規制の数値を公表している会社では、在来線が止まる目安は風速25m/sです。JR西日本が公式サイトで「運転を中止させるときの気象値が25m/sから30m/sとなります」と明記しています(防風柵のある区間は30m/sまで耐える、という説明の中の数字です)。
ただし、この数字を覚えても、当日の朝に改札の前で立ち尽くす事態は避けられません。止めるかどうかを決めているのは、あなたの頭上の空ではなく、沿線に並んだ風速計の実測値だからです。
「なぜ台風だと電車が止まるのですか? 晴れていて、風もないのに市街地で電車が止まっています」——台風が来るたびに、Yahoo!知恵袋の検索上位へこの質問が戻ってきます(2024年9月投稿)。ほぼ同じ質問は2011年4月にもあります(「電車が運休になる条件を教えてください 風速何メートルくらいで止まりますか?」)。15年間、繰り返し検索されているのに、答えがきちんと共有されていない質問だということです。
この記事では、①何m/sで止まるのか(数字を公表している会社・していない会社)、②晴れている駅でも止まる理由、③計画運休はいつ発表されるのか、④風がやんでもすぐ動かない理由を、国土交通省と鉄道各社の一次資料だけで説明します。
先に結論
- 数値を公表している会社では、在来線の運転中止の目安は風速25m/s(JR西日本。防風柵のある区間は30m/s)
- JR東日本は数値を公表していない。「速度規制→運転見合わせ」の2段階の運用だけを公表
- 止める判断は沿線の風速計の実測値。晴れている駅でも、別の区間の規制と車両のやりくりで止まる
- 雨は「1時間の強さ×降り続いた総量」の組み合わせで、警戒→速度規制→運転中止の3段階
- 計画運休は約48時間前に第一報、約24時間前に詳細。今この瞬間の運行状況は、各社の公式運行情報でしか分からない
いままさに台風が近づいていて、「いつ止まるか・いつ分かるか」を先に知りたい人は、発表のタイムラインを1本にまとめた記事からどうぞ。
→ 台風で電車が止まるか、いつ分かる?|48時間前・24時間前に何が出るかは国が決めている
電車が止まる風速は何m/s? 数字を公表している会社と、していない会社
「JRの電車が強風で運転見合わせになるのは大体風速何mくらいからですか?」。知恵袋のこの質問(2025年2月投稿)への答えは、実は会社によって出せたり出せなかったりします。規制値そのものを公表している会社と、していない会社があるからです。
JR西日本は「25m/s」と数字を出している
JR西日本は公式サイトの暴風対策のページで、沿線の風速計の値が規制値に達すると運転の中止や速度規制を行うと説明したうえで、防風柵を設置した区間について「運転を中止させるときの気象値が25m/sから30m/sとなります」と数字を書いています。裏を返せば、柵のない一般の区間では、25m/sが運転中止の目安です。
ただし同じJR西日本が、FAQでは規制値について「線区や区間によって詳細に定められています」とも説明しています。橋の上、堤防の上、切り通しの中——風の当たり方は場所ごとにまったく違うからです。全国一律の「電車が止まる風速」は存在しません。25m/sは、その中の代表的な目安です。
JR東日本は数字を公表していない
一方、JR東日本の公式サイトにある強風時の運転規制の解説は、風が強まるとまず速度を落として運転し、さらに強まると運転を見合わせる——という2段階の流れを図で示すだけで、それぞれの段階が何m/sで始まるのかは載せていません(2026年8月22日閲覧)。
ネット上には「JR東日本は風速20m/sで徐行、25m/sで運転中止」という解説がいくつも出回っています。しかし、少なくとも現在の公式ページに、この数字はありません。この記事では、公式が出していない数字を「JR東日本の基準」として書くことはしません。
私はこの非公表を、不親切だとは見ていません。規制値は区間ごとに細かく違ううえ、1つの数字が独り歩きすると「まだ25m/sに達していないから動くはずだ」という逆算に使われるからです。次の章で触れる2005年の羽越本線の事故は、風速計の値が当時の規制値に達していない状況で起きました。数字を暗記することより、数字が絶対ではないと知っていることのほうが、安全側の知識だと考えています。
私鉄と地下鉄は「当日の運行情報」がすべて
私鉄については、規制値の数字を一次資料で確認できなかったため、この記事では挙げません。台風当日の運転計画は、各社の運行情報ページで発表されます。
「地下鉄なら台風でも関係ない」も思い込みです。東京メトロは9路線のうち7路線に地上区間があり、公式サイトで「強風のときは、電車の速度を落としたり運転を見合わせたりして、ダイヤが乱れることがあります」と説明しています。数値はやはり非公表です。
風速25m/sは「時速90kmの空気」
25m/sと聞いても体感につながりませんが、気象庁の「風の強さと吹き方」に対訳表があります。風速20〜25m/sは「何かにつかまっていないと立っていられない」「細い木の幹が折れたり、根の張っていない木が倒れ始める」風。時速に直すと、25m/sはちょうど90kmです。高速道路を走る車の窓の外を流れている空気と同じ速さの風が、線路とホームに吹き続けている状態。木の枝や看板が線路へ入り始める風速だから、そこで止める決まりになっています。
「晴れていて、風もないのに」止まる理由は2つ
冒頭の知恵袋の質問には続きがあります。「前日の天気予報でもふつうの小雨でした。念のためということでしょうか?」——念のため、という漠然とした話ではありません。理由は具体的に2つあります。
理由1 風速計は、あなたの駅の空を見ていない
運転を止めるかどうかは、沿線に設置された風速計の実測値で決まります。判断の材料は路線のどこかの区間の風であって、あなたがいる駅の風ではありません。
そして電車は、車両と乗務員が路線を行って戻る循環で動いています。海沿いの橋など1区間が規制値を超えて止まると、そこを通るはずだった車両が反対側へ届かなくなり、風のない市街地の駅にも電車が来なくなります。直通運転が広がった現在は、隣の会社の路線で起きた規制の影響まで自分の路線へ流れ込みます。晴れた空の下で電車が止まっているとき、止めた原因の風は、たいてい別の場所で吹いています。
理由2 「規制値未満なら安全」ではなかった——2005年の教訓
2005年12月25日の夜、JR羽越本線で特急「いなほ14号」が突風にあおられて脱線・転覆し、5人が亡くなりました。このとき付近の風速計が示していたのは20m/s前後。当時の規制値30m/sには達していませんでした。突風は推定で40m/s級だったとされています。
気象庁も、瞬間風速は平均風速の1.5倍程度になり、大気の状態が不安定なときは3倍以上に達することがあると注記しています。風速計が示すのは平均値なので、数字が規制値未満でも、その1.5倍から3倍の風が一瞬だけ吹くことがある。この事故のあと、鉄道各社は風速計を増設し、規制値を見直し、規制値に達する前から速度を落とす「早め規制」に運用を変えました。2017年12月には、突風をレーダーで捉えて列車を止める運転規制も羽越本線で始まっています。
「まだそんなに吹いていないのに止めるのか」への答えはここにあります。数字ちょうどまで待たないこと自体が、この20年で作られてきた安全装置です。
雨の基準は「1時間の強さ」×「降り続いた総量」
風は「今の強さ」で決まりますが、雨は違います。JR西日本は、一定時間内の大雨だけでなく、雨が長時間降り続いた場合にも、線路の地盤が崩れたり土砂が流れ込んだりする危険があるため、速度を落としたり運転を見合わせたりすると説明しています。
鉄道の運転規制を扱った学会誌(自然災害科学)によると、雨の規制は1時間あたりの雨量(時雨量)と降り始めからの合計(連続雨量)を組み合わせ、「警戒値→速度規制値→運転中止値」の3段階で運用する方式が標準です。
だから台風のあと、「雨はもう小降りなのに止まったまま」が起きます。小降りになっても、それまでに地面へ染み込んだ水の量は減っていないからです。連続雨量の規制が見ているのは空模様ではなく、線路の下の地盤です。
計画運休はいつ発表される? 48時間前と24時間前
台風の場合は、風速計が規制値を超えるのを待たずに、あらかじめ予告して止める「計画運休」が主流になりました。本格的な計画運休は、2014年10月にJR西日本が京阪神で実施したのが最初とされます(民鉄協会・鉄道用語事典)。そして発表のタイミングは各社ばらばらに見えて、実は国土交通省が2019年7月にまとめた「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」のモデルケースに沿っています。きっかけは2018年の台風21号・24号でした。
- 約48時間前:暴風域が沿線を通る可能性が出た段階で、「運転を取り止める可能性があります」という第一報
- 約24時間前:運転計画の詳細。何日の何時以降にどの路線を順次止めるか、振替輸送を行うかどうか、次のお知らせが何時に出るか
- 当日:警報を受けて、何時から順次止め、路線ごとの最終列車が何時になるか
見落としやすいのは振替輸送の扱いです。国のモデル文例では、実施しない場合に「他の事業者への振替輸送を行う予定はありません」と明示する書式になっています。つまり計画運休では、振替輸送が無いことが正式にあり得ます。書いていないのではなく、「やらない」と書いてあるかどうかを読む必要があります。
知恵袋には、雇う側からの相談もあります。「台風で電車が止まると『交通手段がない』と言って会社を休む社員がいます」。国の取りまとめは、計画運休の役割として早期帰宅の促進や不要不急の外出の抑制を挙げています。出社するかどうかの押し問答は、当日の朝に改札の前でやるものではなく、24時間前の詳細発表が出た時点で職場と決めておくもの——それがこの制度の設計です。
48時間前と24時間前にそれぞれ何が発表され、告知文のどこを読めばいいかは、こちらの記事で1本にまとめています。
→ 台風で電車が止まるか、いつ分かる?|48時間前・24時間前に何が出るかは国が決めている
風がやんだのに動かないのはなぜ? 点検は風の後にしか始められない
台風のたびにもう1つ不満が出るのが、再開の遅さです。国の取りまとめには、こう書かれています。「運転再開にあたり、基本的に全線にわたり、構造物の状態や飛来物による支障状況等を確認する必要がある」。告知の文例まで用意されていて、「台風通過後、風雨が落ち着いた段階で、線路等の安全点検を係員が実施します」とあります。
点検は、風がやんでから始まります。だから再開は、必ず風より遅れます。線路上の飛来物や倒木を確認しながら進める作業なので、「暴風警報が解除されたのに動かない」は、対応が遅れているのではなく、そういう順番なのです。
再開の直後にも落とし穴があります。2019年9月の台風15号では、首都圏の計画運休が明けた朝、動き出した駅に利用者が集中して主要駅で入場規制となり、JR東日本の在来線だけで277万人に影響が出たと報じられました。運休の告知だけを見て「明けたら即動く」と決め打ちすると、駅の外の列に並ぶことになります。
道路と鉄道で復旧の速さが割れた実例もあります。2026年8月の千葉の大雨では、高速道路に朝9時30分の通行止め解除見込みが付いた時刻になっても、並行する外房線の一部区間には再開見込みすら出ていませんでした。
→ 電車を待つほうが遅くなりました。千葉の大雨、高速は9時30分に開いたのに外房線の鴨川側は見込みすら出ていません
今動いているかは、このページでは分かりません
この記事は「どういう仕組みで止まり、いつ発表され、なぜ再開が遅れるか」の解説で、今この瞬間の運行状況は載せていません。台風が近づいたら、見るものは3つだけです。
- 利用する路線の公式運行情報ページ(またはアプリ・公式X)。第一報は約48時間前、詳細は約24時間前に出る
- 告知文の中の「次回のお知らせは○時頃」の時刻。控えておけば、5分おきに更新を確かめる必要がなくなる
- 振替輸送を「行う」のか、「行う予定はありません」なのか
そして台風は、電車だけでなく家にも同じ判断を迫ります。自宅や職場の浸水・土砂のリスクは、住所を入れれば1分で確認できます。電車が止まる日は、家のまわりの水の通り道を知っておく日でもあります。
そのうえで、今日・明日の電車が動くかどうかだけは、このページではなく、必ず各社の公式運行情報で確認してください。
出典(この記事で使った一次資料・報道)
- 国土交通省「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」(2019年7月2日)本文・別紙「計画運休・運転再開時における情報提供タイムラインのモデルケース」
https://www.mlit.go.jp/common/001296916.pdf / https://www.mlit.go.jp/common/001296917.pdf
- 気象庁「風の強さと吹き方」(体感・時速換算・瞬間風速の倍率)
- JR西日本「安全・安定輸送への取り組み(暴風対策)」(運転中止の気象値25m/s→30m/s)

- JR西日本FAQ(規制値は線区・区間ごとに定められている旨)
- JR西日本「台風・大雨への対策」(雨の規制の考え方)

- JR東日本 公式サイト・強風時の運転規制の解説(2段階の運用のみ公表。規制の数値は非公表。2026年8月22日閲覧)
- 東京メトロ「台風・暴風雨のときは」(9路線中7路線に地上区間)
- 国土交通省 羽越線事故関連ページ(2005年12月25日・特急いなほ14号)
- 自然災害科学 J.JSNDS 33 特別号掲載論文(時雨量×連続雨量の3段階規制)
- 日本経済新聞(2019年9月・台風15号 JR東日本の在来線277万人に影響)

- 読者の声として引用したYahoo!知恵袋の投稿(2024年9月・2025年2月・2011年4月ほか、いずれも実在の投稿の原文)
※本記事は2026年8月時点で各社・官公庁が公表している資料にもとづく常設の解説です。規制値や運用は今後変わることがあります。最新の運行状況は各社の公式発表をご確認ください。


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