実は地名にヒントがあります。「熊本という名はどういった由来、語源からきてるのですか。美しい県名だと思うので聞いてみました。」という質問が2025年4月に知恵袋に投稿されていました。熊本県観光連盟のサイトで熊本地名研究会事務局長の高濱幸敏(たかはま ゆきとし)氏は、クマについて「一般に曲部、隅、奥まったところをクマともいう」と説明し、「熊本市の本荘にクマという地名が残っているが、ここは白川の屈曲部についた地名で、熊本のクマの語源も、ここからきているのではなかろうか」と書いています。県名は、川が曲がった場所の説明でした。
この記事でわかること
- ✓ 熊本市の住宅地の標準地は、南区16地点が中央値5.4m・最低2.2mなのに対し、北区17地点は中央値69.2m。同じ市の中で13倍近い差がある
- ✓ 「浜」の付く3地点は中央値2.4mで全部が5m未満。いちばん低い1.9mは八代市日奈久浜町で、7月に動いた日奈久(ひなぐ)断層帯と同じ名前の町
- ✓ 熊本県の土砂災害警戒区域は26,311か所で全国5位。最多は天草市の5,519か所(熊本県・2026年9月1日更新)
熊本の「隈」は川の曲がり角 南区の住宅地は中央値5.4m

熊本市は、白川と坪井川が有明海に出ていく手前に広がった街です。標高で見ると、同じ市の中で性格が真っ二つに割れます。2026年の地価公示で住宅地の標準地を区ごとに数えると、南区16地点は中央値5.4m・最低2.2m(奥古閑(おくこが)町)。西区14地点は9.6m。ところが北区17地点は中央値69.2m・最低でも27.4mで、東区23地点は32.8mです。南区と北区で13倍近い差があります。
字で見ると、もっとはっきりします。県内の標準地160地点を、都道府県名・郡名・市町村名を除いた町名・字名で数えると、「浜」を含む3地点は中央値2.4mで全部が5m未満。「川」を含む6地点は中央値4.3mで、うち4地点が5m未満。いちばん低いのは芦北(あしきた)町花岡の字川原(かわら)で1.4mです。
読者
「隈」が付く地名は熊本市に残っているんですか。
標準地の住所で拾えるのは菊池市隈府(わいふ)くらいで、熊本市内には残っていません。ただし高濱氏は「熊本市の本荘にクマという地名が残っている」と書いていて、そこは白川の屈曲部です。加藤清正が城を築いたときに「隈本」を「熊本」に改めたと言われていますが、字を変えても地形は変わりません。
| 地名のヒント | 指しているもの | 開く地図 |
|---|---|---|
| 隈(くま)・古閑(こが) | 川の曲がり角と、その内側にできた低い土地 | 洪水浸水想定区域と高潮浸水想定区域 |
| 浜・川・江 | 河口と旧河道。県内の「浜」3地点は中央値2.4mで全部が5m未満 | 洪水浸水想定区域と高潮 |
| ツル(津留)・ムタ(牟田) | 川が蛇行してつくった平地と、草の茂った沼 | 洪水浸水想定区域 |
| 渡(わたり)・瀬 | 川を渡る場所と浅瀬。球磨川ぞいに並ぶ | 家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流) |
| 日奈久(ひなぐ)・高野・白旗 | 断層帯の区間名になった地名 | 活断層の長期評価と、地表地震断層の位置 |
熊本市環境局は「地名の水物語」というページで、市内の町名の由来を並べています。江津(えづ)は「この地に津(港)があったことが地名の起源といわれています」、出水(いずみ)は「水が出る地」、八景水谷(はけのみや)は「古くから谷水がでるところを『ハケ』といいますが」、川尻は「川が海に流れ着く最後の地、だから川尻といわれています」、船場(せんば)は「かつて舟だまり(船着場)があったため」。水にまつわる字が、市内にこれだけ残っています。
住まいのリスクに対する備え
土地の履歴やリスクを知ったら、次は「起きたときにどうするか」です。最低限そろえておくと動けるものを挙げます。
一から集めると抜けが出ます。まずセットで用意して、家族の人数分と常備薬だけ足すのが早いです。
断水で最初に困るのがトイレです。備蓄で見落とされやすい一方、代用が効きません。
停電時は懐中電灯より、部屋全体を照らせるランタンの方が使えます。電池でも充電でも点くものだと、どちらが尽きても止まりません。
鍵につけて持ち歩けるサイズ。停電や夜道、内見での床下確認にも使えます。備えは「持ち歩けるかどうか」で使用率が変わります。
※ 本記事には広告(アフィリエイトリンク)が含まれます。紹介している商品は、記事の内容に関連するものを編集方針にもとづいて選んでいます。Amazonのアソシエイトとして、おかあさんのおうちは適格販売により収入を得ています。
同じ「津」でも6.0mと172.8mに割れる
熊本の「津」は、字だけで判断できない例です。県内の標準地で「津」を含む6地点を並べると、こうなります。
| 標準地 | 標高 |
|---|---|
| 熊本市東区下江津1丁目 | 6.0m |
| 熊本市東区沼山津3丁目 | 9.1m |
| 菊陽町大字津久礼字下屋敷 | 59.3m |
| 菊陽町大字津久礼字石坂 | 82.8m |
| 菊陽町大字津久礼字宮ノ上 | 85.6m |
| 大津町大字大津字南楽善 | 172.8m |
熊本市の下江津・沼山津は6.0mと9.1mで、市の低いほうにあります。ところが菊陽(きくよう)町の津久礼(つくれ)と大津(おおづ)町の大津は59.3mから172.8mで、阿蘇へ向かう台地の上です。6地点の中央値は82.8mで、県内の字のなかでいちばん高くなります。海の港を指す「津」と、内陸の地名に含まれる「津」が、同じ字で混ざっているためです。
高濱氏は「ツル」について「川の蛇行した所は洪水のときに平地をつくる。うしろは山手になっていて、水はけがよく、薪にも事欠かない」と説明し、「ムタ」については「草が茂っている沼のことで、水が近い所という意味らしい」「ムタは土地が肥えているので、水はけさえよくなれば、良田になるということで、さかんに開拓されてきた」と書いています。ただし2026年の地価公示の住宅地の標準地には、熊本県内に「津留」を含む地点はありません。字の意味と、いま人が住んでいる場所は別に確かめる必要があります。
「渡」の名がつく場所で、令和2年7月豪雨の死者が集中した

球磨川は、人吉盆地から八代の海へ、山を切って下る川です。その途中に「渡(わたり)」という集落があります。川を渡る場所という意味の、全国どこにでもある地名です。

2020年7月4日の豪雨で何が起きたか。内閣府の『令和3年版 防災白書』は、この豪雨の被害をこう書いています。「死者は84名(富山県1名、長野県1名、静岡県1名、広島県2名、愛媛県2名、福岡県2名、長崎県3名、熊本県65名、大分県6名、鹿児島県1名)、行方不明者は2名(熊本県2名)」。84名のうち65名が熊本県です。そして「熊本県球磨村では特別養護老人ホーム千寿園の入居者14名が浸水被害により死亡し」と続きます。防災科学技術研究所はこの豪雨の調査速報に「令和2年7月豪雨による熊本県人吉市および球磨村渡地区の洪水被害の特徴」という題を付けました。被害が集中した場所の名前が、川を渡る場所を指す「渡」です。

同じ白書によると、この豪雨の住家被害は「全壊が1,620棟、半壊・一部損壊が8,103棟、床上・床下浸水が6,825棟」。熊本県では「約8,800戸(最大)の停電、約27,000戸(最大)の断水」が起きました。
その住所は、洪水と高潮のどちらの想定に入っていますか?
住所を入れるだけ。ハザードマップの指定(浸水・土砂・津波)と地盤の強さが5秒で出ます。会員登録も電話番号も要りません。
「日奈久」は温泉町の名前であり、7月に約30km動いた断層の名前

八代市の南に、日奈久(ひなぐ)という温泉町があります。ここに置かれた住宅地の標準地、日奈久浜町の標高は1.9mで、熊本県内の「浜」が付く地点でいちばん低い値です。海と山に挟まれた細長い低地に、町が細く伸びています。
この山と海の境目が、日奈久断層帯です。地震調査研究推進本部の長期評価は、日奈久断層帯を「全体の長さは約81kmである可能性があります」として、「長さ約16kmの高野−白旗(しらはた)区間」「長さ約40kmの日奈久区間」「長さ約30kmの可能性がある八代海区間」の3つに分けています。高野も白旗も、地名です。
そして2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方でマグニチュード7.1、最大震度7の「令和8年熊本地震」が起きました(気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」)。科学技術振興機構のScience Portal(サイエンスポータル)2026年8月10日の記事によると、地震調査委員会は「今回活動した震源断層帯は日奈久断層帯の約30キロで、日奈久区間の北東部と高野―白旗区間の一部に及んでいると判断した」と評価しました。委員長の小原一成氏は「10年前の地震で割れ残っていた領域が破壊した」と述べています。
同じ記事は、地面の動きも伝えています。「震源に近い熊本県八代市の『千丁電子基準点』で北東方向に約87センチ移動」。千丁(せんちょう)も地名です。そして「この断層には南部にまだ『割れ残り』が残っており、将来的にまた大地震を引き起こす可能性がある」と書かれています。
読者
2016年に大きな地震があったのに、なぜまた同じ場所で起きるんですか。
2016年に動いたのは布田川(ふたがわ)断層帯の布田川区間で、2026年に動いたのは日奈久断層帯です。別の区間です。地震調査委員会は「10年前の地震で割れ残っていた領域が破壊した」と評価していて、さらに南側にはまだ割れ残りがあるとしています。断層の名前に付いた地名は、その谷や崖がどこにあるかを示しています。活断層に地名がつく理由は別の記事にまとめています。
地震のあとは、同じ雨でも土砂災害が起きやすくなります。2026年の熊本地震のあと、熊本県などでは大雨警報・注意報の基準が7〜8割に引き下げられました。25市町村が対象です。雨の予報を見る目安が、平時と同じではありません。
阿蘇の街はカルデラの中にある 県内でいちばん高い住宅地は527.5m

熊本県で住宅地の標準地がいちばん高いのは、阿蘇市西町の527.5mです。次が阿蘇市小里(おざと)の479.3m。海から500m上がった場所に街があるという意味ではありません。図を見ると、街は外輪山にぐるりと囲まれたカルデラの底にあります。まわりの山は1,000mを越えていて、真ん中に中岳・高岳が立っています。
つまり阿蘇の住宅地は、高いところにありながら、まわりを見上げる地形です。標高だけで「高いから安全」とは言えない典型で、開く地図は洪水でも津波でもなく、火山防災マップと土砂災害警戒区域になります。熊本県は「阿蘇山火山防災マップ」を土木部砂防課の発行で公開していて、噴火警戒レベルごとに影響範囲が示されています。火山のまわりの地名が伝えている災害の記憶は別の記事にまとめています。
土砂の指定は26,311か所 最多は熊本市でも人吉でもなく天草市
熊本県が2026年9月1日に更新した「県内の土砂災害警戒区域等指定状況」によると、県全体(重複分を除く)の土砂災害警戒区域は26,311か所、土砂災害特別警戒区域は24,232か所です。国土交通省が公表している2026年6月30日時点の全国表では、熊本県は計26,309か所で、広島県・長崎県・島根県・長野県に次ぐ全国5位でした。徳島県の12,634か所と比べると2倍以上です。
市町村別でいちばん多いのは天草市の5,519か所で、県全体の2割を超えます。天草は海に囲まれた島ですが、住宅地の標準地で見ても亀場町亀川の字下浜田が2.4m、本渡町本渡の字川端が10.0mと低い一方、島の大半は斜面です。海の島だから水の地図、とはなりません。
地名のヒントを地図で確かめたシリーズ
自分の町で同じことをする手順(無料)
- ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」で住所を入れ、洪水・土砂・高潮の3つを1つずつ重ねる。熊本市の南区と西区は洪水と高潮、球磨川ぞいは洪水、天草と県南は土砂が主役
- 球磨川ぞいなら「家屋倒壊等氾濫想定区域」も重ねる。ここは水に浸かるだけでなく、流れの力で家が倒れる想定の範囲
- 地理院地図で「自分で作る色別標高図」を重ね、家の地点と、いちばん近い高台との高さの差を見る。熊本市は南区5.4m・北区69.2mで、市の平均は判断に使えない
- 活断層は地震本部の「布田川断層帯・日奈久断層帯」のページで区間ごとの評価を見る。区間の名前は全部が地名なので、自分の町の名前が入っていないかを確かめる
熊本の地名は、水と断層の両方を指しています。「隈」は川の曲がり角、「浜」と「川」は2.4mと4.3mの低地、「渡」は川を渡る場所、「日奈久」は温泉町であり断層帯の区間名でした。県名の由来を美しいと感じた人がいましたが、その字が説明しているのは地形です。町名で決めるのではなく、その字が指している地図を1枚開いてください。
この記事の集計条件
標高は国土地理院の地理院タイル「数値標高モデル(DEM5A・5mメッシュ)」を緯度経度で切り出して色別標高図と陰影を作り、淡色地図を重ねました。丸印の数値は各地点の地表の標高(東京湾平均海面からの高さ)で、建物は含みません。本文の標準地の標高は国土地理院の標高APIの値で、図の丸印の数値(5mメッシュ)とは小数点以下で食い違うことがあります。字別の集計は、国土数値情報「地価公示」2026年のうち用途が住宅の熊本県の標準地160地点の住所と、標高APIで取得した標高によります(全国17,612地点の取得は2026年8月20日)。字の集計は、都道府県名・郡名・市区町村名を除いた町名・字名で行いました。郡名を含めて数えると「菊池郡」を「池」、「上益城郡」を「城」として拾ってしまうため、そこは外しています。洪水浸水想定の図は、ハザードマップポータルサイト「重ねるハザードマップ」の配信タイル(作図時点の掲載内容)です。
地名の意味は、熊本県観光連盟のサイト「熊本の地名あれこれ」(講師・元熊本県伝統工芸館館長/熊本地名研究会事務局長 高濱幸敏氏)と、熊本市環境局「地名の水物語」によります。知恵袋の質問は2025年4月15日の投稿です。令和2年7月豪雨の被害は内閣府『令和3年版 防災白書』、令和8年熊本地震の諸元は気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」(最終更新2026年9月2日)、断層帯の評価は科学技術振興機構 Science Portal「熊本地震で断層帯30キロ動くも活動は依然活発 まだ『割れ残り』に厳重警戒を」(2026年8月10日)と地震調査研究推進本部「布田川断層帯・日奈久断層帯」によります。土砂災害警戒区域の数は熊本県「県内の土砂災害警戒区域等指定状況」(2026年9月1日更新)と、国土交通省「全国における土砂災害警戒区域等の指定状況」(2026年6月30日時点)の「計」欄です。両者は集計時点が違うため数値が一致しません。
写真はウィキメディア・コモンズ(Wikimedia Commons)の素材を、それぞれのライセンスに従って使用しています。
Googleで「おかあさんのおうち」の新着を優先表示する
災害・道路・住まいの新しい記事がGoogleのトップニュースに出やすくなります。ボタン1回で登録できます。


コメント