地震・猛暑・クマ…日本人は結局どこで暮らすべきか?複合リスク時代の住まい選び5つの視点
阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめ、私たちは何度も巨大災害を経験してきました。「少しでも地盤が強く、安全な場所で暮らしたい」と願うのは当然のことです。
しかし今、住まい選びで考えるべきリスクは巨大地震だけではありません。年々更新される猛暑、住宅街にまで現れるようになったクマ、各地で続く群発地震——。ここでは、現代ならではの複合リスクを5つの視点で整理します。
1. クマが街に出るのはなぜか——消えた「里山」という緩衝地帯
クマの出没は、もはや山奥だけの話ではなくなりました。環境省の集計によると、2025年度のクマによる人身被害は全国で238人、うち死亡13人となり、いずれも過去最多を更新しています(従来の最多は2023年度の219人・死亡6人)。出没件数も5万件を超えました。都道府県別では秋田67人、岩手40人、福島24人と東北6県で全体の6割超を占め、月別では冬眠前の10月が89人と突出しています。
この背景のひとつが、人里と山の間にあった「里山」という緩衝地帯の消失です。スタジオジブリの映画『平成狸合戦ぽんぽこ』が多摩ニュータウンの開発と、そこで棲みかを失う動物たちを描いたように、高度経済成長期から平成にかけての大規模な宅地開発は、山を削り、森と街の距離を一気に縮めました。加えて近年は中山間地域の過疎化と手入れ不足が進み、藪が人家のすぐ裏まで迫っている地域も少なくありません。
2. 同じ分譲地でも足元は違う——「切土」と「盛土」
山を削って造成された住宅地には、もうひとつ見落とされがちな地盤リスクがあります。「切土(きりど)」と「盛土(もりど)」の違いです。
| 区分 | 造られ方 | 地盤の傾向 |
|---|---|---|
| 切土 | 山側の斜面を削って平らにした部分 | もとの地盤が残るため比較的安定していることが多い |
| 盛土 | 削った土を谷や沢に盛って平らにした部分 | 締固めの状態や地下水の影響を受けやすく、地震・大雨時に変動しうる |
注意したいのは、整然と家が並ぶ同じ分譲地の中でも、「隣は切土、自分の敷地は谷を埋めた盛土」というケースが普通にあることです。区画の見た目からは判断できません。
実際、2004年の新潟県中越地震や2011年の東北地方太平洋沖地震では、谷や沢を埋めた造成宅地・傾斜地に腹付けした造成宅地で、盛土全体が地すべり的に動く「滑動崩落」が発生しました。これを受けて国は2006年に宅地造成等規制法を改正し、「宅地耐震化推進事業」を創設。自治体が大規模盛土造成地を抽出して大規模盛土造成地マップとして公表する取り組みが進められています。まずはこのマップで、検討中の土地が谷埋め型・腹付け型の盛土に当たるかを確認しましょう。
3. 山裾の建物は「土砂を受け止める側」になりうる
山沿いの立地で特に確認したいのが、斜面のすぐ下に建つ住宅やマンションです。眺望が良く静かで人気のある立地ですが、防災の観点では位置関係が重要になります。
土石流や崖崩れが起きた場合、斜面の直下にある建物は、土砂や流木を最初に受け止める位置に立つことになります。1階部分やエントランス、駐車場が埋まるだけでなく、昔からの水の通り道(沢筋・水みち)をふさぐ配置になっていると、雨水が想定外の方向へ回り込み、冠水被害につながることもあります。
判断材料になるのが、都道府県が指定する土砂災害警戒区域(イエローゾーン)と土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)です。レッドゾーンでは建築物の構造規制がかかり、住宅の新築にも制限が及びます。指定の有無は、重ねるハザードマップや各都道府県の土砂災害情報ポータルで住所から調べられます。
あわせて、地理院地図の空中写真で「その建物の真上の斜面がどうなっているか」「沢が上流から下りてきていないか」を見ておくと、地図の色分けだけでは分からない位置関係が把握できます。
4. じわじわ効くリスク——群発地震と、年々厳しくなる猛暑
大災害だけでなく、日常を削っていくタイプのリスクも無視できません。
ひとつは群発地震です。2025年6月に始まった鹿児島県トカラ列島近海の地震活動では、同年6月21日から12月31日までに震度1以上の地震が2,405回観測され、7月3日には十島村・悪石島で最大震度6弱(M5.5)を記録しました。揺れそのものの被害に加え、「次はもっと大きいのが来るのでは」という緊張が長期間続くことの負担は小さくありません。
もうひとつが猛暑です。気象庁によると2025年6〜8月の日本の平均気温は平年より2.36度高く、統計開始以降で最も高い夏となりました。同年8月5日には群馬県伊勢崎市で41.8度を観測し、国内の観測史上最高気温を更新。40度以上を観測した地点数の積算、猛暑日となった地点数の積算も、いずれも歴代最多でした。
| リスクの型 | 性質 | 住まい選びでの対処 |
|---|---|---|
| 突発型(巨大地震・土砂災害) | 確率は低いが被害が甚大 | 立地と地盤で「そもそも避ける」 |
| 持続型(猛暑・群発地震) | 毎年・毎日、生活コストと心身を削る | 断熱性能・日射遮蔽・停電対策で「耐える」 |
猛暑は立地選びだけで避けられるものではありません。ヒートアイランドの影響が強い都市部かどうかという視点はもちろん、建物側の断熱・日射遮蔽の性能、そして停電時にエアコンを動かせるかという備えが、そのまま生活の質と光熱費に直結します。
5. 「100%安全な場所」はない——だから選び方と備えで決まる
巨大地震、猛暑、獣害、地盤・土砂リスク。これらすべてを完全に避けられる地域は、残念ながら日本にはありません。地震が比較的少ない地域を選べば水害や猛暑の課題が出てきますし、涼しい地域は積雪やインフラ維持の問題を抱えます。
大切なのは「無リスクの場所を探すこと」ではなく、リスクの種類と大きさを把握したうえで、引き受けるものと避けるものを自分で決めることです。具体的には次の3ステップです。
1. 昔の地図・空中写真で土地の履歴を見る — 国土地理院の地理院地図なら、1940年代以降の空中写真や旧版地形図を無料で比較できます。山だったのか、谷や池、田んぼだったのかが見えてきます。
2. ハザードマップと大規模盛土造成地マップを確認する — 洪水・土砂災害・津波・液状化の想定と、盛土の位置・規模。この2つは購入前に必ず目を通します。
3. 建物側と暮らし側の備えを厚くする — 断熱・耐震等級といった性能、ポータブル電源や水の備蓄、そして「自宅避難か、親族宅などへ分散避難か」を家族で決めておくこと。
住所から洪水・土砂災害・地震などのリスクをまとめて確認したい方は、災害リスク診断もご利用ください。
候補エリアの価格感はエリア別の不動産相場、通学先は全国の学区情報から確認できます。
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まとめ
1. クマの人身被害は2025年度に238人・死亡13人と過去最多。山際の物件では、里山という緩衝地帯が失われている前提で出没情報を確認する
2. 同じ分譲地でも切土と盛土が混在する。滑動崩落のリスクは大規模盛土造成地マップと土砂災害警戒区域の指定で確認できる
3. 猛暑や群発地震のように「日常を削る」リスクも住まい選びの要素。立地で避けきれない分は、建物性能と停電・分散避難の備えで補う
100%安全な場所はありませんが、調べれば分かることは驚くほど多くあります。気になる土地が見つかったら、印象で決める前に、公的なデータで足元を確かめてみてください。
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