も載っていないこと
約1か月です。設計する側と、床下にもぐる側が、別々にそう書いています
一般社団法人 佐賀県建築士会 危機管理対策部会が出している「浸水後の『壁・床』内部の対処について」には、こうあります。
床下空間(基礎内部)を完全に乾燥させるには約1ヶ月程度の日数が必要となります。
建物を設計する側の記述です。いっぽう、被災地で実際に床板をはがしている側にも記述があります。震災がつなぐ全国ネットワークの手引き『水害にあったときに』の19ページです。
床板をはがし、機械で風を送りながら、最低でも1か月かけて床下を乾燥させます。
同じ冊子の3ページには「家屋を十分に乾かすには1か月以上かかります。それまでは仮住まいや2階での生活になるかもしれません。」とあります。立場の違う3つの記述が、示し合わせずに「1か月」で一致しています。
| 書いている人 | 日数 | 原文 |
|---|---|---|
| (一社)佐賀県建築士会 危機管理対策部会 | 約1か月 | 床下空間(基礎内部)を完全に乾燥させるには約1ヶ月程度の日数が必要となります |
| 震災がつなぐ全国ネットワーク(3ページ) | 1か月以上 | 家屋を十分に乾かすには1か月以上かかります |
| 同(19ページ・災害支援の現場の作業) | 最低1か月 | 床板をはがし、機械で風を送りながら、最低でも1か月かけて床下を乾燥させます |
検索で出てくる日数は「1週間ほど」から「1か月」まで幅があります。短いほうを書いているのは乾燥や復旧の工事を受注する会社の自社記事で、何棟を測った数字なのかは書かれていません。
「約1か月」は上限でも保証でもありません。基礎の形も、床下の高さも、そのあとの天気も家ごとに違います。1か月たてば必ず乾くという意味ではなく、1か月は見ておくことになる、という意味の数字です。
表面が乾いても、中はまだ濡れています
佐賀県建築士会の文書は、乾いたように見える段階で床や壁をふさいだときに何が起きるかを、こう書いています。
床上浸水後、内装の表面が乾燥しても、内部に水分が残っていると構造体(柱・土台など)の劣化を進行させ、内部にカビを発生させて健康被害を引き起こす可能性がありますので、「壁・床」内部の乾燥については早めのチェックと、対処が必要です!
『水害にあったときに』の15ページには、その先で起きたことが並んでいます。「翌年の梅雨にカビが大発生…!」「カベ紙がはがれる」「カベを押すとへこむ」。梅雨は水害の翌年に来ます。直したつもりの家で、半年以上たってから出るということです。
同じ冊子は、水を吸うと厄介な材料を名指ししています。断熱材はグラスウール・ロックウール・石膏ボード、木材は中密度繊維板・集成材。グラスウールについて佐賀県建築士会は「水に濡れると乾燥しにくく、再利用も難しい材料です」として、濡れている高さまでの内装材を外し、断熱材ごと入れ替える手順を示しています。
読者
床下をのぞいたら、もう水はたまっていません。乾いたと考えていいですか?
水たまりが無いことと、木が乾いていることは別です。災害支援の現場では、専用の機械で水分量をはかりながら乾かしています。目で見て決められる工程ではないんです。
床は全部はがさなくていい。合板なら、開けるのは2か所です
床下を乾かすと聞くと、床を全面はがす工事が浮かびます。佐賀県建築士会が書いている手順は、それとは違います。
まずは、水を含んだ畳やカーペットを撤去し、下地が木板張りの場合は板を剥がして床下が見えるようにします。基礎に溜まった水を排出したあと、合板張りの場合は対角線上の2箇所を空けて風を送り乾燥させます。
合板張りなら、開けるのは対角線上の2か所です。片方から入った風が、もう片方へ抜けていく形をつくるためです。『水害にあったときに』も洋室について「床下収納の間口や点検口から風を送ります。対角線上に穴が開けられるとより早く乾燥できます。」と書いています。

| 場面 | 公的な資料が書いている手順 |
|---|---|
| 洋室(フローリング・じゅうたん) | 床下収納の間口や点検口から風を送る。対角線上に穴が開けられるとより早い。点検口がないときは業者に依頼して開けてもらうこともできる |
| 和室(畳敷き) | 畳を上げ、畳の下の床板をはがして水分や泥をとりのぞく。床板を一部のみはがすこともできる |
| 床板をすべてはがすとき | 元に戻せるよう、あらかじめ油性ペンで並び順の番号を書く。床板を傷めないよう、バールなどでていねいにはがす |
| はがした床板 | 直射日光で乾かすと変形することがあるため陰干し。加工していない無垢の床板は再利用できる |
これは工事を受注する側からは出てきにくい情報です。全面をはがして張り替えたほうが、受注の額は大きくなります。私は、この「2か所」と「一部のみ」を知っているかどうかで、出ていく金額がいちばん変わると考えています。
上げた畳は、他の廃棄物と分けて置いてください。『水害にあったときに』は「ぬれた畳は時間がたつと発熱し、火災の原因になります。他の廃棄物とは必ず分けておきましょう。」と書いています。乾かすための作業が、そのまま火の元になります。
ベタ基礎は、水が入るとまず抜けません
『水害にあったときに』の14ページには、ベタ基礎の説明として手書きでこう書き添えてあります。
<ベタ基礎>コンクリートで囲っているので、水が入るとまず抜けない。
土のままの床下なら、水は地面へ引いていきます。底までコンクリートを打ってあるベタ基礎は、そこが水槽になります。抜けないので、たまった水は人の手で出すことになります。「床下浸水 乾燥」と打ったときの候補に「ベタ基礎」が並ぶのは、ここで行き止まりになる人がいるからだと私は見ています。
床まで水が上がらなかった家も、床下は見ておくことになります。同じページは「床まで水が上がらなくても、床下に水や泥が入り込んでいないか確認をしましょう。」とし、洋間は点検口や基礎の通気口から確認するよう書いています。外から見て基礎から水がにじみ出ているときは、中に水がたまっているおそれがあります。
1か月かけて乾かす前に、その場所が水害の想定でどう扱われていた土地なのかを見ておくと、直して住み続けるか、床の高さから変えるかを決めるときの材料になります。
泥を取りきることより、風を通すことが先です
床下を見た人は、まず泥をかき出したくなります。『水害にあったときに』は、その順番を逆にしています。
泥を取りのぞききることよりも、木材を乾燥させて水分を抜くことを優先します。
続けて「風の通り道をつくるだけでも十分効果はあります(外気を取り入れるとなおよい)。」「扇風機やサーキュレーターなどで、風を送ることでより効果的に乾燥できます。」とあります。特別な機械が無くても、風が入って出ていく形になっていれば進みます。家にいるときは外気を入れ、出かけるときは戸締まりをする、という但し書きも付いています。佐賀県建築士会も「通気も大切ですが、空き巣被害や、業者等を装った詐欺にも十分ご注意ください!」と書き添えています。
扇風機を何台置くかは、公的な資料に書いてありません
「扇風機やサーキュレーターなどで」までは公的な資料に書いてありますが、何台をどこに置くかは、佐賀県建築士会にも震つなの冊子にも書かれていません。台数を答えているのは、Yahoo!知恵袋で同じ質問に答えた回答者の「扇風機などを2台か3台入れて基礎内で風が回るようにセットすればどこからでも空気は出入りするので良いと思いますよ」という一文でした。これは公的な数字ではありませんので、そのつもりで読んでください。
除湿機と、含水率という数字について
除湿機が床下の乾燥に効くかどうかを書いた公的な資料は、見つかりませんでした。同じ知恵袋の質問者は「除湿機は気休め程度だと思いますし」と書いていますが、これも測った結果ではありません。「含水率を何%まで下げる」という目標値も同じで、検索には何度も出てくるのに、出どころは工事を受注する会社のページばかりでした。この記事では、確認できなかった数字は書きません。
乾いたあとに消毒が来ます。順番が逆だと効きません。屋外まで消毒するかどうかは別の話で、千葉県が出した案内の中身は千葉県のページには「屋外の消毒は原則不要です」と書いてありますで扱っています。
床下にもぐらないでください。有毒ガスとクギがあります
ここまでの工程には、床下にもぐる場面が出てきます。ここだけは、建築士か災害支援のNPO(非営利団体)に頼んでください。『水害にあったときに』の17ページは、この一点に枠を取ってこう書いています。
床下にもぐる作業は、危険がともないます。床下には有毒ガスが充満していたり、クギが飛び出ていることもあります。作業は専門的な知識を持つ建築士や、水害対応ができる災害支援NPOに依頼しましょう。
災害支援の団体が実際にやっているのは「床板をはがし、機械で風を送りながら、最低でも1か月かけて床下を乾燥させます」「専用の機械で水分量をはかりながら、再度しっかり乾燥させ、仮復旧をします」という作業です。家にある道具の範囲を超えています。
住み続けながら乾かす方法も書かれています。「通路の床板を残したり、仮の板を張ったりします。」「断熱材をはがしたカベは、養生シートなどで防寒対策をします。」1か月家を空けられない人のための、現場のやり方です。

読者
床下にもぐるのは無理そうです。でも、そこまでして人に頼むことでしょうか。
自分でできるのは、点検口から風を送るところまでです。穴を開ける・たまった水を出す・水分量をはかる、から先は依頼する作業だと、冊子のほうが線を引いています。
災害ボランティアの申し込み先は、災害ごとに変わります。2026年8月の千葉豪雨のときの窓口は千葉豪雨の災害ボランティアは今どこに申し込む?にまとめました。
この住所は浸水しやすい場所ですか?
住所を入れると、ハザードマップの指定(浸水・土砂・津波)と地盤の強さをまとめて表示します。無料です。
床下乾燥の費用相場は、公的な資料に1円も載っていません
この記事を書くにあたって、公的機関が出した床・壁の復旧の費用相場を探しました。ありませんでした。
佐賀県建築士会の文書に金額の記載はありません。『水害にあったときに』は全32ページありますが、お金の数字が出てくるのは応急修理制度・支援金・災害弔慰金といった制度の額だけで、工事の相場は1円も書かれていません。内閣府の被害認定基準は、工事費ではなく判定の区分を決めるものです。
いっぽう検索すると、床の張り替えは何万円、乾燥作業は何万円という数字が並びます。その数字を書いているのは、その工事を売っている会社です。何件を集計したのか、いつの、どの地域の工事なのかは書かれていません。相場として引用できる形になっていない、というのが探した結果です。
佐賀県建築士会が復旧工事について書いているのは、金額ではなく手順のほうです。
④ 復旧工事(必ず見積もりを取り、施工範囲と金額を確認してから発注してください)
『水害にあったときに』の8ページも同じ方向で、「業者に相談すると、自宅を全て新しくする工事の見積もりが提示されることが多いですが、過去の水害では一部を修繕して住み続けた方もいます。」としています。相場が無い以上、比べる相手は他社の見積もりしかありません。見るのは総額ではなく、どこまでを施工範囲に入れているかです。全面張り替えと、対角線2か所では、そもそも別の工事です。
工事を頼む会社は、先に複数社を並べる
同じ工事でも、会社によって出てくる金額と工事の中身は違います。一社だけの見積もりでは、それが高いのか安いのかを判断する材料がありません。リショップナビは、全国の加盟店からリフォームの見積もりを無料でまとめて取れる比較サイトです。補助金を使う工事は要件を満たす施工が条件になるので、対応できる会社かどうかもここで確かめられます。
※ 上記リンクは広告(アフィリエイト)を含みます。
応急修理制度を使うと、選べなくなるものがあります
修理費の一部を自治体が負担する、住宅の応急修理という制度があります。使う前に見ておくことが2つあります。原則として応急仮設住宅に入れなくなること、公費解体が使えなくなることです。『水害にあったときに』は、この2つを図の中に並べています。1か月の乾燥を待つ間の住まいと、直すか壊すかの判断に、そのまま効いてきます。
金額と申請の流れは住宅の応急修理で最大75万7,000円もらえる?実は現金給付ではないにまとめています。
わたしはこう考えています
床下の乾燥でいちばん高くつくのは、待てないことだと考えています。1か月と聞いて長いと感じるのは当然で、その間は仮住まいか2階での生活になります。ただ、乾ききる前に床を張って壁をふさぐと、翌年の梅雨に同じ場所をもう一度開けることになります。2回目の工事にはまたお金がかかり、そのときには写真も罹災証明も終わっています。
書いていて意外だったのは、公的な資料ほど「はがすな」「一部でいい」と書いていたことです。全部やり直すほうが確実に見えるのに、佐賀県建築士会は「復旧費用を最小限に抑えるため、修理部分のみの撤去としてください」と書いています。判断する人(建築士)と、工事を受注する人を分けておくのがこの手引きの立てつけだと、私は読みました。
『水害にあったときに』の30ページには、床板をはがしたまま冬を越した人の言葉が載っています。
災害支援NPOのみなさんが床板を張って防寒対策をしてくれたところに寝転んで、年越しの紅白を観ることができました。水害当初は、途方に暮れて今の状況は想像すらできませんでした。本当に感謝しかありません。(輪島市・50代男性)
1か月というのは、そういう長さです。
よくある質問
床下浸水でも、床をはがす必要がありますか
床上まで水が来ていなくても、床下に水や泥が入っていれば乾かす対象になります。ただし、はがす範囲は別の話です。合板張りなら対角線上の2か所、和室の床板は一部のみはがす方法が公的な資料に書かれています。まず点検口や基礎の通気口から中を確認してください。
1か月より早く乾くことはありますか
あります。「約1か月」は基礎の中まで含めて完全に乾かすときの目安で、基礎の形も床下の高さも、そのあとの天気も家ごとに違います。早い遅いを目で決められないので、水分量をはかりながら判断することになります。日数のほうを先に決めて工事を始めるものではありません。
乾かす間、その家に住めますか
『水害にあったときに』は「仮住まいや2階での生活になるかもしれません」としつつ、住み続けながら乾かす方法も書いています。通路の床板を残す、仮の板を張る、断熱材をはがした壁を養生シートで覆う、といったやり方です。判断は家の状態によります。
出典
- (一社)佐賀県建築士会 危機管理対策部会「浸水後の『壁・床』内部の対処について(ご注意!!)」
https://www.kenchikushikai.or.jp/data/torikumi/shinsuihigaitaiou_kabeyuka.pdf(約1か月・対角線上の2箇所・グラスウール・復旧工事の手順) - 震災がつなぐ全国ネットワーク『水害にあったときに 浸水被害からの生活再建の手引き(冊子版)』【WEB公開版 2025年7月】
https://www.shintsuna.org/img/tools/suigai_leaflet_2507.pdf(1か月以上・床下にもぐる作業・ベタ基礎・ぬれた畳・応急修理制度・輪島市の声) - Yahoo!知恵袋「床下の乾燥方法について」
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12200297397(扇風機2〜3台・除湿機についての記述。公的な資料ではありません)
※ 2026年8月25日時点で公開されている資料にもとづいています。乾燥にかかる日数は、家の造り・浸水の深さ・そのあとの天気で変わります。床下での作業は、建築士か水害対応ができる災害支援の団体に依頼してください。


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