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不動産用語の「善意」「悪意」 悪気のことではない

※ 本ページには広告が含まれます。

契約書や判決文に「買主は悪意であった」と書かれていても、悪気があったという話ではありません。不動産で使う悪意は、ある事実を知っていたという状態そのものを指します。知らなかった状態が善意です。

この2語で、代金を払った家が手元に残るかどうかが変わります。先に買って代金まで払った人が、登記を後回しにしているあいだに他人のものになる。他人の土地を使い続けた人が、20年ではなく10年で所有者になる。その分かれ目に置かれているのが、善意と悪意の2語です。

机に置かれた契約書とボールペン
机に置かれた契約書とボールペン(写真:Pexels)

この記事でわかること

  •  民法94条2項は「善意」だけ、96条3項は「善意でかつ過失がない」。条文ごとに水準が違う
  •  民法177条に善意・悪意の語は無く、登記が先なら事情を知って買った人でも原則勝つ
  •  他人の土地は10年か20年。分かれ目は占有を始めた時点だけで、途中で気づいても10年は消えない
目次

善意は「知らなかった」、悪意は「知っていた」。悪気は関係ない

民法に「善意とは」「悪意とは」と定義を置いた条文はありません。使われ方でそう読むと決まっている言葉です。書き下している条文もあって、たとえば民法96条2項は「その事実を知り、又は知ることができたとき」と平易に書いています。知っていた状態が悪意、知ることができた状態が有過失、というのがこの書き分けです。

善意・悪意と過失の枝分かれ図。知らなかった=善意は落ち度の有無で善意無過失と善意有過失に分かれ、知っていた=悪意には枝分かれがない

図のとおり、法律は「知っていたか」と「知らなかったことに落ち度があるか」を別々に測ります。知らなかった人のうち、落ち度もない人が善意無過失。知らなかったけれど、普通の注意を払えば気づけたはずの人が善意有過失です。悪意には過失の枝分かれがありません。知っていた時点で、そこから先の場合分けは要らないからです。

読者

裁判の書面に「悪意」と書かれたら、責められているということですよね?

おかあさん

責めていません。知っていたかどうかを言っているだけで、善悪の評価は入っていません。ですから「悪意で買った」は、そのまま「事情を知ったうえで買った」と読み替えられます。

同じ「善意の第三者」でも、条文が求める水準は同じではない

ここが用語集の1行解説からいちばんこぼれるところです。「善意の第三者は守られる」とまとめて覚えると、実際の条文と合いません。求めている水準が条文ごとに違います。

条文 場面 守られる人の条件
民法94条2項 売主と買主が通じて、売ったことにしていた(仮装の売買) 善意(知らなかったこと。条文は無過失を求めていない)
民法96条3項 だまされて売った人が、あとから取り消した 善意でかつ過失がない
民法162条2項 他人の物を10年占有して自分のものにする 占有を始めた時に善意であり、かつ、過失がなかった
民法192条 他人の物だと知らずに買った(動産だけ) 善意であり、かつ、過失がない
民法177条 不動産を二重に売られた 条文に善意・悪意の語が無い

94条2項だけ「善意」で止まっていて、条文は無過失を求めていません。96条3項のほうは2020年4月1日に施行された改正で「善意でかつ過失がない」に変わりました。3月31日までの条文は「善意の第三者に対抗することができない」で、無過失は入っていません。日付の書かれていない古い解説を読むと、ここが食い違います。

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この記事の条文は、e-Gov法令検索の民法(明治二十九年法律第八十九号)から2026年9月19日に取得した現行条文です。改正前後で文言が変わっている条があるので、時点の書かれていない解説は当てにしないでください。

登記を先に取られたら、こちらの事情を知っていた相手にも負ける

売買でいちばん現実に起きるのが、民法177条の場面です。条文はこう書いています。

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。(民法177条・e-Gov法令検索)

読んでのとおり、善意も悪意も出てきません。判例も、登記がないことを主張する正当な利益のある人であれば、事情を知っていても177条の「第三者」に当たるとしてきました。だから「あの土地はもう売れている」と知りながら買った人でも、先に登記を済ませれば所有者として扱われます。先に契約して代金を払っていたほうが、登記が後なら負けます。

二重譲渡の勝ち負けの図。先に契約したAさんより登記を先にしたBさんが勝つが、Aさんに高く売りつける目的だった場合は背信的悪意者としてAさんが勝つ

読者

知っていて横から買ったのに、それで勝てるんですか。

おかあさん

原則は勝ちます。早い者勝ちを契約の順番ではなく登記の順番で決める、というのが177条の作りだからです。売買の当日に登記の手続きへ回るのは、この条文があるためです。

例外は「背信的悪意者」——最高裁が認めたのはこういう人

ただし、知っていた程度を超えて、ねらって割り込んだ人までは守られません。この線を引いたのは条文ではなく判例です。1968年(昭和43年)8月2日、最高裁判所第二小法廷の判決が、その実例を残しています。

甲が乙から山林を買い受けて二三年余の間これを占有している事実を知つている丙が、甲の所有権取得登記がされていないのに乗じ、甲に高値で売りつけて利益を得る目的をもつて、右山林を乙から買い受けてその旨の登記を経た等判示の事情がある場合には、丙はいわゆる背信的悪意者として、甲の所有権取得について登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない。(最高裁判所第二小法廷 昭和43年8月2日判決・昭和42年(オ)第564号・民集22巻8号1571頁。原文の字体のまま)

要旨の丙が、ひとつ上の図のBさんにあたります。23年も使い続けている買主がいると知りながら、その登記が入っていないのに乗じて同じ山林を買い、その買主に高く売りつけて儲けようとした。ここまで来て初めて負けています。知っていただけでは足りず、割り込んだ目的まで見られて、ようやく例外になるという順番です。

背信的悪意者という言い方は「はいしんてきあくいしゃ」と読みます。読み方が検索されるくらい、日常では見かけない言葉です。

他人の土地を20年使うか、10年で済むかを分けるのも善意

境界をまたいで隣の土地を使っていた、という話でも同じ2語が効きます。民法162条は、占有を始めたときの状態で年数を分けています。

取得時効の分岐図。占有を始めた時に善意かつ無過失なら10年、悪意または有過失なら20年

自分の土地だと信じていて、そう信じたことに落ち度もなかった人は10年。他人の土地だと知っていた人、あるいは調べれば分かったのに調べなかった人は20年です。測量図と現況が食い違ったまま何十年も過ぎた土地では、この10年と20年の差がそのまま結論を変えます。

長く置かれたままの古い鉄柵
境界に置かれたまま年月が過ぎた柵(写真:Pexels)

どちらも「自分の物として、平穏に、公然と」使い続けていることが前提で、借りている自覚がある使い方では何年たっても所有権は動きません。判断の起点は、占有を始めたその時点の状態です。途中で「じつは他人の土地だった」と気づいても、始めたときが善意無過失なら10年のままです。

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「知らずに買った人は守られる」が、不動産では効かない場面がある

善意無過失で買えば守られる、という即時取得の条文があります。民法192条です。ところがこの条文は動産にしか使えません。

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。(民法192条・e-Gov法令検索)

書いてあるのは「動産」です。土地や建物には即時取得がありません。売主が本当の所有者ではなかったとき、知らずに買った買主がそのまま所有者になる、という救済は不動産には用意されていない、ということです。登記を見て確かめる作業が省けないのは、ここが理由です。

不動産会社が知っていて黙れば、拘禁刑か300万円以下の罰金の対象になる

売主や買主ではなく、あいだに入る不動産会社が「知っていた」場合は、民法ではなく宅地建物取引業法の問題になります。47条1号は、契約の勧誘にあたって、重要事項説明の項目(35条)など、相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為を禁じています。

罰則も置かれています。同法79条の2は、この行為をした者を「二年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定めています。行政処分だけではなく刑事罰の対象だ、ということです。

売主本人についても、民法572条が同じ考え方をとります。契約不適合責任を負わないという特約を付けていても、知りながら告げなかった事実については責任を免れられません。ここは当サイトで別に詳しく書いています。

\「免責にしたつもり」が無効になる条件/

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売主が知っていた事実の扱い

私の見解——この2語だけ日常語と逆に見えるのはなぜか

善意・悪意が読みにくいのは、訳語として日本語に入ってきたときに、もとの意味が「知っているかどうか」だけだったからだと私は見ています。日本語の善悪の字を当ててしまったせいで、読む側が気持ちの話だと受け取ります。不動産で出てくる条文は、気持ちの話をしていません。

実務で困るのはここです。売主が「悪意ではなかった」と言うとき、本人は悪気がなかったと言っているのに、法律の側は知っていたかどうかを聞いています。話がかみ合わないまま進むと、あとで告知の有無が争われます。打ち合わせの場では、悪意という語を使わずに「その時点で知っていたか」と聞くほうが速いと考えています。

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この記事は制度の説明です。個別の紛争の見通しは、事実関係の細部で変わります。実際に争いになっているときは弁護士・司法書士に相談してください。

不動産の「善意」「悪意」に関するよくある質問

善意と善意無過失はどう違いますか

善意は「知らなかった」だけを指します。善意無過失は、知らなかったことに落ち度もなかった状態です。民法94条2項は条文上は善意だけを求め、96条3項と162条2項と192条は無過失まで求めます。

悪意でも登記を先にすれば本当に勝てますか

原則は勝ちます。民法177条に善意・悪意の語が無く、判例も事情を知っていた人を「第三者」から外してこなかったためです。例外は、最高裁が背信的悪意者と呼んだ場合で、知っていたことに加えて割り込んだ目的まで見られます。

背信的悪意者はなんと読みますか

はいしんてきあくいしゃ、と読みます。条文にある言葉ではなく、判例が作った呼び方です。

売主が知らなかった不具合は、買主が泣き寝入りですか

そうとは限りません。契約不適合責任は売主が知っていたかどうかと切り離して考える作りになっていて、知っていた場合は免責特約が効かなくなる、という関係です。

出典:民法(明治二十九年法律第八十九号)の条文はe-Gov法令検索から2026年9月19日に取得(2026年6月24日時点の現行条文。96条の改正前後は同サイトの時点指定で2020年3月31日と4月1日を取り比べて確認)/宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)も同じくe-Gov法令検索より/背信的悪意者の判例は裁判所ウェブサイト「裁判例検索」の最高裁判所第二小法廷 昭和43年8月2日判決(昭和42年(オ)第564号、民集22巻8号1571頁)の裁判要旨より引用/取引価格の集計は国土交通省「不動産情報ライブラリ」をもとに当サイトで集計(全国1,525市区町村)

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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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