「Claudeの最新モデルが、公開から3日で全ユーザーに使えなくなった」——これは仮定の話ではなく、2026年6月12日に実際に起きたことです。あなたの業務手順がChatGPT・Claude・Geminiのどれか1つに合わせて組まれているなら、同じことが起きた日に止まるのは、AIではなくあなたの仕事のほうです。
この件は、2026年8月21日に内閣官房が公開した有識者会議の議事要旨でも論点になりました。安全保障の話として報じられましたが、中身にはAIを毎日仕事で使う人に効く判断基準があります。
先に結論
- 論点は「海外AIを使うな」ではなく「1つに依存するな」
- 議事要旨が示した基準は「代替可能性と切替所要時間」
- 2026年6月、米政府の輸出管理指令でAnthropicの最上位2モデルが全顧客に提供停止(Opus・Sonnet・Haikuは影響なし)
- やることはAIをやめることではなく、明日止まっても回る形に直すこと
政府の有識者会議で議論されたのは「海外AIの禁止」ではない
内閣官房は2026年8月21日、「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」第3回の議事要旨を公開しました。会合は2026年8月4日、内閣総理大臣官邸で開催。安保関連3文書の改定に向けた会議で、有識者12人が出席しました。
議事要旨の「AI・データ」の項目で、海外製AIへの依存が論じられています。ただし「海外AIを使うな」と読むと逆になります。先端科学などフロンティアAIモデルが有用な領域について「同盟国・同志国の技術を利用することは有効である」と、有用性を認めたうえで先に進んでいるからです。ChatGPT・Claude・Geminiが名指しで批判された事実もありません。企業名が出るのは1か所だけで、批判ではなく実例としての言及です。
なぜ「海外AI依存」がリスクになるのか
① サービスが、ある日いきなり止まる
アンソロピック社製フロンティアAIの海外提供が米国政府の判断で一時停止されたように、同盟国・同志国のAI・クラウドサービスであっても容易に停止されるリスクが存在
この一節は、2026年6月に実際に起きた出来事を指しています。Anthropicが6月9日に公開した最上位モデル「Claude Fable 5」「Claude Mythos 5」は、6月12日(米国東部時間17時21分)、米政府の輸出管理指令を受けて全顧客への提供が停止されました。指令は外国籍の利用者によるアクセスを禁じる内容で、公開からわずか3日での停止です。
ここは正確に書きます。止まったのはこの2モデルであって、Claudeというサービス全体ではありません。Opus・Sonnet・Haikuは影響を受けず、使い続けられました。起きたのは「海外AIが使えなくなった」ではなく、特定のモデルが、技術的な理由ではなく政治的な理由で消えたということです。障害なら復旧予定が出ますが、政治的な停止に復旧予定日はありません。
② データは「どこに置いたか」より「どの国の法律に服するか」
デジタル主権はこれまで「データを国内に置くこと」として語られてきたが、米国のCLOUD Actが示すように、データの所在地よりも事業者がどの国の法律に服するかという運用主権が重要
CLOUD Actは、米国の事業者が保管するデータについて、国外のサーバーにあっても米当局が開示を求めうるとする米国の法律です。「東京リージョンを選んだから国内で完結している」という理解は、この観点では足りません。議事要旨は有事に効くリスクの順位も入れ替え、情報漏えいよりも「制裁や国際情勢を理由にサービスが停止・契約が更新されない事態」だとしています。
なお、入力した内容が学習に使われるかどうかは、サービスごとに違い、同じサービスでも無料版と法人向けプランで違います。この記事を根拠にせず、使っているサービスの公式の利用規約とプライバシーポリシーの最新版を確認してください。
③ 国内の開発力が細ると、選ぶ側の立場がなくなる
経済安全保障とは、経済や技術の面から国の安全を守る考え方で、「必要な技術を他国の判断ひとつで断たれない状態をつくる」という意味です。
AIの技術変化は速く、今後の動向を予測することが難しい上、最先端AIの供給を止められる可能性が常にあることから、たとえ現時点で国際競争力の面で劣後しているとしても、国内の開発力は維持すべき
性能で勝っているから残せ、ではなく、負けていても残せという主張です。供給を止められる側に回った瞬間、条件を交渉する材料が無くなります。
では、ChatGPT・Claude・Geminiは使ってはいけないのか
「政府がChatGPTを危険だと認定した」「海外AIの利用が禁止される」——そういう話ではありません。この会議は民間の利用を規制する場ではなく、議事要旨にもそうした結論はありません。
単一モデルへの依存を避け、常に選択肢を保持することが不可欠
問題はサービスの国籍ではなく、依存の形です。1つが止まった日に仕事も止まる状態まで寄りかかっていること。
私はこれを、防災の備蓄と同じ構造の問題だと見ています。水道が危険だから飲まない、ではなく、断水した日に何日もつかという話です。AIも「使うか、使わないか」ではなく「止まった日に何日もつか」で設計する段階に入ったと考えます。6月に3日で消えたモデルがある以上、想像上の備えではありません。
個人・中小企業が今日からできる8つの備え
政策目標は「保有主体の国籍」ではなく「代替可能性と切替所要時間」という可用性に置き
この基準はそのまま個人事業主と中小企業に使えます。国産か海外製かではなく、代わりがあるか、切り替えに何時間かかるか。8つに落とすとこうなります。
- 原本データを丸ごと投げない。必要な部分だけ渡し、原本は手元に残す(丸ごと渡すと何が起きるか)
- 個人情報・顧客情報・パスワード・APIキーは入力しない
- 「入力してよい情報の線」を決めて文書にする。前提となる規約はサービスごとに違うため公式情報で確認する
- 生成物はその都度ローカルか自社クラウドに保存する。会話履歴に置いたままにしない
- プロンプトと業務手順をAIの外に文書で持つ。特定サービスの機能名に依存した書き方をしない(業務ルールを文書にしてAIへ渡した例)
- 同じ作業を、別のサービスで一度やってみる。切替所要時間は切り替えるまで測れない
- AIが止まった日にやることを1枚書く。手作業に戻る手順でも、書いてあれば止まらない
- 料金体系とAPI仕様は変わる前提で組む。無料で使える機能が有料になる日を織り込む
効くのは6番です。「Geminiでもできるだろう」と思っているのと、1回やってみたのとでは、止まった日の時間が違います。
「AIを使う」から「AIを使い分ける」へ
1社に全部を任せず、業務ごとに第2候補を持つ。文章作成、調査、コーディング、データ整理、画像生成——この5つに第1候補と第2候補を書き出してください。埋まらない行が、そのまま弱点です。
目的は精度の比較ではなく代替の確保です。第2候補が第1候補に劣っていても、止まった日に仕事が進むなら役割を果たします。
行政・インフラ・医療が海外サービスだけに乗れない理由
議事要旨は、海外製AIには「ブラックボックス化、恣意的制御のリスク」があり、安全保障システムへの深い組込みは「特定国のバイアス影響やサービス継続性の喪失」につながりうるとして、防衛や重要インフラでは信頼性と主権確保を優先すべきだとしています。行政、防衛、インフラ、金融、医療、企業機密。ここで「サービスが止まりました」は、業務が遅れるでは済みません。
同志国・同盟国からも供給が止められる可能性を考慮し、日本が独自に不可欠性を確保する道を追求する必要
6月のAnthropicの件は、まさに同盟国で起きたことでした。
まとめ:便利だからこそ、依存しすぎない
結論は「海外AIは危険だから使わない」ではありません。ChatGPTもClaudeもGeminiも仕事の速度を上げる道具として有効で、議事要旨自身がその有用性を認めています。
変えるべきは、導入を決めるときの問いです。「どのAIを使うか」の比較で終わらせず、もう1つ足す。
そのAIが明日使えなくなっても、仕事を続けられるか。
この問いに答えられる形にしておけば、次に何かが止まった日、止まるのはAIだけで済みます。
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出典
- 内閣官房「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」第3回(2026年8月4日開催)議事要旨/2026年8月21日公開
- 共同通信・nippon.com「海外製AI依存にリスク、政府 安保3文書改定、有識者議事要旨」2026年8月21日
- 琉球新報「海外製AI依存リスク 安保3文書改定・議事公開 識者『開発力維持を』」2026年8月22日
- 毎日新聞「海外製AI依存にリスク 安保3文書改定へ『国内開発力維持を』」2026年8月21日
- Anthropic社モデルの提供停止に関する事実関係は2026年6月の各報道による(IT Leaders 2026年6月13日、大和総研レポート 2026年6月17日ほか)


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