🗨️「不動産会社が作る重要事項説明書や契約書を、AIが下書きすることはあるの?」
国土交通省が2026年9月末まで、実際の不動産会社の書類作成業務にAIを入れて検証しています。ただし今は効果と課題を測る実証の段階で、正式に導入が決まったわけではありません。書類に誤りがあったときに責任を負うのは、これまでどおりAIの提供元ではなく宅地建物取引士です。
[AI] この記事の要点
国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課が2026年6月9日付の事務連絡で、株式会社NTTデータ経営研究所と協働する「不動産分野におけるAI活用に関する実証事業」への協力を事業者に呼びかけた。参加事業者の実際の書類作成業務にAIサービスを導入し、AI導入前後の業務時間や精度、実務上・制度上の課題を検証する。対象は重要事項説明書・売買契約書・賃貸借契約書・媒介契約書の4種類で、実証期間は2026年7月頃から9月末までの予定、採択予定数は約100社。応募期限は6月26日18時で、審査結果は6月末頃までに個別にメールで通知するとされた。7月22日には株式会社ベルテックスが6月24日に採択されたと公表している。
2026年8月20日 発表
- これから家を買う・借りる人(受け取る重要事項説明書や契約書の作られ方が今後変わる可能性がある)
- 重要事項説明書・売買契約書・賃貸借契約書・媒介契約書を自分で作成している宅地建物取引業者と宅地建物取引士
- 不動産会社向けに書類作成のAIサービスを提供している事業者
この記事でわかること
- 国が検証しているのは物件の紹介文ではなく、契約でやりとりする書類そのものだということ
- 実証で何を測っているのか(業務時間・作成精度・実務上と制度上の課題)と、いつ終わるのか
- 家を買う人・借りる人から見て、9月末までに何が変わり、何は変わらないのか
「AIで物件紹介文を書く」の話ではありません
不動産とAIの話というと、物件の紹介文をAIに書かせる、写真をAIで加工する、といった宣伝まわりの話になりがちです。今回国が検証しているのは、そこではありません。売買や賃貸の契約でやりとりされる書類そのものを、AIに下書きさせるという検証です。
実施しているのは国土交通省の不動産・建設経済局 不動産業課で、株式会社NTTデータ経営研究所と協働しています。事業の名前は「不動産分野におけるAI活用に関する実証事業」。事業者向けの事務連絡が出たのが2026年6月9日、実証の期間は2026年7月頃から9月末までの予定です。
目的として書かれているのは3つです。AI活用による不動産事業者の業務の生産性向上、消費者等の利便向上、そして実務上・制度上の課題の検証。効果を測るだけでなく、制度の課題まで検証の対象に入っています。
対象は4種類。どれも、あなたが署名する前に会社が作る書類です
事務連絡は対象を「契約関連書類」と総称し、次の4つを挙げています。
- 重要事項説明書(契約前に、その物件の権利関係・法令の制限・インフラ・災害リスクなどを説明する書面)
- 売買契約書
- 賃貸借契約書
- 媒介契約書(売却や購入を不動産会社に依頼するときに結ぶ書面)
家を買った人・借りた人なら、少なくとも2つは受け取っているはずの書類です。とくに重要事項説明書は、その物件が接している道路の幅、水道やガスの引き込み、市街化調整区域かどうか、浸水想定区域に入っているかどうかまで書き込むもので、1件つくるのに役所や法務局を回る調査が要ります。ここが今回の検証の中心にあります。
AIに下書きさせて、前と後で「時間」と「精度」を測る
実証の中身として書かれているのは、次の2つです。
- 参加した会社の実際の書類作成業務にAIサービスを導入して使ってもらう
- AI導入前と後で、業務時間や精度がどう変わったかをヒアリングとアンケートで確かめる
参加の条件も4つ決まっていて、そのうちの1つが「過去の売買仲介・賃貸仲介の成約事例の契約関連書類に、AIを使ったデジタルサービスを試験適用すること」です。つまりすでに人の手で作り終えた書類を材料にして、同じものをAIに作らせ、突き合わせるという進め方が想定されています。答え合わせができる形になっているわけです。
なお、どのAIサービスを使うのかは事務連絡には書かれていません。採択された会社が個別に決める形になっています。
事務連絡に書かれている枠組みを、一覧にすると次のとおりです。
| 項目 | 事務連絡に書かれている内容 |
|---|---|
| 実施主体 | 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課 ×(株)NTTデータ経営研究所 |
| 実証期間 | 2026年7月頃〜2026年9月末(予定) |
| 採択予定数 | 約100社 |
| 対象書類 | 重要事項説明書・売買契約書・賃貸借契約書・媒介契約書 |
| 測るもの | AI導入前後の業務時間と作成精度、実務上・制度上の課題 |
| AIの利用料 | 参加事業者の負担(提供企業との調整で割引または無償提供の見込み) |
| 採択の通知 | 2026年6月末頃までに個別にメール(採択企業一覧の公表はなし) |
なぜ今なのか。書面の電子化から4年が経っていた
事務連絡は背景をはっきり書いています。2022年(令和4年)5月18日に改正宅建業法が施行され、重要事項説明書などを紙ではなく電磁的方法で渡せるようになりました。同時に、オンラインでの重要事項説明も可能になっています。ここで「不動産取引のオンライン化」の環境が整ってから、約4年が経ちました。
そのうえで、AIを使ったサービスが広がっている状況を踏まえ、オンライン化をさらに進めるために実証をする、という組み立てです。紙をなくす段階が済んだので、次は中身を書く段階へ、という順番だと読めます。
不動産会社の仕事は、どこが変わる可能性があるか
ここから先は今後考えられる話で、決まったことではありません。そのうえで、実証の設計から素直に読めることを書きます。
重要事項説明書づくりは、大きく分けると「調べる」「書き写す」「確かめる」の3工程です。登記事項証明書、公図、役所の各課での調査結果、管理規約、設備の資料。集めた資料から数字や条件を書式に落とし込む作業が、いちばん時間を食います。AIが手伝えるのは、この書き写す部分です。
逆に、現地に立って前面道路を見ることや、役所の窓口で確認することは残ります。確かめる工程も残ります。むしろ、AIが書いたものを元の資料と1項目ずつ突き合わせる作業が増える可能性があります。「時間が減った」と単純に言えるかどうかを含めて、今まさに測っているところです。
国は「対外PRにご活用いただけます」と書いた。それでも名前が出たのは1社
採択の予定数は約100社です。ところが、実証に参加していると実名で公表している会社は、調べたかぎり1社しか見つかりませんでした。株式会社ベルテックスが2026年7月22日に、6月24日に採択されたと発表したものです。同社の発表にも、どのAIサービスを使うかや削減率などの数値は書かれていません。
これは会社側が隠しているという話ではなく、仕組みの問題です。募集の事務連絡には、審査結果は個別にメールで連絡すると書かれています。採択された会社の一覧を国が公表するとは書かれていません。実際、国土交通省の「不動産分野におけるDXの推進」のページを見ても、この実証事業のページは置かれていません。事業者向けの事務連絡が業界団体を通じて配られただけ、という状態です。
おもしろいのは、国の側はむしろ公表を勧めていることです。事務連絡は参加のメリットとして「不動産業界におけるAI活用の先進事業者としてプレスリリースの発信や対外PRにご活用いただけます」と書いています。ただし条件もついていて、公表するならリリース案文を2週間前を目安に送り、事前確認を受けることになっています。国交省内での事前報告のためのもので、内容によっては修正を求める可能性がある、とも書かれています。
もう1点、費用の扱いも書かれています。AIサービスの提供企業との調整により利用料の割引または無償提供で参加できる見込み、としたうえで、AIサービスの利用にかかる費用は参加事業者の負担と明記されています。国が費用を持つ実証ではありません。
家を買う人・借りる人に、9月末までに起きること
正直に書くと、9月末までのあいだに消費者の側で起きることは、ほとんどありません。約100社という規模は、宅地建物取引業者の全体(2025年3月末時点で132,291業者)から見ればごく一部です。自分が契約する会社が実証に参加しているかどうかも、公表されていない以上、こちらからは分かりません。
変わらないことのほうが大事です。重要事項説明は、宅地建物取引士が取引士証を示して行います。AIが下書きをしても、この部分は変わりません。書類に誤りがあって損害が出たときに処分を受けるのも、AIの提供元ではなく宅建業者と宅建士です。渡された書類について質問する相手は、これまでどおり目の前の担当者です。
そのうえで、受け取ったときにできることは前から変わりません。物件の面積、前面道路の幅、水道やガスの引き込み、災害リスクの記載。気になった欄はその場で聞いて、元になった資料を見せてもらうことです。
まだ「AIに全部任せる」段階ではない
最後に、言い過ぎを打ち消しておきます。今回のことは、次のどれでもありません。
- 宅地建物取引士が要らなくなる、という話ではない
- AIだけで重要事項説明ができるようになった、という話ではない
- 契約書を完全に自動で作れるようになった、という話ではない
- 全国の不動産会社にすでに導入された、という話でもない
国土交通省が2026年3月31日に出した通知でも、重要事項説明は「宅地建物取引士がその責任において行うことが求められている」という原則を先に置いたうえで、購入者等の利益の保護が確保されることを前提に補助ツールを活用する、という書き方をしています。AIは補助の道具という位置づけです。
実証は2026年9月末に終わる予定で、検証の対象には制度上の課題も入っています。結果が出たあとに、重要事項説明のマニュアルや運用の考え方に手が入る可能性はあります。今の時点で確かなのは、そこまでの検証が走っている、というところまでです。
生活・仕事にどう効くか
- 家を買う・借りるとき:約100社という規模は全国132,291業者のごく一部で、自分が契約する会社が参加しているかは公表されていない。9月末までのあいだに消費者の側で起きることは、ほとんどない。
- 書類の正確さ:AIが下書きをしても、重要事項説明を行うのは取引士証を示した宅地建物取引士のまま。誤りがあったときに処分を受けるのもAIの提供元ではなく宅建業者と宅建士で、質問する相手は目の前の担当者から変わらない。
- 今後の制度:実証の検証対象には制度上の課題も含まれている。2026年9月末の終了後、重要事項説明の運用の考え方に手が入る可能性がある。
結局どうすればよいか
- 受け取った重要事項説明書は、面積・前面道路の幅・水道やガスの引き込み・災害リスクの記載を読み、気になった欄はその場で担当者に聞いて元の資料を見せてもらう
- 重要事項説明を受けるときは、説明する人の宅地建物取引士証を確認する(AIが下書きをしても、説明と記名押印を行うのは宅建士)
- 実証の結果が出るのは2026年9月末以降。制度が動くかどうかは国土交通省 不動産業課の発表を待つ
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公式出典
- 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課 事務連絡「不動産分野におけるAI活用に関する実証事業へのご協力依頼について」※全日本不動産協会掲載(2026年6月9日発表)
- 公益社団法人 全日本不動産協会「国交省「AIを含むデジタルサービスに関する実証事業への参加希望企業の募集について」」(2026年5月8日発表)
- 株式会社ベルテックス「国土交通省「AIを含むデジタルサービスに関する実証事業」に採択 契約書作成にAI活用」(2026年7月22日発表)
- 国土交通省「不動産分野におけるDXの推進」(2026年8月20日発表)
更新履歴
- 2026年8月20日 初版を公開
※本記事は2026年8月20日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。


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