「境界標がないので、測量が要ります」。実家や自宅を売ろうとして、敷地の角にあるはずの杭が見つからないと言われた人へ。境界標がなくても、その土地は売れます。 売れなくなるのではなく、変わるのは売主が負う責任と、売る前に出ていくお金のほうです。
そして、その出ていくお金の重さは、土地のある場所で桁が変わります。国土交通省が公表している実際の取引価格を全国で集計すると、住宅サイズの土地の坪単価は全国のまんなかで123,141円。40坪ぶんで492万5,640円です。ところが同じ集計で、40坪ぶんの土地代が100万円に届かない市区町村が109ありました。同じ1枚の見積書が、片方では手数料で、もう片方では土地代を丸ごと超えます。
この記事でわかること
- ✓ 境界標がなくても土地は売れる。変わるのは、引き渡しのときに売主が負う責任のほう
- ✓ 見積書が来たら、金額の前に「何をする作業か」を聞く。手元の図面しだいで作業量が変わる
- ✓ 隣が立会いを断ったとき、止めているのが値段の話とは限らない
この記事には測量費の相場を書いていません。理由は本文の「見積書が来たら」の節に書きました。
境界標がなくても売れる。変わるのは売主が負う責任
境界標は、土地の角に打ってある目印です。コンクリートの杭、金属のプレート、アスファルトに打った金属鋲、プラスチックの杭。形はいろいろですが、どれも上面に十字や矢印が刻んであって、その中心が角の位置を指しています。
土地の売買では、引き渡しまでに売主が買主へ境界を示す、という条項が契約書に入るのが通例です。法律がすべての売買に一律で義務づけているというより、契約でそう約束する形になります。買主は、どこまでが自分の土地かを知らないまま代金を払えません。買主に融資する銀行も同じです。
だから境界標が現地にないと、進み方は2つに分かれます。
- 測って境界標を戻してから引き渡す
- 境界が確定していないことを契約書に書いたうえで、そのまま引き渡す
どちらも売買として成立します。2つめを選んだ場合、買った人は自分で測るか、確定しないまま持つことになります。そのぶんの手間と費用を、買主は値段の話に持ち込んできます。
読者
杭が無いだけで、売るのをやめないといけないんですか
やめる必要はありません。決めるのは、測ってから売るか、確定していないと書いて売るか、の2つです。

先に確かめるのは見積書ではなく、自分の土地が40坪でいくらか
見積もりを取るより先に、その土地が今いくらで取引されている場所なのかを見ます。順番を逆にすると、金額の高い安いを判断する物差しがありません。
国土交通省の不動産情報ライブラリで公開されている実際の成約価格を、全国の市区町村ぶん集計しました。集計に使ったのは土地面積400㎡以下の成約だけです。その条件で成約が5件以上ある1,234市区町村が母数になります。
結果は、坪単価の中央値が全国のまんなかで123,141円。40坪(およそ132㎡)に直すと492万5,640円です。そのうえで、40坪ぶんの土地代がいくらになるかで市区町村を数えました。
| 40坪ぶんの土地代 | 該当する市区町村 |
|---|---|
| 100万円未満 | 109 |
| 50万円未満 | 25 |
| 30万円未満 | 11 |
名前を挙げられるところを、成約件数つきで並べます。
| 市区町村 | 坪単価(中央値) | 40坪ぶんの土地代 | 集計に使った成約 |
|---|---|---|---|
| 全国のまんなか | 123,141円 | 4,925,640円 | 1,234市区町村 |
| 千葉県九十九里町 | 6,612円 | 264,480円 | 10件 |
| 三重県伊賀市 | 4,959円 | 198,360円 | 96件 |
| 栃木県那須町 | 4,959円 | 198,360円 | 25件 |
| 茨城県美浦村 | 2,512円 | 100,480円 | 17件 |
| 北海道白糠町 | 793円 | 31,720円 | 9件 |
伊賀市は96件です。数件の偶然でこうなっているのではなく、その市で住宅サイズの土地が実際に売り買いされている水準がこれです。
読者
土地の値段なんて、測量の話と関係あるんですか
関係します。同じ見積書でも、40坪で492万円の土地と、40坪で3万1,720円の土地では、払っていいかどうかの答えが変わります。
面積で絞らないと、この数字は壊れます
最初は面積を絞らずに集計しました。すると埼玉県鳩山町が坪992円、40坪で3万9,680円と出ます。中身を開くと、850〜1,200㎡の大区画の成約4件が中央値を作っていました。同じ町では110㎡の宅地が坪22万8,099円で成約しています。
農地や原野に近い大きな区画が混ざると、それは住宅地の相場ではなくなります。面積を絞らないと「40坪で30万円未満」が33市区町村、400㎡以下に絞ると11市区町村。3倍ちがいます。
だからこの記事の数字は、すべて400㎡以下の成約だけで出しています。上の表に「鳩山町 3万9,680円」は入れていません。

見積書が来たら、金額の前に「何をする作業か」を聞く
Yahoo!知恵袋に、この場面の相談が実際に出ています。実家を売ることになった人の投稿です。境界標が2か所見当たらない。平成17年6月につくられた地積測量図は手元にある。それでも、不動産屋から口頭で言われた金額は22万円(税込)でした。
この22万円は、ある1人が口頭で言われた金額であって、相場ではありません。 土地の形も、標が無い場所も、隣の家の数も、頼む相手も、1件ごとに違います。この記事で測量費の相場を書かないのは、そのためです。
そのうえで、この22万円を先ほどの表に当ててみます。
- 全国のまんなかの土地(40坪で492万5,640円)なら、土地代の4.5%
- 千葉県九十九里町(26万4,480円)なら、83%
- 三重県伊賀市・栃木県那須町(19万8,360円)なら、111%
- 茨城県美浦村(10万480円)なら、219%
- 北海道白糠町(3万1,720円)なら、694%
同じ22万円が、町によって土地代の4.5%にも、6.9倍にもなります。金額そのものが高いか安いかは、金額だけを見ても決まりません。
読者
見積もりの内訳を聞いたら、失礼になりませんか
値切りではなく、何をどこまでやるかの確認です。作業の中身が変わると、終わったときに手元に残る書類も変わります。
聞くのは金額の内訳というより、作業の範囲です。
- 現地を測り直すのか、手元の図面から位置を出すのか
- 隣の土地の所有者に立会いを頼むのか、頼まないのか
- 境界標を入れるのは何か所か
- 終わったときに、こちらの手元に何が残るのか(図面か、隣と交わした書面か)
地積測量図に何がどこまで書かれているかは、図面によって違います。作られた年や、そのときの登記のきまりによって、記録されている内容が変わるためです。手元の図面で足りるのか、測り直しが要るのかは、その図面を見せてみないと決まりません。だから金額の前に、作業の中身のほうを先に聞きます。
地積測量図は法務局にあります。ただし、すべての土地に備え付けられているわけではありません。古くに分筆されただけの土地や、一度も測っていない土地には無いこともあります。無い場合も、無いという事実が分かれば、次に何を頼むのかがはっきりします。

隣が立会いを断ったとき、止めているのが値段の話とは限らない
境界を確定させる測量では、隣の土地の所有者に現地へ来てもらい、ここが角だと確認してもらいます。ここで止まる相談が多く出ています。
Yahoo!知恵袋の投稿から引用します。
> 隣人が境界確認の立ち会いに応じてくれません。
> その立ち会いでサインをしてしまうと、3階建てやらを勝手に建てて街の景観が悪くなる、周りが何人も騙されていると言っていました。
> 不動産屋や測量士の方が訪ねても居留守を使われて顔も出してくれないそうです。
この人が断っていた理由は、土地の値段の話ではありませんでした。サインすると隣に3階建てが建つ、と思っていた、という話です。
ただし、1件の投稿から「隣が断る理由はたいてい誤解だ」とは言えません。言えるのは、断る理由が金銭とは限らない例が実在することだけです。相続でもめている、以前に何かあった、単に高齢で人が来るのが負担、という場合もあります。
同じ相談の回答には、筆界特定という手続きについて「こちらでは概ね半年」と書いた人がいました。これは書き込んだ人の実感で、法務局が公表している標準的な期間をこちらで確認したものではありません。それでも、売買の日程を組む前に「断られた場合、次の手にどれくらいかかるのか」を、頼む相手に聞いておく理由にはなります。
売主としてできるのは、隣に何をお願いするのかを先に自分で理解しておくことです。立会いで確認するのは角の位置であって、隣の土地の使い方や、こちらが将来何を建てるかではありません。それを説明できる状態で頼むのか、業者任せで訪問してもらうだけなのかで、断られ方が変わります。
買う側は、もう敷地の角を見ている
売主が「杭が無い」と気づくのは、たいてい不動産会社に言われたときです。買う側はもっと早く、内見の段階で敷地の角を見ています。
見ているのは境界標だけではありません。前の道の幅、道路にどれだけ接しているか、隣との高低差。ここは買主目線で買う側が土地の境界・接道・高低差をどう見ているかにまとめてあるので、売る側は「自分の土地の弱点がどこから見えているか」を確かめる読み方をしてください。
道幅については、道幅4m未満の土地は、駅から遠い地域ほど3割安いで、地価公示の10,413地点を集計しています。境界と道は、どちらも現地に立った人にしか確かめられません。
住所を入れると、国の成約データから坪単価の目安が出ます
売る前にやること
順番があります。上から順にやると、二度手間が減ります。
読者
杭が抜けかけています。挿し直してもいいですか
触らないでください。動かしてしまうと、それがもとの位置だったと言えなくなります。
1. 敷地の四隅を自分で見る
コンクリート杭、金属プレート、金属鋲、プラスチック杭のどれかが入っていないか、角を1か所ずつ見ます。塀の上、側溝のふち、アスファルトの中、植え込みの根元。土や落ち葉、伸びた草の下に隠れていることがあります。
見つけたら、そのまま写真を撮ります。近づいて刻みが読める1枚と、敷地全体との位置関係が分かる引きの1枚。動かさない。抜けかけていても自分で挿し直さないでください。
2. 家の中の書類を探す
権利証または登記識別情報、測量図、隣と交わした境界の確認書、建築確認済証。仏壇の引き出しや押し入れの書類箱に入っていることが多いものです。相続した家の場合に何を揃えるかは相続した実家を売るときの必要書類一覧|取り寄せ先と集める順番に一覧があります。
3. 法務局に地積測量図があるか確かめる
あるのか、無いのか。あるなら、いつ作られたものか。この2つが分かるだけで、次に頼む相手への説明が変わります。
4. 自分の土地が40坪でいくらの場所か調べる
これが物差しになります。ここが決まっていないと、見積書の金額を判断できません。
5. 見積もりを取るときは、作業の範囲を先に聞く
上の「見積書が来たら」に書いた4つを、そのまま聞きます。
6. 隣に頼む順番と時期を確認する
立会いをいつ頼むのか、こちらが同席するのか、断られた場合はどうするのか。ここを空欄のまま契約の日程を決めないでください。
私はこう見ています
「境界標がない」と言われて、まず測量費の相場を検索するのは順番が逆だと私は考えています。
事実として、見積もりの金額は作業の範囲で変わります。作業の範囲は、手元の図面と隣の状況で変わります。そして同じ金額の重さは、土地の値段で変わります。3つとも自分の土地の側にある条件なので、先に決まるのは自分の土地が40坪でいくらかのほうです。
業界の建前では、境界を確定してから売るのが安全とされます。私はこれを、間違いではないが全国一律には当てはめられない言い方だと考えています。40坪ぶんの土地代が100万円に届かない市区町村が109ある以上、そこでは「安全にいくら払うか」という話になるためです。不動産会社がこれを最初に説明しないのは、確定させておいたほうが後の手続きが揃うからで、売主を軽く見ているからではないと見ています。
それでも、確定していない境界をそのまま渡してよいとは私は思いません。買った人と隣の人のあいだに、こちらが残した宿題が置かれるだけだからです。安いから測らなくていい、という結論にはなりません。決めるのは、いくらまでなら払うかです。その線を引くために、先に自分の土地の値段を知っておく、というのが私の順番です。
敷地の角に杭が見当たらないこと自体は、その土地の欠陥ではありません。無いと分かった時点で、いくらまで払うかを自分で決められる場所に立った、というだけです。
よくある質問
境界標がないと、土地は売れませんか
売れます。境界が確定していないことを契約書に書いたうえで引き渡す形も成立します。ただし買主は、自分で測る手間と費用を前提に値段を考えます。売れるかどうかではなく、どちらの条件で売るかの選択になります。
地積測量図はあるのに境界標がありません。測り直しになりますか
図面があれば必ず測り直しが不要になる、とは言えません。地積測量図に何がどこまで記録されているかは、作られた年やそのときの登記のきまりによって変わるためです。手元の図面を持って、土地家屋調査士に「この図面で位置を出せるか」を確かめてください。図面を見せずに電話で聞いても、答えは出ません。
境界標を自分で入れ直してもいいですか
やめてください。抜けかけている標を挿し直すと、それがもとの位置だったと言えなくなります。隣の土地との境は、両方の所有者が納得して初めて意味を持ちます。見つけた状態のまま写真を撮って、専門家に見せるところまでで止めてください。
隣が立会いを断ったら、売却は止まりますか
止まる場合と、確定させないまま売る形に切り替える場合があります。断られた理由が誤解だった例もあれば、そうでない例もあります。次の手にどれくらい時間がかかるのかは、依頼する土地家屋調査士や不動産会社に、日程を決める前に聞いてください。
測量にいくらかかりますか
この記事では一律の相場を出しません。金額は土地の形、標が無い箇所の数、隣接する土地の数、地域によって変わり、公表された金額をそのまま自分の土地に当てはめられないためです。実際に見積もりを取り、その金額を「自分の土地が40坪でいくらか」と並べて判断してください。
境界標を探すコツはありますか
隣の家の角と、道路をはさんだ向かいの家の角も見てください。自分の敷地では見つからなくても、道の反対側に同じ形の標が残っていることがあります。塀の上に埋め込まれた金属プレート、側溝のふちに打った鋲、アスファルトの十字。地面だけを探していると見落とします。
出典と集計条件
- 土地の取引価格は、国土交通省「不動産情報ライブラリ」で公開されている実際の成約価格を、当サイトが全国の市区町村ぶん取得して集計したものです。土地面積400㎡以下の成約のみを対象とし、市区町村ごとに坪単価の中央値を算出。400㎡以下の成約が5件以上ある1,234市区町村を母数としています。期間は市区町村ごとに異なり、おおむね2024年10〜12月期以降の直近1年ぶんです
- 面積を絞らずに集計した場合の例として挙げた埼玉県鳩山町の数値(坪992円、110㎡の宅地が坪22万8,099円)は、同じデータから面積の条件を外して集計したものです。本文の表には使っていません
- 相談の引用は Yahoo!知恵袋の実在の投稿によります。境界標が2か所見当たらず口頭で22万円(税込)と言われた相談(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11326711071 )、隣人が境界確認の立会いに応じない相談(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13239262183 )
- 道幅の集計は、国土交通省「地価公示(国土数値情報 L01)」の住宅地10,413地点によります。詳細は当サイトの道幅の記事に記載しています
- 個別の土地の境界、必要な手続き、費用については、土地家屋調査士および依頼する不動産会社にご確認ください。この記事は一般的な進め方を整理した参考情報です


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