🗨️「台風で隣の空き家の屋根材が飛んできて、うちの車と雨どいが壊れました。持ち主に修理代を請求できますか。」
請求の土台になる民法717条は、その空き家に「設置又は保存の瑕疵」があったときにしか動きません。傷んでいた証拠が残っていれば所有者は逃げられませんが、手入れされた家が想定外の風で壊れたのなら、条文の入り口に立てません。
[空き家] この記事の要点
気象庁は2026年8月22日12時の実況で、台風18号(ソウデル)を中心気圧970hPa・最大風速35m/sの「強い」勢力と発表しました。23日には「非常に強い」勢力へ発達し、26日には沖縄の南、27日には東シナ海へ進む予報です。台風シーズンに毎年繰り返される「隣の空き家からの飛来物」について、責任の根拠になる民法717条と、自治体が動ける空家法第22条第11項の中身を一次資料で確認しました。
2026年8月22日 発表
- 隣か向かいに、誰も住んでいない家がある人
- 空き家を相続して、遠方から年に数回だけ見に行っている人
- これから台風や強風が近づく地域で、車を家の前に置いている人
この記事でわかること
- 民法717条が所有者に用意している免責の逃げ道は、条文上ゼロであること
- その代わり、請求する側が「設置又は保存の瑕疵」を示す必要があること
- 台風の前に市町村が隣の空き家を壊せる条文はあるが、対象が「特定空家等」に限られること
台風で隣の家の瓦が何枚も落ちてきて、車がべこべこになった。修理すればおそらく100万円。相手は他人の物を壊したときの保険に入っておらず、それでも5万円を出してきた——ところが同居する母親が「自然災害だからもらうべきでない!」と言い、その5万円を隣へ返してしまった。Yahoo!知恵袋に残っている相談です。投稿者は最後に「今思えば、貰ってたらよかった」と書いています。
この母親の判断は、同じことを検索したときに最初に出てくる解説の結論とほぼ同じです。保険会社と屋根修理業者のページは「自然災害は不可抗力だから、原則として請求できない」でそろっています。ところが民法717条を開くと、そう言い切れない場合が条文に書いてあります。
先に結論
- 民法717条は、占有者には「必要な注意をしたとき」の免責を用意しているのに、所有者には用意していない
- その代わり入り口が狭い。動くのは「設置又は保存に瑕疵があることによって」損害が生じたときだけ
- だから勝負は台風の前に決まる。飛んだあとの写真には、飛ぶ前の状態が写らない
- 庭木が倒れてきた場合も同じ条文(第2項で竹木に準用)
- 災害時に市町村が空き家を壊せる条文は2023年12月13日から動いているが、対象は「特定空家等」に限られる
住まいのリスクに対する備え
土地の履歴やリスクを知ったら、次は「起きたときにどうするか」です。最低限そろえておくと動けるものを挙げます。
一から集めると抜けが出ます。まずセットで用意して、家族の人数分と常備薬だけ足すのが早いです。
断水で最初に困るのがトイレです。備蓄で見落とされやすい一方、代用が効きません。
停電時は懐中電灯より、部屋全体を照らせるランタンの方が使えます。電池でも充電でも点くものだと、どちらが尽きても止まりません。
鍵につけて持ち歩けるサイズ。停電や夜道、内見での床下確認にも使えます。備えは「持ち歩けるかどうか」で使用率が変わります。
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民法717条は、所有者に逃げ道を用意していません
条文はこうです。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。(民法第717条第1項)
読む順番は「占有者が先、所有者があと」です。借りて住んでいる人がいれば、まずその人が責任を負う。ただし、その人がやるべきことをやっていたなら、責任は所有者に移ります。
ここで効いてくるのが、ただし書に相当する免責が、所有者の側には書かれていないという点です。占有者は「必要な注意をした」と言えれば外れられますが、所有者にその一文はありません。しかも空き家には住んでいる人がいないので、そのままいきなり所有者の番になります。
分かれ目は「設置又は保存に瑕疵」があったかどうか
ただし、条文の頭には条件が付いています。「設置又は保存に瑕疵があることによって」です。瑕疵とは、その工作物が本来そなえているべき安全性を欠いている状態を指します。
つまり、こういう分かれ方をします。
| 隣の家の状態 | 717条の入り口 |
|---|---|
| 3年放置で屋根材が浮き、雨どいが外れていた | 瑕疵を主張する材料がある |
| 空き家だが屋根も塀も手入れされていた | 入り口に立てない |
| 人が住んでいるが、塀にひびが入ったままだった | まず占有者、次に所有者 |
「隣が空き家だったから当然もらえる」ではありません。空き家であることは瑕疵の証明ではなく、傷んでいたことの証明が要ります。ただし私は、屋根を直す人がいない家ほど、この表の1行目に近づいていくと考えています。
私は、この条文はもらう側にとって台風のあとではなく前に動く条文だと考えています。飛んだあとに撮れるのは「壊れた家」の写真で、そこからは飛ぶ前に浮いていたかどうかが読み取れないからです。裁判所に出すためではなく、相手と話すときの材料として、風が吹く前の1枚が要ります。
庭木が倒れてきた場合も、同じ条文で読みます
717条には第2項があり、「前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する」と書かれています。建物ではないから対象外、とはなりません。枯れた木が支えられないまま立っていたなら、屋根材と同じ土俵に乗ります。
空き家は7.2戸に1戸。1日202戸ずつ増えています
総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査(2023年10月1日現在・確報集計)によると、全国の総住宅数は6,504万7千戸、うち空き家は900万2千戸でした。空き家率は13.8%です。
この2つを割ると、住宅7.2戸に1戸が空き家という計算になります。さらに、賃貸用でも売却用でも別荘でもない、いわゆる放置されがちな空き家は385万6千戸(総住宅数の5.9%)で、こちらは約17戸に1戸です。
| 区分 | 2018年 | 2023年 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 空き家(総数) | 848万9千戸 | 900万2千戸 | +51万3千戸 |
| 賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家 | 348万7千戸 | 385万6千戸 | +36万9千戸 |
| 空き家率 | 13.6% | 13.8% | +0.2ポイント |
調査の間隔は5年(1,826日)です。放置されがちな空き家の増加36万9千戸を日数で割ると、1日あたり約202戸のペースで増えていたことになります(当サイトで算出)。台風のたびに「隣の空き家」を心配する家は、5年前より確実に増えています。
この住所は浸水しやすい場所ですか?
住所を入れると、ハザードマップの指定(浸水・土砂・津波)と地盤の強さをまとめて表示します。無料です。
台風の前に、市役所は隣の空き家を壊してくれるのか
空家等対策の推進に関する特別措置法には、災害時に市町村長が持ち主を待たずに動ける条文があります。2023年12月13日に施行された改正で入った第22条第11項です。
市町村長は、災害その他非常の場合において、特定空家等が保安上著しく危険な状態にある等(略)緊急に除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとる必要があると認めるときで、(略)当該措置をとることを命ずるいとまがないときは、これらの規定にかかわらず、当該特定空家等に係る命令対象者の負担において、その措置を自ら行い、又は措置実施者に行わせることができる。
ただし主語をよく見ると「特定空家等が」です。この条文が動くのは、その家が特定空家等に指定されている場合だけで、指定されていない普通の空き家には使えません。
そして指定と勧告は、思われているほど進んでいません。当サイトで国土交通省・総務省の施行状況調査を集計したところ、令和6年度に勧告が出たのは全国で978件、24道府県はゼロでした。台風の3日前に電話をして、その週のうちに隣の家が撤去される、という筋書きにはなりません。
いちばん早いのは、自分の火災保険です
日本損害保険協会の説明では、住宅総合保険・住宅火災保険はどちらも風災・ひょう災・雪災を補償の対象にしています。契約によっては自己負担額が設定されています。
相手を特定して、瑕疵を示して、支払いを待つ。この経路は、割れた窓を今日ふさぐ役には立ちません。自分の保険で直してから、相手に請求できるかを別途考える。順番はそちらが先です。
そして、自分が空き家を持っている側なら、条文の位置は逆になります。所有者には「注意していた」という免責が用意されていません。年に数回見に行っているだけの家が、来週の風でどこかへ飛ぶかどうかは、屋根の状態が決めます。
生活・仕事にどう効くか
- 車と外壁の修理代:相手に請求するには、その空き家が壊れる前から傷んでいたことを示す必要があります。台風が過ぎたあとに撮った写真では、飛ぶ前の状態が写りません。証拠は台風が来る前にしか撮れません。
- 交渉にかかる時間:空き家の所有者は遠方にいるか、相続で名義が変わっていないことがあります。連絡先を調べる間も、割れたガラスと雨漏りはそのままです。
- 自分の保険:住宅総合保険・住宅火災保険はどちらも風災・ひょう災・雪災を補償の対象にしています(日本損害保険協会)。一部自己負担額が設定されている契約もあります。
- 自分が空き家を持っている側の場合:民法717条の所有者には、占有者に認められている「必要な注意をしたとき」の免責がありません。年に数回見に行っているだけでは、瑕疵を否定する材料にはなりません。
結局どうすればよいか
- 台風が来る前に、隣の空き家を道路側から1枚撮っておく。屋根材の浮き、雨どいの外れ、ブロック塀のひび、道路へ出た枝の4点が写る位置から。飛んだあとでは「前から傷んでいた」を示せない
- 自分の火災保険の証券を出して、風災が補償の対象に入っているか、自己負担額がいくらに設定されているかを確認する。相手との交渉を待たずに直せるのはこの経路
- 空き家の傷みが道路や隣家に及びそうなら、市区町村の空き家担当課に連絡して、その家が特定空家等に指定されているかを聞く。指定されていなければ、災害時の緊急代執行の対象にはならない
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公式出典
- e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)第717条(2026年6月24日発表)
- e-Gov法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十七号)第22条(2023年12月13日発表)
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」(改正法の施行日)(2023年12月13日発表)
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果の概要」(2024年9月25日発表)
- Yahoo!知恵袋「台風の時、隣の家の瓦が車に落ちてきたら?」(記事冒頭で引用した相談)(2026年8月22日発表)
- 日本損害保険協会「火災保険」(2026年8月22日発表)
- 気象庁 台風情報(台風第18号 ソウデル)(2026年8月22日発表)
更新履歴
- 2026年8月22日 初版を公開
※本記事は2026年8月22日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。


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