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浸水 告知義務/黙った売主に237万円の判決

🗨️「前に浸水した家を売るとき、浸水したことを買う人に言わないといけないのでしょうか」

契約前に説明する項目の一覧に、過去の浸水は載っていません。それでも、買う人が気にしているのを知りながら「浸水はなかった」と伝えた売主と仲介の不動産会社は、東京高裁で237万円の支払いを命じられました。反対に、浸水を書いて値引きして売った売主への請求は退けられています。個人の売主でも、知っていて言わなかった浸水は、責任を負わない特約を付けても責任が残ります。

[不動産] この記事の要点

発表日・更新日

2026年10月3日 発表

影響を受ける人
  • 重要事項説明の項目に、過去の浸水は無い(ハザードマップ上の位置だけ)
  • 「なかった」と伝えた業者2社に237万円、書いて値引きした業者は請求棄却
  • 免責の特約でも、知っていて黙った浸水は責任が残る(民法572条)
目次

一覧に浸水履歴はない

「重要事項説明でハザードマップを見せたのだから、前に浸水したことまで言わなくていい」。売る側がそう考えたくなるのには理由があります。不動産会社が契約前に説明しなければならない項目を並べた宅建業法施行規則16条の4の3には、水害ハザードマップのどこに物件があるかは入っていますが、その家が過去に浸水したかどうかという項目はないからです。

水害にかかわること重要事項説明で必ず説明するか
水害ハザードマップ(洪水・内水・高潮)上の物件の位置する(規則16条の4の3第3号の2)
ハザードマップに書かれた浸水の深さなどの中身義務ではない(国土交通省の運用の考え方)
土砂災害警戒区域・津波災害警戒区域の内か外かする(同第2号・第3号)
その家が過去に浸水したこと項目に無い

出典:宅地建物取引業法施行規則16条の4の3、国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)

ハザードマップの説明そのものも、位置を示すところまでです。国土交通省は運用の考え方で、中身の説明までは不動産会社に「義務付けるものではない」としたうえで、浸水想定区域に入っていないことを理由に「水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮する」よう求めています。くわしくは重説 ハザードマップ/中身の説明は義務ではないで整理しました。

人が亡くなった事実には、国のガイドラインがあります(事故物件の告知義務)。浸水には、そうした指針もありません。では言わなくていいのかというと、そうはなりません。不動産会社については、宅建業法47条1号が、買う人の「判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」を故意に告げないことや、事実と違うことを告げることを禁じています。個人の売主には、民法の契約不適合責任が効いてきます。

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黙った業者に237万円

どこで線が引かれるかを示した判決があります。東京高裁が2017年7月19日に出したもので、不動産適正取引推進機構の機関誌「RETIO(レティオ)」117号が経緯をくわしく紹介しています。

舞台は1億700万円の中古の一戸建てです。買った人は内見の翌日、地下駐車場と建物の出入口の間に敷居があるのに気づき、駐車場の排水を調べてほしいと仲介の不動産会社にメールしました。仲介会社が市役所に問い合わせると、その街区には浸水の履歴があるという答えでした。一方、売主の不動産会社は「前の持ち主から、平成17年の大雨でも浸水はなかったと聞いている」と答えます。仲介会社は買う人に「平成17年に関東地方を襲った集中豪雨がありましたが、その際には駐車場内に雨水の浸水はありませんでした」と報告し、2日後に契約が結ばれました。

実際には、平成17年の9月4日に、その地下駐車場は浸水していました。引き渡しから半年後の夏に2回浸水し、買った人は526万円をかけて自動で立ち上がる止水板を付けます。市役所に個人情報の開示を求めて、平成17年の浸水の記録が出てきたのは、裁判を起こしたあとでした。

段階金額
買った人の請求1,663万3,540円
第1審(東京地裁 2017年2月7日)574万5,560円
控訴審(東京高裁 2017年7月19日・確定)237万5,150円
控訴審の内訳手で立てる簡易な止水板の費用212万6,000円/車の清掃など3万9,150円/弁護士費用21万円

出典:不動産適正取引推進機構「RETIO」117号(2020年春号)。売主の不動産会社と仲介会社の2社が連帯して支払う

高裁は、過去に浸水したかどうかは「不動産の売買一般において必ず説明しなければならないものであるということはできない」と認めています。そのうえで、買う人が浸水を気にしていると分かり、街区に浸水の履歴があり、排水ポンプのような水への対策らしい設備もある以上、調べて正確に説明する義務があったと判断しました。売主の会社にも、前の持ち主の話をそのまま伝えるだけでなく、調べる義務があったとしています。

損害の考え方も示されています。浸水を知っていれば、買った人は対策の工事費を見込んで値段の交渉ができた。判決は、その交渉の機会を奪われたことを損害と見ています。この件を検討した機構の委員会は「分からないことは、分からないという勇気が必要」と書いています。

書いた業者は払わずに済んだ

反対側の結論になったのが、東京地裁の2016年12月8日の判決です(RETIO111号)。売主の不動産会社は、新築の家を5,980万円で売り出したあと、集中豪雨で浸水したため排水の逆流を防ぐ弁を付け足しました。そのうえで重要事項説明書に浸水の事情をかなりくわしく書き、口頭でも説明して、1,240万円値引きした4,740万円で売りました。

買った人はその家を貸しに出しましたが、3回浸水して借りていた人が出ていき、158万円あまりの損害賠償を求めました。裁判所は、買った人は大雨のときに浸水しうる物件だと「十分認識していた」として、隠れた瑕疵にはあたらないと請求を退けています。この買主は、のちに家を5,040万円で売りました。

東京高裁 2017年東京地裁 2016年
売る前の浸水ありあり
売る側の説明「浸水はなかった」と伝えた重要事項説明書に書き、口頭でも説明
値段1億700万円5,980万円から1,240万円値引きして4,740万円
結果2社に237万円の支払い請求を棄却

出典:不動産適正取引推進機構「RETIO」117号・111号。どちらも売主は不動産会社

2つを並べると、分かれ目は浸水したかどうかではなく、売る前に伝えたかどうかです。

木の机の上で、ペンを持って書類に記入している手元
伝えたことを残すのは、告知書と契約書です(写真はイメージ/Photo: Pexels)

告知書に書くこと

個人が家を売るときは、仲介の不動産会社から告知書(物件状況報告書)を渡され、家の状態を書いて買う人に渡します。国土交通省の運用の考え方は、過去の履歴など売主しか分からないことを告知書で渡すことを「積極的に行うことが望ましい」としています。ただ、例に挙がっているのは境界、土壌汚染、増改築や修繕の履歴、建物の傾きや腐食などで、「浸水」という言葉は出てきません。

個人の売主にとって効いてくるのは民法です。引き渡した家が契約の内容に合わないとき、買った人は修理や代金の減額を求められます(562条・563条)。期限は、買った人が不具合を知ってから1年以内に売主へ知らせることですが、売主が引き渡しのときに知っていたなら、この期限もかかりません(566条)。そして、責任を負わないという特約を付けて売っても、572条は「知りながら告げなかった事実」については責任を免れないと定めています。中古の家でよく付ける免責の特約は、知っていて黙った浸水には効きません(契約不適合責任の免責とは?)。

書くなら、次の5つをそろえると、買う人が値段と対策を判断できます。

  • 浸水した年月日と、そのときの雨(台風の名前など)
  • 水が来た場所と高さ(床下か床上か、何cmか)
  • 罹災証明書をもらっていれば、その区分
  • 直した内容と時期(排水ポンプ・逆流防止弁・止水板など)
  • 直したあとに浸水したかどうか

RETIO111号の解説は、「本件不動産には浸水被害の履歴があり、今後も発生する可能性があること」を契約書に明記しておけば、争いを防ぐのにさらに役立ったと書いています。告知書だけで終わらせず、契約書の特記事項にも同じことを入れてもらうと確実です。床下と床上で修理の重さがどう違うかは床上浸水と床下浸水の違いにまとめています。

床下浸水だけでも、書かないといけない?

書けと決めた法律はありません。ただ、高裁で問題になったのも建物の中ではなく地下駐車場の浸水でした。知っていて書かずに売り、あとで「知りながら告げなかった事実」かどうかで争うより、1行書いておくほうが安く済みます

私は、床下浸水でも告知書に書いて売るべきだと考えています。237万円の判決は、止水板の代金と弁護士費用で組み立てられていました。書いていれば、その分は最初に値段の交渉で片づいた額です。黙って売った場合に残るのは、同じ額の支払いに加えて、引き渡したあとも何年か続く争いの種です。

この住所は浸水しやすい場所ですか?

住所を入れるだけ。ハザードマップの指定(浸水・土砂・津波)と地盤の強さが5秒で出ます。会員登録も電話番号も要りません。

よくある質問

Q. 買う側は、その家が前に浸水したかをどう確かめればいいですか。
A. まず売主に「過去に浸水したことはありますか」と聞き、答えを告知書か書面でもらいます。市区町村の浸水実績図では、街区の単位で記録が見られることがあります。高裁の事件でも、市役所が答えたのは街区の履歴までで、その家の記録は持ち主本人の開示請求で出てきました。調べ方は過去の浸水履歴を調べる方法にあります。

Q. 毎年のように浸水する家は、どう扱われますか。
A. RETIO117号は、毎年のように浸水被害が出る新築マンションの1階について、東京地裁が2003年4月10日に瑕疵を認め、買った人の契約解除と入居にかかった費用などの賠償を認めた例を紹介しています。近くのマンションでは盛り土などの対策がされていたのに、その建物には対策がなかった事案です。

Q. 不動産会社が売主のときは、何か違いますか。
A. 宅建業法40条で、不動産会社が売主の場合は、不具合を知らせる期限を引き渡しから2年以上とする特約を除き、買う人に不利な特約は無効になります。浸水を知っていて告げなかったときは、47条の問題にもなります。

売る前に、自分の家の場所の浸水の深さと、まわりの土地の値段を見ておくなら、下のボタンから調べられます。

生活・仕事にどう効くか

  • 前に浸水した家を売る人:浸水した日・水の高さ・直した内容を告知書に書き、契約書の特記事項にも入れてもらうと、あとで争いになりにくくなります
  • 中古の家を買う人:重要事項説明でハザードマップを見せられても、その家が前に浸水したかは分かりません。売主に直接たずね、答えを書面に残してもらいます

結局どうすればよいか

  • 売るなら、浸水の日付・水の高さ・修理の内容を告知書に書く
  • 買うなら、売主に「過去に浸水したことはありますか」と聞き、答えを書面でもらう
  • 市区町村の浸水実績図で、その街区に浸水の記録があるかを見る

\気になる住所を1つ入れるだけ/

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公式出典

更新履歴

  • 2026年10月3日 初版を公開(宅建業法・民法の条文、国土交通省の運用の考え方、不動産適正取引推進機構が紹介した2つの判決を確認したもの)

※本記事は2026年10月3日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。

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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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