越前がには福井県、「越中富山の薬売り」は富山県、越後湯沢は新潟県。どれも日本海側の隣り合った土地なのに、そのまんなかにある石川県だけ、どの「越」にも当てはまりません。「越前・越中・越後=北陸3県」と数えようとすると、石川県が1つ余ります。まず3つの「越」と今の県の対応をまとめました。
先に結論|越前・越中・越後は今のどの県か
| 旧国名(読み) | 今の県 | 名前が残る地名・もの |
|---|---|---|
| 越前(えちぜん) | 福井県の大部分(小浜市など南西部は若狭国) | 越前がに、越前市、えちぜん鉄道 |
| 越中(えっちゅう) | 富山県のほぼ全域 | 越中富山の薬売り、越中八尾駅 |
| 越後(えちご) | 新潟県の本土側(佐渡島は佐渡国) | 越後湯沢駅、越後平野、コシヒカリ |
| 参考:加賀(かが)・能登(のと) | 石川県。「越」の付く国はひとつもない | 加賀温泉駅、能登半島 |
※ 石川県だけ「越」が無い理由は本文で説明します。答えを先に言うと、もとは越前国の一部で、あとから能登・加賀として分かれました。
なぜ越前・越中・越後に分かれたのか
3つの「越」は、もともと「越国(こしのくに)」というひとつの国でした。今の福井県北部から石川県・富山県を通って新潟県へ、日本海沿いに細長く伸びた国です。
これが689年から692年(持統天皇の時代)にかけて、3つに分割されます。分け方のルールは単純で、畿内に近い順に「前」「中」「後」。都のある側から見て手前が越前、まんなかが越中、いちばん奥が越後です。1300年後の今も、この並び順のまま福井・富山・新潟と並んでいます。
同じルールで名付けられた国は各地にあります。九州の豊前・豊後と筑前・筑後、岡山・広島の備前・備中・備後。この命名のしくみは中国地方の旧国名12の対応表で詳しく書きました。
ここで話の鍵になるのは、分割された時点の越前国が、今の石川県をまるごと含んでいたことです。福井県と石川県は、スタート時点ではひとつの「越前」でした。ここから石川県だけが「越」の看板を外していきます。
旧国名と地名をもっと調べるなら
旧国名は今の県境と一致しないので、文章だけだと境目が頭に入りません。地図で一度見ておくと、次に別の国名が出てきたときに迷いません。
摂津・河内・和泉のように、旧国名は今の県境と一致しません。全国を旧国名のまま重ねた地図帳なので、「どこからどこまでか」を一度に確かめられます。
昔の地図そのものを見ると、地名が付いた順番や、海だった場所が分かります。地名の由来を調べるときの答え合わせに使えます。
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石川県はなぜ入らない?間違えやすい「越」の見分け方
Yahoo!知恵袋に、こんな質問が投稿されています。「越前、越中、越後とは狭義では福井県、石川県、富山県の北陸三県であり、広義では更に新潟県を加えた北陸四県なのですね?」。この対応づけは2か所ずれています。越後は最初から新潟県で、「広義で加わる」おまけではありません。そして石川県は、越前・越中・越後のどれにも当てはまりません。
石川県は「加賀」と「能登」——どちらも越前から分かれた
石川県にあたる国は、能登と加賀です。718年(養老2年)、まず能登半島の側が越前国から切り離されて能登国になりました。続いて823年(弘仁14年)、今の金沢を含む側が越前国から分かれて加賀国が置かれます。加賀国は、日本の令制国の中でいちばん最後に生まれた国です。飛鳥時代から続いた国の区分けは、石川県のところで打ち止めになりました。
「越前が、越中・越後と接していないのはなぜですか?」という質問も、地図を見た人からよく出ます。答えはこれです。間にあった能登・加賀が越前から抜けた結果、越前は他の「越」と離れた位置に取り残されました。地図の上で「越」が飛び飛びに見えるのは、まんなかの2国が名前を変えたからです。
なお、福井県も全部が越前ではありません。小浜市のある南西部は若狭国です。若狭と越前を近畿側に足して数える整理は近畿の旧国名の対応表で書きました。
上越新幹線の「上越」は、上越市と関係がない
東京と新潟を結ぶ上越新幹線は、新潟県の上越市を通りません。この「上越」は上野国(こうずけ・今の群馬県)の「上」と、越後国の「越」を1文字ずつ取った合成地名で、在来線の上越線から受け継いだ名前です。上越市にある新幹線の駅は上越妙高駅で、こちらは北陸新幹線の駅。「上越」と名の付く新幹線と、「上越」と名の付く市が、別の路線で暮らしています。
2つの国名から1文字ずつ取る名付け方は、総武線や常磐線と同じしくみです。関東側の合成地名は関東の旧国名8つの対応表にまとめてあります。
「中越」と「越中」は、字が逆なだけで別の場所
2004年の新潟県中越地震の「中越」は、長岡市を中心とする新潟県のまんなかの地域を指します。一方の「越中」は富山県。字の並びが逆になるだけで、県までまるごと変わります。
見分け方はあります。「越」が頭に付けば旧国名(越前・越中・越後)、「越」が後ろに付けば新潟県の中の区分(上越・中越・下越)です。中越・下越・上越地方という言葉が出てきたら、それは全部、新潟県の中の話。例外は前の節の上越新幹線だけで、あれは群馬+新潟の合成でした。
コシヒカリの「コシ」も、越国の「越」
コシヒカリは「越の国に光輝く米」という願いを込めて名付けられた品種です。1956年に農林100号として登録されました。名前の元は新潟県でも福井県でもなく、分割前の「越国」。交配が行われたのは新潟県の農業試験場ですが、品種として仕上げる育成の大部分は福井県で行われています。新潟の米の代名詞に見えて、実は越前と越後の共作です。
私は、「越」という国名がいちばん広く生き残った場所は、駅名でも観光地でもなくコシヒカリの袋の上だと考えています。福井や新潟という県名は産地表示の欄に回り、1300年前の国名のほうが品種名として毎日の食卓に届いているからです。
同じ「越」でも、今の土地の値段は2.8倍違う
国土交通省の不動産情報ライブラリに集まる実際の土地取引から、直近2年分の坪単価の中央値を市ごとに集計しました(2026年7月10日取得。当サイトの相場データベースの数字です)。3つの「越」の主要な市を並べます。
| 旧国 | 市 | 坪単価の中央値 | 取引件数 |
|---|---|---|---|
| 越前 | 福井市 | 178,512円 | 357件 |
| 越前 | 敦賀市 | 132,231円 | 76件 |
| 越中 | 富山市 | 115,702円 | 327件 |
| 越中 | 高岡市 | 82,645円 | 166件 |
| 越後 | 新潟市中央区 | 322,314円 | 184件 |
| 越後 | 長岡市 | 125,620円 | 186件 |
| 越後 | 上越市 | 56,198円 | 170件 |
1300年前の並び順では、畿内に近い越前が「前」の側でした。ところが現在の中心市街地の坪単価は、いちばん奥だったはずの越後(新潟市中央区)が322,314円でトップ。越前の中心の福井市(178,512円)の1.8倍、越中の中心の富山市(115,702円)の2.8倍です。
同じ越後の中の差はもっと大きく、新潟市中央区と上越市(56,198円)では約5.7倍の開きがあります。同じ「越」を名乗っていても、今の土地の値段は名前では決まりません。気になる市町村があれば、土地相場の検索ページで全国1,500を超える市区町村の中央値を同じ条件で見られます。
よくある質問
石川県は越前・越中・越後のどれにあたりますか?
どれにも当たりません。石川県は能登国と加賀国で、どちらも、もとは越前国の一部です。718年に能登が、823年に加賀が越前から分かれました。加賀は日本の令制国の中で最後に生まれた国です。
越後はどこの県ですか?
新潟県です。今の新潟県のうち本土側が越後国で、佐渡島は別の佐渡国でした。県内を上越・中越・下越と呼び分けるときの「越」も、この越後から来ています。
福井県は全部が越前ですか?
違います。福井県には越前と若狭の2つの国が入っています。福井市・越前市・敦賀市のあたりが越前国で、小浜市など南西部が若狭国です。
まとめ
1. 越前は福井県(若狭を除く)、越中は富山県、越後は新潟県(佐渡を除く)。もとはひとつの「越国」で、689〜692年に畿内へ近い順の前・中・後で3つに分かれた
2. 石川県はどの「越」でもない。もとは越前国の一部で、718年に能登、823年に加賀が分かれた。加賀は令制国の最後の1国
3. 「越」が頭に付けば旧国名、後ろに付けば新潟県内の区分。上越新幹線だけは例外で、群馬(上野)+新潟(越後)の合成地名
「越」の3兄弟と、途中で名前を変えた石川県。この4県のからくりが分かると、北陸新幹線の駅名も米袋の品種名も、1300年前の地図の続きに見えてきます。他の地方の旧国名もあわせてどうぞ。
出典:越国の三分割(689〜692年)、能登国の分立(718年)、加賀国の設置(823年・令制国の最後)、上越新幹線の名称の由来、コシヒカリの命名(1956年・農林100号、交配は新潟県農業試験場・育成の大部分は福井県)は、Wikipedia日本語版「越国」「加賀国」「上越新幹線」「コシヒカリ」の各記事(2026年8月22日時点)にもとづきます。坪単価は国土交通省「不動産情報ライブラリ」の土地取引データ(直近2年分・2026年7月10日取得)から当サイトが市区町村ごとに集計した中央値です。


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