「入稿だけやってくれるパートを1人入れれば片づく」。求人を出す前に、時給の実数を2つ並べてください。不動産業・物品賃貸業で働く短時間労働者の1時間当たり賃金は1,389円(令和7年賃金構造基本統計調査)。一方、2026年10月ごろから順次動き出す最低賃金の全国加重平均の目安は1,176円です。
差は213円。時給の下から追いつかれる位置に、不動産のパートの相場はもう来ています。
だからといって採用がだめだ、という話ではありません。判断が変わるのは、比べる軸を「時給」から「教える時間」と「抜けたときに何が消えるか」まで広げたときです。
この記事でわかること
- ✓ 不動産業の短時間労働者の時給は1,389円(令和7年)。最低賃金の全国加重平均の目安1,176円との差は213円
- ✓ 入稿1件で埋める欄は、土地98・中古マンション105・新築戸建128・中古戸建139項目
- ✓ 2026年10月に「106万円の壁」の賃金要件が外れる。ただし企業規模51人以上の要件は当面残る
- ✓ ATBBのAIコメント生成は居住用のみ対象。土地と事業用は対象外なので、採っても代わりにならない範囲がある
- ✓ 判断の分かれ目は月の件数と繁閑の差。両方を1枚の表にした
時給1,389円と最低賃金1,176円の距離

厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査で、短時間労働者の1時間当たり賃金は全体で1,518円。産業別に見ると、不動産業・物品賃貸業は1,389円(前年比+3.5%)で、全体を129円下回ります。男性1,357円、女性1,412円。産業別で最も高いのは教育・学習支援業の2,541円です。
その下から上がってくるのが最低賃金です。2026年7月28日の中央最低賃金審議会で示された令和8年度の目安は、引上げ額がAランク54円・Bランク56円・Cランク56円。目安どおりに決まれば全国加重平均は1,176円(+55円・引上げ率4.9%)になります。
1,176円は「目安」であって確定額ではありません。実際の金額は各都道府県の地方最低賃金審議会が決め、2026年10月ごろから順次適用されます。令和8年度は労使の意見が一致せず、目安は公益委員の見解として示されたものです。1,389円のほうも令和7年の実績値なので、年度がそろっていない比較だと承知して読んでください。
読者
うちの募集はもともと1,200円台です。それでも人は来ますよね?
来るかどうかはエリア次第なので断定できません。ただ、募集額と最低賃金の距離が縮むと、同じ時給でコンビニや物流の求人と並びます。並んだときに「不動産の事務は覚えることが多い」という条件が付くので、選ばれにくい側に回ります。
入稿1件で埋める欄は98〜139項目
採用が高いか安いかは、時給ではなく「その人が何を覚えるか」で決まります。入稿の作業を項目数で数えると、こうなります。
| 物件の種別 | 入稿1件で埋める項目数 |
|---|---|
| 土地 | 98項目 |
| 中古マンション | 105項目 |
| 新築戸建 | 128項目 |
| 中古戸建 | 139項目 |
これは当サイトが不動産会社向けに整理している入稿項目の定義を実際に数えた数字です。取引態様、私道負担、セットバック、建築確認番号、契約不適合責任、告知事項、災害関連情報——1つでも取り違えると広告として成立しない欄が、この中に混ざっています。
採ったばかりの人が最初の1件を出すまでに、この項目の意味を覚える時間が要ります。しかも覚えたことは、その人が辞めた日に会社から消えます。採用のコストは時給ではなく、教える時間と、抜けたときに止まる日数です。
2026年10月に変わる社会保険の線引き
採用側の負担で2026年10月に動くのが、いわゆる「106万円の壁」です。短時間労働者が社会保険に入る条件のうち、賃金要件(月額8.8万円以上)が撤廃されます。厚生労働省の試算では、全国で約200万人が新たに加入対象になる見込みです。
ただし、残る要件があります。
| 要件 | 2026年10月以降 |
|---|---|
| 所定労働時間 | 週20時間以上 |
| 雇用の見込み | 2か月超 |
| 学生でないこと | 継続 |
| 企業規模 | 51人以上(段階的な撤廃は2027年〜2035年の予定) |
つまり、従業員が数人から数十人の街の不動産会社は、この10月の時点ではまだ企業規模の要件で外れます。「社会保険料が乗るから採用は高い」と一足飛びに結論を出すと、自社には当てはまらない計算をすることになります。いま比べるべきは、社保ではなく時給と教える時間です。
読者
うちは社員8人です。10月の話は、うちには関係ないということですか?
2026年10月の時点では、企業規模51人以上の要件が残るので対象から外れます。ただしこの要件は2027年から2035年にかけて段階的に無くなる予定です。いま採る人に何年いてもらう想定かで、見え方が変わります。
週20時間は、1日4時間×週5日、または1日5時間×週4日で届きます。入稿だけを任せる短時間の募集は、この線の内側に収まることが多い形です。自社の企業規模と勤務時間を、この表に当てて確認してください。
採っても代わりにならない範囲がある
「AIに書かせればいいから、経験は要らない」と考えているなら、対象範囲を先に確認してください。アットホームのATBBには「かんたんコメント生成」というAIの文章生成が標準で付いていますが、使える範囲が決まっています。
- 対象は居住用のみ(賃貸居住用・売戸建・売マンション)。土地と事業用は対象外
- ATBBで登録した物件のみ。一括登録システム・ファクトシート図面・賃貸管理システム経由は対象外
- 物件情報が少ないと生成できない
- おすすめコメントは100文字。半角文字は登録できない
- 他媒体の原稿は当然カバーしない
土地の入稿が多い会社、複数媒体に同じ物件を出している会社では、この機能は効きません。文字数と文字種の制約はアットホーム(ATBB)のおすすめコメントは100文字。つまずきやすい4つの落とし穴、媒体ごとの書き分けは物件紹介文の例文・テンプレート8本|SUUMOで通ったはずがATBBで止まる、を防ぐ書き分けにまとめてあります。
採用と代行、どちらを選ぶかの分かれ目
| 見るところ | 採用が向く | 代行が向く |
|---|---|---|
| 月の入稿件数 | 毎月安定して多い。手が空く月がない | 月によって0件の月と10件の月がある |
| 入稿以外の仕事 | 電話・来店対応・書類整理まで任せたい | 入稿の作業だけ切り出したい |
| 繁閑の差 | 1年を通してならしたい | 1〜3月だけ跳ね上がる |
| 止まってはいけない期間 | 長期で回したい | 担当が休んでも止めたくない |
| 覚えてもらう項目 | 社内に知識を残したい | 覚える時間を自社で持てない |
| 費用の形 | 固定費として持つ | 件数ぶんだけの変動費にしたい |
右の列の説明が自社に当てはまるなら、募集を出す前に1件だけ外に出して所要時間を測るのが早道です。相場と、事故らない依頼の手順はSUUMO・アットホームの物件入稿は外注できる|相場1,500〜5,000円と事故らない依頼のコツ5つにまとめました。手作業を減らす方向で考えるなら不動産のポータル一括入稿はできる?方法3つと、それでも残る手作業も見てください。
どちらを選んでも変わらないものが2つあります。1つは、掲載の中身が反響を決めること(SUUMOの反響が落ちたのは掲載順位のせいではありません 選ばれた理由の1位は「写真の点数」)。もう1つは、誰が入力しても広告の責任が自社に残ること(入稿は外に出せます。ところが責任は出せません 「駅まで0m」を選んだのはシステム)です。採用でも代行でも、この2つは社内の設計で決まります。
私の見方:採用の是非ではなく、抜けた日に止まるかどうか
私はこの比較を、費用の大小ではなく「その人が休んだ日に掲載が止まるか」で見ています。理由は、入稿が止まると困るのが入稿そのものではなく、その先の反響だからです。
1人体制で採用した場合、その人がインフルエンザで3日休むと、その3日ぶんの新規物件が世に出ません。逆に、代行に出しているだけで社内に誰も分かる人がいない状態なら、資料の不備を指摘されたときに答えられる人がいなくなります。どちらも一長一短で、正解は会社の件数と繁閑で変わります。
ひとつだけ言い切れるのは、時給だけで比べると必ず判断を外すということです。1,389円と代行料金を並べて安いほうを選ぶと、教える時間と、抜けた日の空白が計算から落ちます。私は、募集を出す前に自社の月別の入稿件数を12か月ぶん数えることを先にすすめています。数えると、繁閑の差が想像より大きい会社が多いからです。
よくある質問
Q. 採用と代行、両方やってもいいですか。
件数が跳ねる時期だけ代行に出し、平時は社内で回す形はよく取られます。その場合、社内の手順書を先に作っておくと引き渡しが速くなります。
Q. 最低賃金は本当に1,176円になりますか。
1,176円はあくまで目安です。実際の金額は都道府県ごとに地方最低賃金審議会が決めます。自社のある都道府県の答申額を、労働局の発表で確認してください。
Q. 経験者だけを募集すれば、教える時間は要りませんか。
媒体ごとに欄の名前も文字数の制限も違うので、経験者でも自社の運用に合わせる時間は要ります。それでも未経験より短くなるのはたしかです。
出典
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」短時間労働者の産業別1時間当たり賃金(第13表)。令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省)
- 中央最低賃金審議会「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)。全国加重平均1,176円、Aランク54円・B/Cランク56円。
- 社会保険の適用拡大(2026年10月に賃金要件を撤廃予定)。企業規模要件は2027年〜2035年に段階的撤廃予定。
- 入稿項目数は、当サイトが不動産会社向けに整理している入稿項目の定義を集計したもの(2026年8月時点)。
- ATBBの仕様は、アットホーム「ATBB入稿マニュアル」119ページ(2026年8月確認)。


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