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駅前のサンモール高砂はなぜ解体されないの?

ひび割れの補修跡が残る築古の集合住宅の外壁。上の階には人が住んでいる(イメージ写真)

「駅前の一等地なんだから、さっさと壊してマンションでも建てればいいのに」。閉館したまま9年近く残る建物を見て、そう思った人は多いはずです。ところが、駅前だから再開発が進むとは限りません

兵庫県高砂市、山陽電鉄高砂駅のそばにある旧サンモール高砂は2017年12月9日に閉館しました。3館あったうち南館と東館は解体され、西館だけが残っています。理由は「住民が反対しているから」ではありません。西館の4階から上が分譲マンションで、建物をどうするかを決めるのに部屋の持ち主たちの合意が要るからです。そして2026年4月1日、その合意のルールそのものが変わりました。

先に答え

  • 西館の4階以上は分譲マンション「サンモール高砂ハイツ」。店舗と住宅が一体の「複合用途建物」で、いまも人が住んでいる
  • 改正前の法律では、建物の取り壊しにも敷地の一括売却にも区分所有者「全員の同意」が必要だった
  • 2026年4月1日施行の改正区分所有法で取壊し決議が新設。原則5分の4以上、耐震性の不足など5つの事由があれば4分の3以上に下がった
  • 高砂市は2026年6月の議会で「土地所有者と面談5回、市長が2回本社を訪問。現時点で進展には至っていない」と答弁
  • 築古マンションは部屋ではなく、管理・積立金・耐震・店舗区画・権利関係を買付前に確かめる

自分の街で実際に売れた価格は土地・住宅の相場を調べるから住所を入れて確認できます。出典は最後にまとめました。

目次

開業2日目に9万人が来た駅前モールだった

サンモール高砂の開業は1976年3月6日。高砂市の再開発計画が住民の反対で行き詰まったあと、三菱倉庫が構想を引き継いで開発しました。核店舗は西友ストア高砂店で、専門店が55店。開業から3日間で約18万人、2日目には約9万人が訪れています。当時の高砂市の人口は約8万人ですから、市の人口より多い人が1日でこの駅前に集まった計算です。

特徴は、通路が屋外になる「オープンモール」という形式でした。屋根つきの通路で店をつなぐのではなく、外を歩いて店から店へ移る造りです。当時の日本では珍しく、開放感が売りでした。

客が減った理由は、人口減少ではない

「地方だから人が減って、店も消えた」。そう説明したくなりますが、人口の動きはそれと合いません。国勢調査は2000年が96,020人、2020年が87,722人。2026年6月末の住民基本台帳では85,245人です。減ってはいますが、モールがいちばん客を集めた1976年ごろの約8万人より、いまのほうが人は多いのです。

減ったのは人ではなく店でした。高砂市の小売業の商店数は1985年の1,296店をピークに、2021年には447店まで落ちています。買い物先が動いたためです。姫路や加古川に大型店と郊外型の店がふえ、車で買い物に行く形が当たり前になりました。

ここでオープンモールが裏目に出ます。雨の日や真夏に屋根のない通路を歩いて何軒も回るのはつらい。屋内モールと大きな駐車場を備えた施設が近くにできたとき、比べられる側になりました。ただし構造だけが原因ではなく、2014年には来店客が1日平均約2,500人まで落ちています。

決定打は西友の撤退だった

西友高砂店の売場は7,533平方メートルで、施設全体の約半分を占めていました。その西友が年間約1億円の赤字を理由に2015年4月に撤退を表明。市の要請で営業は同年12月末まで延びましたが、後継のスーパーは決まりませんでした。

核店舗が抜けると連鎖が起きます。食品を買いに来る客が減り、ついでに寄っていた専門店の売上が落ち、退店が出て、空き区画がさらに客を遠ざける。しかも新しいテナントを探そうにも、入れる建物がありませんでした。2018年9月の高砂市議会で、市は「建物は耐震性に問題があり、現在の建物への出店はできない状況」と答えています。

2017年11月の時点で東館に残っていたのは14店舗。開業時に55店あった専門店は、41年かけてゼロになりました。 閉館日は2017年12月9日です。

3館のうち、西館だけが解体されない理由

閉館後、南館は2018年に、東館は2020年に解体されました。跡地はまだ使われていません。残っているのは西館だけです。

西館が他の2館と違うのは、商業部分の上に人が住んでいることです。西館の4階以上は分譲マンション「サンモール高砂ハイツ」で、開業当初は42戸ありました。2026年8月のプレジデントオンラインの記事にも、上層階にいまも住人が暮らしていると書かれています。

1つの建物に店舗・事務所・住宅など複数の用途が同居している建物を「複合用途建物」と呼びます。そして分譲マンションは「区分所有」です。買った人が持っているのは自分の部屋(専有部分)だけで、廊下・外壁・屋根といった共用部分とその下の土地はみんなで共有しています。だから建物そのものをどうするかは1人では決められません。1棟を1社が持つ商業ビルなら会社の判断で壊せますが、西館はそうではない、というのが決定的な違いです。

誤解されやすいので、はっきり書いておきます。「住民が反対しているから解体できない」という事実は確認できていません。住宅部分を含み権利者が複数いる建物は、商業施設1棟の解体・再開発とは手続きの難しさが違う。言えるのはそこまでです。

2026年4月1日、「壊す」のルールが変わった

2025年5月30日に公布された改正区分所有法(令和7年法律第47号)が、2026年4月1日に施行されました。老朽化したマンションの再生を進めるための改正です。

改正前は、建物を取り壊すことにも、建物と敷地をまとめて売ることにも、区分所有者全員の同意が必要でした。1人でも連絡がつかなければ止まります。国土交通省と法務省の資料にも「事実上困難」と書かれていた状態です。

改正後は、取壊し決議・建物敷地売却決議・建物取壊し敷地売却決議の3つが多数決でできるようになりました。要件は建替え決議と同じで、原則は5分の4以上。耐震性の不足など一定の事由があれば4分の3以上まで下がります。連絡先の分からない区分所有者は、決議の母数から外すこともできます。

2026年4月1日施行の改正区分所有法で、建物の取壊しと建物敷地の一括売却は全員同意から5分の4以上の決議へ、耐震性不足など5つの事由があれば4分の3以上に緩和された

要件が下がる「一定の客観的事由」は、耐震性の不足、火災に対する安全性の不足、外壁等の剝落のおそれ、給排水管等の腐食等、バリアフリー基準への不適合の5つです。

私は、この改正が旧サンモール高砂のような建物にとっていちばん大きな変化だと考えています。市が議会で「耐震性に問題がある」と答えている建物は、1つめの事由に当たる可能性があるからです。ただし、この建物で実際に決議が行われたという情報はありません。ここは事実ではなく私の見立てです。

駅前でも「土地に価値がある=すぐ再開発」にはならない

法律が変わっても、再開発が自動的に進むわけではありません。2026年3月の高砂市議会で、市長はこう答えています。高砂町の将来像に直結する課題である。当該地は民間私有地で、開発の主体は所有者である。行政が直接的に事業を実施できる土地ではないため、開発計画の早期公表と着手を要請してきた——。

続く2026年6月の議会では、もっと具体的な数字が出ました。土地所有者はアスクグループホールディングス株式会社。令和7年度は担当者と面談を5回、令和8年度は市長が2回本社を訪問して代表と面会し、早期の開発を強く要請している。それでも現時点で進展には至っていない、というのが市の答弁です。

駅前の土地でも、再開発が成立するには権利者の合意・耐震や建築基準・解体費・建設費・採算の取れる事業計画・商圏・行政との調整が全部そろう必要があり、1つ欠ければ止まります。なお、市が再開発を行うことも、跡地にマンションが建つことも正式には発表されていません。

高砂市の中古マンションは、1年3か月で成約0件だった

ここからは築古マンションを買う人の話です。国土交通省が公表している不動産の取引価格情報を市区町村別に集計したところ、2024年10月から2025年12月の期間で、高砂市の中古マンションの成約は1件も出てきませんでした。同じ期間で加古川市は71件、姫路市は119件、明石市は188件です。

高砂市の中古戸建ての成約坪単価の中央値は築3〜10年88.2万円、築21〜30年35.7万円、築31〜40年19.6万円。同期間の中古マンション成約は高砂市0件、加古川市71件、姫路市119件、明石市188件

高砂市はもともと分譲マンションのストックが少ないとみられるので、この0件を「売れない街」と読むのは行き過ぎです。ただ、売るときに値段の根拠になる近所の事例が手元にない状態ではあります。売り手は値付けに困り、買い手は相場が分からず慎重になります。

戸建てのほうは取引があるので、築年数の効き方が見えます。高砂市で実際に売れた中古戸建ての坪単価の中央値は、築3〜10年が88.2万円、築21〜30年が35.7万円、築31〜40年が19.6万円(2024年10月〜2026年3月・40件)。築年数だけで4.5分の1です。全国規模の検証は「築20年を過ぎれば下げ止まる」は本当かにまとめています。

築古マンションを買う前に確認する7つのこと

問題の形は普通の築古マンションと同じです。1階が店舗で上が住宅、築40年以上、権利者が多い、空き店舗がふえている。この条件が重なるほど、部屋と価格だけを見て決めるのは危うくなります。

管理組合が動いているか

総会が毎年開かれ、議事録が残っているか。理事のなり手がなく、管理会社に丸投げになっていないか。

修繕積立金が足りているか

1戸あたりの積立残高と、次の大規模修繕の見積もりを突き合わせます。足りなければ一時金の請求か、借入か、工事の先送りになります。

長期修繕計画があるか

何年後にどの工事をいくらで、が書かれているか。25年計画が5年前から更新されていないなら、実質ないのと同じです。

旧耐震かどうか

1981年5月31日までに建築確認を受けた建物が旧耐震基準、6月1日以降が新耐震基準です。サンモール高砂は1976年開業なので旧耐震にあたります。耐震診断の有無と結果を確認します。

店舗部分がどうなっているか

店舗が抜けていないか、店舗区画の管理費と修繕積立金が入っているか。ここが滞ると住宅側の負担がふえます。

権利関係が複雑でないか

住宅・店舗・駐車場・敷地の所有関係を見ます。店舗部分を1社がまとめて持っている場合、その1社の議決権の大きさが将来の決議を左右します。

建て替えや取り壊しの話が出ているか

管理組合で検討が始まっているか、周辺に再開発計画があるか。解体にいくらかかるかは実家の解体費用はいくら?で試算しています。

以上は重要事項説明書、管理規約、直近3年の総会議事録、長期修繕計画書、修繕積立金の残高が分かる書類で確認できます。買付を入れる前に、仲介会社にこの5点セットを請求してください。出せない・時間がかかると言われたら、それ自体が管理状態のシグナルです。

その街で実際に売れた価格を調べる(無料) ▶

全国1,525市区町村の成約価格を、種別と築年数の帯で表示します

まとめ:買っているのは、その部屋だけではない

旧サンモール高砂が示しているのは、駅前の一等地でも立地だけでは建物の将来が決まらないということです。上に住宅が乗っていれば1社では決められず、耐震性に問題があれば新しい店も入れず、所有者が動かなければ行政は民間の土地に手を出せません。

マンションを買うとき、あなたが買っているのは自分の部屋だけではありません。建物、土地の共有持分、管理の質、修繕の履歴、店舗区画の空き具合、そして同じ建物にいる他の区分所有者の意思まで、まとめて資産価値に効いてきます。

「駅近だから安心」「古くなったら建て替えればいい」。どちらもそのまま信じるには単純すぎます。2026年4月に取り壊しのルールが緩んだのは前進ですが、それでも5分の4か4分の3の賛成は要ります。買う前に確かめられることは、買う前に確かめておくほうが安く済みます。

出典

  • 高砂市「市議会だより 令和8年第1回臨時会・3月定例会合併号」「同 令和8年第2回臨時会・6月定例会合併号」「同 平成30年9月定例会号」
  • 高砂市「人口統計資料」(令和8年6月末現在)、総務省「国勢調査」
  • 国土交通省住宅局・法務省民事局「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法」説明資料(2025年10月)、法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」
  • 国土交通省「不動産取引価格情報」を art-pi.com が市区町村別に集計。中古マンションは2024年第4四半期〜2025年第4四半期、中古戸建ては2024年第4四半期〜2026年第1四半期(新築=築2年以内を除外、40件)
  • プレジデントオンライン「商店街を飲み込んだのに『西友撤退→2年で廃墟化』…郊外の大型店に飲み込まれた『兵庫の駅前モール』の誤算」(2026年8月)
  • 神戸新聞「サンモール高砂、12月9日で閉館 開業41年」(2017年11月)、都市商業研究所「サンモール高砂、12月9日閉館-西友撤退から2年、再生かなわず」

アイキャッチは記事の内容に合わせたイメージ写真で、サンモール高砂の建物ではありません。

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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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