「家賃を払い続けるのはもったいない」——その考えが当てはまる市と、当てはまらない区があります。
専有50〜70m²のマンションで、実際に売れた価格と実際の家賃を並べて「家賃の何年分で買えるか」を出すと、福岡県北九州市八幡西区は4.2年分、東京都千代田区は35.5年分でした。同じ問いに、同じ計算で、これだけ違う答えが返ってきます。
2026年8月12日、住まいとお金の動画の見出しを集めていて手が止まりました。同じ日の1時間ちがいで、「プロの結論は『損得では決まらない』」という見出しと、「『家賃が倍になる』賃貸は損?」という見出しが並んでいたからです。前者は長嶋修さんのチャンネル、後者はNewsPicksの番組で、長嶋さんは両方に出ています。どちらの見出しも間違っていません。全国をひとまとめにして語ると、こういう並び方になります。街まで下ろすと、答えは出ます。
先に結論
- 「家賃の何年分で買えるか」の全国の真ん中は15.5年。自分の市区町村がこれより小さいか大きいかで、話の前提が変わります
- いちばん短いのは福岡県北九州市八幡西区の4.2年、いちばん長いのは東京都千代田区の35.5年
- 同じ東京都でも、青梅市は10.7年、町田市は26.7年。都県では決まりません
- この年数に、金利・管理費・修繕積立金・固定資産税・売るときの値段は入っていません。素の比較です
- 数えたのは、専有50〜70m²の取引が10件以上あった308市区町村です
この計算に使ったのは中古マンションの成約価格です。買う側に回ると、次に効いてくるのは築年数のほうになります。マンションは築20年を過ぎても10年ごとに落ち続けますし、戸建てで考えるなら新築と中古で坪単価が半分になる街とほとんど変わらない街があることのほうが、金利より大きく効きます。
家賃の何年分で買えるか。全国の真ん中は15.5年、いちばん短い市で4.2年
持ち家と賃貸をそろえて比べるとき、いちばん邪魔になるのは「広さ」です。買う話は3,000万円、借りる話は月12万円と、単位が違うまま並べても答えが出ません。そこで、どちらも1m²あたりに直して割り算しました。マンションの1m²の値段を、その街の1m²の家賃12か月分で割ると、「家賃の何年分で買えるか」という1つの数字になります。広さが約分されるので、「70m²と仮定して」のような前提が要りません。
308市区町村で出した結果、全国の中央値は15.5年でした。15.5年より小さい街は、買う方が早く追いつく方向に働きます。大きい街は、借り続ける方が長く有利な方向に働きます。

家賃の何年分で買えるか(専有50〜70m²・308市区町村を集計)
福岡県北九州市八幡西区
4.2年
兵庫県加古川市
6.9年
兵庫県姫路市
9.8年
東京都青梅市
10.7年
全国の中央値
15.5年
東京都町田市
26.7年
東京都千代田区
35.5年
緑は全国の中央値より短い街、オレンジは長い街。棒の長さは年数に比例させています。
先に、この数字の性格をはっきりさせておきます。この年数には、金利も管理費も修繕積立金も固定資産税も、売るときの値段も入っていません。買う値段と借りる値段を、そのまま割っただけの比です。それでも意味があるのは、街ごとの「買う値段と家賃のつり合い」だけを取り出せるからです。金利も税率も全国どこでも同じですが、このつり合いだけは街ごとに違います。
自分の市区町村の実際の数字は、当サイトのかんたん相場検索で確認できます。全国1,525市区町村の実際の成約価格と家賃相場を、住所を入れるだけで表示します(例:兵庫県明石市の中古マンション相場)。使い方はこの記事の後半でまとめます。
同じ東京都で10.7年と26.7年。家賃はほぼ同じなのに、買う値段が違う
驚いたのはここでした。同じ東京都の中で、青梅市は10.7年、町田市は26.7年です。しかも、この2つの市は家賃がほとんど変わりません。

| 市区町村 | 家賃の何年分で買えるか | 70m²を買うと | 70m²を借りると(月) |
|---|---|---|---|
| 福岡県北九州市八幡西区 | 4.2年 | 582万円 | 114,730円 |
| 兵庫県加古川市 | 6.9年 | 992万円 | 119,980円 |
| 東京都青梅市 | 10.7年 | 1,655万円 | 128,660円 |
| 東京都町田市 | 26.7年 | 4,523万円 | 141,260円 |
| 東京都千代田区 | 35.5年 | 1億6,800万円 | 394,660円 |
青梅市と町田市の家賃は、128,660円と141,260円。家賃はほぼ同じなのに、買う値段は1,655万円と4,523万円です。賃貸で暮らしているあいだ、この2つの市の違いは月の家賃1万円台の差にとどまります。買うと、1,655万円と4,523万円という値段の差に姿を変えます。同じ都内で、同じ広さで、です。
いちばん端の2つも見ておきます。北九州市八幡西区は家賃114,730円で買うと582万円、千代田区は家賃394,660円で買うと1億6,800万円。家賃の側は約11万円と約39万円ですが、買う値段の側は582万円と1億6,800万円。開きが大きいのは、値段の側です。「持ち家と賃貸のどちらが得か」が街で反転する理由は、ここに集まっています。
買う方が早く追いつく20市区町村には、東京都からも青梅市(10.7年)が入っています。逆に、借り続ける方が長く有利な20市区町村は、17が東京都で、残りは京都市中京区(25.2年)と横浜市の2区(西区24.9年・都筑区24.9年)でした。「東京は買うと損」でも「地方は買うと得」でもなく、市区町村の単位で分かれます。
兵庫県で並べると、加古川市6.9年、姫路市9.8年、明石市10.6年。3市とも全国の中央値15.5年より短い側です。明石市は50〜70m²の取引が106件あり、今回集計した中でも件数の多い市のひとつでした。
自分の市区町村の「家賃何年分か」を出す3ステップ
308市区町村ぶんの表をここに貼っても、探している1行にはたどり着けません。自分の街の数字は、次の3ステップで出せます。かかるのは2分ほどです。
- 中古マンションの1m²の値段を調べる。かんたん相場検索のマンション相場を開き、住所欄を自分の市区町村に変えます。表示された「1m²あたりの中央値」を控えます
- 同じ住所で、賃貸の1m²の家賃を調べる。同じツールの賃貸相場に切り替えると、1m²あたり月いくらかが出ます
- 割り算する。マンションの1m²の値段 ÷(家賃の1m²単価 × 12)。これが「家賃の何年分で買えるか」です。全国の真ん中は15.5年でした
住所を入れるときの注意が1つあります。市名だけを入れると、別の県の同じ地名に当たることがあります(「金沢市」で入れると愛知県知多市金沢に当たります)。必ず都道府県名から入力してください。
ツールの数字と、この記事の表の数字は一致しません。記事の表は専有50〜70m²の取引だけを抜き出しているのに対し、ツールはその市区町村の全部の取引をまとめた中央値を出しているためです。ワンルームの取引が多い街ほど、ツールの1m²単価は高めに出ます。自分の街を全国と比べる用途なら、ステップ3の割り算で十分に足ります。
この年数に入っていない費用と、数字の限界5つ
ここまでの年数を、そのまま「◯年住めば得」と読まないでください。入っていないものを、隠さず並べます。
1. 買う側の維持費が入っていません。管理費・修繕積立金・固定資産税・購入時の仲介手数料と登記費用は、どれもこの割り算の外にあります。今回のデータには金額が無いので、この記事では数字を出しません。買う側の負担は、表の年数より確実に重くなります。
2. 借りる側の更新料・引っ越し費用も入っていません。こちらも借りる側の負担を重くする方向に働きます。
3. 住宅ローンの金利が入っていません。3,000万円を35年借りたときに金利が1%上がると総返済額がいくら増えるかは、住宅ローンの金利が1%上がると、総返済額はいくら増える?で計算しています。金利は全国共通なので、街ごとの反転には効きませんが、買う側の総額には効きます。
4. 売るときの値段が入っていません。「買っても資産に残る」と言えるかどうかは、この年数では分かりません。Yahoo!知恵袋には「売れる家ならともかくそこまで売れない家」を買うことへの不安が、2023年4月に投稿されています。売れない家をどうするかは損得の計算とは別の話で、実家を相続したけど住まない人におすすめの選択肢3選にまとめています。
5. 家賃の側だけ、ワンルームを含んでいます。家賃の統計は面積帯で分けられないため、買う側は50〜70m²にそろえた一方で、借りる側にはワンルームが混ざりました。ワンルームは1m²あたりの家賃が高く出るので、ファミリー向けの実際の家賃は表よりも安い方向にずれます。つまり本当の年数は、表よりもう少し大きい——買う側にとって不利な方向——にぶれています。ぶれの向きはどの街でも同じなので、街どうしを比べる用途では効きにくいと私は見ています。1つの街の年数を単独で「◯年で元が取れる」と読むときだけ、この分を割り引いてください。
時点も、そろっていません。家賃は令和5年(2023年)の調査、買う値段は直近2年の成約です。この2年で家賃が上がった街では、表の年数は実際より大きく出ています。
「この街は賃貸が得」と書いているサイトが見つからない理由
2026年8月12日、「西宮市 持ち家 賃貸 どっちが得」と検索してみました。返ってきたのは家賃相場の一覧ページばかりで、買った方が得かに答えたページは1本もありませんでした。「大阪市」でも同じでした。家賃相場は調べられるのに、その街で買うとどうなのかは、誰も書いていません。
「持ち家 賃貸 どっちが得」というヘッドの検索語では、上位5本の内訳は銀行が3本、大手の物件ポータルが1本、住宅メーカーが1本でした。そしてどの記事も、最後は「どちらが得かは人それぞれ」に着地します。
私は、これを書き手の逃げではなく、収入源の作りだと見ています。物件ポータルは賃貸の広告主と売買の広告主の両方から広告費を受け取ります。「この街は賃貸が得です」と書けば売買の広告主が減り、逆を書けば賃貸の広告主が減ります。住宅ローンを扱う金融機関のサイトなら、借りて買う人が増える方向にしか書けません。どちらも、街ごとに片方を「損」と言い切る動機がありません。
当サイトは賃貸も売買も仲介しておらず、住宅ローンも扱っていません。だから街ごとに片方を選んで書けます。北九州市八幡西区の4.2年は、10年住むつもりなら買う方に大きく傾く数字です。千代田区の35.5年は、35年住み続ける前提が無い限り、借りる方に傾く数字です。これは私の立場からの読み方で、根拠は上の表の数字だけです。維持費と売却価値を足せば結論が動く余地は残っています。
老後に効くのは損得より、年金だけになったあとに残る固定費
Yahoo!知恵袋に、2022年4月に投稿された質問があります。
「持ち家が無く賃貸です。老後、年金から家賃を出せるか不安です。」
同じ知恵袋には2024年6月にも「月10万円ローンと賃貸どちらがいいでしょうか?」という質問が投稿されています。どちらも、聞いているのは投資の損得ではありません。収入が年金だけになったあとに、その支払いが続くのかどうかです。
その視点で表を見直すと、順番が変わります。千代田区の70m²は月394,660円、港区は月427,420円。この家賃を80代まで払い続けられるかという問いに、「35.5年分で買える」という数字は答えていません。逆に北九州市八幡西区の114,730円なら、年金だけの家計でも見通しは立てやすくなります。買う・借りるの前に、その街の家賃そのものが老後の家計に収まるかどうかが先に来ます。
ローンを完済すれば支払いは止まりますが、止まるのは家賃だけで、固定費がゼロになるわけではありません。管理費・修繕積立金・固定資産税は、完済後も毎月・毎年かかり続けます。持ち家は「住居費が消える」ではなく「住居費が小さくなる」と考えたほうが、老後の家計は崩れません。
いま毎月いくらまでなら住居費に回せるかは、年収と家族の人数でわかる家賃・住宅ローンの早見表で確認できます。この記事の「家賃何年分か」と、早見表の「毎月いくらまでか」を並べると、買う・借りるの判断に必要な材料はほぼそろいます。
この記事の数字の出どころ
- 買う側:国土交通省「不動産情報ライブラリ」の不動産取引価格情報。実際に成約した価格で、新耐震基準の物件のみ、直近2年分
- 借りる側:総務省「住宅・土地統計調査」令和5年。共同住宅の1m²あたり家賃の中央値
- 集計対象:専有50〜70m²の取引が10件以上あった308市区町村。賃貸のデータが県平均で代替されている市区町村は、最初から集計に入れていません。全国1,526市区町村すべてを比べた数字ではありません
- 「家賃の何年分で買えるか」= マンションの1m²単価 ÷(賃貸の1m²単価 × 12か月)。金利・管理費・修繕積立金・固定資産税・仲介手数料・更新料・売却価値は含みません
- 買う側は50〜70m²にそろえていますが、家賃の側は統計に面積帯の区分が無いためワンルームを含みます。実際の年数は表よりやや大きい側にぶれます
- 家賃は令和5年(2023年)調査、買う値段は直近2年の成約で、時点がそろっていません
- 集計日:2026年8月12日
- 動画の見出しは2026年8月12日に採取したもの(長嶋修の「新世界の歩き方」〜お金・歴史・意識の未来案内〜/NewsPicks)。公開されている見出しの文言をそのまま引いています
- 読者の声の出典:Yahoo!知恵袋(2022年4月21日投稿)/同(2024年6月8日投稿)/同(2023年4月20日投稿)

