「相続放棄をすれば、実家の空き家管理からすぐ解放される?」「誰も相続しない家の鍵はどうすればいい?」と不安になる方は少なくありません。
相続放棄が受理されると最初から相続人ではなかった扱いになりますが、放棄時にその空き家を現に占有している人には、引渡しまで保存義務が残る場合があります。放棄の申述と、鍵・書類・現況を次の相続人または相続財産清算人へ引き渡す準備を並行して進めることが大切です。
先に結論
- 相続放棄は、自己のために相続開始があったことを知った時から原則3か月以内に家庭裁判所へ申述します。
- 空き家だけを放棄して預貯金を相続することはできません。権利と義務を一切受け継がない手続です。
- 民法940条は、放棄時に相続財産を「現に占有」している人に、引渡しまで保存義務を定めています。
- 鍵、修繕、写真、支払、連絡の記録を残し、勝手な処分は避けます。
法令・裁判所案内は2026年7月26日時点で確認しています。個別事情は家庭裁判所または弁護士・司法書士へ確認してください。

相続放棄とは
相続放棄は、亡くなった方の預貯金・不動産などの権利と、借金・未払金などの義務を一切受け継がないための家庭裁判所の手続です。「不動産はいらないが預金は受け取る」という財産ごとの選択はできません。
申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申述期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月以内。裁判所の案内では、申述人1人につき収入印紙800円と連絡用郵便料が必要です。
| 選択 | 内容 | 向いている可能性がある場面 |
|---|---|---|
| 単純承認 | 権利と義務をすべて承継 | 資産・負債を把握し相続する場合 |
| 限定承認 | 相続で得た財産の限度で債務を負担 | 債務額が不明で財産が残る可能性がある場合 |
| 相続放棄 | 権利と義務を一切承継しない | 債務超過や管理困難な財産がある場合 |
3か月で調査が終わらないときは、期間内に「相続の承認又は放棄の期間伸長」を家庭裁判所へ申し立てられる場合があります。期限直前まで放置せず、早めに財産と負債を洗い出してください。
放棄後も空き家の保存義務が残るのはどんな人?
民法940条は、相続放棄をした人が「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、自分の財産と同じ注意をもって保存しなければならないと定めています。
つまり、法定相続人であるだけで全国の空き家を無期限に管理し続けるという規定ではありません。一方、実家に住んでいる、鍵を持って事実上管理している、家財を保管しているなど、「現に占有」に当たるかは事実関係で判断が分かれ得ます。
| 状況の例 | 確認ポイント | 行動 |
|---|---|---|
| 亡くなった方と同居していた | 家屋・家財を現に占有している可能性 | 勝手に処分せず、専門家へ早期相談 |
| 遠方で鍵も持たず管理していない | 現に占有しているかを具体的に確認 | 現況と管理者を記録して相談 |
| 相続人全員が放棄する予定 | 次の順位の相続人と清算人選任の要否 | 放棄の順序と引渡し先を整理 |
| 倒壊・漏水など危険がある | 第三者被害を防ぐ緊急性 | 安全確保と記録を優先し専門家へ相談 |
相続放棄を検討するときの手順
1. 3か月の起算点と相続順位を確認する
死亡日だけでなく、自分が法律上の相続人になったことを知った日を確認します。先順位の相続人が全員放棄すると、父母や兄弟姉妹など後順位の人が相続人になる場合があります。家族間だけで決めず、戸籍と放棄受理の状況で確認します。
2. 財産・債務・空き家の状態を調べる
預貯金、借入れ、税金、保証債務、不動産、賃貸借、光熱費、火災保険、管理費を調べます。空き家は外観、雨漏り、通水、施錠、庭木、近隣への影響を写真と日付で記録します。
3. 遺産を処分する前に相談する
遺産の売却や消費は、単純承認と評価される可能性があります。価値のある家財を売る、預金を生活費に使う、不動産を売るといった行為を自己判断で進めないでください。腐敗物の処理や葬儀費用なども事情により判断が分かれるため、記録を残して専門家へ確認します。
4. 家庭裁判所へ申述する

裁判所の案内では、申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍などが共通して必要です。配偶者、子、父母、兄弟姉妹など、申述人の立場によって追加の戸籍が異なります。
5. 受理後に鍵・資料・現況を引き継ぐ
次の順位の相続人がいる場合は、相続放棄が受理されたことと空き家の状態を伝え、鍵、登記資料、税通知、保険、修繕記録を引き継ぎます。全員が放棄し相続人がいない場合は、利害関係人等による相続財産清算人の選任申立てが必要になることがあります。

空き家を引き渡すまでに行うこと
- 玄関・窓の施錠と鍵の本数を確認する
- 雨漏り、漏水、倒木、外壁落下など緊急危険を記録する
- 電気・水道・保険・固定資産税の通知先を整理する
- 近隣や自治体からの連絡内容を保存する
- 修繕や支払をした場合は領収書と理由を残す
- 鍵・書類を引き渡した記録を作る
「保存」は、自由に改装したり家財を売却したりする権限ではありません。第三者被害を防ぎ、財産を滅失・損傷させないための必要最小限の対応を意識します。
よくある質問
実家だけ相続放棄できますか?
できません。相続放棄は、実家だけでなく預貯金やほかの財産、債務を含む相続全体について行う手続です。土地だけを手放したい場合は、要件を満たせば相続土地国庫帰属制度も比較対象になります。
相続放棄が受理されたら固定資産税は払わなくてよいですか?
相続放棄により最初から相続人でなかった扱いになりますが、課税・通知の状況やすでにした行為は個別確認が必要です。受理通知書等を用意し、市区町村の資産税担当と専門家へ確認してください。
家財を片付けてから放棄しても大丈夫ですか?
価値のある家財を売却・廃棄すると単純承認と判断されるリスクがあります。形見分けを含め、処分前に弁護士等へ相談してください。やむを得ない処理をした場合も写真・明細・理由を残します。
全員が放棄したら国のものになりますか?
全員が放棄した瞬間に自動で国へ移るわけではありません。相続財産清算人が財産・債務を清算し、残余財産がある場合に国庫帰属へ進む仕組みです。相続土地国庫帰属制度とも別の手続です。
まとめ
相続放棄が受理されれば最初から相続人ではなかった扱いになります。しかし、放棄時に空き家を現に占有している人は、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで保存義務が残る場合があります。
3か月の期限を確認し、財産・債務・占有状況を調査したうえで、勝手な処分を避けて家庭裁判所の手続へ進みましょう。鍵・写真・支払・連絡の記録を残し、受理後の引渡しまで設計することが重要です。相続して活用・売却する選択肢は住まない実家を相続したときの選択肢で比較できます。
参考資料
- 相続の放棄の申述(裁判所)(確認日:2026年7月26日)
- 裁判手続 家事事件Q&A(裁判所)(確認日:2026年7月26日)
- 民法 第938条~第940条(e-Gov法令検索)(確認日:2026年7月26日)
- 相続・遺産分割(裁判所)(確認日:2026年7月26日)
本記事は一般的な情報提供を目的としています。相続放棄の可否、単純承認、占有・保存義務、清算人選任は事実関係で結論が変わるため、家庭裁判所または弁護士・司法書士へご相談ください。


コメント