🗨️「大網白里市で水が引かなかったのは、あの街がとくべつ低かったから?」
いいえ。同じ方法で九十九里平野の10市町を測ると、大網白里市より土地の傾きが緩い市町が8つありました。水が抜けにくい形は、この平野に広く続いています。
[災害] この記事の要点
2026年8月13日から14日の千葉県の記録的豪雨で、大網白里市は小中川の氾濫と冠水が長引いた。その理由が「土地の傾きが小さいこと」だったため、同じ形の土地が周囲にどれだけあるのかを、国土地理院の標高データで九十九里平野の11市町ぶん実測した。断面が引けた10市町のうち、大網白里市の平野の傾きは1/1,071で9番目。旭市1/2,829、白子町1/2,400、長生村1/1,658など、より緩い市町が8つあった。
2026年8月20日 発表
- 九十九里平野(旭・匝瑳・山武・東金・大網白里・茂原・九十九里・白子・長生・一宮など)に住んでいる人
- この地域で土地や中古住宅を探している人
- 洪水ハザードマップに色が付いていないので大丈夫だと思っている人
この記事でわかること
- 九十九里平野の10市町を同じ方法で測ると、大網白里市の平野は10市町中9番目。もっと傾きの緩い市町が8つあります
- いちばん緩いのは旭市で、13.86kmかけて土地が4.9mしか下がりません(1/2,829)
- 今回の豪雨で寄せられた浸水被害の報告は、55.7%が浸水想定区域の外からでした
九十九里の10市町を測ったら、大網白里は9番目でした
「うちは大網白里じゃないから」。8月13日からの豪雨のあと、そう思った方は多いと思います。私もそう思って、確かめました。結果は逆でした。
国土地理院の標高データを使って、九十九里平野の市町を同じ方法で1つずつ測りました。各市町でいちばん標高の低い住宅地の地点を起点にして、そこから海側へ630メートルおきに、土地が何メートル下がるかを調べたものです。
下の「1/◯◯」は土地の傾きです。数字が大きいほど平らで、水が出ていくのに時間がかかります。1/1,000は「1キロ進んで1メートルしか下がらない」という意味です。
| 市町 | 平野の傾き | その区間の長さ | いちばん低い地点 |
|---|---|---|---|
| 旭市 | 1/2,829 | 13.86km | 5.8m |
| 白子町 | 1/2,400 | 10.08km | 1.2m |
| 長生村 | 1/1,658 | 3.15km | 1.6m |
| 九十九里町 | 1/1,470 | 8.82km | 1.7m |
| 一宮町 | 1/1,423 | 4.41km | 2.8m |
| 匝瑳市 | 1/1,412 | 8.19km | 10.2m |
| 東金市 | 1/1,370 | 12.60km | 7.0m |
| 山武市 | 1/1,241 | 8.19km | 2.1m |
| 大網白里市 | 1/1,071 | 10.71km | 2.2m |
| 茂原市 | 1/999 | 14.49km | 7.2m |
報道で名前が出た大網白里市は、10市町のうち9番目でした。大網白里市より傾きが緩い市町が8つあります。芝山町も測りましたが、こちらは台地の上にあって断面が引けませんでした。同じ「九十九里の市町」でも、土地の形は同じではありません。
数字の限界も書いておきます。匝瑳市は測定に使える住宅地の地点が3つで、しかもいちばん低い地点が標高10.2メートルでした。海岸沿いの低いところに地点がないので、この数字は市の全体を表していません。長生村(3.15km)と一宮町(4.41km)は、平らな区間そのものが他より短く、条件がそろっていません。順位より、桁を見てください。10市町のうち9市町が1/1,000前後です。
なぜ平らだと、雨がやんでも水が引かないのか
「雨がやめば水は引く」。この平野では、そうならないことがあります。
大網白里市の断面を見ます。台地の裾から1.26キロで12.3メートル下がります(1/102)。ところがそこから海側は、10.71キロ進んでも10.0メートルしか下がりません(1/1,071)。同じ土地の中で、傾きが10倍以上ゆるくなります。
前回、大網駅を通る東西の線で測ったときは、もっと極端でした。台地の上は標高92.3メートル。そこから東へ2.53キロで11.0メートルまで落ちます。2.5キロで81メートル下る急な坂です。そのあと海までは、ほとんど下りません。
水は台地から一気に集まってきて、平野に出たとたんに進まなくなる。集まるのは速く、出ていくのは遅い。これが「水が引かない」の中身です。そして上の表のとおり、この形は大網白里市だけのものではありません。旭市では13.86キロ進んでも4.9メートルしか下がりません。
ハザードマップの外から、55.7%の被害報告が届いていました
「川なんて近くにないから」「ハザードマップが白いから」。今回はそれが理由になりませんでした。
ウェザーニューズが8月15日に公表した分析があります。8月13日14時から24時までに寄せられた9,938件のウェザーリポートと、8月14日からの緊急アンケート10,009件、あわせて約2万件を調べたものです。被害を示す言葉を含む報告のうち、低位地帯または浸水想定区域内から寄せられたものは44.3%。想定区域の外から寄せられたものが55.7%でした。同社はこれを「2人に1人が浸水想定区域”外”で被災か」と書いています。
この記事の立場
私は、ハザードマップを「自分の家が塗られているかどうか」だけで見るのは、もうやめたほうがいいと考えています。根拠は上の55.7%です。ただしこれは「ハザードマップが役に立たない」という話ではありません。洪水(川があふれる水)と内水(下水や水路からあふれる水)は別々の地図になっていて、内水のほうを作っていない自治体があります。白いのは「安全だと判定された」ではなく「その地図では扱っていない」場合がある、ということです。
この平野は、今も沈んでいます
もう1つ、九十九里平野には他の平野にない事情があります。地盤沈下です。
環境省がまとめている「千葉県 九十九里平野 地盤環境情報」には、こう書かれています。昭和44年から令和6年までの累計沈下量の最大は、茂原市内の水準点で124.24センチ。主な原因は、水に溶けた天然ガスを含む地下水(かん水)の汲み上げです。令和6年の測量でも、沈下が観測された面積は948.9平方キロメートルありました。
これは「茂原市が1.2メートル沈んだ」という意味ではありません。市内の1つの観測点の記録です。地盤沈下が今回の浸水を起こしたという話でもありません。ただ、50年あまりで1メートル以上沈んだ記録が残る平野の上を、水は14キロ先の出口まで1/1,000の傾きで流れている。この2つは、同じ土地で同時に起きていることです。
自分の土地がどちら側にあるか、無料で確かめる4つの手順
ここまでは平野の話です。ここからは、あなたの家の話にします。全部無料で、登録もいりません。
- 標高を見る:国土地理院の「地理院地図」を開き、住所で検索して自宅をクリックします。画面の下に標高が出ます。この記事で使ったのと同じデータです。近所の交差点や駅も何か所か押して、自分の家が周りより高いのか低いのかを確かめてください。数値そのものより、その差のほうが役に立ちます。
- 土地の成り立ちを見る:同じ地理院地図で「土地条件図」を重ねます。「谷底平野・氾濫平野」「凹地・浅い谷」と塗られていれば、そこは水が集まる側です。「明治期の低湿地」も重ねると、昔は水田だった場所が分かります。
- 内水ハザードマップを探す:お住まいの市区町村のサイトで「内水」「雨水出水浸水想定区域図」を検索します。見つからない場合は、作っていない可能性があります。「無い=安全」ではありません。
- 通勤経路を見る:国土交通省が「道路冠水箇所マップ」を公表しています。アンダーパスなど、大雨のときに冠水する可能性がある場所が事前に載っています。
手順1で「周りより低い」と分かったら、次にやることは引っ越しではありません。水が出たときにどこへ上がるか、車をどこへ動かすかを、家族で1回決めておくことです。
この記事の集計条件
国土数値情報「地価公示」2026年のうち用途が住宅の標準地を抽出し、各地点の緯度経度を国土地理院の標高API(5メートルメッシュのレーザ測量による標高データ)にかけて標高を取得しました。九十九里平野の11市町ぶん、あわせて37地点です(取得成功37・失敗0)。
断面は、各市町でもっとも標高の低い標準地を起点に、8方位へ2・5・8・11キロの地点を測ってもっとも標高が上がる方向を上流と判定し、その軸の上を630メートル間隔で上流12キロ・下流12キロまで測ったものです。表の「平野の傾き」は、その断面のうち標高が「起点+10メートル」を超えない連続区間のうちいちばん長いものを取り、その始まりから終わりまでの平均の傾きです。芝山町は台地の上にあり、この条件で断面が引けませんでした。
標準地の位置での値であり、市内すべての土地を表すものではありません。また、ここで測ったのは土地の形であって、浸水の想定ではありません。実際の浸水のおそれについては、お住まいの自治体が公表しているハザードマップをご確認ください。
生活・仕事にどう効くか
- 雨のあと:傾きが小さい土地では、雨がやんでも水がその場に残る時間が長くなる。大網白里市は台地のふもとから海側へ10.71kmのあいだに10.0mしか下がらない。同じか、それより緩い市町が九十九里に8つある。
- 家探し・土地探し:標高そのものより「そこから出口までに、あと何メートル下がるか」を見る。国土地理院の地理院地図なら、住所を入れて地図をクリックするだけで標高が読める。無料で、登録もいらない。
- ハザードマップの確認:洪水(河川の氾濫)と内水(下水や水路からあふれる水)は別々の地図になっている。洪水ハザードマップが白くても、内水ハザードマップがあるかを自治体のサイトで確かめる。
結局どうすればよいか
- 国土地理院の「地理院地図」で自宅・職場の標高を見る(この記事と同じ無料データが誰でも見られる)
- 洪水ハザードマップとは別に、市区町村の内水ハザードマップ(雨水出水浸水想定区域図)があるかを確認する
- 国土地理院の「土地条件図」と「明治期の低湿地」で、その土地が谷底平野・氾濫平野・旧水田かどうかを見る
- 国土交通省の「道路冠水箇所マップ」で、通勤経路のアンダーパスが載っていないか確認する
あわせて読む・調べる
くわしく知る(保存版の記事)
- 「ここまで水が来たのは初めて」大網白里の水はなぜ引かないのか? 平野に出てからの9kmで、土地は8mしか下がりません
- 「川なんて近くにない」のに、千葉豪雨でなぜ街が冠水した? 内水氾濫と、もう1枚のハザードマップ
- 「うちは高台だから」は、千葉では安全の理由ではありません。住宅地557地点を測ると船橋市の中に28.7mの高低差
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- 不動産相場検索 — 市区町村ごとの土地・戸建て・マンション相場を見る
- 災害リスク診断 — 住所から浸水・土砂・地盤のリスクを確認する
- 住所まるごとチェック — 住所の表記ゆれ・実在をまとめて確認する
公式出典
- 国土地理院 標高API(標高がわかるWeb地図・5mメッシュのレーザ測量データ)
- 国土数値情報「地価公示」2026年(国土交通省)
- ウェザーニュース「令和8年8月千葉豪雨、2人に1人が浸水想定区域”外”で被災か」(2026年8月15日発表)
- 環境省「千葉県 九十九里平野 地盤環境情報 令和6年度」
- 千葉県「九十九里浜沿岸の地盤沈下量」(海岸保全基本計画 資料)
更新履歴
- 2026年8月20日 初版を公開
※本記事は2026年8月20日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。


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