「空き家が900万戸もあるなら、実家もいずれ値下がりする」。そう考えて売却を先送りにした結果、14年で坪単価が4分の3になった街が実際にあります。一方で同じ14年に坪単価が3.7倍になった街もあり、どちらも同じ「日本の不動産」です。
空き家の総数は過去最多を更新し続けています。それなのに地価は5年連続で上がっています。この2つは矛盾していません。空き家が積み上がっている場所と、値段が上がっている場所が、そもそも違うからです。
全国100エリアの地価を2012年から2026年まで並べ直したところ、16エリアは14年かけて下落し、33エリアは50%以上値上がりしていました。同じ期間、同じ国での話です。
・空き家が増えても地価が上がる、3つの具体的な理由
・値上がりした街と値下がりした街の実数(坪単価・14年分)
・都道府県の空き家率で自分の家を判断してはいけない理由
まず事実:空き家は過去最多、地価は5年連続で上昇
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、2023年10月時点の空き家は900.2万戸、空き家率は13.84%で、どちらも過去最高です。5年前の調査から51万戸増えました。
一方、国土交通省が2026年3月に公表した地価公示では、全国全用途平均が前年比+2.8%で、5年連続の上昇でした。上昇率はバブル崩壊後で最大です。
家は余っているのに、土地の値段は上がっている。この2つの数字は同じ日本の話です。
理由1:空き家900万戸のうち、売り物として市場に出るのは一部だけ
900.2万戸という数字は、性質のまったく違う空き家を全部足したものです。
このうち385万戸は「その他の空き家」に分類されます。賃貸用でも売却用でも別荘でもない、いわゆる放置空き家です。空き家全体の43%を占め、その74%(285万戸)が一戸建てです。残る約515万戸は、入居者を募集中の賃貸物件や売り出し中の家、別荘などです。
放置空き家385万戸の多くは、買いたい人がいる市場に載っていません。相続の名義が整理されていない、前面道路が狭くて建て替えられない、旧耐震で融資が付きにくい、といった理由です。
つまり「供給が増えたのに値段が下がらない」のではありません。増えた供給が、買い手のいる市場に存在していないのです。駅前のマンションを探している人にとって、山あいの再建築不可の空き家は選択肢に入りません。同じ「住宅」と数えられていても、両者は別の商品です。
理由2:人口が減っても、家を必要とする「世帯」は2030年まで増える
住宅の需要を決めるのは人口ではなく世帯数です。1人暮らしが2つに分かれれば、必要な家は2軒になります。
国立社会保障・人口問題研究所の2024年推計では、世帯総数は2020年の5,570万世帯から増え続け、2030年に5,773万世帯でピークを迎えます。人口が減っている今も、世帯数はまだ増加中です。
平均世帯人員は2020年の2.21人から下がり続け、2033年には1.99人と2人を割り込む見通しです。単独世帯は2036年に2,453万世帯まで増えます。
世帯が小さくなるほど、同じ人口でも必要な住宅の数は増えます。人口減少がそのまま住宅需要の減少にならないのは、この分解が起きているためです。
理由3:空き家が増える街と、値上がりする街が地理的に別
ここからは、私が国土数値情報の地価公示データ(1地点あたり最大41年分の年次価格)を自前で集計した結果です。全国100エリアについて、2012年と2026年の住宅地の平均坪単価を比べました。
| エリア | 都道府県の 空き家率 |
2012年 坪単価 |
2026年 坪単価 |
14年の変化 |
|---|---|---|---|---|
| 福岡市博多区 | 12.40% | 43.2万円 | 160.8万円 | +272.5% |
| 札幌市中央区 | 15.64% | 44.4万円 | 116.3万円 | +161.9% |
| 大阪市西区 | 14.24% | 122.6万円 | 315.4万円 | +157.3% |
| 和歌山市 | 21.25% | 24.6万円 | 23.1万円 | -6.2% |
| 青森市 | 16.74% | 15.2万円 | 13.0万円 | -14.5% |
| 水戸市 | 14.11% | 17.2万円 | 14.6万円 | -15.3% |
| 那須塩原市 | 16.86% | 11.0万円 | 8.3万円 | -24.9% |
福岡市博多区は14年で坪43.2万円から160.8万円になりました。同じ期間、那須塩原市は坪11.0万円から8.3万円へ、4分の3に減っています。上げ幅と下げ幅の差は297ポイントあります。
「日本の不動産」という1つの市場があるわけではありません。値上がりし続ける市場と、値下がりし続ける市場が並んで存在していて、全国平均はその2つを足して割った数字にすぎません。
都道府県の空き家率で自分の家を判断すると、間違えます
上の表でいちばん見てほしいのは札幌市中央区の行です。
北海道の空き家率は15.64%で、全国平均の13.84%を上回っています。空き家率だけを見れば「北海道は家が余っている=値下がりする」と読めます。ところが札幌市中央区の坪単価は14年で+161.9%、2.6倍になりました。
逆の例もあります。兵庫県の空き家率は13.83%で全国平均とほぼ同じですが、県内では姫路市が14年で-3.5%、西宮市が+33.6%と、方向が分かれています。
空き家率は都道府県単位で公表される数字で、市区町村どころか駅ごとに違う実態を平均してしまいます。ニュースで「◯◯県の空き家率は全国◯位」と聞いても、その県のあなたの家がどちらに属するかは何も分かりません。
私はこう見ています
事実として、空き家は900.2万戸で過去最多、地価公示は5年連続で上昇、そして私が集計した100エリアのうち16エリアは14年かけて下落しています。
そのうえで私は、「空き家が増えるから不動産は下がる」という話は全国平均でしか成立せず、個別の家の判断にはまったく使えないと考えています。この言葉を信じて売却を先送りした人が那須塩原市のような街に家を持っていれば、14年で資産価値の4分の1が消えた計算になります。逆に博多区の家を「日本は人口減だから」と早く手放していれば、その後の値上がり分を取り損ねています。
もう一つ。放置空き家385万戸の74%が一戸建てという内訳は、空き家問題の中心が「売れないマンション」ではなく「相続された実家」にあることを示しています。相続で家を受け取った時点で、その家が売れる市場にあるのか、それとも買い手のいない385万戸の側に入るのかは、ほぼ決まっています。決めるのは立地と接道と築年で、持ち主の意思ではありません。
判断を分けるのは全国統計ではなく、その住所の実際の取引価格です。
自分の家がどちらの市場にあるかを調べる
全国平均ではなく、住所単位の実取引データで確認できます。国土交通省が取引当事者に調査して集めた成約価格をもとにした無料ツールです。
全国1,525市区町村・5種別に対応。登録もメールアドレスも不要です。
実家を空き家のまま放置するとどうなるか
実家じまい完全ガイド|相続した家をどうするか
出典と集計方法
- 空き家数・空き家率・都道府県別空き家率:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」(2023年10月1日時点、2024年公表)
- 世帯数の将来推計:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和6(2024)年推計-」
- 地価公示の全国平均:国土交通省「令和8年地価公示」(2026年1月1日時点、2026年3月公表)
- エリア別の坪単価:国土数値情報「地価公示(L01)」の地点データを当サイトで集計。各エリアの住宅地地点の平均を坪単価に換算し、地点の入れ替わりによる断絶を避けるため、隣り合う2年の両方にデータがある地点だけで前年比を出して連鎖させています。地点数はエリアあたり28〜39地点です


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