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不動産用語の「天ぷら」は中身のない契約のこと。申込みをやめたのに預り金が戻らないなら、それは違反です

不動産用語に「天ぷら」という言葉があります。揚げ物の話ではなく、最初から成立しない前提で結ばれる契約のことです。業者の中だけで使われる呼び名なので、家を買う人・借りる人が覚えなくても困りません。

ただし、この言葉が生まれる場面には、あなたの財布につながる接点が1つだけあります。契約の前に「申込金」「申込証拠金」「預り金」といった名目で渡すお金です。申込みをやめたときにそれが戻るかどうかは、話し合いで決めることではありません。国土交通省が、預り金はいかなる理由があっても一旦返還すべきだと書いています。

東京都が公表している相談事例に、こういうものがあります。

契約前に、売主への値段交渉のために必要なので、預り金をいただきます。

東京都住宅政策本部「最近の不動産相談事例」事例3

マンションの購入を申し込んだ人が、宅建業者からこう言われてお金を渡しました。その後、契約の前にキャンセルを伝えて返還を求めましたが応じてもらえず、現在もお金が返ってきていない、という相談です。

先に結論

  • 不動産用語の「天ぷら」は、成立しない前提で結ばれる契約のこと。宅地建物取引業法にこの言葉はなく、由来の説明も資料によって分かれます
  • 業者側の内輪の話ですが、買う人・借りる人に実害が出る接点が1つあります。契約の前に渡した申込金・預り金が戻るかどうかです
  • 申込金は手付金ではありません。契約が成立していない以上、手付の授受はあり得ません(茨城県の公式回答)
  • 返還を拒むこと自体が禁止行為です。国土交通省は「預り金は、いかなる理由があっても一旦返還すべき」と書いています(法第47条の2第3項/施行規則第16条の11第2号)
  • 返ってこないときの連絡先は不動産会社ではなく、物件がある都道府県の宅建業免許担当窓口と、消費者ホットライン188です
目次

不動産用語の「天ぷら」は、成立しない前提で結ばれる契約のこと

天ぷらは、成立する見込みがないと分かったうえで数だけ上げる契約を指します。実際には申込みが入っていないのに入ったことにする報告や、案内に出ていないのに出ていることにして外回りを抜けることまで、同じ言葉で呼ぶ会社もあります。共通しているのは、外から見える形と中身が合っていないことです。

法律の言葉ではありません。宅地建物取引業法にも施行規則にも「天ぷら」は出てきません。このシリーズで扱ってきた元付・客付片手・両手あんこと同じ、現場で生まれた呼び名です。ただし前の3つが取引の形を指す言葉なのに対して、天ぷらが指しているのは報告の中身のほうです。

では、なぜ成立しない契約をわざわざ上げるのか。ここは担当者の人柄ではなく、数字の締め方の話になります。

国土交通省の令和6年度の調査によると、令和7年3月末時点の宅地建物取引業者は132,291業者。うち129,133業者が知事免許で、全体の97.6%は一つの都道府県の中だけで営業している会社です。手元で兵庫県の免許情報を集計したときは、兵庫県に本店を置く会社が5,658社あり、そのうち679社は法人ではなく個人での免許でした。

大手の営業マンの話として語られがちですが、実際の業界はこの構成です。会社が小さいほど、月末に契約が1本足りないことの意味は重くなります。

語源は「衣」と「揚げる」の二説あります

天ぷらは衣に包まれていて中身が見えず、中身が入っていないこともある。そこから、形だけあって中身のない契約を指すようになった、という説明があります。

もうひとつ、「契約を上げる」と「天ぷらを揚げる」を掛けた言い回しだ、という説明もあります。用語集を出している会社の解説でも、この2つは並べて書かれていて、どちらが元なのかを決めていません。由来をはっきりさせられる資料は見つかりませんでした。

天ぷらで消えるのは業者の実績。あなたに回ってくるのは、申込みのときに渡したお金です

天ぷら契約そのものは、業者の中で完結します。いったん上がった数字が後で消えるだけで、買う人・借りる人の財布は動きません。だから「自分には関係ない業界用語」として読み流してよさそうに見えます。

外に出てくるものが1つだけあります。申込みのときに預けたお金です。

申込みを急ぐ場面では、その場で「申込金」「申込証拠金」「預り金」といった名目のお金を求められることがあります。名前は会社によって違いますが、性質は同じで、契約が成立する前に預けたお金です。

そして、契約の前にやめると伝えたとき、このお金の扱いで揉めます。冒頭の東京都の事例がまさにそれで、東京都は同じページで、「原則として、宅建業者が高額の預り金を受け取ってはならない」と宅建業者に指導している、と書いています。行政がわざわざそう書いているのは、それが起きているからです。

「預り金は手付となっており、返還できない」は認められません

返してもらえないとき、業者側から返ってくる説明として実際に挙げられているのが、この言い方です。茨城県は「よくあるお問い合わせ(宅地建物取引関係)」で、この断り文句を名指しして否定しています。

預り金や契約申込金といった名称の売買契約締結前に受領した金銭について、相手方が契約申込撤回をした場合は、速やかに返還しなければなりません(宅建業法第47条の2第3項)。

「預り金は手付となっており、返還できない。」といった主張は、契約が成立していない以上、手付の授受はあり得ず、認められません。

茨城県「よくあるお問い合わせ(宅地建物取引関係)」

理由は一行で足ります。手付は、契約が成立して初めて存在するお金です。契約書に署名も押印もしていない段階では、渡したお金が手付に変わる余地がありません。名目が「預り金」でも「申込証拠金」でも同じで、契約の前に渡したお金は預けたお金のままです。

契約を結んだ後は、話が別の世界に移ります。手付を放棄して解除する、手付の倍返しで解除する、という条件の話になり、売主が不動産会社で建物がまだ完成していない場合には保全措置という決まりも関わってきます。そちらの線引きは手付金、保全措置なしで受け取っていませんかにまとめました。判を押す前と押した後で、同じお金の扱いがここまで変わります。

国土交通省は「いかなる理由があっても一旦返還すべき」と書いています

返さないことは、当事者どうしの揉め事ではありません。名前のついた禁止行為です。

宅地建物取引業法第47条の2第3項は、それ自体では何が禁止かを書いていません。相手方の利益の保護に欠けるものとして「国土交通省令で定めるもの」をしてはならない、という形で省令に投げています。実際の中身は宅地建物取引業法施行規則第16条の11にあり、その第2号が預り金の返還の拒否です。

国土交通省が出している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)は、この第2号をこう説明しています。

相手方が契約の申込みを撤回しようとする場合において、契約の申込み時に宅地建物取引業者が受領していた申込証拠金その他の預り金について、返還を拒むことの禁止である。例えば、「預り金は手付となっており、返還できない。」というように手付として授受していないのに手付だと主張して返還を拒むことを禁ずるものであり、預り金は、いかなる理由があっても一旦返還すべきであるという趣旨である。

国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(規則第16条の11第2号関係)

読みどころが2つあります。

ひとつは、禁止されているのが「返還を拒むこと」だという点です。最後に返せばよい、という書き方になっていません。拒んだ時点の行為が対象です。

もうひとつは「いかなる理由があっても一旦返還すべき」という言い回しです。理由の中身を問うていません。会社の経理の都合も、上長の不在も、この一文の前では検討の対象になりません。

同じ第47条の2には、断ろうとしている人を守る規定が並んでいます。第1項は、利益が生じることが確実だと誤解させる断定的な判断を提供すること。第2項は、契約させるため、あるいは解除や申込みの撤回を妨げるために相手を威迫すること。そして第3項の省令には、契約の締結を不当に急がせる行為も入っています。解釈・運用の考え方は、その例として、相手が「契約の締結をするかどうかしばらく考えさせてほしい」と申し出たのに「明日では契約締結はできなくなるので、今日しか待てない」と告げる場面を挙げています。

ここは私の見方です

私は、天ぷら契約を「そういう会社がある」という話として読むべきではないと考えています。成立しない契約を上げる動機は月末に数字を締めることから来ていて、締め日は法律ではなく会社ごとの運用です。だから、目の前の担当者が誠実かどうかを見抜こうとするより、月末に急かされたら一度持ち帰る、渡したお金は書面をもらう、という手続きのほうが効きます。担当者は選べませんが、この2つは自分で決められます。なお、この見方を裏づける統計はありません。天ぷら契約の発生件数を公表している調査は見つかりませんでした。

「申込金が返ってこない」という相談は、賃貸でも起きています

ここまでは売買を前提に書きましたが、同じことが賃貸でも起きています。以下は賃貸の話です。

預り金を返してもらえません。不動産屋さんで賃貸物件を申し込みましたが、諸事情でキャンセルしました。

Yahoo!知恵袋

この投稿では、見積もりをもらっただけで管理会社の審査結果も出ておらず、契約も結んでいない段階だと書かれています。営業担当からは返金すると言われたものの先延ばしにされ、「キャンセルから10日経ちます。」という状態です。

付いたベストアンサーが、性質をそのまま言い当てています。

預り金なら、あなたのお金を預かっているだけなので必ず返してもらわないとですし、会社の口座に入金したからすぐには返せないとかも通用しません。

Yahoo!知恵袋

国民生活センターの消費者トラブルFAQも、賃貸について「宅地建物取引業法では、借主が契約前に申し込みを撤回した場合、宅建業者には申込金の返還が義務づけられています。」と回答しています。売買と賃貸で結論は変わりません。

払う前の段階でつまずいている投稿もあります。これも賃貸です。

申込金?前金?として家賃1ヶ月ぶん+10%を支払うよう言われました。

Yahoo!知恵袋

初めての一人暮らしで申込みを済ませた人の投稿で、審査が通って本契約になればそのお金は仲介手数料に充てると説明された、と書かれています。そして同じ投稿の最後に、こう書かれていました。

まだ振込前で本日来店予定があるのですが預かり証をいただいておいたほうがよろしいでしょうか。

Yahoo!知恵袋

もらったほうがいいです。国民生活センターも、入居申込金・予約金・預り金などの名目で支払いを求められたときは「支払ったことがわかる書面を受け取りましょう」と案内しています。書面がないと、いくら渡したかを後から示せません。

本契約になれば仲介手数料に充てるという説明自体は、それだけで違反にはなりません。ただし、契約が成立するまでは預けたお金であることも変わりません。名目を変えて金銭を受け取れる範囲の線引きは仲介手数料のほかにお金を受け取ると違反になるパターンに書いています。

預り金が返ってこないときの連絡先は、不動産会社ではありません

会社に何度も電話をかけ直すより先に、やることが3つあります。

1. 撤回の意思と返還の請求を、日付が残る形で伝える

電話だけで済ませず、メールなど日付の残る手段で「申込みを撤回する」「預けた金銭の返還を求める」の2つを書いて送ります。何日に撤回したかが、後で行政に相談するときの起点になります。

渡したときの領収書や預り証があれば、そこに書かれている名目(申込金・申込証拠金・預り金)をそのまま使って請求します。名前が何であっても、契約の前に渡したお金は返還の対象です。

2. 断られたら、根拠の場所を示す

言い方を工夫する必要はありません。示すのは次の3つです。

  • 宅地建物取引業法 第47条の2第3項
  • 宅地建物取引業法施行規則 第16条の11第2号(預り金の返還の拒否の禁止)
  • 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に「預り金は、いかなる理由があっても一旦返還すべきである」と書かれていること

3つとも公開されている資料で、URLはこの記事の末尾に出典として並べてあります。相手は免許を受けて営業している会社なので、この3つがどこにあるかを知っている前提で話せます。

3. それでも戻らないなら、免許を出した行政庁へ

不動産会社は、都道府県知事か国土交通大臣の免許で営業しています。指導と監督をするのは、免許を出した側です。物件がある都道府県の宅地建物取引業の免許担当窓口(都道府県庁の住宅・建築・不動産関係の課)に、経緯を伝えます。免許の種類と番号は、名刺、店頭に掲げてある標識、重要事項説明書で確認できます。

どこに言えばいいか分からないときは、消費者ホットライン「188(いやや!)」があります。国民生活センターが窓口として案内している番号で、住んでいる地域の消費生活センター等につながります。

国土交通省の令和6年度の調査では、宅地建物取引業法にもとづく監督処分が147件(免許取消99件、業務停止16件、指示32件)、行政指導が592件ありました。ただしこれは業法違反全体の数で、預り金の不返還や天ぷら契約に限った数ではありません。それでも、処分と指導をする行政庁が実在して窓口を開けていることは、この数字から分かります。

売る側では、同じ動機が別の形で出ます

天ぷら契約は「数字を作る」ために起きるものですが、同じ動機は売却の場面でも働きます。売主から預かった物件を他社に渡さず自社で決めようとする囲い込みも、根は同じです。

2025年1月から、不動産会社にはレインズへ取引状況を登録することが義務づけられ、売主に渡される登録証明書の2次元コードから、自分の物件が今どう扱われているかを売主本人が確認できるようになりました。手順はスマホだけで終わります。

売却中の自分の家がどう扱われているか確認する ▶

2025年1月から義務になった取引状況の登録を、売主本人が2次元コードで見る手順です

まとめ

不動産用語の「天ぷら」は、成立しない前提で結ばれる契約のことです。由来には衣の説と「揚げる」の説があり、どちらとも決まっていません。法律の言葉でもありません。

覚えておく値打ちがあるのは、この言葉そのものではなく、その周りで動くお金のほうです。契約の前に渡した申込金・申込証拠金・預り金は、名前が何であっても預けたお金で、申込みを撤回すれば返ってきます。契約が成立していない以上、それが手付に変わることはありません。

しかも、返還を拒むこと自体が宅地建物取引業法の禁止行為として名指しされていて、国土交通省は「預り金は、いかなる理由があっても一旦返還すべき」と書いています。話し合いで折り合いをつける場面ではありません。返ってこないときは、不動産会社ではなく、免許を出した都道府県の窓口と消費者ホットライン188へ。

出典

  • 宅地建物取引業法 第47条の2(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176 )
  • 宅地建物取引業法施行規則 第16条の11第2号
  • 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(令和8年4月1日施行)/国土交通省 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001881261.pdf
  • 令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について(令和7年10月3日 報道発表)/国土交通省
  • よくあるお問い合わせ(宅地建物取引関係)/茨城県
  • 最近の不動産相談事例 事例3「不動産の購入申込みにおける預り金の不返還」/東京都住宅政策本部
  • 消費者トラブルFAQ「【賃貸住宅】申込金を返金してほしい。(契約前)」/独立行政法人国民生活センター
  • 兵庫県内の宅地建物取引業者数(本店・法人/個人の内訳)は、当サイトで免許情報を集計した2026年7月時点の数値です
  • 読者の声の引用元:Yahoo!知恵袋(質問ID q11278424366/q10306554470)

このシリーズは、家を買う人・売る人に向けて不動産用語をひとつずつ説明していきます。1本目は元付・客付、2本目は片手・両手、3本目はあんこです。

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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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