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不動産用語の「抜き」って何?

※ 本ページには広告が含まれます。

「手数料が安くなるなら、会社を変えてもいいはず」。そう考えて売却を別の会社に乗り換えた売主が最初の会社に払うのは、仲介手数料まるまる1本分にあたる違約金です。神戸市東灘区の中古マンション(60㎡)なら78万円になります。

ただし、この78万円が出てくるのは媒介契約書にサインした売主の話です。内見しただけの買主に、この違約金はありません。同じ「抜き」という一語でも、売る側と買う側では、手元から出ていくものが違います。

不動産用語の「抜き」(ぬき)は、よその会社に依頼している人を、別の会社が誘って自社と契約させることです。「抜き行為」とも言います。

この記事でわかること

  •  「抜き」は他社に依頼している人を別の会社が誘って契約させること。宅建業法に条文はなく、違法かどうかで考えても答えは出ません
  •  効くのは法律ではなく媒介契約書です。専任・専属専任の期間中に他社で契約すると、違約金は約定報酬額と同じ額になります
  •  媒介契約が終わったあとも2年間、「直接取引」の条項が生きています。一般媒介にも同じ条項があります
  •  買主が内見しただけの段階で会社を変えても、違約金の話にはなりません。線が変わるのは申込みを出したあとです
目次

「抜き」は、よその会社に頼んでいる人を横から連れてくること

大手仲介の不動産用語集はどれも似た説明をしています。依頼者がすでにある宅建業者と媒介契約や代理契約を結んでいるのに、別の宅建業者がその依頼者を誘って自社と契約を結ばせる行為、というものです。誘い文句は「うちなら手数料を値引きします」「買いたいお客様を持っています」の2つが代表格として挙がります。

抜かれる側から見ると、広告を出し、内覧に立ち会い、価格の相談に乗った相手が、成約の直前でよその看板に移ることになります。だから業界では強いタブーとして語られます。

読者

要するに、不動産会社同士のケンカの話ですか?

おかあさん

会社同士の話に見えますが、お金を払うのは依頼した人のほうです。だから他人事になりません。

売主と買主のどちらの側でも起きます。売主側では、専任媒介を預かっている会社から売主ごと連れていく形。買主側では、ある会社に案内された物件を別の会社で申し込む形です。ひとつの物件に元付会社と客付会社という2つの立場があることは、同じ物件が何社からも載る理由に書きました。

ここで思い込みを1つ外しておきます。「抜きは違法行為で、やった会社が罰せられる」。これは成り立ちません。宅地建物取引業法に「抜き」という条文はなく、行政処分の根拠として名指しされてもいません。

私は、この言葉を業者間の仁義の問題として説明して終わるのは、読む人にとって害だと考えています。仁義を破って困るのは会社ですが、違約金を払うのは依頼した本人だからです。効いてくるのは法律ではなく、手元にある媒介契約書のほうです。

乗り換えた売主が払うのは、仲介手数料まるまる1本分

売却を頼むときに交わす媒介契約書は、国土交通省が告示で定めた「標準媒介契約約款」をそのまま使っている会社がほとんどです。その専任媒介契約約款の第12条には、こう書かれています。

甲は、専任媒介契約の有効期間内に、乙以外の宅地建物取引業者に目的物件の売買又は交換の媒介又は代理を依頼することはできません。甲がこれに違反し、売買又は交換の契約を成立させたときは、乙は、甲に対して、約定報酬額に相当する金額(この媒介に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を除きます。)の違約金の支払を請求することができます。(標準専任媒介契約約款 第12条・原文のまま)

甲が売主、乙が不動産会社です。読みどころは金額の決め方で、「約定報酬額に相当する金額」とあります。違約金は損害の実額ではなく、契約書に書いた仲介手数料と同じ額です。

しかも新しい会社にも手数料は払います。乗り換えた売主は、手数料を1回分の値段で2回払う形になります。

書類にペンで署名している手元

違約金の額を決めているのは、この紙に書いた「約定報酬額」の欄です(写真: Pexels)

成約価格ごとに並べると、こうなります。手数料の上限(価格の3%+6万円)どおりに契約している場合の金額です。

成約価格 約定報酬額(税抜) 違約金として請求されうる額
1,000万円 36万円 36万円
2,000万円 66万円 66万円
3,000万円 96万円 96万円
5,000万円 156万円 156万円

自分の街だといくらになるのかを、当サイトが集計している実際の取引データで出してみます。国土交通省が公表している不動産取引価格情報を市区町村別に集計したもので、50〜70㎡の中古マンションが10件以上取引された市区町村は309ありました。その中央値の単価で60㎡を買ったとすると、309市区町村のうち87で、違約金は100万円を超えます。309市区町村ぜんぶの真ん中は約75万円でした。

冒頭に出した神戸市東灘区は、50〜70㎡の取引が107件、中央値が1㎡あたり40万円です。60㎡なら2,400万円、約定報酬額は78万円(税込85万8,000円)。この78万円が違約金の額になります。

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集計期間は2024年10〜12月期から2025年7〜9月期。㎡単価はワンルームに引っ張られるため、50〜70㎡の帯だけを使っています

売り出す前に自分の街の相場を見ておくと、この金額が現実味を持ちます。

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なお、約定報酬額は「上限いっぱい」とは限りません。手数料を割り引く約束で契約していれば、違約金もその額になります。手元の媒介契約書の報酬の欄に書いてある数字が、そのまま上限です。

契約が終わったあとも2年間、条項は生きています

媒介契約には3か月などの有効期間があります。期間が切れれば自由になる、と考えるのが自然です。ところが同じ約款の1つ手前、第11条にはこう書かれています。

専任媒介契約の有効期間内又は有効期間の満了後2年以内に、甲が乙の紹介によって知った相手方と乙を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結したときは、乙は、甲に対して、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができます。(標準専任媒介契約約款 第11条・原文のまま)

紹介された買主とは、契約が終わってからも2年間、その会社を外して直接売買できません。正確には、してもよいのですが、寄与の割合に応じた報酬を請求されます。

読者

一般媒介なら関係ないですよね?

おかあさん

同じ条項が入っています。一般媒介契約約款だと第13条で、文面は専任とほとんど同じです。

3種類の媒介契約で、条項の効き方はこう分かれます。

  • 専任媒介:期間中に他社へ依頼して成約したら違約金(第12条)。紹介された相手との直接取引は期間中と満了後2年(第11条)
  • 専属専任媒介:期間中は他社への依頼も自分で見つけた相手との契約も違約金(第12条)。直接取引の条項は満了後2年(第11条)
  • 一般媒介:他社に依頼すること自体は自由。ただし明示していない会社に頼んで成約すると費用の償還を請求され(第14条)、紹介された相手との直接取引は満了後2年まで請求の対象(第13条)

裁判所も、契約が終わったあとの報酬請求を認めています。東京高等裁判所の昭和61年12月24日判決は、仲介行為と取引の成立との間に相当な因果関係が認められる範囲で、寄与の程度に応じた報酬を支払う義務があるとしました。契約が切れていることは、それだけでは理由になりません。

囲い込みをされていたので乗り換えたい、という相談もあります。囲い込みは売主が受けている損害の話なので、違約金とは別に見ることになります。自分の物件が該当するかは家が売れないのは「囲い込み」かも?の手順でスマホから確かめられます。

内見しただけの会社を変えるのは「抜き」になりますか

ここからは買う側の話です。Yahoo!知恵袋には、こういう質問が投稿されています。

最初に内見をした不動産とは別の不動産で契約をするのは違反でしょうか?気に入った物件があって今日内見をしたんですが、すごくよかったので契約を考えています。物件自体はよかったんですが、担当者の方が色々間違えてたり頼りないのと、店舗がかなり遠いのが引っ掛かっていて…(Yahoo!知恵袋・原文のまま)

室内を案内されながら不動産会社の担当者と話している夫婦

案内を受けた時点では、まだ紙を1枚も交わしていないことがあります(写真: Pexels)

買主の側は、媒介契約書を交わさないまま案内だけ受けていることが珍しくありません。書面が無ければ、さきほどの違約金の条項も働きません。とくに賃貸は、宅建業法が媒介契約書の交付を義務づけているのが売買と交換の媒介だけなので、案内の段階で紙が無いほうが普通です。

読者

では、内見したあとに会社を変えても何も起きないんですか?

おかあさん

案内までなら、まず起きません。線が変わるのは申込みを出したあとです。

申込みを出すと、その会社に手続きを頼んだ実体ができます。売主や貸主の側でも審査や交渉が動き出しているので、ここで会社だけ差し替えると、話がこじれるのは差し替えた本人のほうです。申込みを取り下げてから動くか、そのまま進めるかの二択になります。

書面が無ければ報酬を1円も請求されない、という意味でもありません。さきほどの高裁の判断は、仲介行為と成約との因果関係を見ています。案内から価格交渉、住宅ローンの事前審査まで面倒を見てもらった相手を最後だけ外せば、寄与を主張されても不思議はありません。

もう1つ、乗り換えの動機として多い「手数料が安くなる」も確かめておきます。買主が払う仲介手数料の上限は、宅地建物取引業法の報酬告示で決まっていて、どの会社に頼んでも同じ計算式です。安くなるとすれば上限からの値引きなので、何をいくら引くのかを書面で出してもらえば足ります。会社が2社入ると手数料が2倍になる、という誤解については不動産用語の「あんこ」って何?に書きました。

今日できる確認は5つ

売る側で乗り換えを考えているなら、電話をかける前にこの順で見てください。

1. 媒介契約書の種類の欄を見る

「専属専任媒介」「専任媒介」「一般媒介」のどれかに丸が付いています。一般媒介なら、他社に依頼すること自体は自由です。専任と専属専任は、期間中の他社への依頼が違約金の対象になります。3つの違いと売れ方は一般媒介より専任媒介のほうが早く売れる、とは限りませんに書きました。

2. 報酬の欄の数字を見る

そこに書かれている「約定報酬額」が、そのまま違約金の額です。パーセントで書かれているなら、想定している売り出し価格に掛けて金額に直しておきます。

3. 有効期間の満了日から2年後の日付を書き留める

紹介された買主と直接売買できないのは、その日までです。売り止めにして自分で売る、買主に直接連絡を取る、といった判断はこの日付を見てからにします。

4. 乗り換えるなら、更新しないで終わらせる

有効期間は自動では更新されません。標準約款では、更新するときに依頼者から会社へ文書などで申し出ることになっています。期間の途中で切りたい場合も、口頭ではなく書面で伝えます。

5. 誘ってきた会社に、違約金を誰が払うのか聞く

「そちらの違約金はうちが持ちます」と言われることがあります。その場合は、金額と支払い方法を書面にしてもらってください。口約束のまま乗り換えて、請求書が自分に届いた例が相談として残っています。

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レインズの登録内容を売主が確認する手順

よくある質問

抜きをした会社は、行政処分を受けますか

「抜き」を名指しした条文は宅地建物取引業法にありません。処分の対象になるかは、誘い方に誇大広告や断定的判断の提供、しつこい勧誘といった別の違反が含まれていたかで決まります。会社を訴えるより先に、自分の媒介契約書がどうなっているかを見るほうが実益があります。

違約金を請求されたら、必ず払うのですか

約款どおりなら請求できる、というのが出発点です。実際にいくら払うかは当事者の話し合いと、争いになれば裁判所の判断になります。専任媒介の期間中に他社で成約させたという事実があるなら、支払いを前提に減額の交渉をするほうが現実的です。

自分で買主を見つけた場合はどうなりますか

専任媒介なら、自分で見つけた相手と契約すること自体は認められています。ただし会社に通知する義務があり、それまでにかかった費用の償還を請求されることがあります。専属専任媒介は、自分で見つけた相手との契約も違約金の対象です。

不動産用語の「抜き」を覚える値打ちは、業界の裏側を知ることではありません。自分がどの立場で、どの紙にサインしているのかを見に行くきっかけになることです。売る側なら違約金の額はすでに紙に書いてあり、買う側なら申込みの前か後かで話が変わります。

同じシリーズで、不動産用語の「三為」って何?不動産用語の「当て物件」って何?も公開しています。

出典:国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款」(平成2年1月30日建設省告示第115号、最終改正 令和4年5月26日国土交通省告示第583号)/国土交通省「不動産取引価格情報」を当サイトで市区町村別に集計(2024年10〜12月期〜2025年7〜9月期、中古マンション50〜70㎡・取引10件以上の309市区町村)/東京高等裁判所 昭和61年12月24日判決

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この記事を書いた人

ハウスメーカー2社で営業職を経験し、不動産・建築の基礎を習得。
その後、地域密着型の不動産会社にて営業事務として勤務し、
契約書作成、ポータルサイト管理、物件情報の入力・更新など、
実務全般に携わってきました。

特に、ポータルサイトを「より魅力的に見せる工夫」や、
反響につながる「分かりやすい間取り図作成」を得意としています。
自分が関わった物件に反響があった時の喜びが、今の原動力です。

現在は子育てのため一線を退いていますが、
これまでの実務経験を活かし、
フリーランスとして不動産会社様向けの
バックオフィスサポート業務を開始しました。

現場目線を大切にしながら、
「早く・正確に・伝わる」業務サポートを心がけています。

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