中古住宅の売買契約書で「売主は契約不適合責任を負わない」という文言を見つけると、買主は「引渡し後に雨漏りやシロアリ被害が分かっても、何も請求できないの?」と不安になります。売主も「免責にすれば、後から一切責任を問われない」と考えてしまうかもしれません。
しかし、契約不適合責任の免責は、書けば必ず有効になるわけではありません。売主と買主の属性、売主が不具合を知っていたか、新築か中古か、どこまで具体的に契約へ記載したかによって結論が変わります。
- 個人間の中古住宅売買では、契約不適合責任を全部または一部免責とする合意は原則として可能
- 売主が知りながら告げなかった不適合などは、免責特約で責任を逃れられない
- 宅建業者が自ら売主となり、一般の買主へ売る場合は、買主に不利な特約が宅建業法で制限される
- 新築住宅の基本構造部分などには、10年間の責任を短くできない特例がある
- 「現状有姿」だけで当然に全面免責になるわけではなく、告知内容と契約書の具体性が重要
※この記事は2026年7月26日時点の法令・公表資料を基にした一般的な解説です。個別の契約や紛争については、宅地建物取引士、弁護士などの専門家へご相談ください。
契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、引き渡された目的物が、種類・品質・数量について契約の内容に適合していない場合に売主が負う責任です。2020年4月施行の改正民法で、従来の「瑕疵担保責任」に代わる形で整理されました。
住宅売買で契約不適合があると、買主は状況に応じて次の対応を求められる可能性があります。
- 追完請求:修補など、契約どおりの状態にするよう求める
- 代金減額請求:追完されない場合などに代金の減額を求める
- 損害賠償請求:売主に帰責事由がある場合に損害の賠償を求める
- 契約解除:不適合が重大で、法定の要件を満たす場合に契約を解除する
大切なのは、単に建物に傷みがあるかではなく、契約で合意した内容と実際の状態が一致しているかで判断されることです。築年数相応の劣化をどの範囲まで了承したのか、雨漏りや設備故障を契約書・物件状況報告書へどう記載したのかが重要になります。
契約不適合責任の免責は原則として可能
民法の契約不適合責任に関する規定は、当事者の合意で内容を変更できるのが原則です。そのため、個人が売主となる中古住宅の売買では、次のような特約が置かれることがあります。
- 売主は契約不適合責任を負わない
- 建物についてのみ契約不適合責任を免責とする
- 雨漏り、シロアリ、給排水管の故障など対象を限定して責任期間を定める
- 設備表に記載した設備は修補の対象外とする
古い住宅では、すべてを新品同様に保証すると売主の負担が大きくなります。そこで、把握している状態を買主へ開示し、価格や修繕予定も含めて合意したうえで責任範囲を調整すること自体は、合理的な契約設計になり得ます。

免責特約があっても責任を免れない主なケース
1.売主が知っていた事実を告げなかった場合
民法572条は、売主が知りながら買主へ告げなかった事実などについて、売主が担保責任を負わない旨の特約を主張できないと定めています。
たとえば、売主が以前から雨漏りを把握し、応急処置を繰り返していたのに、その事実を伝えず全面免責の契約を結んだ場合です。「免責と書いてあるから大丈夫」とは限りません。
売主は、過去の修繕履歴、雨漏り、シロアリ、給排水管の故障、近隣との境界問題など、把握している情報を物件状況報告書や付帯設備表へ具体的に記載し、説明記録を残すことが重要です。
2.宅建業者が自ら売主となる場合
宅地建物取引業者が自ら売主となり、一般の買主へ宅地・建物を販売する場合、宅建業法40条によって民法より買主に不利な特約は制限されます。
通知期間を引渡しから2年以上とする特約は認められますが、たとえば「引渡し後3か月だけ責任を負う」「契約不適合責任を全面的に免責とする」といった買主に不利な特約は無効となる可能性があります。
なお、売買の当事者がいずれも宅建業者である場合などには適用関係が異なります。「仲介会社が入っているか」ではなく、誰が売主なのかを確認しましょう。
3.新築住宅の基本構造部分など
新築住宅では、住宅品質確保法により、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、引渡しから10年間の責任を負う特例があります。買主に不利な形でこの期間を短くすることはできません。
ただし、10年間の対象は住宅のすべての不具合ではありません。また、原則として中古住宅にそのまま適用される制度でもありません。新築か中古か、問題のある部分が法定の対象かを分けて確認する必要があります。
4.事業者と消費者の契約で不当な免責条項がある場合
事業者と消費者の契約では、消費者契約法も問題になります。事業者の債務不履行による損害賠償責任を全部免除する条項や、事業者の故意・重過失による責任を一部免除する条項などは無効とされます。
ただし、契約不適合に関する修補、代金減額、損害賠償、解除のすべてが一律に同じ扱いになるわけではありません。宅建業法との関係もあるため、事業者が売主の契約で免責条項を見つけたら、条文ごとに専門家へ確認するのが安全です。
「現状有姿」と「契約不適合責任免責」は同じではない
中古住宅の契約でよく見る「現状有姿」とは、一般に現在の状態のまま引き渡すという意味で使われます。しかし、現状有姿と記載しただけで、当然に契約不適合責任の全部が免除されるとは限りません。
重要なのは次の点です。
- 現状として何が存在するのか、買主へ具体的に説明されているか
- 契約不適合責任を免責とする範囲が契約書に明記されているか
- 物件状況報告書、付帯設備表、重要事項説明書と契約書の記載が一致しているか
- 売主が知っている不具合を隠していないか
たとえば「1階和室の窓上部に過去の雨漏り跡があり、2024年に補修済み。再発の可能性を買主が了承し、この箇所は売主の修補対象外とする」と具体的に合意する場合と、「建物は現状有姿とする」とだけ記載する場合では、契約内容の明確さが大きく異なります。
よくある3つの事例
事例1:個人売主が把握していなかった床下の腐食
個人間売買で、建物について契約不適合責任を負わない旨を明確に合意し、売主も腐食を知らなかったケースです。免責特約が有効に働く可能性があります。
ただし、契約書の文言、売主の認識、腐食を示す過去の修繕資料など、事実関係によって判断は変わります。
事例2:売主が雨漏りを知りながら未告知
全面免責の特約があっても、売主が過去の雨漏りを知りながら買主へ告げていなければ、民法572条により免責を主張できない可能性があります。告知書に「雨漏りなし」と記載していた場合は、説明との矛盾も重大です。
事例3:買取再販業者が全面免責を提示
宅建業者が中古住宅を買い取り、自ら売主として一般の買主へ販売するケースでは、宅建業法40条の制限を受けます。全面免責や極端に短い通知期間は、買主に不利な特約として無効になる可能性があります。

売主が契約前に行う7つの確認
- 不具合を一覧化する
雨漏り、シロアリ、傾き、給排水、設備故障、越境、境界など、知っている事実を整理します。 - 修繕履歴と資料を集める
工事見積書、領収書、写真、点検報告書、保険関係書類を準備します。 - 物件状況報告書と付帯設備表を正確に作る
「不明」を無理に「なし」とせず、分からないこともそのまま記載します。 - 免責の対象を具体化する
建物全体か、設備か、特定の既知不具合か、責任期間を含めて整理します。 - 価格への反映を説明する
修繕を買主負担とするなら、売買価格との関係も合意しておくと認識差を減らせます。 - 口頭説明だけで終わらせない
告知書、契約書、メールなど、買主へ伝えた内容を記録に残します。 - 契約書を専門家に確認してもらう
ひな型の免責文言をそのまま使わず、物件と当事者に合った条項にします。
買主が契約前に行う7つの確認
- 売主の属性を確認する
個人、宅建業者、その他の事業者のどれに当たるかで適用法令が変わります。 - 免責の範囲を一文ずつ読む
建物、土地、設備、数量、境界など、何が対象かを確認します。 - 告知書と契約書を突き合わせる
雨漏り「あり」なのに契約書に扱いがないなど、矛盾を残さないようにします。 - 修繕費を見積もる
免責対象の不具合は、購入後の自己負担になる前提で資金計画へ入れます。 - ホームインスペクションを検討する
目視だけで分かりにくい劣化の有無を、契約前に調べる方法があります。 - 既存住宅売買瑕疵保険を確認する
加入可否、検査、対象部分、免責金額、保険期間を確認します。 - 疑問を残したまま署名しない
「一般的な条項です」と言われても、意味を理解できない部分は説明と修正を求めます。
内見時の建物確認には、中古住宅内見チェックリストもあわせてご利用ください。マンションの場合は、専有部分だけでなく管理状況や修繕計画も確認できる中古マンション購入の注意点15選も参考になります。

引渡し後に不具合が見つかったときの対応
不具合が見つかったら、すぐに自己判断で大規模修繕を始めるのではなく、次の順に事実を残します。緊急の漏水停止など、被害拡大を防ぐ対応は別です。
- 発見日、場所、症状を写真・動画で記録する
- 売買契約書、重要事項説明書、物件状況報告書、付帯設備表を確認する
- 売主または仲介会社へ、記録が残る方法で早めに通知する
- 原因と修繕範囲について、施工会社や調査会社の見解を取る
- 免責条項の有効性に疑問があれば、弁護士などへ相談する
民法566条では、種類または品質の不適合について、買主は原則として不適合を知った時から1年以内に売主へ通知する必要があります。ただし、売主が引渡し時にその不適合を知り、または重大な過失で知らなかった場合には例外があります。契約で別の通知期間が定められていることもあるため、発見後は早めに動きましょう。
契約不適合責任の免責に関する注意点
- 免責=説明不要ではない:既知の不具合は具体的に告知する
- 免責=値下げの理由だけではない:何を誰が負担するか書面で合意する
- 築古=何でも免責ではない:契約内容との不一致が問題になる
- 仲介会社がいれば必ず保証されるわけではない:契約不適合責任を負う主体は原則として売主
- 保険と売主責任は同じではない:既存住宅売買瑕疵保険には対象・期間・免責がある
- 個別判断が必要:条項の一部無効、別の法的責任、不法行為責任などが問題になる場合がある
よくある質問
契約書に「一切責任を負わない」とあれば必ず有効ですか?
いいえ。個人間売買では有効となる可能性がありますが、売主が知りながら告げなかった事実、宅建業者が自ら売主となる取引、新築住宅の法定対象部分、消費者契約法に反する損害賠償免責などでは、全部または一部が無効になる可能性があります。
現状有姿なら、雨漏りがあっても請求できませんか?
現状有姿の記載だけで結論は決まりません。雨漏りの存在が告知され、契約内容に織り込まれていたか、別に免責特約があるか、売主が知りながら隠していなかったかなどを確認します。
個人の売主は必ず免責にした方がよいですか?
必ずではありません。買主が不安を感じ、価格や成約条件に影響することもあります。把握している状態を開示したうえで、対象や期間を限定する方法、検査や保険を利用する方法もあります。
宅建業者が仲介する個人間売買なら、宅建業法40条で守られますか?
宅建業法40条は、宅建業者が「自ら売主」となる場合の規定です。宅建業者が仲介するだけで、売主が個人である場合は同じ扱いではありません。
不具合を見つけたら、いつまでに連絡すればよいですか?
種類・品質の不適合は、民法上、原則として知った時から1年以内の通知が必要です。ただし、契約で期間が調整されている場合や例外もあります。証拠を残し、発見後できるだけ早く書面などで連絡してください。
まとめ
契約不適合責任の免責は、中古住宅の個人間売買では原則として合意できます。しかし、売主が知りながら告げなかった事実、宅建業者が自ら売主となる取引、新築住宅の法定対象部分など、免責が制限される重要な例外があります。
売主は「免責だから説明しない」のではなく、知っている情報を具体的に開示すること。買主は「現状有姿だから仕方ない」と即断せず、売主の属性、免責範囲、告知書、検査結果、修繕費を契約前に確認することが大切です。
物件ごとに状態も契約条件も異なります。高額な修繕や紛争につながりそうなときは、署名前、または不具合発見後の早い段階で専門家へ相談しましょう。
参考にした公的資料
- e-Gov法令検索「民法」(562条〜564条、566条、572条など)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(40条など)
- 国土交通省「既存住宅流通に向けて―消費者保護の観点から―」
- 国土交通省「住宅瑕疵担保履行法 Q&A(新築住宅)」
- 消費者庁「消費者契約法 逐条解説」


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