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抵当権抹消に期限はありません 兄弟全員の押印も要らず、法務局の必要書類は4点とも有効期限なし

完済した住宅ローンの抵当権を登記簿から消す手続きに、法律上の期限はありません。不動産登記法の本則175か条のうち期限を切って申請を義務づけているのは12か条で、そのどれにも抵当権の抹消は入っていないからです。

ただし、期限が出てくる場所はこの手続きのすぐ横に2つあります。ひとつは金融機関からもらう書類の一部、もうひとつは所有権のほうの登記です。

この記事でわかること

  •  抵当権の抹消そのものに期限は無い。期限つきの義務を置く12か条に抵当権は1つも入っていない
  •  法務局が公表している必要書類は4点とも有効期限「なし」。一覧に印鑑証明書は1点も無く、所有者が押すのは認印
  •  登録免許税は不動産1個につき1,000円。土地と建物の2個で2,000円
目次

兄弟4人。押印を集めるところで止まっていた

2010年9月9日にYahoo!知恵袋へ投稿され、12,855人が読んだ質問があります。共感は500件、回答は3件つきました。

書いたのは、実家の登記簿を見て抵当権が残っていることに気づいた人です。父はすでに亡くなり、実家には母と祖母が住んでいます。子どもは4人。借入は完済しています。

地元にいるの子が私のみで、遠方にいる兄弟全員の押印を得るのに手間と時間がかかります、一人の手続きでできるなら抹消登記をしようと思っています。

登記名義人が死亡し相続登記がされていない状態で、抵当権の抹消ができるでしょうか?

できるのであれば、相続人全員の承諾が必要ですか?

補足には、手元にある物も書かれていました。抵当権設定契約書、弁済証書、登記済証。つまり金融機関から返ってくるはずの物はそろっています。止まっていたのは書類ではなく、遠くに住む3人に連絡して印を押してもらう段取りのほうでした。

読者

名義が親のままなら、まず名義を変えないと何も動かせないのでは?

おかあさん

そう答えた人もいます。ただ回答は真っ二つに割れました。しかも3人とも、この人がいちばん困っている「押印」の話を確かめていません。

回答は「名義変更が先」と「一人でできる」に割れた

投稿から38分後についた1件目は、順番を先に置きました。

所有者に相続が発生した後に抵当権が消滅した場合、抵当権抹消の前提として、相続による名義変更(所有権移転)登記をしなければなりません。

なお、相続する時点で、相続人全員の承諾が必要になります。

1時間18分後の2件目は、逆の答えでした。

借入を完済した日付が、お父様が死亡した日より前なら相続人の一人からの申請でも可能です。

3日後に投稿されてベストアンサーに選ばれたのは、2件目を支持するものです。

他の相続人の承諾は不要です。

この場合の登記申請には、質問者さんがお父様の相続人であることを証明する除籍謄本、戸籍謄本等も必要です。

ベストアンサーはもうひとつ、逃げ道も示しました。

あえて抹消登記せず放っておく、という方法もあります。

根拠は、建物を取り壊したときの滅失登記が、担保の付いたままでもできることです。ただしこの実家には母と祖母が住んでいます。取り壊す予定のない家に、この道は使えません。

3人が論じたのは「順番」と「承諾」で、押印そのものがこの登記で要るのかどうかは、誰も確かめていません。

不動産登記法が「いつまでに」と書いた登記は12か条だけ

不動産登記法の本則を、条文の全文で数えました。枝番号を含めて175か条あります。そのうち、期限を区切って申請を義務づけている条は12か条です。

不動産登記法の本則175条のうち期限つきの義務を置いているのは12条。土地建物の表題部が8条で1か月、相続による所有権の移転が2条で3年、氏名住所の変更が1条で2年、登記官の事務処理が1条。抵当権の抹消に期限を置いた条文は0条
期限が付いているのは、土地建物の形が変わったときと、所有権が動いたとき

内訳は、土地や建物の形や用途が変わったときが8か条(いずれも1か月)、相続で所有権をもらったときが2か条(3年)、所有者の氏名や住所が変わったときが1か条(2年)、残る1か条は登記官の事務処理の話です。

「抵当権」という語は本則の16か条に出てきます。所在の分からない相手を相手にする場合の手続き、解散した法人の担保の扱い、抵当証券のこと。ところがそのどれにも、抹消の期限は書かれていません

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条文は2026年9月10日時点のものを、e-Gov法令検索の提供する法令データから全文取得して数えました

法務局の必要書類は4点とも「なし」。印鑑証明書は一覧に無い

法務局は「抵当権の抹消の登記の申請に必要な書類とその入手先等」という1枚の表を公開しています。列は、対象者・書類の名称・入手先・有効期限・備考の5つです。

法務局が公表する抵当権抹消の必要書類一覧。登記識別情報または登記済証、登記原因証明情報、会社法人等番号、委任状の4点はいずれも有効期限なし。一覧に印鑑証明書は含まれず、所有者が押すのは認印
集める書類は4点。有効期限の欄は、4点とも「なし」で埋まっている

集める書類は4点で、どれも抵当権者である金融機関からもらう物です。登記識別情報または登記済証、解除証書や弁済証書といった登記原因証明情報、会社法人等番号、そして委任状。有効期限の欄は4点とも「なし」です。

自分で作る物は、所有者が書く登記申請書だけ。代理人を立てるときの委任状には、表にこう書き添えられています。

代理人による申請の場合に必要です(所有者が手続する場合は不要です。)。

同じ法務局が出している記載例(令和6年3月29日更新)の注10には、所有者が何を押すかまで書いてあります。

氏名の末尾に認印を押してください。

実印ではなく認印です。だから印鑑証明書が要らず、一覧にも載っていません。

お金の話も記載例に載っています。抹消の登録免許税は、土地または建物1個につき1,000円。記載例の申請書は土地1筆と建物1棟なので、合計は2,000円です。20個以上をまとめて申請するときだけ20,000円で頭打ちになります。

読者

2,000円? 登記っていうから、もっとかかると思っていました。

おかあさん

相続の名義変更は評価額に比例しますが、抹消は個数で決まる定額です。土地1筆と建物1棟なら、家の値段がいくらでも2,000円です。

「3か月」が出てくるのは、記載例の中でたった1か所

「抵当権抹消 期限」で検索すると、委任状の期限、資格証明書の期限切れ、印鑑証明書の期限といった言葉が並びます。心配されているのは、登記そのものの期限ではなく書類の日付のほうです。

では記載例の中で「3か月」はどこに出てくるか。注4と注7の1か所だけです。金融機関の登記事項証明書を添付するときに限り、作成後3か月以内の物でなければならない、と書かれています。

そして同じ注に、その添付を消す方法も書いてあります。申請書の義務者欄に会社法人等番号を書けば、履歴事項証明書や閉鎖登記事項証明書を添える必要がなくなる。番号は金融機関から送られてくる書類に載っていることが多く、法務局でも確認できます。

読者

印鑑証明書の「3か月以内」というのは、何の話だったんでしょう。

おかあさん

不動産登記令に、印鑑証明書は作成後3か月以内でなければならないと書いてあります。ただしそれは、印鑑証明書を出す登記の話です。抵当権の抹消は、規則で添付が要らない側に入っています。

押印と印鑑証明書が要るのは、所有権の登記名義人が「渡す側」に回る登記です。抵当権の抹消では、所有者は権利をもらう側になります。だから規則の除外に当たり、印鑑証明書の出番がありません。

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名義人が亡くなっているとき、増えるのは戸籍だけ

ここまでは所有者が生きている場合の話です。父の名義のままだと、何が変わるのか。

不動産登記法は原則として、登記は権利者と義務者が二人そろって申請するものだと決めています。

権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。

その「別段の定め」のひとつが第62条です。

登記権利者、登記義務者又は登記名義人が権利に関する登記の申請人となることができる場合において、当該登記権利者、登記義務者又は登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人は、当該権利に関する登記を申請することができる。

条文が名指ししているのは「相続人その他の一般承継人」で、全員でとは書かれていません。この条文で申請するときに増える書類は、不動産登記令が1つだけ挙げています。相続があったことを証明する、市町村長や登記官が職務上作った情報。つまり戸籍と除籍です。

不動産登記令の別表には、抹消の登記に添える情報が列挙されています。そこに並んでいるのは、相手の所在が分からないときや相手の法人が解散しているときといった特殊な場合の証明ばかりで、他の相続人の承諾書は1行も出てきません

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相続人1人からの申請で受理されると言い切ったのは知恵袋のベストアンサーであって、法務局が公表している資料ではありません。条文で確かめられるのはここまでです。実際に出す前に、管轄の法務局へ電話で確認してください

神戸で売られた戸建ての46.6%は、35年ローンなら返し終わる年数

この話が他人事でない家は、どのくらいあるのか。国土交通省の不動産取引価格情報から、神戸市9区で売買されたもののうち、種類が「宅地(土地と建物)」で地区が「住宅地」の1,655件を取り出し、建築年が判明した1,580件を数えました。

神戸市9区で売買された戸建て1580件のうち建築1991年以前は736件46.6パーセント。区別では北区56.0パーセント、須磨区51.5パーセント、中央区50.7パーセント、東灘区26.9パーセント
建築1991年以前の家は736件。北区では半分を超える

建築1991年以前、つまり2026年から数えて築35年以上の家が736件で46.6%でした。35年のローンで買っていたとしても、返し終わる年数がたっている計算になります。区別では北区56.0%、須磨区51.5%、中央区50.7%。いちばん低い東灘区でも26.9%です。

数えたのは売買された家であって、相続が起きた家ではありません。全員が35年ローンで買ったわけでもありません。それでも、親が家を買ってから35年以上たっている家は珍しくない、ということは言えます。

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私はこう見ています

私は、この登記が何年も放置される理由は、費用でも制度の難しさでもないと考えています。「兄弟に連絡して印をもらわなければならない」と思い込むところで止まっているのだと見ています。

根拠は3つあります。ひとつは質問文で、この人が挙げた障害は書類でも費用でもなく押印でした。ふたつめは1件目の回答で、その思い込みをそのまま追認しています。

3つめは検索の側です。「抵当権抹消」で検索されている言葉を調べると、費用、必要書類、自分で、期限、オンラインと並びます。ところが「抵当権抹消 兄弟」「親名義 抵当権 残っている」「相続登記していない 抵当権抹消」は、どれも候補が出てきません。兄弟と抵当権を組にして調べている人は、ほとんどいない。それでも、この質問を読んだ人は12,855人いました。

止まっている人は検索していない。だから答えにも届いていない。私はそう読んでいます。

置いたままにすると、何が起きるか

抹消の登記に期限が無いのは事実です。ただし、放っておけば消えるという意味ではありません。民法は抵当権の消滅時効をこう定めています。

抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。

借金が消えなければ抵当権も消えず、登記のほうは誰かが申請しない限り残り続けます。困るのは売るときです。買い手は担保の付いた家を買わないので、売買の日までに消す作業が必ず入ります。相続人の一人が調べればよかった話が、期日の決まった作業に変わります。

そして期限のほうは、抹消ではなく所有権の登記に付いています。相続で所有権を取得した人には3年の申請義務があり、これは2024年から始まった別の話です。名義の話は父名義のまま母も亡くなった実家、名義変更は2回分かかる?にまとめています。手元に権利証が見当たらない場合は権利証を紛失したときの費用のほうを先に読んでください。

日本の街角にある赤い郵便ポスト。登記の申請書は書留郵便で法務局へ送ることができる
法務局へ出しに行く時間が取れなくても、書留郵便で送れる

窓口へ行けない人のために、法務局は郵送の道も用意しています。案内には「郵送による申請も可能です。」と書かれていて、封筒の表に「不動産登記申請書在中」と記載したうえで、書留郵便で送るよう指定されています。

冒頭の質問者は、3件の回答を読んだあとにこう書き残していました。

がんばって自分で抹消登記をしたいと思います。

集める物は金融機関から返ってきた書類、自分で書くのは申請書1枚、押すのは認印、かかるお金は不動産1個につき1,000円。急かす期限はどこにもありません。

出典と集計の条件

  • 不動産登記法(平成16年法律第123号)・不動産登記令(平成16年政令第379号)・不動産登記規則(平成17年法務省令第18号)・民法(明治29年法律第89号)・登録免許税法(昭和42年法律第35号):e-Gov法令検索の法令データを2026年9月10日に全文取得。期限つきの義務を置く条の数え方は、本則の各条で、期限を示す「以内に」と義務を示す「しなければならない」が同じ文に並ぶかどうかで判定
  • 法務局「抵当権の抹消の登記の申請に必要な書類とその入手先等」(令和4年12月2日公開)、同「抵当権抹消登記申請書」の記載例(令和6年3月29日更新)、同「登記申請書の様式及び記載例」
  • 神戸市の集計:国土交通省 不動産取引価格情報(2024年第4四半期〜2026年第1四半期・神戸市9区4,902件)から、種類が「宅地(土地と建物)」で地区が「住宅地」の1,655件を抽出し、建築年が判明した1,580件を集計。建築1991年以前を築35年以上とした。取引時点が四半期ごとに散っているため築年数は±1年の丸めを含む
  • 引用した質問と回答:Yahoo!知恵袋の公開質問(2010年9月9日投稿・12,855閲覧・回答3件)。原文のまま引用しており、脱字も投稿されたとおり
  • 検索候補の語:Googleのサジェストを2026年9月10日に取得

この記事は制度と公開データの説明で、個別の登記手続きの代行や法律判断ではありません。実際の申請の可否は管轄の法務局が判断します。

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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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