結論からいうと、「AIを入れれば人を増やさずに回せる」とは言い切れません。ただし、元が取れるかどうかを決めているのは、会社の規模でもITの得意不得意でもなく、月に何時間浮くかという数字ひとつです。
兵庫県の宅建業者のうち、総従事者数が分かる4,476社を集計すると、1社あたりの平均は2.6人でした。1人で免許を持ち、内見の鍵を取りに行き、夜に広告文を書いている会社が1,509社あります。
「三井不動産のAI活用事例」を読んでも自社に持ち帰れるものが見つからないのは、勉強不足だからではありません。削っている費用の種類が、そもそも違うからです。
この記事でわかること
- ✓ 「不動産 AI 活用」の検索結果が大手ばかりになる理由
- ✓ 兵庫県の宅建業者4,476社が実際に何人で回っているか
- ✓ 元が取れる/取れないを分ける1本の式と、その損益分岐
- ✓ すでにATBBに追加料金なしで付いているAI機能
- ✓ 使わずに終わる会社が止まっている場所
「不動産 AI 活用」で出てくるのは、三井・野村・東急
2026年8月25日にGoogleのサジェストを取ると、「不動産 ai 活用」に続く候補は10件出ます。そのうち3件が「三井 不動産 ai 活用」「野村 不動産 ai 活用」「東急 不動産 ai 活用」でした。残りも「業界 ai 活用 事例」「ai 活用 セミナー」で、読みに行くと出てくるのは大手の全社導入の話です。
大手の事例で削られているものを見ると、理由がはっきりします。サイバーエージェントが2025年に提供を始めた「価格エージェント」は、購買データからクーポンを出す相手と金額を選び直すもので、売上を維持したままクーポン原資を最大70%削った実績が公式に発表されています。
ここで削れているのは人件費ではなく販促費です。値引きの原資が年に何千万円もあり、その配り方に無駄があるから、AIが配り方を変えるだけで効きます。
読者
うちにも同じ仕組みを入れたら、経費が減りますか?
減らせる原資が無いと効きません。クーポンを配っていない会社では、削る対象そのものが存在しないからです。
つまり大手の事例は「大きな費用の山があり、その配分を最適化する」話です。従業者2〜3人の会社にはその山が無いので、同じ絵は描けません。描けないことを確認しておくと、事例集を読んで落ち込む時間が減ります。
兵庫県の宅建業者は、平均2.6人で回っている
国土交通省と兵庫県の宅建業者名簿から、兵庫県内に本店を置く法人5,658件を抜き出し、総従事者数が記載されている4,476社を集計しました。

1人が1,509社、2〜4人が2,560社。合わせて4人以下が90.9%です。9人以下まで広げると98.4%になり、30人以上は9社しかありません。
総従事者数の欄が埋まっているのは兵庫県の名簿だけです。東京・大阪・愛知の名簿にはこの欄が無いため、ここでは兵庫県の数字として出しています。
この人数で読むと、よく見かける導入試算の前提が崩れます。「営業部10名に導入して年間3,120時間を削減、投資回収は4か月」という形の計算は、10人ぶんの重複作業があることが前提です。2.6人の会社には、そもそも10人ぶんの同じ作業がありません。
だから判断の順番が変わります。組織の生産性を何%上げるかではなく、自分の手が空くのは1日何分かから数えることになります。
いちばん使われている使い方は、もうATBBに付いている
いえらぶGROUPが2024年11月に不動産会社388件へ行った調査では、生成AIを業務で使っている会社は22.8%、使ってみたい会社は68.8%でした。使っている業務の1位は「物件紹介や広告文の作成」で36.4%です。
ところが、その1位の用途は、アットホームがATBBに標準で載せています。物件を登録する画面の「かんたんコメント生成」ボタンを押すと、入力済みの物件情報からアピールコメントが6種類生成され、カジュアルとフォーマットの雰囲気も選べます。2023年11月8日からは、物件画像の種別を自動で判定してキャプションを作る「かんたん画像登録」も入っています。
読者
じゃあ、広告文を書かせるためのAIツールを別に契約しているのは……
同じ機能に二度払っている状態です。まず、いま使っているシステムに何が付いているかを数えるのが先です。
新しく契約する前に、今の契約に含まれている機能を数える。これだけで月額が1本減ることがあります。ATBBだけでなく、いえらぶCLOUDやその他の業務システムも、AI機能を後から標準搭載として追加しています。契約時に無かった機能が、いつの間にか増えている状態です。
元が取れるかは、この1本の式だけで決まる
複雑なROIの計算式は要りません。判断はこれだけです。
月に浮いた時間 × 自社の時給 > 月額
月額を時給で割ると、損益分岐になる時間が出ます。自社の時給を当てはめてください。
| ツールの月額 | 時給2,000円 | 時給3,000円 | 時給4,000円 |
|---|---|---|---|
| 1,000円 | 月30分 | 月20分 | 月15分 |
| 3,000円 | 月1時間30分 | 月1時間 | 月45分 |
| 10,000円 | 月5時間 | 月3時間20分 | 月2時間30分 |
| 30,000円 | 月15時間 | 月10時間 | 月7時間30分 |
月額3,000円台のツールなら、1か月に1時間浮けば元が取れます。1日あたり3分です。広告文を1本書く時間を考えれば、この線は低い方に入ります。
元が取れなくなるのは、月額が高いからではありません。表に出てこないコストが2つあるからです。1つは使い方を覚える時間、もう1つは出力が正しいか確かめる時間です。
特に2つ目が効きます。物件の面積や駅からの分数をAIに書かせると、入力していない数字を書くことがあります。1件ごとに原本と突き合わせるなら、その照合時間は削減時間から引かなければいけません。
広告文に事実と違う数字が入ると、不当表示として指摘される対象になります。生成した文章をそのまま掲載せず、面積・駅距離・築年月は原本と突き合わせてください。
使っていない会社の6割は「使い道が分からない」で止まっている
同じいえらぶの調査を2025年5月に取り直すと、生成AIを使ったことがある不動産会社は41.4%まで増えています。半年強で倍近い伸びです。
注目すべきは、使っていない側の理由です。1位は「どのように使えばよいか分からない」で60.0%、2位が「導入・活用できる人材がいない」で23.8%でした。
止まっている場所は、操作ではありません。用途が決まっていないことです。ツールを開いて空の入力欄を見た瞬間に、何を打てばいいか分からずに閉じる。この時点で月額だけが引き落とされ続けます。
先に決めるのは、ツールの種類ではなく作業の名前です。「毎週水曜に書いている募集図面の紹介文」「反響メールへの一次返信」のように、名前が付く作業を1つだけ選びます。1つで元が取れる線は、上の表のとおり月1時間です。
私が元を取れると考えているのは、ATBBの外側の作業
ここからは私の考えです。私は、AIに広告文を書かせるためだけに月額を払う投資は、もう回収できないと考えています。理由は上に書いたとおりで、その機能は業務システム側が標準で持ってしまったからです。標準機能と同じことをする道具に、追加のお金を払う理由がありません。
残っているのは、システムの外側にはみ出している作業です。私が見ている限り、次の4つは自動化の対象がまだ空いています。
- 同じ物件を、ポータルごとに違う様式へ入れ直す転記
- 反響メール・問い合わせフォームへの一次返信の下書き
- 紙やPDFで届いた資料から、入力済みデータへの突き合わせ確認
- 過去のやり取りの中から、条件に合う顧客を探し直す作業
共通しているのは、文章を作る作業ではなく、同じ内容を別の形に移す作業だという点です。移す作業は正解がはっきりしているので、出力を確かめる時間が短く済みます。確認が短いほど、削減時間が手元に残ります。
読者
全部いっぺんに手を付けた方が早いですか?
1つに絞ってください。4つ同時に始めると、どれも中途半端なまま「使い道が分からない」に戻ります。
よくある質問
無料プランだけで足りますか
文章の下書きと要約だけなら、無料の範囲で損益分岐を確かめられます。月額を払うのは、無料で試した作業の削減時間が実際に測れてからで間に合います。
何から始めればいいですか
先週1週間で自分がやった作業を書き出し、同じ形が3回以上出てきたものを1つ選んでください。3回出てくる作業は来週も3回出てきます。
社員が使ってくれません
使っていない会社の6割が「どう使えばよいか分からない」と答えています。使い方の研修より先に、対象の作業を会社側で1つ指定する方が動きます。
出典
- 株式会社サイバーエージェント「AI×経済学でクーポン原資の無駄を削減するソリューション『価格エージェント』提供開始」https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=32319
- アットホーム株式会社「AIを活用して物件ごとの魅力を語り分けるアピールコメント自動生成機能を提供開始」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000051123.html
- アットホーム株式会社「AIを活用して物件の魅力を表現する物件画像キャプション自動生成機能を提供開始」(2023年11月8日)https://athome-inc.jp/news/release/services/ai-caption-202311/
- 株式会社いえらぶGROUP「生成AIの利用率についての調査」(2024年11月15日〜25日・不動産会社388件)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000542.000008550.html
- 株式会社いえらぶGROUP「生成AIを業務で利用している不動産会社は41.4%」(2025年5月12日〜23日・222件)https://ielove-cloud.jp/news/entry-1128/
- 従業者数の集計:兵庫県の宅建業者名簿(法人・本店5,658件)のうち総従事者数の記載がある4,476社を art-pi.com が集計(2026年8月25日)
この記事は2026年8月25日時点で公開されている情報をもとに書いています。各社のAI機能は追加・変更されるため、契約内容はご自身の管理画面でご確認ください。


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