🗨️「雨はもう止んだのに、大網白里市ではどうして水が引かないの?」
街の水を流す先である川が、まだ満杯に近い状態だったからです。小中川からあふれた水と、川へ出ていけない水が、傾きのほとんどない低い土地で重なりました。
[災害] この記事の要点
2026年8月13日夜から14日未明にかけて千葉県で記録的豪雨が発生し、大網白里市では小中川が氾濫。JR大網駅周辺、住宅、道路、農地が広く冠水した。市は14日朝に「冠水が続いているが、水は引き始めた」と発表。14日13時57分の現地報告では、駅前の駐車場一帯が約100メートル先まで冠水したままだった。
2026年8月14日 発表
- 大網白里市・東金市・茂原市など南白亀川流域で浸水した住宅・店舗の人
- JR外房線・東金線、国道128号を使って通勤・通学している人
- 九十九里平野のように、台地のふもとの平坦な低地に住んでいる人
この記事でわかること
- 雨が止んでも水が引かなかったのは、流す先の川がまだ満杯に近かったからだという理由
- 大網白里市の標高を実際に測ると、平野に出てからの9キロで8メートルしか下がらないこと
- 外水氾濫と内水氾濫の違いと、今回どちらが確認されているのか
大網白里市で何が起きたのか
「雨が止んだのだから、水はすぐ引くはずだ」。大網白里市では、そうなりませんでした。理由は降った量だけではありません。この街は、水が集まる速さと、水が出ていく速さがまるで違う土地の上にあります。
2026年8月13日の夜から14日の未明にかけて、千葉県は記録的な豪雨になりました。気象庁は13日23時40分、千葉市付近・茂原市付近・大網白里市付近で1時間に約120ミリという記録的短時間大雨情報を発表しています(23時30分までの1時間解析雨量。東金市付近と白子町付近は約100ミリ)。解析雨量はレーダーとアメダスからの推定値で、大網白里市に「観測された120ミリ」があるわけではありません。
この雨で小中川(こなかがわ)が氾濫しました。JR大網駅の周辺、住宅、道路、畑まで広い範囲が浸水し、床上・床下浸水は少なくとも30軒以上。市内8か所で崖崩れも確認されています(人的被害の確認はなし)。13日夜のJR大網駅では乗客ら約150人が一夜を過ごしました(FNNプライムオンライン・8月14日9時17分)。
市は14日朝、駅周辺を含む広い範囲で冠水が続いていると発表し、あわせて14日朝から水が引き始めたことも明らかにしています(毎日新聞・8月14日9時11分配信)。同じ14日13時57分の現地報告では、駅前の駐車場一帯はまだ約100メートル先まで冠水したまま、一方で水が引いたところは乾いて砂ぼこりが舞っていました。近くの人は「ここまで水が来たのは初めて」「きのう夕方までは大丈夫だったが、きょう朝来てみたら驚いた」と話しています(テレビ朝日・8月14日13時57分)。引いた場所と残った場所が、同じ市内で同居していた。これが14日昼の状態です。
なぜ雨が止んでも水が引かないのか
街にたまった水が消えるには、どこかへ流れて出ていくしかありません。行き先は川です。ところが今回は、その川自体が増水していました。
川の水位が高いと、街の側溝や排水路から川へ水を吐き出せません。すでに満杯のバケツへ、別のバケツの水を移そうとしている状態です。雨が止んでも川の水位が下がるには時間がかかり、その間、街の水は出口を失ったままになります。
今回はここに、小中川からあふれた水が加わりました。川からあふれて入ってきた水と、川へ出ていけない水が、同じ低い土地で重なったと考えられます。片方だけなら早く引いたはずのものが、両方そろったために時間がかかった、という筋です。
標高を測ってみました。西の台地は92m、駅の周りは8m、海側は3m
大網白里市がどういう形の土地なのかを、国土地理院の標高データ(5mメッシュ・レーザ測量)で実際に測りました。大網駅付近の緯度で東西にまっすぐ線を引き、西の端から約630メートルごとに19地点の標高を取っています。抜き出すと次のようになります。
| 西の端からの距離 | 標高 | おおよその場所 |
|---|---|---|
| 0.0km | 92.3m | 西の台地の上 |
| 2.5km | 11.0m | 台地から平野へ下りきったあたり |
| 3.8km | 8.2m | JR大網駅の周辺 |
| 7.0km | 6.1m | 田園地帯 |
| 9.5km | 2.2m | 海岸部の手前 |
| 11.4km | 2.9m | 東の端(海側) |
出典:国土地理院 標高API(5mメッシュ・レーザ測量)を2026年8月14日に取得。北緯35.5290度の線上、東経140.2860度から140.4120度までの19点から抜粋。
西の端は標高92.3メートルの台地。そこから東へ2.5キロほどで11メートルまで一気に下ります。この区間は81メートル下がる計算で、平均の傾きはおよそ1/31です。ところが、そこから海側の端までの8.9キロでは8.1メートルしか下がりません。平均の傾きにするとおよそ1/1,095。同じ市内で、傾きが約35倍違うことになります。
丘陵に降った雨は1/31の坂を勢いよく下って低い平野へ集まり、平野に出たとたん、進む力が35分の1の土地に放り出される。集めるのが速く、出すのが遅い形です。なお西側は一様に下るわけではなく、0.6キロ地点で21.3メートルまで落ちたあと1.9キロ地点では32.8メートルに戻ります。台地が谷に刻まれているためです。
この地形は市自身の文書にも書かれています。大網白里市の第2次環境基本計画は、市域を「西は緑豊かな丘陵部、中央は広大な田園部、東は雄大な太平洋に面した海岸部」と説明したうえで、平地についてこう記しています。「平地部の標高は低く、海からの高度差がほとんどないことから、河川の流れはきわめて緩やかです」
誤解されやすいのですが、大網白里市は盆地ではありません。周りを山に囲まれてお皿の底のようになっているのではなく、標高の高い台地に隣接した、標高が低く傾斜のゆるい沖積平野です。千葉県の資料でも、南白亀川(なばきがわ)流域は上流側が標高80メートル級の洪積台地、下流側が標高5メートル前後の沖積平野とされています。
同じ夜に千葉県北部でも道路の冠水が相次ぎましたが、あちらは台地に谷が深く刻まれた「谷津」の地形で、水の集まり方が少し違います。北部の住宅地557地点の標高を測った記事はこちら(「うちは高台だから」は、千葉では安全の理由ではありません)にあります。
「外水氾濫」と「内水氾濫」はどう違うのか
浸水には大きく2種類あります。気象庁の用語解説に沿って並べると、違いは「水がどこから来たか」です。
| 外水氾濫 | 内水氾濫 | |
|---|---|---|
| 何が起きるか | 川の水位が上がり、堤防を越えたり堤防が壊れたりして街へあふれ出る | 川の水位上昇や大量の降雨で、市街地の雨水を川へ排水できなくなり浸水する |
| 水の出どころ | 川 | その場所に降った雨 |
| 起きやすい場所 | 川の近く、堤防の内側 | 低い土地、くぼ地、アンダーパス |
| 今回の大網白里市 | 小中川の氾濫が確認されている | 川の水位上昇で排水しにくい状態だったと考えられる |
今回は小中川の氾濫が確認されているので、外水による浸水は起きています。そのうえで、川の水位が上がったことで市街地から水を出しにくくなっていた可能性もあります。ただし、どの地点でどちらがどれだけ効いたかは現地の調査を待たないと分かりません。個別の家について「ここは内水氾濫だった」と決めつけられる段階ではない、というのが14日時点の正確な言い方です。
この川は「10年に1度の雨」を流す目標で整備されています
南白亀川は大網白里市の丘陵地に源を発し、小中川・赤目川などを合わせて白子町で太平洋に注ぐ、流路延長21.7キロ・流域面積116.47平方キロの二級河川です。流域の約70パーセントは水田や畑などの農地が占めます。
千葉県の事業再評価資料で目を引くのは、目標治水安全度という項目です。南白亀川・赤目川・小中川のいずれも「1/10」、つまり10年に1度程度の雨を安全に流すことを目標に整備が進められています。今回の雨はその想定をはるかに超える規模でした。過去の浸水も同じ資料にあり、平成8年9月の台風17号では総雨量236ミリ(時間最大31ミリ)で浸水面積479ヘクタール・58戸。時間31ミリでそれだけ浸かった流域に、今回は解析で約120ミリが降ったことになります。
同資料の令和元年度末見込みの事業進捗率(事業費ベース)は、南白亀川54.1パーセント、赤目川74.1パーセントに対し、小中川は0.0パーセントでした。整備区間はJR外房線の橋梁から上流端までの1,060メートルで、今回氾濫した区間にあたります。ただしこれは2019年度末時点の数字で、同じ資料に「令和3年度から工区を追加して事業を実施する予定」とも書かれています。その後どこまで進んだかは、この資料からは分かりません。
私は、今回の冠水を「想定外の雨だった」の一言で片づけるのは正確ではないと考えています。県は氾濫区域として大網白里市の市街地・国道128号・JR外房線・JR東金線を挙げ、過去に479ヘクタールが浸水した記録も残したうえで、目標を10年に1度に置いて整備を続けてきました。想定はされていて、まだ追いついていなかった。そう読むほうが実態に近いはずです。事業の是非を論じたいのではなく、住む側が「ここは整備の途中である」と知っておくことに意味がある、という話です。
九十九里の地盤沈下は、今回の原因ではなく前提の話です
九十九里地域では、広い範囲で地盤沈下が確認されてきました。千葉県の資料には「南白亀川流域を含む九十九里地域では広域地盤沈下により、年間最大2センチ程度の沈下が見られる」とあります。
ただし、これが今回の冠水を起こした原因だとも、水が引かなかった原因だとも言えません。今回の浸水は、記録的な雨と小中川の氾濫で説明できる範囲です。地盤沈下は、長い時間をかけて低い土地の排水条件に効いてくる要素——原因ではなく前提——として押さえるのが正確です。土地が下がれば海面との高さの差は縮み、もともと傾きの小さい土地はさらに傾きが小さくなるからです。
生活・仕事にどう効くか
- 片づけと手続き:浸水した家は、片づけを始める前に浸水の深さが分かる写真を撮っておく。床上か床下か、床上でも何センチかで罹災証明書の判定が変わり、受けられる支援も変わる。
- 通勤・通学:水が引いた場所でも路面には泥と砂が残る。テレビ朝日の14日13時57分の中継では、引いたところで砂ぼこりが舞っていた。歩道の陥没や側溝のふたのずれが隠れていることがある。
- 家探し・土地探し:同じ形の土地は九十九里平野に広く続いている。標高そのものより「そこから海までにあと何メートル下がるか」を見ると、水の抜けにくさが分かる。
結局どうすればよいか
- 自宅と職場の標高を国土地理院の「地理院地図」で確認する(この記事で使ったのと同じ無料データが誰でも見られる)
- 洪水ハザードマップとは別に、市区町村の内水ハザードマップ(雨水出水浸水想定区域図)があるかを確認する
- 浸水した家は、片づけ・清掃の前に、浸水の深さが分かる写真を各部屋で撮っておく
あわせて読む・調べる
くわしく知る(保存版の記事)
- 「うちは高台だから」は、千葉では安全の理由ではありません。住宅地557地点を測ると船橋市の中に28.7mの高低差
- 浸水の罹災証明は「床上か床下か」だけではありません——千葉の大雨、床から10cmの間に境目が2つあります
自分の場合を調べる(無料ツール)
- 災害リスク診断 — 住所から浸水・土砂・地盤のリスクを確認する
- 住所まるごとチェック — 住所の表記ゆれ・実在をまとめて確認する
- 学区検索 — 町名から通学する小学校・中学校を調べる
公式出典
- FNNプライムオンライン「千葉県豪雨 大網白里市8カ所で崖崩れ 浸水被害30軒以上 駅では乗客ら150人一時、取り残される」(2026年8月14日発表)
- テレビ朝日「千葉豪雨 大規模冠水の大網白里市 一変した街に住民らは」(13時57分)(2026年8月14日発表)
- ウェザーニュース「千葉県で記録的大雨 千葉市で1時間115.0mm」(2026年8月14日発表)
- 大網白里市「第2次大網白里市環境基本計画」(地勢と位置・自然環境の現状)
- 千葉県「南白亀川・赤目川・小中川 事業再評価 説明資料」(標高・地盤沈下・目標治水安全度・事業進捗率・過去の被災状況)
- 千葉県「二級河川南白亀川水系河川整備基本方針」(流域面積・流路延長・流域の約70%が農地)(2025年4月28日発表)
- 気象庁「河川に関する用語」(外水氾濫・内水氾濫の定義)
- 国土地理院 標高API(標高の実測に使用)(2026年8月14日発表)
更新履歴
- 2026年8月14日 初版を公開(各出典を2026年8月14日20時台に確認)
※本記事は2026年8月14日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。

