2023年11月、Yahoo!知恵袋に「古いマンション取り壊しになったら、マンション買った住民はどうなりますか?」という質問が投稿されました。ベストアンサーは「『取り壊しになったら』→勝手に取り壊しにはなりません。」という1行で始まります。部屋は買った人の持ち物で、どうするかは持ち主たちが決める——投稿された当時、これは正解でした。
2026年4月1日からは、この答えの前提が変わっています。改正された区分所有法で「建物取壊し決議」が新設され、全員が同意しなくても、5分の4の賛成でマンションは取り壊せるようになりました。自分が反対票を入れていても、決議が通れば、持分を時価で買い取られて退去する側になります。
「うちは反対だから壊されない」も「取り壊しなんて遠い話」も、今年の4月を境に数え直しになりました。築40年以上のマンションは約137万戸で全体の約2割。法務省の資料は、これが今後10年で2倍、20年で3.4倍になると見込んでいます。
先に結論
- 2026年4月1日施行の改正区分所有法で「建物取壊し決議」「建物・敷地一括売却決議」が新設。全員の同意は不要になり、区分所有者と議決権の各5分の4の賛成で決められる
- 耐震性の不足など5つの事由のどれかに該当し認定を受ければ4分の3に緩和。裁判所が認定した所在不明の所有者は決議の分母から外せる
- 反対しても、決議が通れば持分は時価で買い取られて退去する流れに入る。決議後に「売らずに住み続ける」選択肢は残らない
- 逆に決議が通らないまま古びた場合の値段が、神戸の実取引で中央値330万円(築50年超・139件)。管理費・修繕積立金の約11年分で売値が消える水準
2026年4月の区分所有法改正で何が変わったか
正式名称は「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律の一部を改正する法律」。2025年5月23日に成立し、2026年4月1日に施行済みです。つまり、もう動いている制度です。
改正前の区分所有法で、建物の行く末を多数決で決められるのは建替え決議(5分の4)まででした。建物を壊して更地にする、建物と敷地をまとめて売る——という「マンションをたたむ」方向の決定には多数決の定めがなく、全員の同意を集めるしかありませんでした。1人が反対するだけで、あるいは連絡の取れない所有者が1人いるだけで、止まる仕組みだったわけです。冒頭の知恵袋の回答が正しかったのは、この仕組みがあったからです。
4月からの変更を並べます。
| したいこと | 2026年3月まで | 2026年4月から |
|---|---|---|
| 建物の取壊し | 全員の同意 | 5分の4で可決(決議を新設) |
| 建物・敷地の一括売却 | 全員の同意 | 5分の4で可決(決議を新設) |
| 建替え | 5分の4 | 5分の4(維持) |
| 耐震性不足などの認定を受けた場合 | 緩和なし | 上記が4分の3に緩和 |
| 所在不明の所有者 | 分母に残る(事実上の反対票) | 裁判所の認定で分母から除外 |
4分の3に下がる事由は、法務省の解説では「耐震性の不足」「火災に対する安全性の不足」「外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ」「給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ」「バリアフリー基準への不適合」の5つで、どれか1つに該当して認定を受ければ足ります。基準の細かい中身は法務省の告示に定められています。このほか、政令で指定された災害で被災した場合は3分の2まで下がります。
1つ、混ざりやすい話を分けておきます。今回の改正で「集会の出席者の多数決で決められるようになった」という解説を見かけますが、それは修繕など、部屋の権利を手放すことにならない日常管理側の決議の話です。取壊し・売却・建替えは、出席者ではなく区分所有者全体を分母にした特別な多数決のままです。欠席したら勝手に壊された、という事態にはなりません。
マンションが取り壊しになったらどうなるか
決議から退去までの流れは、順番に見るとこうなります。
- 管理組合の集会に、取壊しや売却の議案がかかる。ある日突然ではなく、総会・理事会での議論から始まります
- 集会で投票。区分所有者と議決権の各5分の4(認定があれば4分の3)の賛成で可決
- 賛成しなかった人には、この計画に参加するかどうかの確認が届く(建替え決議では改正前からある「催告」の手続きです)
- 参加しない人の持分は、時価で買い取られる(詳しくは次の章)
- 全員分の権利がそろったら、退去と解体・売却へ。売却型や取壊し型では、法務省の資料にある「分配金取得計画」の手続きで持分がお金に換わります
検索窓には「マンション 建て替え 儲かる」とも打たれていますが、建て替わって新しい部屋に入るには追加の負担金を払うのが原則で、工事中の仮住まい費用や引っ越し代も自分持ちが基本です。タダで新築になる話ではありません。決議に賛成する場合も、いくら払って何に住むのかを先に数える話です。
仮住まいで校区の外に出る子育て世帯には、転校という別の問題がついてきます。これは建て替えの仮住まいで学区が外れたら、子どもは転校させないといけない?にまとめています。
建て替えや取り壊しに反対したらどうなるか
2013年1月、Yahoo!不動産の知恵袋にこんな質問が出ています。「マンションで築年数が50年を越える場合、建て替えをしなくてはいけないのでしょうか? 法律で定められているのでしょうか?」「分譲マンションで、その際住民の方にお金が無い場合は、どうなるのでしょうか?」。13年前の不安に、今回の改正で答えの形がはっきりしました。
まず、反対票を入れること自体は自由です。賛成が5分の4(認定があれば4分の3)に届かなければ、何も起きません。過半数で壊せるようになったわけではなく、ハードルが高い決議であることは変わっていません。
届いた場合はどうなるか。建替え決議では改正前からの仕組みで、決議に賛成しなかった人は、区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求を受けます(売渡請求)。この請求が届くと時価での売買が成立した扱いになり、「売らない」という返事はできません。争う余地が残るのは、主に「その時価がいくらか」です。取壊しや一括売却の決議でも、法務省の資料では建替えと同様に組合の設立や分配金取得計画などの事業手続が整備されるとされており、賛成しなかった人の持分もお金に換わって、退去する側に回ります。
「お金が無い場合」への答えはこうなります。持分は時価で買い取られるので、ゼロ円で放り出されるわけではありません。ただし受け取れるのは今の建物と敷地に付く時価であって、次の住まいの購入費として足りる保証はどこにもありません。その時価の相場感が、次の章の数字です。
私は今回の改正を、「反対する権利が消えた」変更というより、「反対し続けた場合の出口が『時価』という値段で固定された」変更だと見ています。そしてその時価の土台になる市場の値段は、決議が延びて建物が古びるほど下がっていきます。神戸の実取引に、それがそのまま出ています。
決議が通らないまま持ち続けたマンションは、いくらになったか
多数決の道がなかったこれまで、全員の同意が集まらないまま古びていったマンションの値段は、実取引に残っています。国土交通省の不動産取引価格情報から、神戸市9区で成約した中古マンション(専有50〜80㎡)を築年帯で並べると、築40〜50年は167件で中央値1,400万円、築50年以上は139件で中央値330万円。帯を1つまたぐと76%下がります。3年刻みに切り直すと、築47〜49年995万円→築50〜52年485万円→築53〜55年300万円。半分になるのは築50年の手前です。
一方で払う側は止まりません。管理費と修繕積立金の全国平均は月24,557円、年に約29万円です(国土交通省 令和5年度マンション総合調査)。築50年超の中央値330万円は、この約11年分。持っているだけで、11年後には売値と同じ額を管理費側に払い終える水準です。
この「維持費が売値に追いつく年数」の計算の中身と、区ごとの違い(同じ築40年超でも垂水区300万円・中央区1,900万円と6倍の開きがあります)は、実家のマンション、持ち続けたら負の遺産? 神戸の築50年超は11年で売値分が消えますで1本にしています。神戸に限った話でないことは、全国172市区町村の実取引で「築20年で下げ止まる」がどこにも起きていなかった「築20年を過ぎれば下げ止まる」——172市区町村の中古マンションのとおりです。
取壊し決議や一括売却決議は、この「決められないまま値段だけ下がる」状態に対して、初めて多数決の出口を付けた制度です。使うかどうかを決めるのは住民ですが、選択肢の数は4月から確実に増えています。
このエリアの相場はいくらですか?
住所を入れると、国の成約データから土地・戸建て・マンションの坪単価の目安が出ます。無料です。
古いマンションを持っている人が、いま確認すること
- 管理組合の議事録を1年分読む。建替え・売却・取壊しの話がどの段階にあるかは、総会と理事会の議事録に必ず先に出ます。決議は、ここを読んでいる人にとって「突然」にはなりません
- 自分のマンションが「4分の3側」かどうかを見る。1981年より前の耐震基準で建てられていないか、耐震診断を受けているか、外壁や配管の劣化を指摘されていないか。5つの事由のどれかに当たれば、決議のハードルは1段下がります
- 自室の今の値段を数字で持っておく。賛成に回るにも、反対して時価買取の話し合いに臨むにも、決議を待たず売って出るにも、基準は同じで「今いくらか」です
親のマンションを相続してこれから持つ側に回る人は、区ごとの値動きと税金の特例を神戸でマンションを相続した人へ|価格は区で+43%と−8%に割れていたで先に見ておくと、家族での話が早くなります。
相続した部屋・空き部屋のままの部屋も、そのまま出せます
※ 上記リンクは広告(アフィリエイト)を含みます。
よくある質問
築50年を超えたら、建て替えは義務になりますか?
なりません。法律に「築何年で建て替え」という定めはなく、2026年の改正でも年数の基準は入っていません。変わったのは年数ではなく、壊す・売る・建て替えると決めるときの賛成の集め方です。築50年でも決議がなければそのままですし、逆に決議が通れば築年数に関係なく動きます。
「出席者の多数決で決められるようになった」と聞きました。取り壊しも出席した人だけで決まりますか?
決まりません。出席者ベースに変わったのは修繕など、部屋の権利を手放すことにならない日常管理側の決議です。建替え・取壊し・一括売却は、区分所有者全体を分母にした5分の4(認定があれば4分の3)のままです。ただし、裁判所が認定した所在不明の所有者は分母から外せるようになったので、「連絡が取れない人がいるから永遠に決まらない」は成り立たなくなりました。
宅建試験では、2026年の区分所有法改正から出題されますか?
宅建試験は例年、その年の4月1日時点で施行されている法令が出題の基準とされています。今回の改正は2026年4月1日施行なので、2026年度の試験から範囲です。骨格は、建替え等の決議は5分の4、耐震性不足など5事由の認定で4分の3、政令指定災害の被災で3分の2、所在等不明区分所有者は裁判所の認定で決議の分母から除外、の4点です。
この記事の数字の出どころ
- 出典:法務省「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法」概要資料(老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律の一部を改正する法律・令和7年法律第47号)。決議割合(5分の4・4分の3・3分の2)、所在不明者の分母除外、出席者多数決が修繕等の決議である点、築40年以上約137万戸(全体の約2割・今後10年で2倍、20年で3.4倍)はこの資料の記載です。4分の3に緩和される5つの事由の文言は法務省の解説によるもので、基準の細目は法務省告示に定められています
- 出典:国土交通省「不動産取引価格情報」。神戸市9区・中古マンション等のうち専有面積50〜80㎡の成約(2026年8月20日時点の取得データ)。値はすべて中央値で、ワンルーム投資物件の混入を避けるために面積帯を絞っています
- 出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査」。管理費・修繕積立金の月/戸当たり平均額(駐車場使用料等からの充当額を除く)。全国平均であり、個々のマンションの実額ではありません
- 引用:Yahoo!知恵袋(2023年11月21日投稿)、Yahoo!不動産 知恵袋(2013年1月28日投稿)。質問文と回答の冒頭は原文のまま、それ以外は要約です
個別のマンションで決議や売渡請求がどう進むか、時価がいくらになるかは事情で変わります。実際に話が動いている人は、管理組合の議事録と、マンション管理士・弁護士など個別事情を見られる専門家で確かめてください。


コメント