🗨️「家の下の擁壁が大谷石。建築基準法ではもう使えない擁壁なの?」
法令の条文に「大谷石」という言葉は1つもありません。宅地造成及び特定盛土等規制法施行令が石積みの擁壁に求めているのは、材料の名前ではなく、石の控え長さ30センチ以上・コンクリートで一体にする・裏込めをするという造り方です。ただ、古い大谷石積みの多くはそれを満たしている証明がなく、国土交通省の判定マニュアルは大谷石積みを空石積みと同じ欄で採点しています。表面がすり減っているだけで危険度「中」の入り口に届きます。
[不動産] この記事の要点
2026年9月24日 発表
- 国の判定マニュアル(案)では、大谷石積みは表面の摩耗だけで変状点5.0点=危険度「中」
- 横浜市のチェックシートでは、ひびが無くても水抜き穴が無ければ6.0点=「やや不安定」
- 横浜市は大谷石積を「現行法で認められていない擁壁」ではなく「崩れた事例が多い擁壁」に分類している
条文に「大谷石」という言葉はありません
「大谷石の擁壁は今の法律では違法」と聞いたことがある人は多いと思います。ところが、擁壁の造り方を決めている政令を最初から最後まで読んでも、「大谷石」という言葉は出てきません。
宅地造成及び特定盛土等規制法施行令の第8条は、擁壁を鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造、または間知石練積み造その他の練積み造にすることと決めています。石を積む擁壁の中身を決めているのが第10条です。
二 石材その他の組積材は、控え長さを三十センチメートル以上とし、コンクリートを用いて一体の擁壁とし、かつ、その背面に栗石、砂利又は砂利混じり砂で有効に裏込めすること。
宅地造成及び特定盛土等規制法施行令 第10条第2号(e-Gov法令検索・2026年9月24日取得)
材料は「石材その他の組積材」とだけ書かれています。法令が問うているのは石の名前ではなく、奥行き30センチ以上の石をコンクリートで一体にし、裏に砂利を詰めてあるかという造り方です。高さ2メートルを超える擁壁に建築基準法施行令第142条がかける基準も同じで、「石造の擁壁にあつては、コンクリートを用いて裏込めし、石と石とを十分に結合すること」とあるだけです。
じゃあ、大谷石の擁壁は問題ないってこと?
そうとも言えません。古い大谷石積みの多くは、その造り方で積まれたと証明する書類がありません。そのうえ石そのものが風化しやすいので、国も市も別の物差しで見ています
横浜市の分類は「違法」ではなく「崩れた事例が多い」
大谷石の擁壁をいちばんはっきり名指ししているのは横浜市です。建築局宅地審査課のパンフレット「擁壁のはなし」は、擁壁を3つに分けています。
| 横浜市の分類 | 入っている擁壁 |
|---|---|
| 安全性の高い擁壁(基準どおり造られた場合) | 鉄筋コンクリート造擁壁/間知石練積造擁壁 |
| 現行法で認められていない擁壁 | ガンタ石積擁壁/玉石積擁壁 |
| 崩れた事例が多い擁壁 | 増積(ましづみ)擁壁/大谷石積擁壁 |
出典:横浜市建築局宅地審査課「擁壁のはなし」2〜3ページ(2026年9月24日取得)
大谷石積擁壁の説明は「大谷石が風化等により著しく劣化しているものが多い」の一文です。市は大谷石積を、古いコンクリート片を積んだガンタ石積と同じ「現行法で認められていない」欄には入れていません。
だから「大谷石の擁壁は違法」という言い方は、市の資料より強すぎます。正確には、石が弱りやすく、実際に崩れた例が多い擁壁という扱いです。

地図で調べたあと、家に置いておくもの
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国のマニュアルは、大谷石積みを空石積みと同じ欄で採点します
国土交通省の「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」は、行政の担当者が勧告や改善命令を出すかを考えるときの参考として作られた採点表です。擁壁の種類は7つに分けてあり、大谷石は独立した項目になっていません。
大谷石が出てくるのは、変状の説明をまとめた表-19の見出しです。
空石積(又は大谷石積み)の変状 小変状:表面が摩耗・劣化している。破損も目立つ。 主な想定原因:年数がたち、老朽化し、石の強度が低下している。
国土交通省「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」表-19
つまり国は、大谷石積みを、モルタルを使わずに石を積んだだけの空石積みと同じ欄で採点しています。その空石積みの配点がこうです。
| 変状の程度 | 空石積み(大谷石積みを含む) | 練石積み・ブロック積みの縦クラック |
|---|---|---|
| 小変状 | 5.0点 | 2.0点 |
| 中変状 | 6.5点 | 3.5点 |
| 大変状 | 8.0点 | 5.0点 |
出典:国土交通省「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」表-9(2026年9月24日取得)。危険度は5.0点未満「小」、5.0点以上9.0点未満「中」、9.0点以上「大」(表-10)
表面がすり減っているだけの小変状で、もう5.0点です。高さや排水の基礎点を足す前に、危険度「中」の入り口に届きます。同じ小変状でも、練石積みの縦のひびなら2.0点です。
危険度「中」は、経過観察をしながら、必要に応じて勧告・改善命令や防災工事を検討する段階とされています。すぐに壊せという意味ではありませんが、行政の目に留まる点数です。
横浜市のチェックシートなら、ひびゼロでも6.0点
所有者が自分で使える採点表もあります。横浜市建築局の「あなたの擁壁は安全ですか?」は、擁壁の種類(A)・排水(B)・状態(C)の点を足し算します。種類だけで点が付くのがこの様式の特徴で、大谷石積擁壁は4.0点です。
| 擁壁の状態 | 計算(A+B+C) | 総評点 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 大谷石積・水抜き穴あり・ひびなし | 4.0+0+0 | 4.0 | ○ほぼ安定 |
| 大谷石積・水抜き穴なし・ひびなし | 4.0+2.0+0 | 6.0 | △やや不安定 |
| 大谷石積・水抜き穴なし・石の間に沿ったひび | 4.0+2.0+3.5 | 9.5 | ×危険性が高い |
| (比較)間知石練積・水抜き穴なし・石の間に沿ったひび | 0+2.0+3.5 | 5.5 | △やや不安定 |
出典:横浜市建築局「あなたの擁壁は安全ですか?」の配点から計算(2026年9月24日取得)。ひび割れは幅5mm以上を数える
水抜き穴が1つも無い大谷石積みは、ひびが1本も無くても「やや不安定」と判定されます。そこに石と石の間に沿ったひびが加わると、×まで一気に進みます。
ひびの幅の測り方と、国の様式(幅1ミリ以上から数える)との違いは擁壁 ひび割れ/国は1mm、横浜市は5mmにまとめています。
「塗料や詰め物で補強すれば、建築確認はおりる?」
Yahoo!知恵袋に、ちょうどこの疑問をぶつけた投稿があります。高さ120センチと3メートルの大谷石の擁壁を持つ人の質問です。
大谷石擁壁は、今では不適格擁壁だと聞きましたが、塗料をぬったり、詰め物をしたりして補強すれば、建築確認はおりるのでしょうか?
Yahoo!知恵袋の質問より(2025年3月27日投稿・2026年9月24日に本文を確認)
見た目を整えても、法令の上での扱いは変わりません。第10条が見ているのは、石の奥行き・コンクリートでの一体化・裏込めという、壁の中身だからです。表面に塗料を塗っても、壁の裏に砂利が詰まっていることにはなりません。
横浜市の技術指針は、状態で分けて考えています。外から見て劣化が少なく比較的状態の良い大谷石積みは、間知石の練積み擁壁のチェックシートを準用してよい。風化や劣化が著しいものは、外観のチェックに加えて、下の地盤や壁の断面、裏込めの状況まで詳しく調べる必要がある、という書き方です。
そしてチェックシートの最後には、点数と法令は別だという断り書きがあります。
このチェックシートによる結果で「○現状でほぼ安定した擁壁です」と評価された擁壁であっても法律に基づく基準で造られていない場合は、家を建て替えるときなどに、指導を受けることがあります。
横浜市建築局「あなたの擁壁は安全ですか?」
擁壁を造り替えないで建て替えるなら、がけから建物を離す道もあります。何メートル離すかは都道府県の条例で違い、同じ3メートルのがけでも千葉と福岡で答えが変わります。がけ条例 距離/同じ3mの崖で千葉6m、福岡0mで比べています。
造り替えるなら、家の建て替えと同時がいちばん楽
擁壁を積み直すには、壁の裏側を掘る作業場所が要ります。横浜市は「擁壁のはなし」でこう書いています。
余掘り部分に建物や支障物があると擁壁の築造工事が行えないため、建物の建て替え時に造り変えると効率的です。
横浜市建築局宅地審査課「擁壁のはなし」
家が建ったままだと、擁壁の後ろを掘れません。技術指針も、建て替えの機会を捉えて改善しないと、施工の事情からそのまま放置されてしまうことが多い、と書いています。
費用の目安は、横浜市が助成金の計算に使う令和8年度の単価で出せます。擁壁築造工事は垂直に見た面積1平方メートルあたり110,000円なので、高さ2メートル・長さ10メートルなら20平方メートルで220万円です。
ほかの区市の助成率と上限は、13自治体を並べた擁壁 助成金/区によって上限が50倍で比べられます。港区のように工事費の3分の2まで出す区もあれば、100万円が上限の区もあります。
この住所は浸水しやすい場所ですか?
住所を入れるだけ。ハザードマップの指定(浸水・土砂・津波)と地盤の強さが5秒で出ます。会員登録も電話番号も要りません。
大谷石の産地・宇都宮市の補助は「塀」が対象
大谷石の本場の宇都宮市には、大谷石を名指しした補助があります。ただし対象は擁壁ではなく塀です。
「ブロック塀等安全対策補助制度」は、ブロック塀等に大谷石塀を含めています。道路などに面して高さ80センチを超える塀の撤去が対象で、補助はスクールゾーン等なら4分の3・上限22万5千円、それ以外は2分の1・上限15万円です。大谷石塀は、撤去せずに道路面から80センチ以下まで低くする工事も認められています。
擁壁の上に大谷石の塀が載っている家なら、塀はこの制度、擁壁は別の制度と分けて考えることになります。
寿命は何年か、を公的に示した資料はありません
「大谷石 擁壁 寿命」もよく調べられています。国のマニュアルも横浜市の資料も、年数では書いていません。国の表-19にあるのは「年数がたち、老朽化し、石の強度が低下している」という一文だけです。
手がかりになるのは、いつ造られたかです。宇都宮市によると、大谷石は昭和40年代の最盛期に採掘場が約120か所、年間出荷量が約89万トンありました。それが平成21年度には12か所・約2万トンまで減っています。
今残っている大谷石の擁壁の多くは、その最盛期前後に造られたものだと考えられます。年数を数えるより、表面のすり減りと水抜き穴を見るほうが確かです。
私はこう読みました
調べる前は、大谷石の擁壁は法律で禁止されたものだと思っていました。実際には、条文は石の名前を一度も出さず、横浜市も「違法」の欄には入れていません。
それでも国と市が大谷石を特別扱いするのは、石そのものがすり減りやすく、しかも古いものは造り方を証明できないからです。だから私は、大谷石の擁壁を持つ人がまず取るべき行動は、塗り直しではなく、市区の窓口で検査済証の有無を調べてもらうことだと考えています。そこで答えが出れば、造り替えるかどうかを建て替えの時期と合わせて決められます。
よくある質問
Q. 高さ1メートルくらいの大谷石の擁壁でも問題になりますか。
A. 建築基準法で工作物として確認申請が要るのは、高さ2メートルを超える擁壁です。国の擁壁チェックシート(案)も高さ1メートル以下は対象外にしています。ただし、がけ条例は高低差で決まるので、低い擁壁でも建物の配置に影響することがあります。
Q. 悪い石だけを入れ替える補修はできますか。
A. 補修そのものはできますが、法令の上の扱いは変わりません。また、多くの自治体の助成は造り替えが対象で、補修だけの工事を外している区市も目立ちます。
Q. 大谷石の擁壁がある土地は買わないほうがいいですか。
A. 買う前に、造り替えの費用と、それを誰がいつ負担するかを見込んでおく必要があります。擁壁やがけのある土地が相場より安く出る理由は安い土地には理由があるで取引データから説明しています。
その土地が土砂災害の区域や盛土の上にあるかは、住所からまとめて確認できます。下のフォームに住所を入れると、浸水と土砂と地盤をひとまとめに見られます。
生活・仕事にどう効くか
- 大谷石の擁壁の上に家が建っている人:塗装や目地の詰め直しでは、法令の上での扱いは変わりません。造り替えるなら、擁壁の後ろを掘る場所が要るので、家の建て替えと同時がいちばん工事しやすいと横浜市は書いています
- 大谷石の擁壁がある土地を買おうとしている人:検査済証があるか、水抜き穴があるか、表面がすり減っていないかを見ます。造り替えの費用は、横浜市の単価で高さ2m・長さ10mなら220万円の規模になります
- 大谷石の塀を撤去したい宇都宮市の人:宇都宮市の補助は大谷石塀が対象で、道路に面した塀の撤去に上限15万円(スクールゾーン等は22万5千円)が出ます。擁壁そのものは対象外です
結局どうすればよいか
- 自分の擁壁が大谷石積みかを確かめ、検査済証や開発許可の記録が残っているかを市区の担当課で調べる
- 横浜市のチェックシートで種類4.0点に排水と状態の点を足し、5.0点を超えるかを見る
- 建て替えの予定があるなら、その前に擁壁の造り替えと助成制度の相談を市区の窓口に入れる
公式出典
- 宅地造成及び特定盛土等規制法施行令 第8条・第10条(e-Gov法令検索)(2026年9月24日発表)
- 建築基準法施行令 第142条(e-Gov法令検索)(2026年9月24日発表)
- 国土交通省「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」(PDF)(2026年9月24日発表)
- 横浜市建築局「あなたの擁壁は安全ですか?=石積み・ブロック積み擁壁のチェックシート=」(PDF)(2026年9月24日発表)
- 横浜市建築局宅地審査課「擁壁のはなし」(PDF)(2026年9月24日発表)
- 横浜市「横浜市がけ関係小規模建築物技術指針」第3章(PDF)(2026年9月24日発表)
- 横浜市「崖地防災対策工事助成金制度」(2026年9月24日発表)
- 宇都宮市「ブロック塀等安全対策補助制度」(2026年9月24日発表)
- 宇都宮市「大谷石」(2026年9月24日発表)
- Yahoo!知恵袋「大谷石の直立した120センチメートルの擁壁があり…」(2026年9月24日発表)
- 本文写真 Wikimedia Commons「Tuff ohyaishi01.jpg」(Miya.m / CC BY-SA 3.0)(2026年9月24日発表)
- アイキャッチ写真 Pexels(2026年9月24日発表)
更新履歴
- 2026年9月24日 初版を公開(e-Govの条文、国交省マニュアル(案)、横浜市の3資料を原文で確認したもの)
※本記事は2026年9月24日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。
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