他社から届いたマイソクを見ながら、自社のポータル入稿フォームに打ち直す。1件20分から30分、10件で半日が消えます。この作業をAIに読ませれば数十秒で終わりますが、私たちが実際にやったとき、AIは物件の所在地を別の市に書き換えました。
しかも、その間違った住所には「所在地欄から読み取りました」という出典まで付いていました。この記事は、それでもAIに読ませる価値があるという話と、どこに人を残せば事故が起きないかという話です。
この記事でわかること
- ✓ ニュース原稿を2分で作っている放送局の型を、物件資料の転記にそのまま当てはめる手順
- ✓ AIが実際に間違えた5項目と、その中身(当方で実測)
- ✓ 間違いの原因が「AIの賢さ」ではなく資料の向きだったこと
- ✓ AIに出典を書かせても検算にならない理由
- ✓ 今日から無料の道具だけで始める形
前回の記事(AIを入れたのに仕事が減らないのはなぜ?)で、AI専門の部署がない北海道文化放送が、ニュース1本を約2分・追加数円で作っている工程を紹介しました。今回はその型を、不動産の1業務に当てはめます。
放送局の6工程を、物件資料の転記に置き換える
北海道文化放送に届くのは、月1,000件を超えるプレスリリースです。不動産会社に届くのは、元付業者からのマイソクと図面。どちらも「外から届く定型の紙」で、そのままでは自社の型に入りません。工程を並べると、ほぼ同じ形になります。

放送局の工程で肝心なのは4番目と6番目です。記者が取材で得た情報を足してからAIに渡し、出てきた3案から記者が選ぶ。 AIが最初から最後まで走るのではなく、人が前後を挟んでいます。
物件資料でも同じです。マイソクに書いてあることだけでは、ポータルの紹介文は書けません。現地を見た担当者が「南向きだが前面に3階建てが建っている」「駅からの道が夜は暗い」と足して初めて、他社と違う原稿になります。
読者
足す手間をかけるなら、最初から自分で書いた方が速くないですか?
足すのは3行です。消えるのは、資料を見ながら30項目を打ち直す時間のほうです。
実際にやってみたら、AIは所在地を書き換えた
ここからが本題です。当方は2026年8月2日、スキャンされたマイソクPDFを1件、プログラムからAIに直接渡して全項目を書き起こさせました。結果を人の目で照合したところ、5項目が間違っていました。
| 項目 | 資料に書いてあること | AIが返した内容 |
|---|---|---|
| 所在地 | 大阪府内の市名+町名+3丁目6-65 | 番地はそのまま、同じ府内の別の市の町名に差し替わった |
| バルコニー面積 | 14.40㎡ | 6.39㎡(同じ資料の「ポーチ」欄の数字) |
| 管理費 | 13,000円 | 22,877円 |
| 施工会社 | ある建設会社名 | 1文字だけ違う、実在する別の建設会社名 |
| 小学校区 | 資料に記載あり | 2回読ませて2回とも違う名前。どちらも資料に無い |
いちばん分かりやすいのが管理費です。22,877円という数字は、資料のどこにも書かれていません。 同じ資料に「約22.87坪」という専有面積の表記があり、その数字から作られています。桁を足して円にしただけです。
読めなかったときにAIは「読めません」と言わず、それらしい数字を作ります。
所在地も同じ形です。番地の「3丁目6-65」は合っていて、市名と町名だけが入れ替わりました。だから見た目には完全な住所として成立していて、地名に詳しくなければ気づけません。
この実測は当方の入稿支援システムの検証で行ったものです。資料1件の結果なので、すべてのAIがいつもこうなるという意味ではありません。
原因はAIの賢さではなく、資料の向きだった
なぜこうなったのかを追いかけたところ、原因は資料の側にありました。
PDFには「このページはこの向きで表示せよ」という回転の指定が書き込めます。この資料は270度回して表示せよと宣言していましたが、正しい向きは180度でした。つまり規格どおりに開くと、全部の文字が横倒しになります。 その状態のまま画像としてAIに渡っていました。
人間なら紙を回して読みます。画面でも、ビューアが気を利かせて正立で表示することがあります。だから目で見ているぶんには気づきません。プログラムから渡すときだけ、横倒しのまま流れていきます。
同じ資料を複数のAIサービスに読ませたところ、結果は割れました。ただし向きを直してから渡すと、どれも正しく読みました。 差はAIの性能ではなく、渡した資料の向きです。
読者
うちの資料は大丈夫でしょうか。
1件ずつ心配するより、元付や出力システムの様式ごとに壊れていると考えたほうが当たります。同じ会社から届く資料は、同じように傾いています。
当方が検証用に集めた資料12件のうち、回転がおかしかったのは1件でした。件数だけ見れば少なく見えますが、その1件は大手の様式でした。実務で届く枚数で数えれば、割合はもっと上がります。
対策は単純で、AIに渡す前に正立させることです。文字が横に流れる向きを機械で判定し、上下の2択だけ別の方法で決める、という2段構えで12件すべて正しく直せました。費用は12件で0.2円もかかっていません。
「出典を書かせれば安全」は、検算になっていない
ここが、この検証でいちばん効いた発見です。
AIに項目を書き起こさせるとき、「どこから読み取ったかも一緒に出させれば確認できる」と考えたくなります。当方もそう設計していました。ところが、創作された所在地にも「所在地欄から読み取った」という出典が付いていました。 読み取り済みという状態表示まで付いています。
私は、出力に出典を書かせる運用は安全対策として機能しないと考えています。根拠は単純で、出典もAIの自己申告だからです。値を作るモデルは、その値の出どころも同じように作ります。人が確認しない限り、出典欄が埋まっていることは何の保証にもなりません。
確認できるのは、AIの外に答えがある項目だけです。
だから照合は、AIの外のデータと突き合わせる形にします。
- 所在地は、国土地理院の住所検索にかけて実在するか確かめる
- 小学校区は、自治体が公開している学区データと突き合わせる
- 施工会社は、社名の一覧と完全一致で照合する
- 面積・金額は、資料の画像を人が見て確かめる
突き合わせる先が無い項目は、機械では確認できません。 そこは人が見る、と最初に決めておきます。全項目を人が見るのではなく、確認できない項目だけを人に回すので、目視の量は数分の1になります。
3案から選ぶ工程は、面倒でも外さない
放送局の型に戻ります。あの仕組みは原稿を1案ではなく3案作らせ、記者が選びます。
一見すると無駄な工程です。読む手間が3倍になるように見えます。実際には、選ぶ作業は数十秒で終わります。そして3案を並べると、1案だけ内容が食い違っているときに気づけます。 3つとも同じことを書いていれば資料にそう書いてある可能性が高く、1つだけ違うことを書いていれば、そこは資料に無いか読めていない箇所です。
物件紹介文でも同じことができます。同じ資料から3案出させて、価格や面積の数字が3案で揃っているかを見る。揃っていない項目が、確認すべき場所です。
読者
3案とも同じ間違いをしていたら、気づけませんよね。
気づけません。だから3案は「資料に無いことを見つける仕掛け」で、正しさの保証ではありません。数字の最終確認は、資料の現物を見るしかありません。
今日、無料の道具だけで始める形
システムを作る必要はありません。前回の記事で紹介した会社も、独自のAIを作ったわけではなく、既製の部品を組み合わせています。手元でやるなら、こうなります。
- 届いたマイソクをPDFで保存する。ファクス(FAX)で届いたものは複合機でPDFにする
- 画面で開いて、文字が横倒しになっていないか見る。傾いていたら回して保存し直す
- 生成AIのチャットに資料を貼り、「この資料に書いてある項目だけを表に起こしてください。書かれていない項目は空欄にしてください」と頼む
- 出てきた表を、いつも使っている入稿用のスプレッドシートに貼る
- 所在地を地図サービスで検索して、実在するか見る
- 面積と金額を、資料の現物と突き合わせる
3番の言い方が肝心です。「空欄にしてください」を入れないと、埋められない欄をAIが埋めにいきます。それでも埋めてくることがあるので、5番と6番は毎回やります。

効いたかどうかは、時間を数えないと分からない
前回の記事に書いた4つの数字を、この業務で埋めるとこうなります。
- いま1件に何分かかっているか(20分から30分が目安)
- 月に何件あるか
- AIに1件渡すといくらか(チャットの定額プラン内なら追加ゼロ)
- 人が何%を直しているか
4つ目がいちばん大事です。直す割合が半分を超えるなら、資料の向きか頼み方のどちらかが悪いと考えて、そこを直します。読み取りの精度は、AIを乗り換えるより資料を整えるほうが上がります。
月額を払うツールを入れるかどうかの判断は、不動産会社がAIを入れて元は取れるの?に損益分岐の表があります。この記事の手順は、まず無料の範囲で1件試して、浮いた時間を測ってから決めるためのものです。
AIの読み取り結果は2026年8月2日に当方が実測したものです。資料1件の検証であり、精度の一般的な評価ではありません。


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