神戸で相続した実家が2,500万円で売れたとき、親がいくらで買ったのかを示す紙が1枚も出てこないと、税金は約482万円になります。同じ家でも1991年の売買契約書が1枚出てくれば、その額は0円になることがあります。
「取得費が分からないなら売った金額の5%」。税理士にも不動産会社にもそう言われます。ところが条文をひらくと、5%は上限ではなく下限として書かれています。
この記事でわかること
- ✓ 租税特別措置法31条の4は5%と定めたあと、実額のほうが多いと証明されればそちらを使う、と続く
- ✓ 相続した家は親の取得費をそのまま引き継ぐ(所得税法60条1項)。探す紙は自分のではなく親のもの
- ✓ 神戸市の住宅地は1991年から続く86地点すべてが今のほうが安く、中央値は当時の34.2%
「5%になることは承知しています」と書いた人が、止められた場所
2025年2月、Yahoo!知恵袋に出た質問です。
不動産売却時に、領収書や契約書を紛失していた場合についての質問です。
領収書等がないと取得費が売却代金の5%になることは承知しています。(一財)日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」、「建物の標準的な建築価額表」などを利用して、取得費を5%より多く算出することに成功された方はいらっしゃいますか?
税理士が無理と言っているんですが、(略)実際のところどうなのでしょうか?
制度を知らない人ではありません。知ったうえで動く方法を探し、専門家に止められています。
回答は2件。1件目は市街地価格指数について「否認される可能性は十分にあります」と書き、「否認実績は税理士にとって嫌なものですから、嫌がる人も多いでしょう。」と続けます。2件目は制度の側から答えています。
昭和28年以降に取得された土地建物については、概算取得費の計算が強制されるわけではなく租税特別措置法関係通達によって適用してもいいし適用しなくてもいいことになっています。
どちらも正確です。ただ、読み終えても質問者に届くのは「方法はあるが嫌がられる」までです。2件の回答に、金額が1円も出てこないからです。質問者が聞いた「成功された方はいらっしゃいますか」は、手間に見合うかを尋ねる問いでした。
読者
結局、5%のままにすると何が起きるんですか?
売った金額の95%が、もうけとして課税されます。買った値段がいくらだったかに関係なく、です。
神戸の実家が2,500万円で売れたら、税額は約482万円
金額を出します。国土交通省の不動産取引価格情報で、神戸市9区で成約した宅地(土地と建物)の住宅地1,655件を集めると、成約価格の中央値は2,500万円、土地面積の中央値は130㎡でした(2024年第4四半期〜2026年第1四半期)。
この2,500万円の実家で、紙が出てこなかったとします。取得費は5%の125万円。残る2,375万円に長期譲渡所得の税率20.315%をかけて、約482万円です。

売れた金額が大きい区ほど、差も大きくなります。
| 区 | 成約中央値 | 5%で計算したときの税額 |
|---|---|---|
| 東灘区 | 5,450万円 | 約1,051万円 |
| 中央区 | 4,550万円 | 約878万円 |
| 灘区 | 4,500万円 | 約868万円 |
| 須磨区 | 2,700万円 | 約521万円 |
| 垂水区 | 2,600万円 | 約501万円 |
| 西区 | 2,300万円 | 約443万円 |
| 兵庫区 | 1,800万円 | 約347万円 |
| 北区 | 1,600万円 | 約308万円 |
| 長田区 | 950万円 | 約183万円 |
仲介手数料や測量費などの譲渡費用は、取得費とは別に差し引けます。上の表には入れていません。売った年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら税率が変わります。
売値が読めていないと、この表のどこに自分がいるのかも決まりません。
1991年に買った家は、本当はもうけていない
国土数値情報の地価公示データには、その地点の過去の価格が1983年ぶんから入っています。神戸市9区の住宅地280地点のうち、1991年から2026年まで調査が続く86地点を取り出し、各年の中央値を並べました。

1991年は1㎡あたり32万0,000円、2026年は11万1,500円。2026年の価格が1991年を上回った地点は、9区あわせてひとつもありません。中央値で34.2%、いちばん下がらなかった地点でも57.0%です。底は2022年の10万0,900円でした。
先ほどの実家の土地130㎡を1991年に買っていたなら、土地だけで32万円×130㎡=約4,160万円。売値2,500万円より取得費のほうが大きく、もうけは出ていません。それでも紙がなければ、税額は約482万円です。
読者
親が買ったのがもっと前なら、話は変わりますか?
変わります。1983年から続く48地点で同じ計算をすると、中央値は82.0%。バブルの前に買った家は、当時の値段に近いところまで戻っています。
買った年が10年ちがうだけで結論が逆になります。「相続した家はだいたい値上がりしている」も「だいたい値下がりしている」も、自分の家には当てはまりません。
「5%」は法律のどこに、どう書いてあるか
5%を定めているのは租税特別措置法31条の4第1項です。
個人が昭和二十七年十二月三十一日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における(略)取得費は、(略)当該収入金額の百分の五に相当する金額とする。ただし、当該金額が(略)次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
名指しされているのは昭和27年12月31日以前から持っていた土地建物だけで、しかも5%より実額が多いと証明されたら実額です。条文の5%は、下限として置かれています。
では昭和28年以降に買った家は何を根拠にしているのか。条文ではなく、国税庁の通達です。
措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。

国税庁のタックスアンサーも同じ書き方です。
取得費が分からない場合には、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。
「することができます」であって、「しなければならない」ではありません。5%を使うか実額を使うかは、納税者が選ぶ側に置かれています。
実額のほうが売値の5%を下回るときは、5%を使うほうが得です。国税庁も同じページでそう書いています。困るのは、実額のほうが大きいのに紙がない人だけです。
探す紙は、あなたのものではなく親のもの
先ほどの知恵袋の質問者は、あとから1行を足しています。
契約書が見つかったとして、それが、私(相続による現所有者)が契約したものではなく、前の所有者(父)が契約した書類であっても、金額は有効ですか?
答えは所得税法60条1項にあります。
居住者が次に掲げる事由により取得した前条第一項に規定する資産を譲渡した場合における(略)譲渡所得の金額(略)の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一 贈与(略)、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(略)
相続で受け取った家は、自分がずっと持っていたものとみなされます。親が払った金額がそのまま自分の取得費になり、親が買った日がそのまま自分の取得日になる。だから相続してすぐ売っても税率は長期の20.315%です。知恵袋の回答者も「相続した場合取得費も引き継ぐことができるので、契約書が見つかったのならその契約額を取得費にすることができます。」と書いていました。
読者
父はもう亡くなっていて、聞ける相手がいません。
聞くのではなく、探します。親が動かしたお金の記録は、家の中と法務局に残っていることがあります。
家の中と法務局で、今日できる4つ

効くものから先に見ます。
- 売買契約書と領収書:権利証(登記済証)の封筒に一緒に入っていることがあります。仏壇の引き出し、押し入れの菓子箱、金庫の底が定番です
- 通帳と振込の控え:買った年の預金の動きが残っていれば裏づけになります。金融機関の明細は保存期間があり、古い年は残っていないことがあります
- 登記簿に残った抵当権:住宅ローンで買っていれば債権額が登記されています。完済して抹消していなければ今も読めます
- 当時の公示価格:国土交通省の地価公示は無料で、近くの地点の1983年以降の価格が年ごとに見られます
4つ目は証明書類ではありません。桁が合っているかを自分で確かめる物差しです。指数だけで金額を組み立てると否認されます。1〜3を先に探してください。
抵当権の登記から当時の借入額を読む手順は、抵当権抹消に期限はありませんに書いています。取得費が売値を上回るかで税額が0になるかが決まるので、次に決めるのは売値です。
この話が丸ごと消える人もいる
相続した空き家を売るときは、譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける特例があります。2,500万円の売却なら、これが使えれば取得費の話は消えます。要件は細かく、国税庁のページから抜くとこうなります。
イ 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
ハ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
(イ) 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと。
(3)相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
昭和56年6月以降に建った家、分譲マンション(区分所有建物)、親が誰かと同居していた家、相続してから一度でも貸した家は、この時点で外れます。売却代金1億円以下という上限もあり、制度そのものの適用期限は2027年12月31日です。相続人が3人以上なら控除額は2,000万円になります。
この特例と、相続税を払った人が使える取得費加算の特例は、どちらか一方しか使えません。国税庁の要件(5)に書かれています。
条件の読み方は相続空き家の3,000万円特別控除は使える?と、期限の数え方は実家を空き家にした日から、3,000万円の控除は3年で消えますにまとめています。
私はこう見ています
5%は、証拠を残さなかった人への罰として置かれた数字ではないと私は考えています。条文のただし書きも、通達の「差し支えないものとする」も、国税庁の「することができます」も、納税者に逃げ道を用意する形で書かれているからです。実額が5%を下回る人にとっては、5%はむしろ得な床です。
困るのは、実額のほうが大きいのに紙がない人だけ。そして神戸では、1991年前後に買った人が全員そこに立っています。
冒頭の質問者は、税理士に断られたあと「税理士さんが嫌がる案件なんですね」とお礼を書いて終わっていました。もう1人の質問者は「そんな都合の良い話はありませんよね、納得しました。」と書いていました。2人とも、納得する前に金額を見ていません。約482万円という数字を先に見ていたら、押し入れの箱を開ける手間の意味は変わっていたはずです。
探して出てこなければ、そのときは5%を使います。それは負けではなく、条文が最初から用意している選択肢のほうです。順番だけを間違えないでください。
出典
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)31条の4 / 所得税法(昭和40年法律第33号)60条 …… e-Gov法令検索
- 国税庁 法令解釈通達「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」31の4-1
- 国税庁 タックスアンサー No.3258・No.3208・No.3306(令和8年4月1日現在法令等)
- 国土交通省 国土数値情報「地価公示」(兵庫県・令和8年)…… 神戸市9区の住宅地280地点から1991年以降続く86地点を抽出し中央値を算出
- 国土交通省 不動産取引価格情報(2024年第4四半期〜2026年第1四半期)…… 神戸市9区の宅地(土地と建物)の住宅地1,655件
- 引用した質問と回答は Yahoo!知恵袋の公開ページ(2023年2月28日/2025年2月20日)
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