🗨️「部屋は無事だったのに、どうしてうちが修繕費を払うんですか」
地下の電気設備は共用部分で、持ち主は住民全員だからです。復旧費は管理組合の修繕積立金から出ます。国の調査では、計画に対して積立が足りないマンションが36.6%あります。
[災害] この記事の要点
毎日新聞は2026年8月21日、千葉県の豪雨で浸水したマンションで停電と断水が続いていると伝えた。設備の不具合が起きているマンションは20日時点で少なくとも18棟(千葉市13棟、佐倉市2棟、船橋市・市川市・松戸市が各1棟)。市川市の6階建てでは、入り口に高さ80センチの止水板を立てた30分後に水が乗り越えた。専門家は、既存の電気設備を上層階へ移す費用が億単位に上ることがあると指摘している。
2026年8月27日 発表
- 千葉市・市川市などで停電・断水が続くマンションに住んでいる人
- マンションの管理組合で、保険と修繕積立金の見直しを任されている人
- 停電・断水で使えない部屋に、賃貸で住み続けている人
- これからマンションを買う・借りる人で、積立金の月額だけを見て決めようとしている人
この記事でわかること
- 復旧費を出すのは管理組合=住民の修繕積立金で、自然災害では請求できる相手がいないこと
- 個人で入る火災保険では地下の設備は直せず、共用部の保険は水災を外している契約があること
- 停電・断水で使えない期間の家賃は、請求しなくても減額されること(民法611条1項)
- 災害救助法の応急修理が共用部に使われた前例と、その対象に入らなかった設備
千葉で18棟 止水板を80センチ立てた30分後に、水が越えました
毎日新聞が2026年8月21日に伝えたところによると、13〜14日の豪雨で浸水したマンションでは、21日になっても停電と断水が続いていました。地下の設備が水に浸かって、各戸への送電と配水が止まったままだからです。
千葉県市川市の分譲マンションの様子が、具体的に報じられています。地下のポンプと1階の配電設備が浸水し、6階建て34世帯の全戸で断水、エレベーターも停止しました。1階の管理室の水道だけは使えたので、住民は階段で水を運んでいます。5階に住む女性は「風呂に入れないのがつらい。水をくみに来るのも大変だ」と話しました。
このマンションの管理組合の理事長(54)は、雨が激しくなった13日午後5時ごろ、入り口に高さ80センチの止水板を設置しています。その30分後、水は止水板を乗り越えて建物に入りました。
80センチも立てたのに、30分で越えられたんですか。
越えられました。だから「対策をしていたかどうか」より、越えられた後に誰がいくら払うのかを先に知っておいてほしいんです。
設備の不具合が起きているマンションは、20日時点で少なくとも18棟。内訳は千葉市が13棟、佐倉市が2棟、船橋市・市川市・松戸市が各1棟です。復旧まで数週間かかる見通しの物件もあります。千葉日報によると、20日時点で千葉市がまとめた13棟は、エレベーターが動かないなどの設備不全で、復旧の見通しが立たないマンションも複数報告されました。千葉市は生活支援のプロジェクトチームを発足する方針を示しています。

必要量から逆算してそろえるもの
早見表の数字をそのまま買い物に落とすと、こうなります。全部を今そろえる必要はなく、水とトイレの2つが先です。
飲料水は1人1日3L。4人家族の1週間分で84L=2Lボトル42本なので、6本入りだと7ケースぶんです。5年保存タイプなら入れ替えの手間が減ります。
水は1L=1kgです。20Lタンクは20kgになって手では運べません。小さい袋に分けて何回かに分けるほうが、実際には水を確保できます。
ボンベ1本で約60〜90分。4人家族の1週間分でおよそ6本が目安です。多めに持ってローリングストックにすると、鍋物などで日常的に消費できます。
災害時に多いつまずきが「ケーブルが見つからない・端子が合わない」です。本体にケーブルが付いている型だとそこで止まりません。20000mAhでスマホ数回分。
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復旧費を払うのは住民です 地下の電気設備は「全員の持ちもの」
ここからがこの記事の本題です。地下の受変電設備や給水ポンプが壊れたとき、その費用は誰が出すのか。
地下の電気設備は共用部分で、持ち主は住民全員です。だから復旧を発注するのは管理組合で、お金の出どころは管理組合が積み立ててきた修繕積立金になります。大家さんでも管理会社でもなく、区分所有者が払います。
「管理が悪かったのだから、管理会社に責任をとって保証してもらえないのか」と考える人がいます。ところが今回のような自然災害では、請求できる相手がいません。管理会社の落ち度で壊れたわけではないからです。
市が助けてくれるんじゃないんですか。
住まいの提供や生活支援は動き始めています。ただ、それは住む場所の話で、壊れた設備を直すお金とは別のものです。
金額の実感がわく前例が1つあります。2019年の台風19号で浸水した、川崎市中原区の武蔵小杉駅前にあるタワーマンションです。週刊現代(現代ビジネス)によると、総戸数は643戸、完成は2008年。台風の日から10日以上、停電と断水が続きました。そして台風から4か月近くたっても、地下階の機械式駐車場と電気設備の一部は故障したままで、復旧までにはさらに半年以上かかると見られていました。
住宅ジャーナリストの榊淳司氏は、同誌でこう試算しています。
タワマンの欠点は、通常のマンションにくらべて維持管理、そして修理のコストが非常に高いことです。地下駐車場がストップし、電気系統も故障したとなると、被害総額は3億〜5億円にのぼってもおかしくありません。管理組合加入の保険に水害特約があっても、全額補償は難しいのではないでしょうか
この3億〜5億円を、単純に643戸で割ってみます。1戸あたり約47万円から約78万円です。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、修繕積立金の額は月/戸当たりの平均で13,054円。47万円は積立の約3年分、78万円なら約5年分にあたります。保険や公的支援でどれだけ埋まるかは契約と制度によりますが、埋まらなかった分がこの規模で乗ってくる、ということです。
同じ記事には、負担の話が住民の間でどうこじれるかも出ています。70代の女性住民の言葉です。
2〜3月は引っ越しシーズンで、このマンションを出ていく人も多いと思います。でも、これから住民の負担金額が決まったとしても、引っ越してしまった人におカネを出してもらうことは無理じゃないでしょうか
30代の男性住民は「みんなが平等に修理や修繕の費用を分担すればそれで済む、という具合にはならないんです」と話し、住民の意見が異なって話が進まない状況を説明しています。車を持たない人が機械式駐車場の修理費を払うのか、という論点も出ていました。

個人の火災保険では、地下の設備は直せません
「火災保険に入っているから大丈夫」と思っている人に、ここだけは知っておいてほしいことがあります。
個人で入っている火災保険が守るのは、専有部分だけです。自分の部屋の中の壁や床、家財が対象で、地下の受変電設備や給水ポンプは入りません。共用部分は、管理組合が加入するマンション総合保険の領分です。
そして、その共用部の保険が水害をカバーしているとは限りません。毎日新聞の取材に対して、不動産コンサルティング会社さくら事務所の土屋輝之さんは、管理組合が加入している共用部分の保険をこの機会に確認するよう提案し、契約内容によっては水害による損傷が補償の対象外の場合があると説明しています。
水害を外している契約なんて、そんなにあるんですか。
共用部だけを数えた公的な統計は見つかりませんでした。参考になるのは個人向けの数字で、火災保険に水災補償を付けている契約は2024年度末で61.8%です(損害保険料率算出機構。共済は含みません)。4割近くは付けていない計算になります。
私は、この保険の確認こそ今日できるいちばん安い対策だと考えています。理由は3つあります。証券を見るだけなら費用がかからないこと、水災を外していた場合の追加保険料は設備の移設費とは桁が違うこと、そして総会の議決を待たずに理事会で調べられることです。
賃貸なら、家賃は請求しなくても減ります 民法611条1項
この災害で見落とされやすいのが、賃貸で住んでいる人の家賃です。
停電と断水で部屋が使えない期間の家賃は、こちらから請求しなくても減額されます。民法611条1項がこう定めているからです。
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
ここは2020年4月に施行された改正で変わったところです。それまでは「減額を請求することができる」でしたが、今は「減額される」と書かれています。借りている人が黙っていても、法律の上ではすでに減っている、という書き方です。
ただし、いくら減るかは自動では決まりません。国土交通省の資料は、一部滅失の程度や減額割合について判例の蓄積による明確な基準がないことから、借主が貸主に通知して賃料について協議し、減額の割合・期間・方法を合意のうえで決めることが望ましい、としています。
やることは2つだけです。使えない設備と、使えなくなった日を記録しておくこと。それを貸主か管理会社へ文書で伝えることです。満額を払い続けたまま何も言わない、がいちばんもったいない状態です。
災害救助法の応急修理は、マンションの共用部にも使えるのか
個人の住宅を直す災害救助法の応急修理制度は、共用部にも使えるのか。前例があります。
内閣府の資料によると、2011年の東日本大震災のとき、厚生労働省の通知(平成23年6月30日 社援総発0630第1号)で住宅の応急修理制度の対象を広げる方針が示され、区分所有マンションの共用部分への適用が認められました。これを受けて仙台市が同年8月、対象範囲と申込み方法を公表しています。
仙台市が挙げた「共用部分を複数世帯で修理する場合」の対象部位は、共用廊下、エレベーター、階段、高架水槽、浄化槽、屋上の防水処理などでした。エレベーターは稼働しているものが1基もない場合に限り、原則として1棟に1基。階段も、ほかに使える階段がない場合に限り原則1か所です。
ここで注意して読んでほしいところがあります。この列挙に、受変電設備や配電設備は入っていません。高架水槽は入っていますが、今回の千葉で壊れたのは、その手前で電気を送る設備です。応急修理を共用部に使うかどうか、どこまでを対象にするかは、災害ごとに国の方針と自治体の判断で決まります。「前例があるから今回も出る」とは言えません。
千葉県の応急修理そのものの中身(金額の上限や、現金ではなく現物給付であること)は別の記事にまとめています。

なぜ電気設備は地下のままなのか 億単位の費用と、1年で代わる理事長
武蔵小杉の被害を受けて、国は動いています。経済産業省のページによると、令和元年東日本台風の内水氾濫で高層マンションの地下の高圧受変電設備が冠水し、停電でエレベーターや給水設備が一定期間使えなくなった被害を踏まえ、国土交通省と経済産業省が令和元年11月に検討会を立ち上げ、「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」をまとめました。新築だけでなく既存の建築物についても、浸水対策のあり方や取組の留意点を書いています。
それでも、6年たった千葉で同じことが起きました。理由の1つはお金です。毎日新聞の取材で、さくら事務所の土屋輝之さんは、既存の設備を上層階に移す費用が億単位に上ることがあると説明しています。電気設備の床をかさ上げする方法もありますが、天井までのスペースの確保が課題になります。
そしてもう1つ、この記事でいちばん重いと私が見ているのは、次の一節です。市川市のあのマンションは、過去にも設備が浸水していました。管理組合で対策を話し合ったものの、費用の問題と、理事長が1年ごとに代わることなどから、対応は先延ばしにされてきた、と報じられています。
それは、うちのマンションでも起きていそうです。
起きます。輪番制の理事会は、1年で結論の出ない議題をいちばん苦手にしているからです。
私は、億単位の工事を輪番の理事会に決めさせる形が続くかぎり、同じ先送りは繰り返されると見ています。判断を1年で完結させる必要があるなら、議題を「移設するかどうか」ではなく「保険で水災を付けるか」「止水板を高くするか」のように、1年で決めて実行できる大きさに割るしかありません。ここは制度ではなく運用の話なので、今日から変えられます。
浸水したマンションの値段は、下がったままなのか
「浸水したマンションは資産価値が落ちる」という不安も、当然出てきます。2020年の時点で榊氏は、あのマンションは少なくとも2〜3年は台風前の金額では買い手がつかないだろうと話していました。
では、その後どうなったか。当サイトが国の実取引データからまとめている中古マンションの成約価格を、川崎市の7つの区で比べます。
| 区 | ㎡単価の中央値 | 成約件数 |
|---|---|---|
| 川崎市中原区(武蔵小杉) | 105.7万円 | 357件 |
| 川崎市川崎区 | 93.3万円 | 385件 |
| 川崎市幸区 | 93.3万円 | 252件 |
| 川崎市高津区 | 75.2万円 | 200件 |
| 川崎市宮前区 | 61.5万円 | 199件 |
| 川崎市多摩区 | 55.3万円 | 121件 |
| 川崎市麻生区 | 48.9万円 | 111件 |
中原区は川崎市の7区でいちばん高く、成約件数も上位です。街の単位で見るかぎり、浸水があっても値段は戻っています。
ただ、ここから引き出せる結論は「だから心配しなくていい」ではありません。街の相場は戻っても、修繕積立金から出ていったお金は戻らない、ということです。資産価値の心配より先に、自分のマンションの積立と保険を見るほうが効きます。
買う前・借りる前に聞く、お金の3つの質問
給水方式や受変電設備の位置など、住めるかどうかに直結する確認事項は前の記事にまとめました。ここではお金に絞って3つだけ挙げます。
- 共用部分の保険に水災が対象として入っているか。付保割合はいくつか
- 長期修繕計画に対して、いまの積立額は足りているか。不足しているなら何%か
- 過去に浸水したことがあるか。あるとき、管理組合は何を決めて、何を先送りしたか
2つめを聞く理由は数字にあります。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションは36.6%。3棟に1棟を超えます。しかも、そのうち不足の割合が20%を超えるマンションが11.7%ありました。見るのは積立金の月額ではなく、計画に対して足りているかどうかです。
3つめは、市川市のマンションの報道からそのまま出てきた質問です。過去に浸水した建物が危ないのではありません。浸水したあとに何も決められなかった建物が危ない、という話です。
積立金の値上げそのものが議題になっているなら、決議のしくみを別の記事にまとめています。断水が「解消」と発表されたのに水が出ない状態については、こちらで書きました。
このエリアの相場はいくらですか?
住所を入れると、国の成約データから土地・戸建て・マンションの坪単価の目安が出ます。無料です。
生活・仕事にどう効くか
- 修繕積立金:復旧費は管理組合の負担。国の調査では月/戸あたりの平均が13,054円で、計画に対して積立が足りないマンションは36.6%ある
- 保険:個人の火災保険は専有部だけ。地下設備は管理組合のマンション総合保険の領分で、水災が対象外の契約がある
- 家賃:停電・断水で使えない部分は民法611条1項で請求しなくても減額される。ただし割合は貸主と協議して決める
結局どうすればよいか
- 管理組合の保険証券を見て、「水災」が補償の対象に入っているかを確かめる
- 賃貸なら、使えない設備と期間を記録して貸主へ通知し、賃料の減額を協議する
- 買う・借りる前に、受変電設備と給水ポンプが何階にあるかを管理会社へ聞く
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公式出典
- 毎日新聞「浸水対策阻む「億単位」の費用 千葉豪雨でマンション停電、断水」(2026年8月21日発表)
- 千葉日報「マンション停電続く 復旧見通し立たず 千葉市プロジェクトチーム発足へ 千葉豪雨」(2026年8月20日発表)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(修繕積立金13,054円/積立不足36.6%)(2026年8月27日発表)
- 経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策」(国交省・経産省ガイドライン)(2026年4月17日発表)
- 国土交通省「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」(民法611条1項)(2021年3月1日発表)
- 内閣府「住宅の応急修理」(区分所有マンション共用部分への適用の事例・仙台市)(2026年8月27日発表)
更新履歴
- 2026年8月27日 初版を公開
※本記事は2026年8月27日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。


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