定期借家で3年で終わりと言われた家でも、契約の前に契約書とは別の説明書面を受け取っていなければ、更新しないという定めは法律上無効になり、子どもが中学を卒業するまで住み続けられる余地が残ります。国の調査では民間賃貸に入居した世帯のうち定期借家はわずか2.0%で、近畿圏では63.5%がこの制度そのものを知りませんでした。
この記事でわかること
- ✓ 契約書とは別の説明書面がなければ、更新しないという定めは無効(借地借家法38条5項・最高裁2012年判決)
- ✓ 1年以上の定期借家は、終わる1年前〜6か月前の通知が要る。遅れたら通知から6か月は住める
- ✓ 神戸の中学校区は中央値で半径約1km。学区の外に出ても、元の学校に通う手続きはある
「5年住める家」のはずが3年の定期借家 中2の子を転校させたくない相談
Yahoo!知恵袋に2008年に出た相談が、いまも読まれ続けています。閲覧は67,079回です。
住宅トラブルで急遽家を出なくてはいけなくなりました。
中学を卒業するまでの5年住める家との条件で探してもらいましたが実際は3年の定期借家でした。
ペットを何匹も飼っているので学区の中では次の家が見つからず、車で15〜20分の、市も変わる場所へ移ることになりました。子どもは3年前にも転校していて、ようやくなじんだところ。環境の変化が苦手な中学2年生です。相談者は、車で送り迎えするつもりで「学校側への上手い言い訳」を求めていました。
回答は4件つきました。ベストアンサーは「正直に事情を話し、相談したうえで学区外通学の許可をもらっているのだと思います。」。別の回答は「小6とか中3とか、残り在学期間が僅かだったりすると越境通学を許可してもらえることがあるようです。」と書いています。
4件とも、学校にどう話すかの答えでした。家を出ることになった原因、つまり3年の定期借家という契約そのものを確かめた回答は1件もありません。

読者
契約書に定期借家と書いてあって、判も押しました。もう出ていくしかないですよね
判を押した契約書だけでは決まりません。分かれ目は、契約書とは別の紙で説明を受けたかどうかです。
定期借家は、契約書とは別の説明書面がなければ成り立たない
定期借家は、借地借家法38条の「定期建物賃貸借」のことです。書面で契約したときに限って、更新しない約束を付けられます。ただし貸主には、その前にもう1つ義務があります。
第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
これをしなかったときの扱いは、同じ38条の5項にあります。
建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
では、契約書の中に「更新はありません」と書いてあれば、それが説明書面を兼ねるのか。ここは最高裁まで争われ、2012年9月13日の判決が、借りる人が更新のないことを分かっていたかどうかに関係なく「契約書とは別個独立の書面であることを要する。」と判断しました。
判決の中では「38条2項所定の書面」と書かれています。その後の改正で電子契約などの項が加わって番号がずれ、いまは3項が同じ説明書面を定めています。
説明書面がなかったと認められれば、その契約は更新のある普通の借家として扱われます。普通の借家では、貸主が更新を断るのに28条の「正当の事由」が要ります。貸主が自分で住む必要があるか、これまでの経過、立退料の申し出などを合わせて判断されるので、期間が来たから当然に終わる、とはなりません。
普通の借家になっても、必ず住み続けられるわけではありません。変わるのは、3年たてば自動的に終わるという前提が崩れる、という点です。
読者
説明の紙をもらったかどうか、もう覚えていません
契約のときの書類の束を見てください。契約書と重要事項説明書のほかに、更新がなく期間の満了で終わると書いた紙が1枚あるか。あれば、その日付が契約日より前かどうかも見ます。
終わる1年前〜6か月前の通知がなければ、満了日に出なくていい
説明書面がそろっていても、もう1つ確かめることがあります。期間が1年以上の定期借家では、貸主は期間が終わる1年前から6か月前までの「通知期間」に、期間の満了で終わると借りる人へ通知しなければ、終わりを主張できません(38条6項)。
通知が遅れた場合は、通知した日から6か月がたつまで明け渡しを求められません。3年契約なら、通知期間は入居から2年後〜2年6か月後の半年間です。この間に何も届いていなければ、満了日に荷物をまとめる必要はありません。

両方そろっていれば、契約は期間の満了で終わります。そこから同じ家に住み続けるには、貸主と改めて契約を結ぶ再契約になり、貸主が応じるかどうかは相手次第です。
物件情報には「定期借家」と契約期間を書く決まり 賃貸の2.0%
相談者は、中学卒業までの5年という条件で家を探してもらい、3年の定期借家に入っていました。本来この差は、物件を選ぶ段階で目に入るはずのものです。
不動産広告のルール「不動産の表示に関する公正競争規約」は、中古の賃貸マンションや貸家の広告に書く事項を別表9で決めていて、インターネット広告の欄に○が付いている項目に「定期建物賃貸借であるときはその旨」があります。契約期間も同じく○で、除かれるのは2年以上の普通の賃貸借だけです。

ただ、見落とされやすい契約でもあります。国土交通省の令和7年度住宅市場動向調査では、2024年4月〜2025年3月に民間賃貸へ入居した世帯のうち、定期借家は2.0%(近畿圏2.6%)でした。50件に1件ほどしかありません。制度を「知らない」と答えた世帯は54.4%、近畿圏では63.5%にのぼります。
子どもの学区で借りるなら、家賃より先に「定期借家」の文字と契約期間を見てください。
神戸の中学校区は半径1km前後 学区の中で探せる家は少ない
相談者が学区の外に出たのは、ペットと暮らせる家が学区の中になかったからでした。学区の中で探すというのは、どのくらいの範囲の話なのか。国土数値情報の中学校区データ(令和5年度)から、神戸市の81校区の広さを計算しました。

中学校区1つの広さは、中央値で3.38平方キロメートル。同じ面積の円にすると半径1.04kmです。長田区は0.71km、兵庫区は0.79kmで、半径1kmに届きません。いちばん狭い兵庫区の湊川中学校区は0.76平方キロメートルでした。広いのは北区(1.71km)と西区(1.86km)です。
この円の中で、空いている部屋から家賃・広さ・ペット可を満たす家を探すことになります。条件が1つ増えるたびに候補は減り、定期借家でも入るか、学区の外へ出るかの二択になりやすいのは、この狭さのためです。
校区の広さは国のデータから当サイトで計算した概算です。海の部分や校区どうしの重なりを含むため、公式の区域の面積ではありません。
学区の外に出ても、元の学校に通い続ける手続き
それでも引っ越すことになったら、転校させずに済む道はあります。神戸市の就学規則は、転居で別の校区に移った子が元の学校に通い続けることを、指定学校の変更の理由として認めています。期間は「卒業までの、必要と認める期間」です。ただし市の案内は、こう念を押しています。
必ず卒業まで認められるわけではありません。
校長が事情を聞いて、必要な期間を判断します。市の外へ出る場合は、住所のある市の学校ではなく元の市の学校に通う「区域外就学」になり、神戸市の案内では「現在就学している学校の校長に申し出た後、各区・支所市民課での転出手続の際に「区域外就学」の手続を併せて行ってください。」とあります。受け入れは、両方の市の教育委員会の協議で決まります。
読者
親が毎日車で送り迎えすると約束すれば、通わせてもらえますか
送り迎えは判断材料の1つにすぎません。回答にも「通学が車頼りとなるとどうかな。」という声がありました。まず今の学校の校長に、引っ越す前に話してください。
神戸市内で校区が変わるときの手続きと必要書類は、近くへ引っ越すのに転校になるかもしれない人への記事にまとめています。
私はこう見ています 学校への言い訳より先に、契約書の束を開く
私は、この相談で最初に開くべきだったのは学校の窓口ではなく、入居したときの賃貸借契約の書類だったと見ています。
回答4件は、全員が学校への話し方を答えました。けれども定期借家は、賃貸に入る世帯の50件に1件ほどの珍しい契約で、近畿圏では6割以上が名前も知らない制度です。借りる側も、回答する側も、説明書面があったかどうかを確かめないまま、3年で終わりを前提に話を進めてしまいやすいと私は考えます。
38条5項が当てはまれば、転校の問題はそもそも起きません。学校に頼む前に、書類の束から紙1枚を探すほうが先です。
定期借家と言われたら、確かめる順番
- 契約書とは別に、更新がなく期間の満了で終わると書いた説明書面があるか。日付が契約日より前か
- 期間が1年以上なら、終わる1年前〜6か月前の間に、終わるという通知が届いたか
- 両方そろっていれば、再契約に応じてもらえるかを貸主に聞く
- 次の家を探すときは、物件情報の「定期借家」の表示と契約期間を見る
- 学区の外に出るなら、引っ越す前に今の学校の校長に話す。市の外なら区域外就学の手続きもいる
中学を卒業するまでの5年という条件は、紙1枚で守れたかもしれません。次の家を決めるときは、契約書にサインする前に、その1枚があるかを見てください。
出典
- 借地借家法(e-Gov法令検索)26条・28条・38条
- 最高裁判所 平成24年9月13日第一小法廷判決(平成22年(受)第1209号)
- 国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」問6 賃貸契約の種類・問22 定期借家制度の認知
- 不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約」規約集 別表9
- 神戸市学齢児童及び学齢生徒の就学に関する規則 別表第2・第10条
- 神戸市「指定学校の変更手続きについて(ご案内)」問5
- 神戸市「指定学校の変更・区域外就学」
- 国土交通省 国土数値情報 中学校区データ(令和5年度・A32-23、兵庫県)を当サイトで面積計算
- Yahoo!知恵袋「学区外に引っ越す事になりましたが転校させたくありません。」
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