「経年劣化と判断されたら、もう請求できない」と思われがちですが、そうとは限りません。保険会社の回答はその場での最終決定ではなく、保険法は請求する権利が時効で消えるまでに三年あると定めています。
ただ、この記事でいちばん書きたいのはそこではありません。「もう終わりだ」と思った家に、そのタイミングで訪ねてくる会社があるからです。住宅の修理をめぐる相談は、2010年度の111件から2019年度は2,684件になりました。
この記事でわかること
- ✓ 「経年劣化」と言われたあとに、自分でできる3つのこと
- ✓ 保険会社がその判断に使っている、約款の一文
- ✓ 相談が10年で111件から2,684件になった「保険で修理できます」の勧誘
- ✓ 消費者庁が2024年6月27日に事業者名まで公表した手口
- ✓ 自費で直すと決めたときの、負担の下げ方
読者
屋根を見てもらったら「これは経年劣化ですね」と言われて、その場で話が終わってしまいました。もう打つ手はないですよね?
会話は終わっても、手続きは終わっていません。どこをどう見てそう判断したのかを、まず書面でもらってください。
「経年劣化」と言われても、請求する権利は三年間は消えません
火災保険の請求には期限があります。保険法(平成二十年法律第五十六号)第九十五条第1項は、こう書いています。
保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第六十三条又は第九十二条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。
読み違えやすいところなので、先に線を引いておきます。これは「三年以内なら支払われる」という条文ではありません。三年で請求する権利そのものが時効で消えると決めている条文です。支払うかどうかの判断とは別の話で、だからこそ、経年劣化と言われたその日に手続きを閉じてしまう理由にはなりません。
被害を受けた直後の動き方——片付ける前に撮る、保険証券が見当たらないときに契約先を調べる——は、台風で屋根が飛んだら、直す前に撮るにまとめています。この記事は、その先で「出ません」と言われたあとの話です。
三年が過ぎると、請求そのものができなくなります。去年の台風の分をこれから動かすなら、被害の日付を先に確認してください。
保険会社が「経年劣化」と判断するときに使っている一文
一般社団法人 日本損害保険協会は、住宅修理と保険金についてのページで、支払いの対象にならない損害をこう書いています。
自然の消耗もしくは劣化または性質によるさびなどによって生じた損害はお支払いの対象とはなりません。
この一文が、経年劣化と判断されたときの根拠になります。読むと分かるとおり、争点は壊れているかどうかではなく、何が原因で壊れたかです。同じ瓦のずれでも、台風の日に起きたのか、十年かけて起きたのかで結論が変わります。
だから、こちらが出す材料も「壊れています」ではなく「この日に起きました」を示すものになります。被害の前後で撮った写真、その日の風や雨の記録、近所で同じ日に出た被害。話す相手も、点検に来た会社ではなく、契約している保険会社か代理店です。
経年劣化と言われたあと、自分でできる3つのこと
順番があります。上から順にやると、次に何を言えばいいかが決まります。
- 判断の根拠を書面でもらう。どの部位を、いつ、誰が見て、なぜ経年劣化としたのか。口頭のままだと、次に話す相手に渡せません
- 撮り直す。屋根なら、家全体が入る引きの一枚と、傷んでいる箇所の寄り。撮影日が残る設定にして、被害の前の写真が家族のカメラに残っていないかも探します
- 契約している保険会社に、再調査を依頼する。窓口は点検に来た会社ではなく、保険証券に書かれている会社です
ここまでは費用をかけずに自分でできます。3の再調査で結論が変わらないこともありますが、その場合でも「なぜ変わらないのか」が書面で手元に残ります。次に相談するときの持ち物になります。

読者
被害の前の写真なんて撮っていません。もう無理ですよね?
撮ったつもりのない写真に写っていることがありますよ。家を買ったときの資料、外壁を塗ったときの記録、庭で撮った家族写真の背景。屋根は案外どこにでも写っています。
「もう終わり」と思った家に来るのが、この勧誘です
独立行政法人 国民生活センターは2020年10月1日、「保険金を使って自己負担なく住宅修理ができる」と勧誘されてもすぐに契約しないようにしましょう! という題の注意喚起を出しています。副題は「勧誘・契約が増える秋台風シーズンは特に注意してください」です。台風のあとに増える、と行政側が題名に書いています。
相談件数は、この十年で桁が変わりました。
| 年度 | 相談件数 | 年度 | 相談件数 |
|---|---|---|---|
| 2010年度 | 111件 | 2015年度 | 817件 |
| 2011年度 | 282件 | 2016年度 | 1,082件 |
| 2012年度 | 548件 | 2017年度 | 1,180件 |
| 2013年度 | 690件 | 2018年度 | 1,759件 |
| 2014年度 | 663件 | 2019年度 | 2,684件 |
2019年度の2,684件は、2010年度の111件の約24倍です。日本損害保険協会は、2010年度からの合計を11,261件(2020年8月時点)と公表しています。上の表に2020年度分(8月31日までの1,445件)を足すと、ちょうど11,261件。別々に公表された二つの数字が、一件も違わずに合いました。
ただし、連続した集計が公表されているのは2020年8月31日までです。それ以降どうなったかは公表資料で確認できなかったので、この記事では「今も増え続けている」とは書きません。
消費者庁は2024年6月27日に、この手口の事業者名を公表しています
消費者庁は2024年6月27日、火災保険を使った住宅修理の勧誘について、消費者安全法(平成21年法律第50号)第38条第1項にもとづく注意喚起を公表しました。事業者名を挙げて公表されたもので、令和5年4月以降、各地の消費生活センターに相談が寄せられていた、と書かれています。
公表資料に載っている流れは、こうです。電話で「自宅を無料で点検できる」「火災保険で軒どい等の修理ができる」と勧誘する。訪問して点検する。「このままだと雨漏りをしてしまう可能性が高い」と説明する。そのうえで、火災保険金を利用した修理工事の契約に進む。
同じ資料には、請求する側に起きうることも書かれています。
消費者が、住宅の損害が経年劣化によるものだと知りながら、自然災害による損害であるかのように、うその理由で保険金の支払を請求すると、保険会社から保険金の返還請求や保険契約の解除をされたり、詐欺罪に問われたりすることがある
経年劣化と言われたあとに、その損害を自然災害によるものとして出し直す。そういう手を勧められることがあります。行政の文書に書いてあるのは、その先で起きうることです。わたしは、この記事でいちばん金額が大きく動くのはここだと考えています。出なかった保険金は0円ですが、こちらは0円では済みません。
| 勧誘のときに言われること | 一次情報に書かれていること |
|---|---|
| 保険を使えば自己負担なく直せます | 消費者庁が2024年6月27日に、この文句を使った事業者の名前を挙げて注意喚起を公表している |
| 無料で点検します | 同じ資料に、電話勧誘から契約までの入り口として記載されている |
| 保険金が出なければ費用はかかりません | 出た場合は保険金の一定割合を手数料として払う(国民生活センター)。割合は契約ごとに違う |
手数料が何割になるかは、公表されている一次情報からは確認できませんでした。国民生活センターの資料も「保険金の一定割合」としか書いていません。割合の数字を出しているページを見かけたら、それが何の資料に基づくのかを確かめてください。
国民生活センターの結論は「請求は加入者本人が、まず保険会社へ」
2021年9月2日の発表は、題そのものが結論になっています。「保険金で住宅修理ができると勧誘する事業者に注意!」、副題は「申請サポートを受ける前に、損害保険会社に連絡を 保険金の請求は、加入者ご自身で!!」。
言っていることは二つです。保険金の請求は加入者本人がする。そして最初の連絡先は、契約している損害保険会社。点検に来た会社でも、申請を代行するという会社でもありません。
迷ったときの窓口も、番号が公表されています。
| 窓口(一般社団法人 日本損害保険協会) | 電話番号 |
|---|---|
| 保険金に関する災害便乗商法 相談ダイヤル | 0120-309-444 |
| そんぽADRセンター | 03-4332-5241 |
| 保険金不正請求ホットライン | 0120-271-824 |
読者
もう契約書にサインしてしまいました。解約はできますか?
できるかどうかは契約の形と時期で決まるので、この記事では日数を書きません。契約書の控えを手元に置いて、お住まいの自治体の消費生活センターに、その紙を見ながら相談してください。
保険が使えないと決まったら、直す費用のほうを下げる
再調査でも結論が変わらなければ、自費で直すことになります。ここから先は保険の話ではなく、工事の値段の話です。
同じ工事でも、会社ごとに出てくる金額が違います。屋根は足場代・工法・撤去処分費の見積もり方が会社ごとに分かれるところで、一社だけの数字では、それが高いのか安いのか判断する材料がありません。二社目・三社目の見積もりは、値切るためというより、一社目の内訳を読めるようにするために取ります。
比べるときに見る欄は、合計額ではなく、足場・撤去処分・下地の補修・保証年数の四つです。合計だけ並べると、中身の違う工事を並べて安いほうを選ぶことになります。

この記事では修理費用の相場額を書きません。検索で出てくる金額は屋根工事会社と一括見積もりサイトが自社で出している数字で、官公庁が集計した統計ではないためです。屋根の面積・勾配・材質で変わるので、相場よりも手元の見積もりのほうが当てになります。
修理を頼む前に、見積もりは複数社から取る
台風のあとは「保険金が使えるので自己負担なく直せます」と勧誘してくる業者が増えます。国民生活センターは、保険金の請求は加入者本人が行い、まず契約している損害保険会社へ連絡するよう呼びかけています。修理を頼むときも1社の見積もりで決めず、複数社の金額と工事内容を並べて比べたほうが確実です。屋根見積りnetは、屋根工事の専門業者から無料でまとめて見積もりを取れる比較サイトです。
※ 上記リンクは広告(アフィリエイト)を含みます。
罹災証明書と火災保険のどちらを先に動かすか迷ったときは、家が壊れたとき、罹災証明と火災保険はどっちが先?に、期限の違いを表でまとめています。
わたしはこう考えます
わたしは、経年劣化と言われた日からの一週間が、この件でいちばんお金の動く期間だと考えています。保険が出なかったこと自体は、金額でいえば0円です。動くのは、そのあとです。
「もう終わりだ」と思っているところに、終わっていませんよと言ってくれる人が来る。そのときの気持ちは想像がつきます。だからこそ、玄関を開ける前に言う言葉を決めておくのがいいと思います。今日は決めません、契約している保険会社に自分で連絡します。この二文で足ります。
それと、経年劣化という判断は、家がだめだという意味ではありません。二十年、三十年、風と雨を受け止めてきた結果です。直す順番を決めるのは、保険が出るかどうかではなく、雨が入るかどうかだと思っています。
よくある質問
築何年を過ぎると経年劣化と判断されますか
年数で線を引いた公表基準は見つかりませんでした。日本損害保険協会の文言も、年数ではなく「自然の消耗もしくは劣化」と書いています。築年数だけで決まるものとして説明しているページを見かけたら、その根拠がどこにあるかを確かめてください。
経年劣化という判断に納得できません。どこに言えばいいですか
最初は契約している保険会社です。判断の根拠を書面でもらい、再調査を依頼します。そのうえで話がまとまらないときは、日本損害保険協会のそんぽADRセンター(03-4332-5241)が、保険業法にもとづく紛争解決の支援をしています。
「保険が出なければ費用はかかりません」と言われました
国民生活センターが公表している勧誘の骨子と同じ形です。確かめるのは、出た場合に何割を払うのか、その割合が書面のどこに書いてあるのか。割合は契約ごとに違い、公表された一次情報からは確定できなかったので、この記事では数字を出しません。
出典
- 独立行政法人 国民生活センター「保険金を使って自己負担なく住宅修理ができる」と勧誘されてもすぐに契約しないようにしましょう!(2020年10月1日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20201001_1.html(年度別の相談件数) - 独立行政法人 国民生活センター 保険金で住宅修理ができると勧誘する事業者に注意!(2021年9月2日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210902_2.html(請求は加入者本人が、まず損害保険会社へ) - 一般社団法人 日本損害保険協会 住宅修理サービスに関するページ(2026年7月31日更新)
https://www.sonpo.or.jp/news/caution/syuri.html(合計11,261件、支払いの対象にならない損害の文言、相談窓口の電話番号) - 消費者庁「火災保険を使って実質的に無料で修理ができる」などとうたい、火災保険金を利用した修理工事契約を締結させる事業者に関する注意喚起(2024年6月27日公表)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/038391/(消費者安全法第38条第1項) - 保険法(平成二十年法律第五十六号)第九十五条第1項:e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC0000000056
※ 2026年8月25日時点で各公式サイトに掲載されている内容にもとづいています。相談件数は2020年8月31日までの公表分です。保険金が支払われるかどうかは、契約している保険商品と約款によって決まります。


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