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家賃値上げを拒否しても追い出されない。怖いのは退去ではなく年1割の利息のほう

「2か月後の更新時から家賃を2万円値上げする」。先月末、管理会社からこんな書面が届き、値上げに応じて更新契約を結ぶか、契約を終了して退去するか、どちらかを連絡するよう求められている——東京都消費生活総合センターが2026年3月に公開した、30歳代男性の相談事例です。

男性は近隣の家賃相場を調べたうえで、値上げ額は相場と比べても高額であり、「給与が上がらない状況で2万円の値上げに応じることは経済的に困難」と話しています。応じれば負担は年24万円の増加。応じなければ退去するしかないようにも読めます。

ただ、この二択は書面の上だけのものです。どれだけ強い調子で書かれていても、通知が届いた時点では、提示された新しい家賃を払う義務はまだ発生していません。東京都はこの相談に、こう答えています。

値上げの通知が届いても、値上げに納得できないときは、直ちに応じる必要はなく、従来どおりの家賃を払っていれば、引き続き住み続けることができます。

出典:東京くらしWEB「賃貸住宅の家賃値上げトラブルに注意!」(2026年3月3日)

先に結論

  • 値上げの通知は決定ではありません。貸主と借主が合意するまで、提示された額を払う義務は発生しません
  • 合意しないまま更新日が来ても、同じ条件で契約は続きます(法定更新)。値上げを断ったことだけを理由に退去させることはできません
  • ただし放置は損です。裁判まで進んで増額が確定すると、不足していた分に年1割の利息が付きます
  • 契約書に「定期建物賃貸借」とある定期借家契約だけは、仕組みが別です
  • 提示額が相場かどうかは、家賃÷専有面積の1㎡単価を市区町村の中央値と並べれば自分で確かめられます

そのうえでこの記事は、解説記事があまり書かない2つに踏み込みます。拒否した側が負うことになる「年1割の利息」という値札と、貸主が根拠にする「近隣相場」を自分の手で確かめる方法です。

目次

値上げの通知が来ても、新しい家賃を払う義務はまだない

貸主が値上げを求めること自体は、違法ではありません。借地借家法32条1項は、税金や建物価格の変動があったときや、近くの似た建物の家賃と比べて釣り合わなくなったときに、契約の途中でも家賃の増減を請求できると定めています。借主の側から「下げてほしい」と請求するときも、根拠は同じ条文です。

ただし、請求できるだけで、決めることはできません。東京都の回答にあるとおり、家賃の変更は貸主と借主の双方の合意で決まります。「値上げのお知らせ」は決定の通知ではなく、金額交渉の申し入れです。

では、合意しないまま更新の日が来たら契約は切れるのか。ここに答えているのが同じ法律の26条1項です。期間の定めがある建物の賃貸借では、期間満了の1年前から6か月前までの間に、貸主から「更新しない」または「条件を変えなければ更新しない」という通知がない限り、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなすとされています。法定更新と呼ばれる仕組みで、更新契約書にサインしなくても、いままでの家賃のまま契約は続きます。

しかも、貸主の側から更新を拒むには、通知だけでなく正当な事由が必要とされていて、値上げを断られたことだけではこの事由になりません。「拒否したら追い出される」は、更新のある普通の賃貸借契約では起きない展開です。

拒否するとどうなる?流れは話し合い→調停→裁判。負けたときだけ年1割の利息

拒否したあとの展開は、3段階です。まず貸主との話し合い。まとまらなければ、増額したい貸主の側が裁判所に調停を申し立てます。家賃の増減の争いは、いきなり裁判を起こすのではなく、まず調停で話し合うことから始める決まりになっています。調停でもまとまらなかったときに、初めて裁判です。

争っている間の家賃はどうなるか。借地借家法32条2項は、増額を正当とする裁判が確定するまでは「相当と認める額」を払えば足りる、と定めています。実務では従前の額を払い続けることがこれにあたり、「従来どおりの家賃を払っていれば住み続けられる」という東京都の回答とも重なります。貸主が受け取りを拒んだ場合に備えて、法務局に家賃を預ける「供託」という制度もあります。

ここまでは、拒否する側に有利な話です。ここからが値札の話になります。

32条2項には、ただし書きがあります。裁判で増額が確定した場合、それまでに足りなかった分に年1割の利息を付けて、さかのぼって払わなければなりません。

たとえば2万円の値上げをめぐる争いが2年続き、裁判で満額の増額が確定すると、不足分の元本だけで48万円。そこに、支払期を過ぎた月ごとの年1割の利息が乗ります。争いが長引くほど、負け筋だったときの支払いは膨らんでいく構造です。

私は、「値上げは拒否できます」とだけ書いて、この年1割の利息に触れない解説を、読者に誠実だとは思いません。拒否は無料ではなく、負けたときの値札が条文に書いてあります。それでも従前の額を払いながら協議する価値があるかどうかは、提示額が相場からどれだけ離れているかで決まります。確かめ方は、このあとの章に書きます。

定期借家契約なら仕組みが別。契約書の「定期建物賃貸借」の文字を確認

ここまでの話が当てはまらない契約が1つあります。定期借家契約です。手元の契約書の表題に「定期建物賃貸借契約」とあれば、答えの前提が変わります。

第一に、定期借家で家賃の改定についての特約がある場合、さきほどの32条(増減の請求と「相当と認める額」の仕組み)は適用されません(借地借家法38条9項)。特約に書かれた決め方が、そのまま効きます。

第二に、定期借家は期間満了で契約が終わり、更新がありません。住み続けるには「再契約」が必要で、再契約は新しい契約ですから、家賃をいくらにするかは白紙から決め直しです。「従前の家賃のまま法定更新」という前の章の話は、ここでは使えません。

これまで更新を繰り返してきた契約なら普通借家で、この章は関係ありません。契約書に「定期」の文字がないかどうかだけ、先に確かめてください。

その値上げ額は相場なのか。家賃を1㎡あたりに直して自分で確かめる

2026年2月14日、Yahoo!知恵袋にこんな質問が投稿されました。住んで6年目の人に届いた書面には、こう書かれていたそうです。

この度の契約更新に伴い、当社:賃貸人の判断にて、現状の近隣相場等に照らして、妥当性があると認識する賃料へ変更させて頂きたく思います。

質問者は「これは拒否することができますか?また、拒否するとしたらなんと伝えれば良いでしょうか」と聞いています。

出典:Yahoo!知恵袋(2026年2月14日投稿)

貸主側が持ち出しているのは「近隣相場」です。偶然ではありません。32条1項が増額の理由として認めているものの1つが「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」だからです。値上げを受けるか断るかの判断材料は、最終的に相場に行き着きます。

実際、相場は上がっています。東京23区のマンション賃料は2026年1〜3月期に前年同期比プラス6.7%で、14四半期連続で過去最高値を更新しました(三井住友トラスト基礎研究所「マンション賃料インデックス」)。値上げの通知そのものは、いまの環境では根拠のない言いがかりとは言い切れません。だからこそ、提示された額が相場の範囲なのか、相場を超えているのかの見極めがすべてになります。

上位の解説記事はどれも「周辺の家賃相場を確認しましょう」と書きます。でも、どうやって確認するかまで書いた記事は見当たりませんでした。手順は割り算1回です。

  1. いまの家賃(共益費を除く)を専有面積で割る。月12万円で40㎡なら、120,000円÷40㎡=3,000円/㎡
  2. 提示された新しい家賃も、同じように割る
  3. 住んでいる市区町村の「1㎡あたり家賃の中央値」と並べる

当サイトでは、総務省の住宅・土地統計調査(令和5年)をもとに、全国1,526市区町村について共同住宅の1㎡あたり家賃の中央値を集計しています。いくつか並べます。

市区町村 1㎡あたり家賃の中央値 集計のもとになった戸数
東京都世田谷区 2,973円 210,100
大阪市北区 2,450円 52,930
神戸市中央区 2,048円 51,750
兵庫県芦屋市 1,374円 11,430

自分の街の数字は、当サイトのかんたん相場検索(賃貸相場)で出せます。住所を書き換えれば全国1,526市区町村で同じ確認ができます。市名だけだと別の県の同じ地名に当たることがあるので、都道府県名から入力してください。

読み方に、偏りが1つあります。1㎡あたりの家賃は狭い部屋ほど高く出るため、この中央値はワンルームに引っ張られて高めに寄ります。広めの部屋の㎡単価が中央値を下回るのはそのせいで、逆に中央値より高いからといって、ただちに相場超えとは言えません。狭い部屋では、それが普通だからです。

効くのは逆向きです。ワンルームで持ち上がった中央値ですら、いまの家賃が下回っているなら、少なくとも「この街の水準より高い家賃を払っている」状態ではありません。そのうえで提示額が中央値を超えてくるなら、何を根拠に「近隣相場」と言っているのか、比較した物件の資料を出してもらう足場になります。知恵袋のこの質問に付いた回答にも、まず貸主に具体的な比較資料の提示を求めるよう助言するものがありました。

月額で見るか㎡単価で見るかで、街の高い安いの順位が入れ替わることもあります。兵庫県では、月額の家賃が県内1位の芦屋市が、1㎡あたりに直すと尼崎市を下回ります。詳しくは芦屋と尼崎の家賃を1㎡あたりで比べた記事に書きました。

このエリアの相場はいくらですか?

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返事の仕方。「拒否します」ではなく「今の家賃で更新を希望します」と伝える

通知が来たあとに実際にやることは、4つです。

  1. 期限までに返事をする。電話で済ませず、メールか書面で記録を残す
  2. 伝える内容は2点。「増額には同意しかねます」「従来の条件(家賃◯円)での更新を希望します」。対決の宣言ではなく、協議を続けるという意思表示です
  3. あわせて、値上げの根拠を尋ねる。比較している近隣物件の資料を出してもらえるよう頼む
  4. 従来どおりの家賃を、いままでどおりの方法で払い続ける

返事はする。今の家賃は払い続ける。この2つを守っている限り、法律上の立場は崩れません。逆にいちばん危ないのは、納得できないからと家賃そのものを払わないことです。それは値上げへの抗議ではなくただの滞納で、貸主に契約解除の理由を与えます。

この記事で書けるのは、制度のしくみと相場の調べ方までです。個別の事案の結論は契約内容と経緯で変わるので、判断に迷うときは消費者ホットライン(188)や、自治体の無料法律相談・弁護士に相談してください。

最後に、もう1つの答えも書いておきます。調べた結果、提示額が相場の範囲に収まっていて、この先も上がり続けそうな街なら、交渉を続けるより住み替えるほうが答えになることがあります。家賃を払い続けるか買ってしまうかの損得は、住んでいる街によって反転します。そして部屋を探し始めるなら、問い合わせる前におとり物件の見分け方に目を通しておいてください。相場からかけ離れて安い部屋ほど、値上げに疲れた人に刺さるように置かれています。

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よくある質問

家賃の値上げ通知を無視するとどうなりますか?

無視しても、値上げに合意したことにはなりません。ただし話が消えるわけでもなく、貸主が調停を申し立てれば手続きは進みますし、裁判で増額が確定すれば不足分に年1割の利息が付きます。もう1つ、値上げ後の額を異議を伝えないまま払い続けると、あとから「同意していた」と扱われる余地が生まれます。放置や黙った支払いではなく、「同意していない」という返事を記録に残すほうが安全です。

値上げを拒否したら、更新を断られて退去になりませんか?

更新のある普通借家契約なら、値上げを断ったことだけを理由に退去させることはできません。期間満了の1年前から6か月前までに貸主からの通知がなければ、同じ条件で契約は法定更新されます(借地借家法26条1項)。契約書に「定期建物賃貸借」とある定期借家契約は期間満了で終わる契約なので、この答えは当てはまりません。

値上げを拒否している間、家賃はいくら払えばいいですか?

従来どおりの額です。借地借家法32条2項は、増額を正当とする裁判が確定するまでは「相当と認める額」を払えば足りるとしていて、従前の家賃を払い続けることがこれにあたります。貸主に受け取りを拒まれたときは、法務局に預ける供託という制度があります。自分の判断で減額したり、支払いを止めたりはしないでください。

この記事の根拠

  • 借地借家法26条1項(法定更新)・32条1項(借賃増減請求)・32条2項(相当と認める額・年1割の利息)・38条9項(定期建物賃貸借の特約)。条文はe-Gov法令検索で2026年8月22日に確認
  • 相談事例と回答:東京くらしWEB「賃貸住宅の家賃値上げトラブルに注意!」(東京都消費生活総合センター・2026年3月3日)。引用は同ページの文言のまま
  • 読者の声:Yahoo!知恵袋 2026年2月14日投稿。引用は質問ページの文言のまま
  • 東京23区の賃料:三井住友トラスト基礎研究所「マンション賃料インデックス」2026年1〜3月期(2026年8月22日閲覧)
  • 1㎡あたり家賃の中央値:総務省統計局「住宅・土地統計調査」(令和5年)の借家の家賃(共同住宅)の家賃階級別分布から、当サイトが市区町村ごとに中央値を補間して算出。5年に1度の調査のため、足元の募集家賃とはずれることがあります。集計日2026年8月22日
  • この記事は制度と統計の説明であり、個別の法的助言ではありません。個別の事案は消費者ホットライン(188)・弁護士等の相談窓口へ
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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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