「空き家が900万戸もあるなら、数年待てば安く買える」。そう考えて2021年に購入を見送った人は、大阪市西区で40坪の土地を買うなら5年で4,294万円多く払うことになりました。同じ5年で値下がりしたのは、私が集計した全国100エリアのうち3エリアだけです。
しかもその3エリアで浮いたお金は、いちばん大きい那須塩原市でも40坪あたり24万円でした。待って得した最大額24万円に対し、待って損した最大額は4,294万円。約180倍の開きがあります。
空き家が過去最多を更新し続けているのは事実です。それでも「待てば安くなる」が成立した市場は、ほとんどありませんでした。この記事では、その数字と、安く買える空き家に何が起きているのかを見ていきます。
・2021年に買うのを見送った人が、5年でいくら余分に払うことになったか(実数)
・「待って正解」だった3つの街に共通する、買った後の問題
・内見を申し込む前に、登記簿と前面道路で確認できること
5年待った結果:100エリアのうち97エリアが値上がりしていた
国土数値情報の地価公示データから、全国100エリアの住宅地の平均坪単価を2021年と2026年で比べました。40坪の土地を買う前提で、5年待ったことによる差額も出しています。
| エリア | 2021年 坪単価 |
2026年 坪単価 |
5年の変化 | 40坪なら いくら違うか |
|---|---|---|---|---|
| 大阪市西区 | 208.0万円 | 315.4万円 | +51.6% | +4,294万円 |
| 福岡市中央区 | 156.5万円 | 260.7万円 | +66.6% | +4,169万円 |
| 福岡市博多区 | 87.3万円 | 160.8万円 | +84.3% | +2,941万円 |
| 水戸市 | 14.6万円 | 14.6万円 | -0.1% | -0.4万円 |
| 伊勢崎市 | 11.4万円 | 11.2万円 | -1.4% | -6万円 |
| 那須塩原市 | 8.9万円 | 8.3万円 | -6.8% | -24万円 |
上の3行と下の3行を見比べてください。値上がりした街では数千万円単位で動いているのに、値下がりした街の下げ幅は数万円から24万円にとどまります。
待つという判断は、当たっても得は小さく、外れたときの損が桁違いに大きい。この5年間はそういう賭けでした。
「待って正解」だった3つの街に共通すること
値下がりした3エリアを、5年ではなく14年で見ると景色が変わります。
| エリア | 直近5年 (2021→2026) |
14年 (2012→2026) |
|---|---|---|
| 水戸市 | -0.1% | -15.3% |
| 伊勢崎市 | -1.4% | -10.8% |
| 那須塩原市 | -6.8% | -24.9% |
3つとも、14年かけて下がり続けています。那須塩原市は坪11.0万円が8.3万円になり、4分の3になりました。
つまりこの3エリアは「待てば安く買える街」であると同時に、買った後も下がり続ける街です。数万円待って得をしても、購入後の10年で数百万円の資産価値が減れば意味がありません。転勤や離婚、親の介護で手放す事情が出たときに、買った値段では売れないということでもあります。
買うときに見るべきは、値下がりしているかどうかではなく、自分が売る番になったときに買い手がいるかどうかです。
安い空き家が安い理由は、買った後に効いてくる
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、空き家900.2万戸のうち385万戸は賃貸用でも売却用でも別荘でもない放置空き家で、その74%(285万戸)が一戸建てです。
「安い中古の一戸建てが大量に余っている」ように見えます。ところが、そのうち多くが買っても住宅ローンを組みにくい家です。理由は3つあります。
1. 1981年以前に建てられた家は、住宅ローン控除が原則として使えない
住宅ローン控除の対象になるのは、登記簿上の新築の日付が1982年1月1日以降の住宅です。それより古い家で控除を受けるには、耐震基準適合証明書などで新耐震基準への適合を証明する必要があります。証明を取るための耐震改修には費用がかかり、それを払うと「安く買った」分が消えます。
2. 前面道路が狭いと建て替えができない
建築基準法では、原則として幅4m以上の道路に2m以上接していない土地には建物を建てられません。これを満たさない土地は建て替えができず、金融機関の担保評価も下がります。当サイトで全国の取引データを集計したところ、道幅4m未満の土地は、駅から遠い地域ほど3割ほど安くなっていました。安さの正体がここにあります。
3. 市街化調整区域は建築そのものに制限がある
市街化を抑える区域に指定されていると、新築や建て替えに許可が必要です。土地の値段は安く見えますが、思ったように家を建てられないことがあります。
内見を申し込む前に、3つだけ確認する
物件を見に行く前に、資料と地図だけで判断できることがあります。
- 登記簿の新築日付:1982年1月1日より前なら、住宅ローン控除と耐震改修費用の両方を計算に入れる
- 前面道路の幅と接している長さ:幅4m・接道2mを下回るなら、建て替えができるかを先に不動産会社へ確認する
- 市街化調整区域かどうか:物件資料の「都市計画」欄に書かれている。該当するなら建築の許可条件を確認する
この3つは、価格が相場より明らかに安い物件ほど当てはまります。安い理由が説明できないまま話が進むときは、まだ説明されていない条件があると考えたほうが安全です。
私はこう見ています
事実として、私が集計した100エリアのうち直近5年で値下がりしたのは3エリアで、その3エリアは14年で見るといずれも二桁のマイナスでした。
そのうえで私は、買いたい人にとっての「空き家900万戸」は、値下げを待つ理由にはならないと考えています。空き家が積み上がっているのは、買った後に売れない条件を抱えた家であることが多く、その在庫がいくら増えても、住みたい場所の値段は下がらないからです。むしろ「空き家が増えている」というニュースを値下げの予告として読むと、上がり続ける街で毎年数百万円を取り逃がします。
もう一つ。買う判断で怖いのは高く買うことではなく、売れない家を買うことです。高く買った家でも、買い手のいる場所なら次に渡せます。安く買った家でも、建て替えられず融資も付かないなら、次の買い手は現金を用意できる人だけになります。値段の絶対額より、出口の広さを先に見てください。
判断の材料になるのは全国の空き家数ではなく、買いたい住所の実際の取引価格です。
買う前に、そのエリアの実勢価格を確かめる
国土交通省が取引当事者に調査して集めた成約価格を、住所単位で無料で確認できます。
全国の市区町村・土地・戸建て・マンション別に対応。登録は不要です。
年収から借入可能額と毎月の返済額を試算する
空き家は過去最多なのに、なぜ家の値段は上がるのか
出典と集計方法
- 空き家数・放置空き家の内訳:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」(2023年10月1日時点)
- 住宅ローン控除の築年数要件:1982年1月1日以降に建築された住宅(登記簿上の新築の日付)。それ以前は新耐震基準への適合の証明が必要(2022年度税制改正後の要件)
- 接道義務:建築基準法第43条
- エリア別の坪単価:国土数値情報「地価公示(L01)」の地点データを当サイトで集計。各エリアの住宅地地点の平均を坪単価に換算し、地点の入れ替わりによる断絶を避けるため、隣り合う2年の両方にデータがある地点だけで前年比を出して連鎖させています
- 40坪あたりの差額は、坪単価の差を単純に40倍した概算です。実際の売買価格は個別の条件で変わります


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