古い部屋の写真をAIできれいにすると、反響は増えます。増えたぶんの内見が「思ってたより古いですね」で終わったとき、消えるのは土曜の午前と往復のガソリン代、そしてその人がもう一度あなたに連絡してくる可能性です。
反響数は増えている。なのに契約が増えない。この記事は、その間で何が起きているのかという話です。
写真で決まるという前提は、今も変わっていない
SUUMOの一覧に並んだとき、人が最初に見るのは写真です。間取りでも駅徒歩でもなく、まず写真を見て、その次に条件を見る。この順番は昔から変わっていません。
変わったのは、きれいな写真を出すコストがほぼゼロになったことです。
ChatGPTやGeminiの画像編集は、もう「なんとなくそれっぽい」の域を超えています。暗い和室は明るいリビングになり、日焼けした壁紙は新品のクロスになり、曇り空の外観は青空の下の一戸建てになります。無料の枠内で、1分もかかりません。
その結果、一覧に並ぶ写真が全社きれいになりました。きれいであること自体は、もう差になりません。
そして差にならないものに全員が投資すると、勝負は「どこまでやるか」の一点に移ります。ここが落とし穴です。
加工した写真は、たしかに反響を増やす
ここは正直に書きます。加工した写真を1枚入れると、問い合わせは増えます。増えないなら誰もやりません。
反響というのは、写真に写っているものに対して来ます。加工後の部屋を出せば、加工後の部屋を気に入った人が問い合わせてきます。当たり前のようですが、この一文がすべての原因です。
問い合わせが増えると、手応えがあります。数字が動いているので上司にも報告できます。写真を撮り直した営業からすれば、報われた気がする瞬間です。
ただ、反響数は途中経過であって、売上ではありません。


※2枚ともAIで生成したイメージ画像です。実在の物件ではありません。窓・収納・エアコンの位置は同じで、変えたのは壁紙・床・光・空だけです。
きれいな方の写真で問い合わせてきた人が、古い方の部屋に立ちます。そこで何が起きるかが、この記事の本題です。
土曜10時、玄関を開けた3秒
現地に着いて、鍵を開けます。ドアを引いた瞬間、客が半歩そこで止まる。
「……あ、はい」
この「あ、はい」が出たら、その案内はもう終わっています。以降、質問が減ります。収納を開けなくなります。写真では新品だった壁紙の継ぎ目を、黙って見ている。
帰りの車で「他も見てから決めます」と言われる。営業のほうもわかっています。落ちたのは物件ではなく、写真との差です。
そして厄介なことに、この人はもう戻ってきません。物件が合わなかっただけなら次を紹介できますが、「話と違った」と感じた相手は、次の紹介そのものを警戒します。失ったのは1件の内見ではなく、その顧客との残り全部です。
内見は、加点ではなく減点で始まる
なぜこうなるのか。人が現地でやっているのは物件の評価ではなく、写真との答え合わせだからです。
写真で作った期待値が、その瞬間の満点になります。現地はそこからの引き算で採点されます。
- 期待値100の写真 → 現地は必ず100未満。差が大きいほど減点が深い
- 期待値60の写真 → 現地で見つかった良い点が、そのまま加点になる
同じ部屋を案内しているのに、写真の作り方だけで採点方式が変わります。
築30年の部屋を「築5年に見える写真」にすると、内見は25年ぶんの減点から始まります。逆に築30年の現況をそのまま出すと、日当たりの良さも、収納の奥行きも、静かな共用廊下も、全部プラスとして拾われます。
もうひとつ、実務的な副作用があります。加工しすぎた写真は、内見前の質問を消します。 写真ですべて解決しているように見えるので、聞くことがなくなる。逆に現況を出すと「この荷物は残るんですか」「壁紙は張り替えますか」と、先に聞かれます。この質問が来る相手は、条件を飲む用意がある人です。
質問が来ないまま現地に集まる案内が、いわゆる無駄足になります。
しかも、消す加工は広告のルールに触れる
感情の話だけではありません。ここからは規約の話です。
不動産広告は「不動産の表示に関する公正競争規約」の対象で、写真についても条文があります。
規則第9条第22号は、建物の写真は取引する建物のものを使うことを求めています。2022年9月の改正で例外の範囲が整理され、建物が未完成などで自らの写真を使えない場合に限り「取引する建物を施工する者が過去に施工した建物であり、構造、階数、仕様が同一であって、規模、形状、色等が類似する他の建物」の写真を、その旨を示して使えるという形になりました。
規則第9条第23号は、コンピュータグラフィックス・見取図・完成図・完成予想図について、「その旨を明示して用い、当該物件の周囲の状況について表示するときは現状に反する表示をしないこと」と定めています。
そのうえで、首都圏不動産公正取引協議会は不当表示の例をこう示しています。
電柱や電線を消した現地写真とCG合成写真は「物件の周囲の環境に変更を加えており、実際のものよりも著しく優良なものであると誤認される」不当表示
電柱1本を消しただけでこの扱いです。 壁紙を張り替え、床を貼り替え、キッチンを新品に差し替えた室内写真が、どこに置かれるかは想像がつきます。
媒体側も同じ土俵にいます。SUUMO・HOME’S・at homeはいずれもこの規約に沿った掲載基準を持っていて、違反が指摘されたときに止まるのは1枚の写真ではなく掲載そのものです。ポータル経由で集客している会社にとって、掲載停止は数日でも売上に直撃します。
私はこれを「補正」ではなく「広告表現の作成」だと考えています
ここから先は私の意見です。
世の中では、AIによる画像編集は「写真加工ツールの延長」として語られています。私はそう見ていません。壁紙や設備を差し替えた時点で、それは写真の補正ではなく、実在しない部屋を描いた広告表現の作成です。
根拠は規則第9条第22号の書き方にあります。この条文が求めているのは「きれいな写真」ではなく「取引する建物の写真」です。構造や仕上げを描き換えた画像は、もう取引する建物の写真ではありません。生成に使ったのが自社で撮った1枚だったとしても、出来上がりが別物なら同じことです。
最終的な可否を決めるのは所属する公正取引協議会と媒体で、私の解釈がその判断に代わるものではありません。ただ、判断に迷ったときに「どちらが説明しやすいか」で選ぶなら、答えははっきりしていると考えます。
加工を3つに分けると、線が引ける
「AI加工は全部だめ」という話ではありません。実務では3つに分けると迷わなくなります。
| 種類 | 具体例 | 扱い |
|---|---|---|
| 整える | 明るさ、色かぶり、水平、レンズのゆがみ、曇天の露出補正 | 撮影条件の補正。部屋そのものは動かないので問題になりにくい |
| 足す | 家具・小物の合成(バーチャルステージング) | 「※CGによるイメージです。実際の物件に家具は含まれません」を画像の近くに明示すれば使える |
| 消す・置き換える | 残置物、汚れ、傷、劣化した壁紙、古い設備、電柱・電線 | 内見での減点と規約リスクが同時に発生する。ここを触らない |
判断に迷ったときの基準は1行です。
現地に立った人が、写真と同じものを見られるか。
見られるなら整えていい。見られないなら、それは消してはいけないものです。
答えは「消す」ではなく「並べる」
ここからが本題です。現況が古い、荷物が残っている、そのままでは見栄えがしない。その現実は変わりません。変えるのは見せ方の構造です。
1. 現況写真を、加工なしで必ず1枚置く
一覧のサムネイルは整えた1枚でかまいません。ただし詳細ページには、現況のままの写真を必ず入れます。ここが期待値の基準線になります。
2. 「現況 → 変わったあと」の2枚組にする
1枚に統合するのではなく、2枚に分けます。先に現況、次にイメージの順です。これで役割が変わります。
- 1枚に統合 … 「これが今の部屋です」という嘘になる
- 2枚を並べる … 「今はこうで、こう変わります」という提案になる
同じAI画像でも、置き方が変わるだけで不当表示から提案資料に変わります。ここを分けているかどうかが、実務上いちばん大きな差です。
3. イメージ側に必ず注記を添える
画像の下、または画像に焼き込みで、離れて読める大きさで入れます。
※この画像は原状回復後のイメージです(CG)。現況は別掲の現況写真のとおりです。
※CGによるイメージです。実際の物件に家具・調度品は含まれません。
注記は画像から離さないでください。ページ末尾にまとめて書くと、画像を見た人には届きません。
4. 残置物は、写ったまま出す
いちばん抵抗があるのがここだと思います。荷物が残った部屋の写真を出したくない気持ちはわかります。

※AIで生成したイメージ画像です。実在の物件ではありません。
それでも出したほうが決まります。理由は3つあります。
- 撤去の条件が、内見前に会話に乗る。「引渡しまでに撤去します」を先に言える
- 現地で「聞いていない」が発生しない。減点が起きない
- 荷物を見ても問い合わせてくる人は、状態を許容している人。内見の打率が上がる
撤去後のイメージを続けて並べれば、見栄えの問題も片付きます。
5. 内見の前日に、写真をもう一度送る
無駄足をいちばん減らすのはこの一手です。
明日ご案内するお部屋の現況写真です。当日はこの状態でご覧いただきます。クロスとハウスクリーニングは引渡し前に実施予定です。
これで来なくなる人は、現地でも決まらなかった人です。土曜の午前が空くほうが得です。
数字で見ると、どちらが得か
時間の話を金額に置き換えます。
神戸市中央区の賃貸の中央値は1㎡あたり2,548円です(51,750件の実勢データ。国土交通省「不動産情報ライブラリ」より当サイトが集計)。50㎡に換算すると月額およそ12万7,000円で、成約1件で入る仲介手数料は家賃1か月分+消費税、およそ14万円になります。
内見1件の往復と現地対応を2時間とすると、土曜に4件案内して全部が「思ってたより古い」で終わった週末に消えるのは8時間です。その8時間は、14万円の成約を1件作るために使えたはずの時間そのものです。
加工写真で反響を1.5倍にしても、内見の打率が半分になれば、成約数は減ります。増えるのは案内の件数と、断られる回数だけです。
参考までに、同じ集計での近隣区は灘区が2,452円/㎡、東灘区が2,277円/㎡です。区が変わっても、案内1件にかかる時間は変わりません。
まとめ
写真の役目は、問い合わせを最大にすることではありません。現地に来る人と、現地の実物を一致させることです。
- きれいな写真はもう差にならない。差になるのは、写真と現地が合っているかどうか
- 消した写真は、内見で減点方式を起動する。しかも規約上も説明できない
- 現況と変化後を並べて出せば、同じ画像が提案資料になる
- 残置物は写ったまま出したほうが、内見の打率が上がる
加工をやめろという話ではありません。1枚に混ぜるのをやめて、2枚に分ける。それだけで、反響も、契約も、土曜の午前も守れます。
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👉 SUUMO賃貸の写真は何枚必要?基本5カテゴリと入稿のコツ
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この記事の情報について
規則第9条第22号(建物の写真)および第23号(CG・完成予想図の明示)に関する記載は、不動産公正取引協議会連合会の「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」および2022年9月1日施行の改正内容、ならびに公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会が公表している不当表示の事例に基づき、2026年8月に確認したものです。賃貸の中央値は国土交通省「不動産情報ライブラリ」の実勢取引データをもとに当サイトが集計した目安で、個別物件の賃料を保証するものではありません。仲介手数料の金額は家賃1か月分+消費税として計算した例です。実際の広告表現の可否は掲載媒体の基準および所属する不動産公正取引協議会の判断によります。本文中の「私は〜と考えています」で示した部分は筆者の見解です。記事内の室内写真3点はすべてAdobe Fireflyで生成したイメージ画像で、実在の物件ではありません。3点は同じ生成画像を元に、壁紙・床・光・残置物だけを変えたものです。


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