結論からいうと、「玄関も風呂も分けた完全分離型なら、税金の面でも別々の家として扱われる」とは限りません。相続のときに国税庁が見ているのは、玄関の数でも建物の造りでもなく、登記簿に「区分所有建物である旨の登記」があるかどうか、その1点です。
ここが分かれると、土地の相続税評価額を330㎡まで80%下げられる小規模宅地等の特例が、敷地全体に効くか、親世帯の部分だけに縮むかが変わります。神戸市東灘区の地価水準で135㎡の敷地なら、評価額でおよそ2,400万円ぶんの差が出る計算になります。
そして、判定に使われるのは相続が起きた時点の登記です。亡くなってから登記を直しても、そのときの相続には間に合いません。だから今日確かめる価値があります。
先に結論
- 国税庁の特例の説明に「二世帯住宅」という言葉は出てこない。条件は「区分所有建物である旨の登記がされている建物」かどうかだけ
- 玄関を分けても、風呂を分けても、登記が親の単独名義や親子の共有なら建物は「一棟」。子世帯の敷地も特例の対象に入る
- 登記を分けている(区分登記)と、対象は親が住んでいた部分に対応する敷地だけに縮む
- 当たりをつける方法は、固定資産税の納税通知書が1通で届いているか、2通に分かれて届いているか
- 330㎡という上限を心配する人が多いが、東灘区の土地取引74件で330㎡を超えたのは12件だった
国税庁の説明に「二世帯住宅」という言葉は1度も出てきません
小規模宅地等の特例を説明した国税庁のページ(タックスアンサー No.4124)を頭から終わりまで読むと、あることに気づきます。「二世帯住宅」という言葉が1度も出てこないのです。
書かれているのは、こういう条件です。
被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物が、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」である場合
(中略)
「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」とは、区分所有建物である旨の登記がされている建物をいいます。
玄関が1つか2つか、台所が1つか2つか、中で行き来できるかどうか。そういう話は、この条文には出てきません。判定しているのは登記簿の記載だけです。
「二世帯住宅の特例」という言い方で解説されることが多いのですが、税務上は二世帯住宅という区分そのものが存在していません。あるのは、区分登記された建物か、そうでない建物か、という区別だけです。
相続税がそもそもかかる規模なのかを先に知りたい場合は、実家の土地だけで基礎控除を超えるかどうかの見方を先に読むと、この記事の話が自分に関係するかが分かります。
分かれ目は「区分所有建物である旨の登記」があるかどうか
特例が使えるかどうかは、誰が相続するかで条件が変わります。配偶者には取得者ごとの要件がありません。問題になるのは、親と同じ建物に住んでいた子が相続するときです。
国税庁の条件は「被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族」であること。ここで「一棟の建物」に当たるかどうかを決めているのが、区分登記の有無です。
| 登記の型 | 建物の扱い | 2階に住む子が相続したとき |
|---|---|---|
| 親の単独名義/親子の共有 | 全体で一棟の建物 | 「一棟の建物に居住していた親族」に当たる。敷地全体が対象 |
| 区分登記(1階は親、2階は子で別々に登記) | 別々の建物 | 親が住んでいた部分に対応する敷地だけが対象 |

構造を分けたことが不利に働くのではありません。不利になるのは、構造を分けたついでに登記まで分けたときです。完全分離型でも登記が1本なら、建物は一棟のまま扱われます。
区分登記は、建てるときに勧められることがあります。それぞれが住宅ローン控除を使える、といった理由です。有利に働くのは建てる時点で、相続の時点では向きが逆になります。
うちはどっち? 今日5分でつく当たりと、確実な調べ方
いちばん手軽なのは、固定資産税の納税通知書が何通届いているかを数えることです。区分登記されていると、1棟の家なのに納税通知書が世帯ごとに別々に届きます。1通しか来ていないなら区分登記ではない可能性が高い、という当たりのつけ方です。

ただしこれは目安です。自治体の運用も関わるので、これだけで決めないでください。確実なのは法務局で登記事項証明書を取ることです。窓口でも、オンライン請求でも取れます。誰の名義で、何個の建物として登記されているかが、そこに書いてあります。
お盆に実家へ帰るなら、親に「固定資産税の紙、去年のある?」と聞くところから始められます。書類の束を全部出してもらう必要はなく、通知書が1通か2通かだけ見れば当たりはつきます。
心配する場所が違う|東灘区の土地取引74件のうち、330㎡を超えたのは12件
この特例の話をすると、多くの人が「330㎡」という上限を気にします。うちの土地は広すぎて全部は対象にならないのではないか、と。
そこで、神戸市東灘区で実際に取引された土地の面積を数えてみました。国土交通省の不動産取引価格情報から、2024年第4四半期〜2025年第4四半期の74件です。
| 項目 | 東灘区の実測値 |
|---|---|
| 取引件数 | 74件 |
| 面積の中央値 | 135㎡ |
| 330㎡を超えた件数 | 12件 |
| 330㎡以下の件数 | 62件 |
74件のうち62件が、最初から上限に当たりません。面積で削られる家より、登記で削られる家のほうが差は大きいということです。上限の心配をする前に、登記簿を見たほうが早いのはこのためです。
なお、この12件のうち1件は面積の欄が「9999」、もう1件が「1800」でした。国土交通省の公表データは面積を10㎡・50㎡単位に丸めていて、9999は上限の丸め値である可能性が高い数字です。だから割合ではなく件数のまま載せています。
評価額でどれだけ違うか(東灘区・御影郡家2丁目の水準で概算)
差の大きさを、実際の地価で置いてみます。東灘区御影郡家2丁目の地価公示は1㎡あたり567,000円(第1種低層住居専用地域・阪急御影から330m)。国税庁は「路線価は、地価公示価格の八〇%程度を目途として設定されています」としているので、相続税評価の水準はおよそ453,600円/㎡です。
面積は先ほどの中央値135㎡で計算します。
| 区分登記なし | 区分登記あり(床面積が親子で半々と仮定) | |
|---|---|---|
| 特例前の評価額 | 約6,124万円 | 約6,124万円 |
| 80%減の対象 | 敷地全体(135㎡) | 親世帯分(約67.5㎡) |
| 減額される額 | 約4,899万円 | 約2,450万円 |
差は約2,450万円です。登記簿の1行の違いで、土地の評価額がこれだけ動きます。
これは概算です。実際は路線価図の当該路線価、土地の形による補正、建物の床面積の按分割合、誰が相続してその後どう使うかで結果が変わります。金額を決めるには税理士の確認が要ります。ここで持ち帰ってほしいのは金額そのものではなく、差が生まれている場所が登記だという点です。
二世帯に16年住んだ人の後悔7項目に、間取りの話は1つもなかった
ここまで登記の話をしてきましたが、二世帯を検索する人が実際に書き込んでいる言葉を読むと、別のことが見えてきます。
Yahoo!知恵袋で「二世帯住宅に住んで後悔されている人に質問です」という質問に付いたベストアンサーは、後悔を7つ挙げていました。監視されている感覚、掃除のことを陰で言われる、相談事を自分抜きで決められる、孫を自分の実家に行かせてもらえない、金銭感覚のずれ。7項目のうち、間取りの話は1つもありません。
別の回答では、玄関を分けた人がこう書いていました。
「玄関別々の二世帯です。当初、お風呂まで別は、贅沢と思いましたが、今では、良かったと思っています。生活時間を気にせずに暮らすのは快適です。」
2026年8月12日には、同居する婿に10年以上無視されているという60代女性の投稿が、Yahoo!ニュースのアクセスランキング上位に入っていました。孫3人の家事と育児を手伝ってきたうえで「1人だけ徹底無視で空気以下の扱いです」「毎日地獄です」と書かれています(婦人公論.jp/読売新聞「発言小町」、2026年8月12日配信・同日確認)。
7項目の中身と、どれが間取りで防げてどれが防げないかは後悔7項目をひとつずつ仕分けた記事にまとめました。
私はこう見ています
二世帯住宅の記事の上位は、住宅メーカーと税理士法人でほぼ埋まっています。前者は間取りで解決する話を書き、後者は税額で損得を書きます。読んだ人が最初に知りたいこと——うちはどっちなのか——に答えている記事は、ほとんど見当たりませんでした。
私は、二世帯の失敗を「間取りの選び方を間違えた」と説明するのは無理があると考えています。16年住んだ人が挙げた7項目は、完全分離にしても分譲二世帯にしても起きることばかりでした。設備で分けられるのは動線であって、関係ではありません。
逆に、登記の型は間取りと違って、あとから感じ方が変わる余地がありません。決まった時点で結論が固定され、相続が起きた瞬間に金額として出てきます。感情の問題として語られがちな同居の話で、いちばん金額に効くのがいちばん事務的な1行だというのが、調べていて引っかかった点です。ここは私の見方なので、根拠にした国税庁の条文のほうを持ち帰ってください。
区分登記を解消する方法自体はあります。ただし複数の税目が関わり、司法書士と土地家屋調査士の両方に依頼することになります。費用は条件で大きく変わるため、この記事では金額を書きません。
相続が起きる前にできる3つのこと
1. 固定資産税の納税通知書が何通届いているか数える。 1通か2通かで、当たりはつきます。今年の分が手元にあれば今日できます。
2. 法務局で登記事項証明書を取る。 通知書の枚数は目安なので、確定させるならここです。何個の建物として登記されているかを見ます。
3. 区分登記だった場合の選択肢を、相続が起きる前に聞いておく。 判定に使われるのは相続時点の登記です。亡くなったあとに直しても、その相続には間に合いません。
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実家を売るか貸すかまで話が進んでいる段階なら、相続した神戸の実家は待てば上がるのかも合わせて読むと、順番が整理できます。
この記事の数字の出どころ
- 特例の条件・限度面積330㎡・減額割合80%・「区分所有建物である旨の登記」の定義:国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- 路線価が地価公示価格のおおむね8割という水準:国税庁「令和7年分の路線価等について」。個別の路線価と一致する数字ではありません
- 土地の取引面積:国土交通省の不動産取引価格情報。神戸市東灘区、2024年第4四半期〜2025年第4四半期の74件。面積は10㎡・50㎡単位に丸められた公表値です
- 地価公示:国土交通省の地価公示。神戸市東灘区御影郡家2丁目の地点
- 読者の声:Yahoo!知恵袋の質問「二世帯住宅に住んで後悔されている人に質問です。どのような後悔ですか?」および「二世帯住宅にして後悔したことを教えてください。」、婦人公論.jp(読売新聞「発言小町」)2026年8月12日配信記事。いずれも2026年8月12日に確認
- この記事の評価額はすべて概算です。実際の相続税の判定は個別事情で変わるため、金額を決める場面では税理士に確認してください


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