夏休みに泊まる宿は、山あいの避暑地か海沿いに偏ります。土砂災害と津波という、立地でほぼ決まる災害の真上です。
そして8月は、台風の接近数が年間で最も多い月です。気象庁の平年値(1991〜2020年)で月3.3個、年間11.7個のうち8月と9月の2か月で6.6個を占めます。夏休みは、災害が起きやすい時期に、災害に弱い場所へ泊まりに行く行事だということになります。
山あいの宿で大雨になったとき、内閣府のガイドラインが示している行動は「2階以上の、崖や沢からなるべく離れた部屋で待避する」です。予約時に何も考えずに1階の眺めのいい山側の部屋を取っていると、いざというときにこの条件を満たせません。
旅先で被災すると、自宅にいるときより不利な条件が3つ重なります。避難場所を知らない、その土地がどんな災害に弱いか知らない、そして手元に道具がない。2025年に発生した土砂災害は578件、人家被害は241戸でした(国土交通省)。統計を取り始めてからの平均1,116件を下回った年でも、この件数です。
この記事では、出発前に5分でできる確認と、宿に着いてから30秒で終わる確認、そして荷物に足すものを順番に書きます。
・8月と9月に台風がどれだけ集中しているのか
・山が近い宿、川が近い宿で、どの部屋を選べば安全側に倒せるのか
・出発前5分でやる確認3つと、到着後30秒でやる確認3つ
・警戒レベル3・4・5で、旅行中に何をやめるか
・旅行カバンに足す持ち物と、その理由
夏休みは、時期も場所も条件が重なっている
台風の平年値(気象庁・1991〜2020年の30年平均)を月別に見ると、夏休みの位置がはっきりします。
| 月 | 日本への接近数 | 上陸数 |
|---|---|---|
| 7月 | 2.1 | 0.6 |
| 8月 | 3.3 | 0.9 |
| 9月 | 3.3 | 1.0 |
| 年間 | 11.7 | 3.0 |
年間11.7個の接近のうち、8月と9月だけで6.6個。56%が夏休みとその直後に集まっています。
泊まる場所の偏りも重なります。夏の宿は、涼しさを求めれば高原や渓谷沿い、海水浴なら砂浜のすぐ後ろです。避暑地の宿が斜面に建ち、海の宿が低い土地に建つのは、それが売りだからです。眺めと涼しさの理由が、そのまま災害の理由になっています。
もうひとつ夏休み特有なのが、お盆の交通集中です。新幹線も高速道路も満席・渋滞の時期に運休や通行止めが重なると、代わりの便がありません。私は、夏の旅行でいちばん現実的なリスクは被災そのものより「帰れなくなること」だと考えています。常備薬を2日分多めに持つ理由がここにあります。
山が近い宿では「2階以上・山と反対側の部屋」
土砂災害の危険があるとき、外に出て避難所へ向かうのが基本です。ただし夜間や、すでに雨が強くて道路が見えない状況では、外に出るほうが危険になります。
そのときに国が示しているのが屋内で安全を確保する方法で、内閣府「避難情報に関するガイドライン」には、立退き避難ができない場合には頑丈な建物の2階以上の、崖や沢からなるべく離れた部屋で待避する、という趣旨が書かれています。警戒レベル5の緊急安全確保でも、自宅の上の階や崖から離れた部屋に移動することが挙げられています。
これを旅行に置き換えると、部屋選びの基準になります。

| 宿の立地 | 避けたい部屋 | 安全側の部屋 |
|---|---|---|
| 背後に山・急な斜面がある | 1階/斜面に面した側 | 2階以上/斜面と反対側 |
| 川沿い・谷の出口 | 1階/川に面した側 | 2階以上/川と反対側 |
| 海のすぐ近く | 低層階 | 高層階(津波は高さで避ける) |
温泉地は谷沿いや斜面に建っている宿が珍しくありません。露天風呂から山が見える立地は、裏返すと斜面が建物のすぐ後ろにあるということです。眺望のいい部屋と、雨のときに安全な部屋は一致しないことがあります。
私は、旅行の部屋選びで安全を最優先にすべきだとまでは考えていません。ただ、山側の1階を選んだ場合は「大雨になったら館内の反対側・上階へ移る」と決めておくだけで、判断に迷う時間がなくなります。宿にはたいてい2階以上のロビーや大広間があります。
出発前5分でやる確認3つ
宿に着いてからでは調べにくいことを、先に済ませます。

1. 宿の住所でハザードマップを見る
宿の名前ではなく住所で調べます。土砂災害警戒区域、洪水の浸水想定、津波の想定が地図上で色分けされます。色が付いていたら、その災害が起きうる場所だという意味です。
2. 宿から一番近い避難場所を1か所だけ覚える
複数覚える必要はありません。名前と方向だけで足ります。旅先では土地勘がないので、停電した夜に地図アプリを開いて探すのは現実的ではありません。
3. 家族で「はぐれたらどうするか」を決める
観光地は人が多く、災害時は電話がつながりにくくなります。決めるのは2つで、集合場所と、連絡が取れないときにどちらが動かないか。動かない側を決めておくと、探し合ってすれ違うことがなくなります。
到着後30秒でやる確認3つ
部屋に入ってスリッパを履くまでの間に終わります。
- 非常口の方向を目で確認する。部屋のドアの内側に避難経路図が貼ってあります。左右どちらに何メートルかだけ見ます
- 自分の部屋が山側か川側かを確認する。窓から斜面が見えるなら山側です
- 懐中電灯とスリッパの位置を確認する。停電時に裸足でガラスの上を歩くのを避けるためです
夜中に地震で起きたとき、この3つを知っているかどうかで最初の1分の動きが変わります。
警戒レベル3・4・5で、旅行中にやめること
大雨のとき、自治体からは5段階の警戒レベルで情報が出ます。旅行者にとっての判断は、観光の予定をどこで切るかです。
| レベル | 出る情報 | 旅行中にやめること |
|---|---|---|
| 3 | 高齢者等避難 | 山道・渓谷・河川敷の観光地へ行くのをやめる |
| 4 | 避難指示 | 移動そのものをやめる。宿にとどまるか、明るいうちに安全な場所へ移る |
| 5 | 緊急安全確保 | 外に出るのをやめる。上階・斜面と反対側の部屋へ移る |
レベル4は「危険な場所から全員避難」の段階です。旅行の予定を守るために車を出すかどうかで迷う場面が出てきますが、私は旅先ではレベル3で予定を捨てるほうが結果的に安く済むと考えています。理由は、旅先では通行止めの迂回路を知らないためで、途中で身動きが取れなくなると宿にも目的地にも戻れなくなるからです。
車で移動する場合、冠水した道路に入らないことが一番効きます。線路や道路の下をくぐるアンダーパスは水が集まりやすく、水深が分からないまま進入すると脱出できなくなります。水が見えたら引き返す、が唯一の対処です。
旅行カバンに足すもの
旅行の荷物は増やしたくないので、家に置いてある防災セットを持って行く話ではありません。夏の旅行で実際に効くものだけを挙げます。
| 持ち物 | 旅先で効く理由 |
|---|---|
| モバイルバッテリー | 土地勘がないぶん地図と情報収集でスマホを使い切る。停電すると宿でも充電できない |
| 小型ライト | 知らない建物の中を停電時に動く。スマホのライトは電池を削る |
| 経口補水液または塩分タブレット | 夏は避難より先に熱中症で動けなくなる。移動中の車内でも起きる |
| 常備薬を2日分多めに | 交通が止まると帰宅が延びる。旅先で同じ薬を手に入れるのは時間がかかる |
| 健康保険証(またはマイナ保険証) | けがや体調不良で受診するときに要る。財布と別に入れておく |
| 現金 | 停電するとキャッシュレス決済が止まる。1万円ぶんの小額紙幣で足りる |
宿に泊まる旅行なら、水と食料は宿にあります。持って行くべきは、宿が機能しなくなったときに自分の身体を動かし続けるためのものです。
よくある質問
山の近くの宿で大雨になったら、どの部屋にいればいいですか
2階以上の、山や沢からなるべく離れた側の部屋です。内閣府「避難情報に関するガイドライン」で、立退き避難ができない場合の屋内での待避方法として示されています。自分の部屋が1階の山側なら、館内の上階・反対側にあるロビーや大広間へ移ります。
旅行中に避難指示(警戒レベル4)が出たらどうすればいいですか
移動をやめて、その時点で安全な建物にとどまる判断が基本です。車での移動は、冠水した道路やアンダーパスに入る危険があります。宿が土砂災害警戒区域や浸水想定区域の中にある場合は、明るいうちに区域外の建物へ移ります。
旅行に防災グッズを持って行く必要はありますか
防災セットを丸ごと持って行く必要はありません。宿には水も食料も寝具もあります。足すのはモバイルバッテリー、小型ライト、常備薬の予備、現金の4つで、いずれも普段の旅行カバンに入る大きさです。
夏休みの旅行で、特に気をつける時期はいつですか
8月と9月です。気象庁の平年値では日本への台風接近数が月3.3個で、この2か月だけで年間11.7個の56%を占めます。お盆は交通が集中するため、運休や通行止めが起きたときの代替手段が少なくなります。
宿の災害リスクは何で調べられますか
宿の住所を入れて、洪水の浸水想定・土砂災害警戒区域・津波の想定を地図で確認します。自治体のハザードマップのほか、当サイトの災害リスク診断でもまとめて確認できます。宿の名前ではなく住所で調べるのが確実です。
出典
台風の月別平年値は気象庁「台風の平年値」(1991〜2020年の30年平均)、避難行動の記述は内閣府(防災担当)「避難情報に関するガイドライン」、警戒レベルの区分は政府広報オンラインの解説によります。土砂災害の発生件数は国土交通省が公表した令和7年(2025年)の集計で、37都道県578件、死者2名、人家被害241戸、統計開始(昭和57年)から令和6年までの平均は1,116件です。
旅行カバンに足しておくもの
防災セットを丸ごと持って行く話ではありません。宿には水も食料も寝具もあるので、足りなくなるのは電源と灯りと薬です。
災害時に多いつまずきが「ケーブルが見つからない・端子が合わない」です。本体にケーブルが付いている型だとそこで止まりません。20000mAhでスマホ数回分。
鍵につけて持ち歩けるサイズ。停電や夜道、内見での床下確認にも使えます。備えは「持ち歩けるかどうか」で使用率が変わります。
汗で失われるのは水分と塩分の両方です。水だけ飲み続けると体内の塩分が薄まってかえって具合が悪くなります。停電で冷蔵が使えない前提でも常温で置いておけます。
車中泊のエコノミークラス症候群対策として、厚生労働省や日本循環器学会が弾性ストッキングの使用を挙げています。歩く・水を飲むことが基本で、これはその補助です。
※ 本記事には広告(アフィリエイトリンク)が含まれます。紹介している商品は、記事の内容に関連するものを編集方針にもとづいて選んでいます。Amazonのアソシエイトとして、おかあさんのおうちは適格販売により収入を得ています。


コメント