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「千件当たって三件成約」は、首都圏の中古住宅には当てはまりません。家を売りに出して反応が無いとき、「千に三つだから売れなくて普通」と考えて値下げに応じる根拠は、この統計からは出てきません。2025年に新しく売りに出た中古マンション185,762件に対して、成約は49,114件。登録1,000件あたり約264件で、4件に1件を少し超えます。
ただし、この264件は1軒ずつ売れるまで追いかけた成約率ではありません。1年間の登録件数と成約件数を割っただけの比で、しかも2025年の成約件数には、数えた側が自分で注意書きを付けています。
この記事でわかること
- ✓ 成約に注意書きの付かない2024年で数え直しても、中古マンションは登録1,000件あたり約195件、中古戸建ては約193件が成約。千に三つとは60倍以上離れています
- ✓ 日本国語大辞典が「うそつき」の意味の初出に挙げるのは1672年の仮名草子。不動産の意味には「千に三つくらいしか話がまとまらない」という説明が付いています
- ✓ うその側で数えられるのは処分の件数だけ。令和6年度は全国132,291業者に対して監督処分147件、行政指導592件でした
「千件当たって三件」は本当か
Yahoo!知恵袋に、2024年3月24日付でこんな質問が投稿されています。
質問はこのあと「電話営業みたいなファーストアプローチを千件こなして、ようやく三件みたいな感じなのでしょうか?」と続きます。営業電話の件数を集めた統計はありません。けれど「売りに出した物件と、決まった物件」なら、毎年数えて公表している組織があります。
東日本の不動産会社が物件を登録するネットワークを運営している、公益財団法人東日本不動産流通機構(東日本レインズ)です。2026年1月20日に出た首都圏の2025年の年報から、中古住宅の行を抜き出しました。レインズに載るのは、売主と媒介契約を結んだあとの物件だけです。
| 種類・年 | 新規登録 | 成約 | 登録1,000件あたりの成約 |
|---|---|---|---|
| 中古マンション 2025年 | 185,762件 | 49,114件 | 約264件 |
| 中古戸建住宅 2025年 | 77,395件 | 21,632件 | 約280件 |
| 中古マンション 2024年 | 190,880件 | 37,222件 | 約195件 |
| 中古戸建住宅 2024年 | 73,473件 | 14,182件 | 約193件 |
東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」の基本データから。1,000件あたりの数は当サイトで割り算したもの
千三つ、つまり千件のうち3件という線は、どの行とも2桁違います。2025年の中古マンションなら、0.3%に対して26.4%で、千三つの約88倍です。
読者
4件に1件が決まるなら、売りに出せばだいたい売れるということですか?

そこまでは言えません。この表は、同じ家を売れるまで追いかけた結果ではないからです。読むときに断っておくことが3つあります。
この割り算で言えないこと
1つ目は、分子と分母が別の物件の束だということです。2025年に成約した49,114件には、2024年以前に登録された物件も入っています。逆に、2025年に登録してまだ売れていない物件や、売るのをやめて取り下げた物件は分子に入りません。だからこれは「売りに出した家の何%が売れたか」ではなく、1年間の流れどうしの比です。
2つ目と3つ目は、年報の1ページ目に付いている注記です。
2025年1月以降、成約登録適正化を図るためのシステム改修を行ったことにより、成約件数に影響を与えている可能性があります。
(東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」1ページの注記・原文のまま)
分母の新規登録は、契約の更新や登録期間の延長を数えない「新しい登録だけ」です。更新まで数えていた基準なら、分母はもっと大きくなります。
分子の成約は、2025年から数え方の仕組みが変わりました。中古マンションの成約は前年より31.9%、中古戸建ては52.5%増えていて、この伸びのどこまでが市場の動きで、どこからが仕組みの変更なのかは分けられません。表に2024年の行を並べたのはそのためです。成約に注記の付かない2024年で数えても、登録1,000件あたり約195件。千三つの60倍以上です。
レインズの月ごとの数字で、売り出し価格と成約価格の差を追った記事もあります。売りに出ている中古マンションは平均6,866万円 ところが首都圏で7月に売れたのは、5,267万円でした
「千三つ屋」の意味と由来
「千三つ屋」は不動産屋への悪口として生まれた言葉だ、と受け取られがちです。辞典を3冊並べると、そう単純ではありません。
まず精選版 日本国語大辞典です。見出しは「千三(せんみつ)」で、意味が2つ載っています。
② 土地の売買や貸し金の周旋をする職業。また、その人。せんみつや。
(精選版 日本国語大辞典「千三」・コトバンク・原文のまま)
うそつきの意味には、1672年、約350年前の用例が「初出の実例」として付いています。もう一方の「土地の売買や貸し金の周旋」には年の付いた用例がありません。不動産の意味がいつから使われたかは、この辞典からは分かりません。
次にデジタル大辞泉です。こちらは意味を3つに分け、それぞれに理由を添えています。
2《千に三つくらいしか話がまとまらない意》土地・家屋の売買や貸金などを斡旋する職業。また、その人。「千三つ屋」
(デジタル大辞泉「千三つ」・コトバンク・原文のまま。3は食品業界の新商品開発の難しさをいう意味)
不動産の意味に付いている理由は「うそ」ではなく、「話がまとまらない」のほうです。知恵袋の質問者が聞いた2つの説は、辞典の中では別々の意味として並んでいます。
3冊目の隠語大辞典は、明治以降の隠語の本の説明を出典ごとにそのまま並べた辞典です。「千三つ屋」の説明はほとんどが「噓言家」「当にならぬ人」から入りますが、1つだけ順番が逆のものがあります。
(隠語大辞典「千三つ屋」・ウェブリオ辞書・原文のまま)
この1つだけは周旋屋が先で、うそつきは「転じて」。うそつき側の説明にも「いい加減なことを云つて特許品や其他種々の事柄を周旋する者をいふ」とあり、扱う品は土地に限っていません。
読者
じゃあ「不動産屋は嘘つきだから千三つ」は間違いなんですか?

間違いとまでは言えません。隠語大辞典には、うそつきから入る説明と周旋屋から入る説明が両方残っています。辞典から言えるのは、うそつきの意味が1672年の本に出てくることと、大辞泉が不動産の意味に付けた理由は「まとまらない」の側だということまでです。
2026年5月15日に映画『正直不動産』が公開され、検索にも「千三つ 正直 不動産」という組み合わせが出ています。知恵袋には「正直不動産って漫画だと後者の説取ってました」と書いた質問もあり、ここでいう後者は嘘つきの説です。
嘘つき説と行政処分の件数
千のうち本当は三つ、という意味のほうを数字で確かめる方法はありません。会話の中の嘘を数えた統計が無いからです。数えられるのは、法律に触れて行政が動いた件数だけです。
宅地建物取引業法47条1号は、契約の勧誘などに際して、重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為を禁じています。この条文が「知っていた」かどうかをどう扱うかは、不動産用語の「善意」「悪意」 悪気のことではないで取り上げました。
国土交通省が2025年10月3日に公表した、令和6年度の宅地建物取引業法の施行状況調査です。
| 項目(令和6年度) | 件数 | 1,000業者あたり |
|---|---|---|
| 宅建業者数 | 132,291業者 | - |
| 監督処分(免許取消99・業務停止16・指示32) | 147件 | 約1.1件 |
| 行政指導 | 592件 | 約4.5件 |
| 処分と指導の合計 | 739件 | 約5.6件 |
国土交通省「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について」から。1,000業者あたりの数は当サイトで割り算したもの
この表は読み違えやすいので、先に2つ断っておきます。1つは、件数を業者数で割った数だということ。1社が複数の処分を受けることもあるので、「何%の業者が処分された」とは読めません。もう1つは、147件が嘘への処分だけではなく、宅建業法違反の全体の件数だということです。
処分の件数が少ないことは、相談が少ないことも意味しません。東京都が公表した令和6年度の概要には、こう書かれています。
(東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和6年度)」・原文のまま)
相談は東京都だけで毎年2万件前後、処分と指導は全国で739件。嘘が千に三つかどうかは、この開きのどこにも書かれていません。千三つの「うそ」の意味は、数字で裏づけることも、打ち消すこともできない、というのが手元の材料で言える答えです。
案内の場で事実と違う理由を言われたらどこからが違反になるかは不動産用語の「当て物件」って何?に、行政に知らせる窓口は囲い込みの通報先 行政は結果を教えてくれないにまとめています。
千三つが売る人に残す損
ここからは私の見方です。
私は、「千三つ」が嘘つき呼ばわりとして使われることより、「千に三つしか決まらない」という印象が残っていることのほうが、家を売る人にとって実害が大きいと見ています。成約が千に三つなら、売りに出して3か月反応が無くても「それが普通」と思えてしまうからです。値下げの相談を持ちかけられたとき、断る根拠が手元に残りません。
「売れないのが普通」という前提は、首都圏の中古住宅の統計からは出てきません。売れないなら、価格か、広告のされ方か、どこかに理由があると考えるほうが筋が通る、と私は考えます。
広告のされ方が気になるなら、家が売れないのは「囲い込み」かも?売主がスマホで確認する方法の手順で、自分の物件がどう登録されているかを確かめられます。他社の客を横から連れていく話は不動産用語の「抜き」って何?に書きました。
この記事の数字は、東日本不動産流通機構が2026年1月20日に公表した2025年の年報と、国土交通省が2025年10月3日に公表した令和6年度の施行状況調査によります。施行状況調査は例年10月上旬に新しい年度の分が出ます。
「千件当たって三件成約は本当でしょうか?」という質問への答えは、首都圏の中古住宅の売り物件で数えるかぎり、千件でおよそ190〜280件です。残るもう一方、千のうち本当は三つのほうは、まだ誰も数えていません。
出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」(2026年1月20日)/精選版 日本国語大辞典「千三」(コトバンク)/デジタル大辞泉「千三つ」(コトバンク)/隠語大辞典「千三つ屋」(Weblio辞書)/国土交通省「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について」(2025年10月3日)/東京都「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和6年度)の公表について」(2025年11月19日)/宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)47条はe-Gov法令検索の条文を要約/Yahoo!知恵袋 q12295443442・q14310518594
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