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使わない畑を相続した人へ|宅地に転用する費用と、転用せずに手放す3つの道

同じ1,000平方メートルの畑を国に引き取ってもらうのに、負担金が20万円で済む人と112万8,000円かかる人がいます。分かれ目は畑の広さでも状態でもなく、その畑が農用地区域の中にあるかどうかだけです(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令5条)。転用して売る・農家に売る・国に渡す・相続放棄という4つの出口も同じで、どれを選べるかは持ち主の意思ではなく、畑がどの区域に置かれているかで先に決まっています。

先に結論

  • 最初にやるのは役所での3つの確認。①農用地区域か ②市街化区域か調整区域か ③建物が建っていないか
  • 農用地区域内の農地は、宅地への転用が原則として許可されない(農地法4条6項1号イ)
  • 市街化区域内の農地なら、転用は知事の許可ではなく農業委員会への「届出」で足りる
  • 納屋や作業小屋が建っていると、国に引き取ってもらう制度は申請そのものができない
  • 相続放棄で畑だけを手放すことはできない。預金も自宅もまとめて放棄になる
💬 Aさん「父が亡くなって、畑が2枚残りました。私は会社員で農業はしません。売れる土地に変えられませんか」
💬 相続経験者Bさん「その相談、農業委員会に電話する前に地図を1枚もらいに行った方がいい。うちは先に不動産会社に聞いてしまって、3か月無駄にしました」
目次

役所で最初に調べる3つ。これで出口が2つ消える

畑を相続したあと、不動産会社や解体業者に電話するより先に、市町村の窓口で次の3点を確認します。順番はこのとおりです。

相続した畑で最初に確認する3つ

① 農用地区域に入っているか
窓口は農林担当課。ここに入っていると、宅地への転用は原則として許可されません。除外の手続きはありますが年に数回の受付で、通るとは限りません。

② 市街化区域か、市街化調整区域か
窓口は都市計画担当課。市街化区域なら転用は農業委員会への届出で済みます。調整区域なら知事等の許可が要り、さらに建物を建てるには別の許可も要ります。

③ 建物・工作物が残っていないか
納屋、作業小屋、コンクリート基礎のビニールハウス。これがあると国に引き取ってもらう選択肢が消えます。

この3つを確かめるだけで、4つの出口のうち2つはその場で消えます。周辺の宅地がいくらで動いているかはかんたん相場検索で先に見ておくと、次の話が具体的になります。

私は、相続した畑の相談をいきなり「転用できますか」から始めるのは順番が逆だと考えています。転用の可否を決めるのは農業委員会と都市計画であって、持ち主の希望ではありません。区域を先に調べれば、選べない道に時間を使わずに済みます。

出口は4つ。手続き先と費用を並べる

出口 手続き先 かかるお金
宅地に転用して売る 農業委員会・都道府県知事等 造成費・測量費・手続き費用(見積もり次第)
農地のまま農家に売る 農業委員会(農地法3条) 手続き費用のみ。売値は宅地より低い
国に引き取ってもらう 法務局(相続土地国庫帰属) 審査手数料14,000円/筆+負担金20万円〜
相続放棄 家庭裁判所 収入印紙800円+郵便切手。ただし全財産を放棄

金額が「見積もり次第」となっている行が1つあります。転用と造成の費用です。ここは公的な単価表が見当たらないため、この記事では金額を書きません。ネットで見かける「農地転用は◯万円」という数字は、行政書士事務所ごとの報酬表か、業者が自社の施工事例から出したものです。自分の畑の数字は、現地を見た人の見積もりでしか出ません。

ただし、見積もりを取る前に決めておくことがあります。転用して宅地にしたとき、その土地がいくらで売れるのかです。転用と造成に出せる上限は、そこから逆算するしかありません。同じ市区町村の宅地が実際にいくらで取引されているかは、国土交通省の実取引データで確認できます。

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宅地に転用して売る|4条と5条の違いで、手続きする人が変わる

農地転用の条文は2本あります。名前が似ていますが、動く人が違います。

  • 農地法4条——「農地を農地以外のものにする者」が許可を受ける。自分の畑を自分で宅地にする場合
  • 農地法5条——転用する目的で売買や賃貸をする場合。売主と買主の当事者双方が許可を受ける

相続した畑を「宅地にしてから売る」なら4条、「家を建てたい人に売って、その人が宅地にする」なら5条です。手間と持ち出しが少ないのは5条で、造成費を買主側の計画に乗せられます。4条で先に自分が宅地化すると、造成費を全額立て替えたうえで買い手を探すことになります。

市街化区域の農地は「許可」ではなく「届出」

農地法4条1項7号は、市街化区域内の農地を「あらかじめ農業委員会に届け出て」転用する場合を、知事等の許可の対象から外しています。5条にも同じ扱いがあります。つまり市街化区域内の畑は、届出だけで宅地に変えられるということです。ここに入っている畑を相続した人は、4つの出口のうち最初の1つがそのまま使えます。

市街化調整区域の畑は逆で、知事等の許可が要ります。しかも農地法4条6項1号は、農用地区域内の農地と、集団的に存在する良好な営農条件を備えた農地について、原則として許可できないと定めています。まとまった農地の真ん中にある1枚は、ここで止まります。

転用の許可が下りても、家が建つとは限らない

上位の解説記事がほとんど書かないのがここです。農地転用の許可は「農地をやめてよい」という許可であって、「建物を建ててよい」という許可ではありません。市街化調整区域では、都市計画法の開発許可・建築許可が別に必要で、34条の各号のいずれかに当たると認められなければ許可されません。

つまり調整区域の畑は、農地法をクリアしても都市計画法で止まることがあります。買い手側から見ると「家が建つか分からない土地」で、価格がつきにくくなります。どちらの許可が必要かは自治体ごとに運用が違うので、農業委員会と都市計画担当課の両方に必ず確認してください。

💬 Aさん「農業委員会がいいと言えば、あとは造成だけだと思っていました」
💬 相続経験者Bさん「うちの集落もそれで一度つまずきました。農地の許可と、家を建てる許可は別の窓口です」

納屋やビニールハウスが建っている畑は、壊す順番が先に来る

相続土地国庫帰属法2条3項は、承認申請ができない土地を5つ挙げています。その1つ目が「建物の存する土地」です。畑の隅に建つ農機具小屋、コンクリート基礎の育苗ハウス、朽ちた作業場。これらが残っている限り、国に引き取ってもらう申請は受け付けられません。

同法5条1項も、通常の管理や処分を妨げる工作物・車両・樹木が地上にある土地、除去しないと使えない有体物が地下にある土地を不承認の対象にしています。埋めたままの浄化槽や古い基礎も、ここで引っかかります。

だから「国に渡す」を検討する畑では、解体が最初の工程になります。田畑の中の小屋は重機の進入路が取れるかで金額が変わるので、同じ条件で複数社に見積もりを出させて、進入路の造作費が本体に含まれているかを比べてください。

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農地のまま農家に売る|3条の許可がいる

転用せずに売る道もあります。農地法3条は、農地の所有権を移す場合に当事者が農業委員会の許可を受けることを求めていて、許可の基準として「取得する農地の全てを効率的に利用して耕作の事業を行うと認められない場合」などを不許可事由に挙げています。要するに買い手が農業をやる人に限られます。

条文には取得後の面積の下限は書かれていません。かつて許可の要件だった下限面積は制度から外れたので、小さな畑でも買い手が見つかる余地はあります。ただし価格は宅地の水準にはなりません。近所の農家、集落の営農組合、市町村の農地バンク(農地中間管理機構)の3つに当たるのが実際的です。

国に引き取ってもらう|負担金は20万円と112万8,000円に分かれる

相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈で取得した土地を国庫に帰属させる仕組みです。審査手数料は土地1筆あたり14,000円(法務省)。承認されると負担金を納めます。この負担金の額が、農地では2つに割れます。

政令5条1項2号は、農地のうち市街化区域内・農用地区域内・土地改良事業の施行区域内にあるものを面積比例で計算すると定めています。どれにも当たらない農地は、4号の「その他の土地」として一律20万円です。実際に計算するとこうなります。

畑の広さ 農用地区域などの中 どれにも入らない
300㎡ 553,000円 200,000円
500㎡ 723,000円 200,000円
1,000㎡ 1,128,000円 200,000円
2,000㎡ 1,868,000円 200,000円

(政令5条1項2号の算式による。250㎡超500㎡以下は地積×850円+298,000円、500㎡超1,000㎡以下は地積×810円+318,000円、1,000㎡超2,000㎡以下は地積×740円+388,000円。千円未満は切り捨て)

同じ1,000㎡の畑でも、農用地区域の中と外で負担金が5.6倍違うことになります。負担金は通知が届いた日の翌日から30日以内に納めることになっていて、期限を過ぎると承認が失効します。

この設計を、私はやや酷だと考えています。管理コストが高い優良農地ほど負担金を厚く取る建て付けは制度として筋が通っていますが、相続人の側から見ると、農業をやる気のない人が引き継いだ優良農地こそ一番出口が塞がれる形になっているからです。

なお、境界が分からない土地、所有権に争いがある土地、担保権がついている土地も申請できません(同法2条3項)。相続登記が終わっていない畑もこの手前で止まります。登記の期限は相続登記はいつまで?2027年3月31日が期限になる人と手続きの進め方にまとめています。

相続放棄|畑だけを捨てることはできない

相続放棄は、家庭裁判所への申述で行います。期間は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内、費用は収入印紙800円(申述人1人につき)と連絡用の郵便切手です(裁判所)。

ここで見落とされるのが、放棄は財産の選り好みができないという点です。放棄すると被相続人の権利も義務も一切受け継がないので、要らない畑と一緒に、預金も実家も生命保険金以外の財産もすべて手放すことになります。畑の負担金112万円を避けるために、2,000万円の実家を放棄する人はいません。

相続放棄が現実的な選択になるのは、畑を含む相続財産の合計がマイナスに振れている場合だけです。金額を並べて比べる作業を、3か月の中でやりきる必要があります。

やめたほうがいい畑|転用費用を回収できない3つの条件

「転用できます」とだけ書いてある記事は、転用したあとに売れるかどうかを書いていません。次の3つに当たる畑は、私は転用に踏み込まない方が手残りが多いと考えています。

  1. 市街化調整区域にあり、開発許可の見込みが立っていない——農地法をクリアしても家が建たない土地は、買い手が現金の実需に限られます
  2. 接道がない、または農道にしか接していない——建築基準法上の道路に接していない土地は、造成費をかけても建物が建ちません
  3. 周辺の宅地単価が低い——売値の天井が低いと、造成費と測量費で利益が消えます

3つ目は数字で見た方が早いので、実データを出します。国土交通省の2026年地価公示で、神戸市西区の住宅地の調査地点は33か所あります。用途地域の中にある27地点の1平方メートル単価は中央値89,100円。いっぽう、用途地域の指定がない区域(押部谷町・岩岡町・神出町・平野町・櫨谷町・伊川谷町前開の集落)にある6地点は、17,200円から25,000円に固まっています。中央値は20,050円で、その差は約4.4倍です。

もう1つ、この6地点には共通点があります。6地点とも、前年からの変動率が0.0%でした。同じ西区でも用途地域内の住宅地27地点のうち22地点は上昇していて、学園西町の地点は前年比5.5%上昇の174,000円です。最安の神出町田井(17,200円)とは10倍の開きがあります。

数字が意味するのは、こういうことです。神出町田井の調査地点は676㎡で、すでに家が建っている住宅地です。宅地としての評価がこの単価なら、676㎡で1,163万円。ここから仲介手数料と測量費を引いた残りが、造成にかけられる上限になります。畑のまま相続した土地は、まだこの土俵にも乗っていません。ちなみに同じ西区の林地3地点は1平方メートル780円から1,120円です。

判断の順番は「造成にいくらかかるか」ではなく、「造成にいくらまでなら出せるか」を先に決めることです。上限を決めずに見積もりを取ると、業者の提示額がそのまま基準になってしまいます。

相続した畑で、今週やる3つのこと

今週の3手

1|市町村の農林担当課に電話して、農用地区域かどうかを聞く
地番を伝えれば答えが返ってきます。ここが「入っている」なら、転用と国庫帰属の負担金の両方で不利になります。

2|都市計画担当課で市街化区域か調整区域かを確認する
市街化区域なら転用は届出で済みます。調整区域なら、家が建つ土地かどうかを同じ窓口で聞いておきます。

3|畑の上にある建物・工作物を写真に撮る
小屋、基礎、井戸、埋設物。国庫帰属を使うなら、これらの撤去が最初の工程になります。

住所から相場・学区・災害リスクをまとめて見るなら住所まるごとチェックが早いです。畑と一緒に実家も相続した場合の進め方は実家を相続したけど住まない人におすすめの選択肢3選にまとめています。

まとめ

  • 出口は4つ。どれを選べるかは、農用地区域か/市街化区域か/建物があるか、の3点で先に決まる
  • 市街化区域内の農地は、転用が農業委員会への届出で足りる(農地法4条1項7号)。農用地区域内の農地は原則として許可されない(同6項1号イ)
  • 自分で宅地にしてから売るなら4条、転用目的で売るなら5条。造成費の立て替えが少ないのは5条
  • 国に引き取ってもらう負担金は、1,000㎡の畑で農用地区域の外なら20万円、中なら112万8,000円。審査手数料は1筆14,000円
  • 納屋や基礎が残っていると国庫帰属は申請できない。解体が先に来る
  • 相続放棄は3か月以内・印紙800円だが、畑だけを捨てることはできない
  • 造成費の上限は「周辺の宅地単価から逆算して先に決める」。見積もりを取ってから考えると業者の提示額が基準になる

区域の判定も許可の運用も自治体ごとに違います。この記事の内容をそのまま自分の畑に当てはめず、農業委員会と都市計画担当課で必ず確認してください。

※ 本記事には広告(アフィリエイトリンク)が含まれます。紹介しているサービスは、記事の内容に関連するものを編集方針にもとづいて選んでいます。
※ 法令・制度の内容は2026年8月時点の条文にもとづきます。実際の可否・金額は自治体および所管官庁の判断によります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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