住宅の応急修理を申し込むと、原則として応急仮設住宅には入れません。逆に仮設住宅へ入居すると、応急修理は使えなくなります。修理費の上限は1世帯757,000円(2026年8月時点・大規模半壊〜半壊)、仮設住宅は最長2年ぶんの住まいそのもの。どちらを取るかで、この先2年の住まいと、自分の財布から出る金額が変わります。
先に結論
- 応急修理と応急仮設住宅は原則どちらか一方。自治体の対象要件に「応急仮設住宅を利用しないこと」と書かれている
- 応急修理の限度額は1世帯757,000円以内(大規模半壊・中規模半壊・半壊)。準半壊は367,000円以内(2026年8月時点=令和8年度の基準)
- 直せば住み続けられるなら応急修理、住める状態に戻らないなら仮設住宅
- 例外あり。修理工事が1か月を超える見込みなら、修理中だけ賃貸型応急住宅(みなし仮設)に原則6か月以内で入れる
- 自分で業者に発注して代金の支払いまで済ませると、応急修理は使えなくなる
応急修理と仮設住宅が「どちらか一方」になる理由
住宅の応急修理も応急仮設住宅も、災害救助法にもとづく救助です。どちらも目的は同じで、避難所を出て当面の住まいを確保すること。同じ目的の救助を二重に受けない設計になっているため、片方を選ぶともう片方が閉じます。
自治体の案内文にも、そのまま書かれています。茨城県は応急修理の対象者の要件として「応急仮設住宅を利用しないこと」を挙げています。熊本県益城町は、より具体的に「応急仮設住宅(みなし仮設住宅、町営住宅を含む)に入居していないこと」と書いています。ここで言う仮設住宅には、建設型・賃貸型(みなし仮設)だけでなく、一時提供される公営住宅も含まれる場合があるということです。
ただし、この線引きは全国一律に固定されているわけではなく、災害ごとに自治体が定める要件です。大規模な災害では運用が緩められることもあります。最終的な可否は、罹災証明書を出す市区町村の窓口で必ず確認してください。
まだ被災していない状態でこの記事を読んでいるなら、自宅がどの災害で被害を受けやすいかを先に見ておくと、いざというときの判断が早くなります。災害リスク診断に住所を入れると、洪水・土砂災害・地震のリスクを無料で確認できます。
応急修理でいくらまで直せるか
限度額は罹災証明書の判定区分で分かれます。
| 罹災証明書の判定 | 1世帯あたりの限度額 |
|---|---|
| 大規模半壊・中規模半壊・半壊 | 757,000円以内 |
| 準半壊 | 367,000円以内 |
| 全壊 | 修理により引き続き居住できる場合は対象にできる |
この757,000円という額は、年度ごとに見直されます。令和6年能登半島地震のときに石川県が案内していた限度額は706,000円、準半壊は343,000円でした。2年で5万円ほど上がっている計算です。自分の災害でいくらになるかは、住んでいる自治体が出している案内の金額を見てください。過去の記事や他県の案内を見て金額を覚えると、そのままずれます。
対象になるのは「日常生活に必要欠くことのできない部分」です。茨城県は、屋根・基礎・柱・内壁・外壁・床などの基本部分、ドアや窓などの開口部分、配管・配線、トイレや浴室などの衛生設備を挙げています。壁紙の貼り替えや外構は入りません。
もうひとつ、見落とされやすい要件があります。中規模半壊・半壊・準半壊の判定を受けた世帯には「自らの資力では応急修理を実施することができない者」という条件が付きます(茨城県の案内)。申請書類に「資力に係る申出書」が含まれるのはこのためです。
応急修理か仮設住宅か、状態別の判断表
家の状態と見積り額を突き合わせると、選ぶ側はだいたい決まります。
| 家の状態 | 選ぶ制度 | 決め手 |
|---|---|---|
| 半壊・中規模半壊で、屋根と水回りを直せば住み続けられる | 住宅の応急修理 | 757,000円以内で自宅に戻れる。引っ越しも、2年後の退去もない |
| 全壊・全焼・流出で、修理では住める状態にならない | 応急仮設住宅 | 修理という選択肢が実質ない。最長2年の住まいを先に確保する |
| 大規模半壊・半壊だが、傾きや基礎の損傷で住宅として使えない | 応急仮設住宅 | 仮設住宅の入居対象に「半壊でも住宅として利用できない場合」が含まれる |
| 見積りが限度額を大きく超え、直しても住み続ける見通しが立たない | 応急仮設住宅 | 超過分は全額自己負担。修理に踏み切る前に見積りを取る |
| 修理はできるが、工事に1か月以上かかる | 応急修理+修理期間中の賃貸型応急住宅 | 例外として認められている組み合わせ。入居は原則6か月以内 |
表の上から3行目は、判定区分だけを見ていると読み落とします。応急仮設住宅の入居対象は「全壊」だけではありません。佐賀県玄海町の案内では、住宅が全壊・全焼・流出等の被害を受けた人に加えて、「住宅の被害は半壊または大規模半壊であっても、住宅として利用ができない方」、地すべりなどで長期にわたり自宅に住めない人が対象に含まれています。半壊の紙をもらったから応急修理しかない、と決める前に、いま実際に住める家なのかを窓口で伝えてください。
限度額を超える見積りが出たときの考え方
工務店から出てきた見積りが90万円だったとします。応急修理の限度額757,000円との差はおよそ15万円。この15万円を自分で払って自宅に戻るのか、仮設住宅へ移って修理は落ち着いてから考えるのか。ここが実際にいちばん迷うところです。
判断の材料は2つあります。ひとつは、直したあとその家に住み続けるのかどうか。いずれ解体して建て替える、あるいは別の場所へ移ると決まっているなら、応急修理に自己負担を足す意味は薄くなります。もうひとつは、応急修理を使った時点で仮設住宅への切り替えが原則できなくなること。この選択は片道です。迷っているうちは、まず見積りを取ることを優先してください。
ここからは私の見方です。私は、この二者択一を「被災者に厳しい制度」だとは見ていません。応急修理も仮設住宅も、狙いは避難所を出て住まいを確保することで一致しています。両方を受けられる設計にすれば、住まいのない人に回る分が減ります。ただし、その理屈が成り立つのは修理の見積りが限度額の中に収まる場合だけです。757,000円では住める状態に戻らない家に応急修理を当てても、避難所を出るという目的は達成できません。だからこそ、申し込む前に見積りを取ることが、この制度でいちばん効く一手だと考えます。
修理が終わるまでの数週間も、仮設住宅へ移るまでの間も、生活の負担を左右するのは水・照明・簡易トイレといった手元の備えです。
修理中の仮住まいはどうするか
「どちらか一方」の原則には、はっきりした例外が用意されています。内閣府の通知「応急修理期間中における応急仮設住宅の使用について」にもとづく取扱いで、応急修理の期間が1か月を超えると見込まれ、住宅が半壊以上の被害を受けている場合は、修理が終わるまでの間、応急仮設住宅を使えます。
期間は原則6か月以内です。益城町の案内では、応急修理の申し込み日を開始日として、原則6か月以内の間、賃貸型応急住宅(みなし仮設住宅)に入居できるとしています。玄海町も同じく「原則最長で6か月間」と書いています。
これは併用が自由にできるという話ではありません。修理が終われば退去する前提の一時利用で、通常の応急仮設住宅の供与期間(最長2年)とは別枠です。屋根と外壁を全面的に直すような工事で、その間の宿をどうするかという現実的な問題に対する答えがこれです。見積りを取る段階で、工期が1か月を超えるかどうかを業者に確認しておいてください。この一言で、修理中の住まいの選択肢が変わります。
申し込む前にやってはいけないこと
屋根に穴が空いて雨が入ってくる。たまたま近所に来ていた業者に「すぐやります」と言われ、その場で契約書にサインして、後日代金を振り込んだ。——この時点で、応急修理は使えなくなっています。
応急修理は現金の給付ではなく現物支給です。自治体が業者との間で限度額の範囲内の契約を結び、自治体が業者に工事代金を払います。石川県かほく市の案内は「業者へ工事代金の支払いが完了してしまうと制度を利用することができません」と明記しています。茨城県も「被災者が自ら業者と契約をしてしまうと、本制度の対象外となる可能性があります」としています。順番は、申し込みが先、着工が後です。
申請でそろえる書類は、応急修理申込書・罹災証明書・資力に係る申出書・修理業者が作成した見積書、そして修理前の被害箇所の写真です。この写真は、片付けや応急処置をする前に撮っておかないと後から用意できません。撮り方は罹災証明書は「片付ける前の写真」で決まるにまとめています。罹災証明書の判定そのものが応急修理の限度額を決めるので、写真は制度の入口にあたります。
申請期限と修理の完了期限は、災害ごとに自治体が設定します。発災から半年で完了を求める運用もあれば、「当面、設定しない」として期限を切らない運用もあります。自分の災害の期限は、自治体の案内ページで日付を確認してください。
借りている家が壊れた場合
ここまでは持ち家の話です。借家に住んでいた場合、建物をどう直すかは所有者との話になります。借りている側がまず確認したいのは家賃の扱いで、住めない部分が出た時点で扱いが変わります。借りている家が地震で壊れたら家賃はどうなる?に整理してあります。賃貸型応急住宅(みなし仮設)に移る場合の家賃上限は、災害ごとに自治体が世帯人数別で設定します。
まとめ
- 応急修理と応急仮設住宅は原則どちらか一方。応急修理の対象要件に「応急仮設住宅を利用しないこと」が入っている
- 限度額は1世帯757,000円以内(大規模半壊・中規模半壊・半壊)/準半壊367,000円以内。2026年8月時点の基準で、年度ごとに改定される
- 直せば住み続けられるなら応急修理、住宅として使えないなら仮設住宅。半壊でも住めない家は仮設住宅の対象になりうる
- 工期が1か月を超える見込みなら、修理中だけ賃貸型応急住宅を原則6か月以内で使える
- 自分で業者と契約して支払いまで済ませると使えない。申し込みが先、着工が後
- 制度の細部は災害ごと・自治体ごとに違う。金額も期限も、自分の自治体の案内で確認する
出典
- 茨城県「住宅の応急修理制度について」(限度額757,000円/367,000円=令和8年度、対象要件「応急仮設住宅を利用しないこと」、対象箇所、資力要件、必要書類)
- 熊本県益城町「被災した住宅の応急修理」(「応急仮設住宅(みなし仮設住宅、町営住宅を含む)に入居していないこと」、工期1か月超の場合の賃貸型応急住宅の入居・原則6か月以内)
- 佐賀県玄海町「応急仮設住宅への入居について」(入居対象、供与期間 最長2年、応急修理が1か月を超える場合の原則最長6か月)
- 石川県「住宅の応急修理について(災害救助法)」(令和6年能登半島地震時の限度額706,000円/343,000円、全壊でも修理で居住可能なら対象)
- 石川県かほく市「住宅の応急修理について(災害救助法)」(現物支給の仕組み、業者への支払い完了後は利用不可)
- 内閣府「応急修理期間中における応急仮設住宅の使用について」(応急修理期間が1か月を超える見込みの場合の取扱い)
※ 本記事は2026年8月時点で各自治体・内閣府が公表している内容にもとづきます。限度額は年度ごとに改定され、対象要件・期限は災害ごと・自治体ごとに異なります。実際の適用可否は、罹災証明書を発行する市区町村の窓口でご確認ください。
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