🗨️「地震で家が壊れました。取り壊す費用は自分で払うのでしょうか。」
全壊なら市町村が代わりに解体する「公費解体」の対象です。半壊も対象になり得ますが、住宅の応急修理制度と両方は使えません。修理に手をつける前に、直すのか壊すのかを決めることになります。
[災害] この記事の要点
令和8年熊本地震について、2026年8月7日の持ち回り閣議で特定非常災害の指定政令が決定した。環境省の公費解体・撤去マニュアルでは、特定非常災害に指定された場合、従来から対象の全壊家屋に加えて半壊家屋の解体費も災害等廃棄物処理事業費補助金の対象になる。ただし8月8日時点で、熊本市・八代市・宇城市のいずれも公費解体の受付案内はまだ出していない。
2026年8月8日 発表
- り災証明書で半壊以上と判定された家の所有者
- これから住宅の応急修理を申し込もうとしている人
- 相続登記をしていない実家が被災した人
- 自分で解体業者に依頼しようとしている人
- 被災した空き家・倉庫・アパートを持っている人
この記事でわかること
- 半壊の家の解体費が公費の対象になる条件と、令和8年熊本地震がその条件を満たした経緯
- 応急修理制度を先に使うと公費解体が選べなくなる、という分かれ道の位置
- 自分で先に解体した場合にいくら戻り、何の書類が無いと戻らないのか
先に結論
- 全壊の家は、市町村が所有者に代わって壊す「公費解体」の対象。所有者の持ち出しはほぼ無い
- 半壊の家も対象になり得る。令和8年熊本地震は2026年8月7日に特定非常災害へ指定され、その条件を満たした
- ただし住宅の応急修理制度とは併用できない。修理に着手する前に、直すか壊すかを決めることになる
- 自分で先に壊しても費用は戻るが、上限は市町村が算定する基準額まで。超えた分は自己負担
- 相続人・共有者が1人でも欠けると申請できない。所有者不明なら手続きに3か月程度かかる
公費解体とは、市町村が所有者に代わって家を壊す制度
災害で壊れた家の解体は、本来は私有財産の処分です。環境省の公費解体・撤去マニュアルも「原則として、所有者の責任によって行うこととなる」と書いています。それでも被災地に壊れた家が残り続けると、隣家や道路に倒れる危険が消えず、生活の再建も進みません。そこで市町村が災害等廃棄物処理事業費補助金を使い、所有者に代わって解体・撤去を行うのが公費解体です。
補助の対象は、被害の程度で線が引かれています。
| 区分 | 全壊 | 半壊 |
|---|---|---|
| 撤去・解体 | 対象 | 場合により対象 |
| 運搬 | 対象 | 対象 |
| 処理・処分 | 対象 | 対象 |
解体そのものの費用だけ、半壊の扱いが違います。半壊家屋の解体費が対象になるのは、大量の災害廃棄物の発生が見込まれ、その災害が「特定非常災害」に指定された場合だけです。令和8年熊本地震については、2026年8月7日の持ち回り閣議で特定非常災害の指定に関する政令が決定しました。同じ日の閣議で、激甚災害の指定政令も決まっています。
なお、ここでいう「半壊」は、り災証明書の「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」の3区分をまとめた呼び方です。判定がこのどれであっても、公費解体の話をするときは同じ「半壊」として扱われます。
応急修理を申し込む前に、直すのか壊すのかを決める
ここが、この制度でいちばん取り返しのつかない分かれ道です。環境省の質疑応答集には、応急修理制度と公費解体制度を併用できるかという問いに対して、たった一言「併用はできない」と書かれています。
住宅の応急修理は、災害救助法に基づいて市町村が業者に直接お金を払い、屋根や壁、台所・トイレなど生活に最低限必要な部分を直す制度です。熊本県の場合、半壊以上で1世帯あたり最大757,000円。準半壊は367,000円が上限です。しかも自分で先に代金を払ってしまうと制度が使えなくなる、という別の落とし穴もあります。
つまり被災者は、757,000円を使って直して住み続けるのか、それとも解体して更地にするのかを、屋根に手をつける前に選ぶことになります。雨漏りを止めたい気持ちで先に修理を申し込むと、あとから「やはり住めない」となったときに公費解体が選べない、という順番になっているわけです。
完全に閉じた扉ではありません。同じ質疑応答集には、応急修理を行ったにもかかわらず長期継続的に居住することが困難で、結果的に解体・撤去の必要が生じた場合は個別に相談してほしい、とも書かれています。ただしこれは「相談」であって、認められる保証ではありません。同じ家に両方は使えないという原則で動くと考えたほうが安全です。
対象になるもの、ならないもの
「家一軒まるごと」が基本単位です。庭の塀だけ、傷んだ壁だけ、という頼み方はできません。
| 解体したいもの | 扱い |
|---|---|
| 住家と一体で解体する倉庫・車庫・鳥居・灯籠 | 対象 |
| 住居と一体で解体する浄化槽・便槽 | 対象(合併・単独とも) |
| 倉庫だけの解体 | 市町村が半壊以上と判定すれば対象。被災証明書や写真が要る |
| り災証明書が出ない空き家 | 市町村が半壊以上と判定すれば対象 |
| 母屋と別棟の離れ | 母屋が半壊以上で、一体的に解体するなら対象 |
| 家屋の一部だけの解体 | 対象外 |
| 改修・補修工事で出た廃棄物 | 対象外 |
| ブロック塀・よう壁 | 原則対象外。倒壊のおそれや工事支障があれば対象になり得る |
| 建物内に残した家財・設備機器 | 原則対象外 |
家屋の一部だけを解体・撤去する場合は対象外で、被災家屋全体を解体・撤去する場合のみ対象になります。増築した倉庫が母屋とつながっている場合も、一棟の建物なら倉庫だけを壊すことはできません。登記上または構造上、別棟だと判断できるときに限って対象になり得ます。
アパートや貸家も対象になりますが、所有者と入居者が違うため、入居者の同意書と退去時期の確認が別に必要になります。オーナーの一存では進みません。
自分で先に壊した場合、全額は戻らない
市町村の受付が始まるのを待たずに、自分で解体業者に頼んで壊してしまった。この場合も費用の償還を受けられる仕組みがあります。ただし条件があります。
償還額の上限は、市町村がその建物を公費解体すると仮定して算定した基準額です。基準額は、解体した家屋の延床面積に、市町村が定める構造別の単価を掛けて計算します。延床面積は原則として登記事項証明書か、固定資産税の評価・課税証明書の数字が使われます。業者に支払った額がこの基準額を上回れば、その差額は自己負担になります。急いで頼んだ工事が相場より高ければ、高い分は戻りません。
そして書類です。平成28年熊本地震のとき、熊本市は制度が決まる前に解体した人に対して、次の書類を保管しておくよう呼びかけていました。
- 解体工事の前・工事中・工事後の状況を記録した写真
- 解体工事に係る契約書、見積書、領収書
- 解体工事に係るマニフェスト(産業廃棄物の処理を委託したことを示す伝票)
マニフェストの写しがある場合に限って、処分料を償還の申請に含められます。廃棄物を市町村の仮置場に持ち込んだ場合はマニフェストが発行されませんが、計量伝票が貼られた搬入伝票があれば対象になります。逆に、片付けを手伝ってくれた人に渡した謝金は対象になりません。
写真は、壊してしまったあとでは絶対に撮り直せない書類です。工事が始まる前に外観と各部屋を撮っておくだけで、後の判断がまるごと変わります。
相続登記をしていない実家は、ここで止まる
公費解体は私有財産の処分なので、所有者本人の申請か、所有者の同意が要ります。単独所有なら本人の同意だけで進みます。問題は、名義が亡くなった親のままになっている家です。
相続によって所有者が複数いる場合、所有者全員の同意が必要です。1人でも連絡がつかなければ、そこで手続きが止まります。相続が起きたのが何十年も前で、相続権を持つ人が数十人に膨らんでいるケースも珍しくありません。
マニュアルは、確認ができない事情や家屋の状況からやむを得ないと判断される場合には、所有権の問題が生じたら申請者が責任を持って対応する旨の宣誓書などを提出させて解体することも考えられる、としています。ただしこれは市町村の判断であって、申請者が権利上の責任を引き受ける形になります。
所有者そのものが分からない場合は、民法第264条の8第1項の所有者不明建物管理制度を使います。市町村などの利害関係人が地方裁判所に申し立て、選任された管理人が裁判所の許可を得て解体を申請する流れです。ただし裁判所は1か月以上の異議届出期間を設けて公告する必要があるため、申立てから公費解体の申請までに通常3か月程度かかります。管理人の報酬にあてる予納金も要ります。
2026年4月からは相続登記が義務化され、住所変更登記も義務の対象になりました。名義を放置していた家は、災害のときにこの3か月として跳ね返ってきます。
熊本では、まだ受付が始まっていない(8月8日時点)
制度の説明をしてきましたが、肝心の受付はどうなっているか。2026年8月8日時点で、熊本市・八代市・宇城市の公式ページを確認しました。3市とも、被災家屋の解体・撤去(公費解体)の案内は見当たりません。
出ているのは、り災証明書の受付、被災建築物応急危険度判定、災害ごみの搬入、住家の緊急の修理、市営住宅の一時提供、ホテルなどへの宿泊支援です。環境省の令和8年熊本地震の災害対応ページにも、8月7日13時時点のとりまとめ報や災害廃棄物対策の資料はありますが、公費解体についての記載はありません。仮置場の開設が先に進んでいる段階です。
解体の受付期間は、市町村が事業全体の見込みを立てて決めるものとされています。今は、要綱づくりと受付体制の検討が進んでいる時期にあたります。
今いちばん危ないのは、順番が逆になること
ここからは私の見方です。私は、今回いちばん多くの人が損をしかねないのは、公費解体の受付が始まる前に応急修理を申し込んでしまうことだと見ています。理由は3つあります。
1つめは、制度が世に出る順番です。応急修理と災害ごみの搬入はすでに受付中で、市役所の窓口にも並んでいます。一方、公費解体は8月8日時点でどの市も案内を出していません。被災者の目に入る順番が、修理が先、解体が後になっています。
2つめは、その2つが併用できないと明記されていることです。「どちらを選ぶか」という説明が窓口で先にされなければ、雨漏りを止めたい人は迷わず修理を選びます。それが後から解体の選択肢を閉じるとは、案内を読んだだけでは分かりません。
3つめは、過去の熊本地震でも同じ時間差が起きていたことです。平成28年のとき、熊本市が「制度決定前に解体された場合は関係書類を保管しておいてほしい」と呼びかけていたのは、制度が決まる前に動いてしまう人がそれだけ多かったからです。10年前と同じ場所に、同じ落とし穴が空いています。
足りないのは制度ではありません。「あなたの家は、直して住むのか、壊すのか。先に決めてください」という一言が、修理の申込用紙の隣に置かれているかどうかです。市町村の窓口に行くときは、修理の相談だけで終わらせず、解体を選んだ場合はどうなるかを必ずセットで聞いてください。
生活・仕事にどう効くか
- 修理か解体かの選択:応急修理制度と公費解体は併用できない。熊本県の応急修理は半壊以上で1世帯あたり最大757,000円だが、これを使うと同じ家の公費解体は原則選べなくなる。
- 自分で先に壊した場合:費用は償還されるが、上限は市町村が公費解体すると仮定して算定した基準額(延床面積×構造別単価)まで。業者への支払額がこれを超えた分は自己負担になる。
- 相続登記をしていない実家:申請には所有者全員の同意が要る。所有者不明で建物管理人の選任から始めると、申立てから公費解体の申請までに通常3か月程度かかる。
- 解体前の準備:工事前・工事中・工事後の写真、契約書・見積書・領収書、マニフェストの写しが無いと、後から償還を求めても認められない項目が出る。
結局どうすればよいか
- 屋根や水回りの修理を申し込む前に、その家を直して住み続けるのか、解体するのかを市町村の窓口に相談して決める
- 受付が始まる前でも、り災証明書の申請を済ませ、解体前・工事中・工事後の写真と、契約書・見積書・領収書・マニフェストの写しを必ず残す
- 相続登記が済んでいない実家なら、相続人が誰と誰なのか、連絡先はどこかを今のうちに洗い出す
- 自分の市町村が公費解体の受付をいつ始めるか、要綱で自費解体の契約期限をいつに設定するかを確認する
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公式出典
- 環境省 環境再生・資源循環局 災害廃棄物対策室「公費解体・撤去マニュアル 第2版」(質疑応答集を含む)(2024年2月1日発表)
- 首相官邸「令和8年8月7日(金)持ち回り閣議案件」(特定非常災害の指定に関する政令ほか)(2026年8月7日発表)
- 熊本県「【令和8年熊本地震】被災した住宅の応急修理について」(2026年8月6日発表)
- 環境省「令和8年熊本地震について」(災害対応)(2026年8月7日発表)
- 熊本市「令和8年熊本地震」(2026年8月8日発表)
- 八代市「令和8年熊本地震 関連情報」(2026年8月8日発表)
- 宇城市「令和8年熊本地震(7月28日発生)に関する情報」(2026年8月8日発表)
更新履歴
- 2026年8月8日 初版を公開
※本記事は2026年8月8日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。


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