実家を相続放棄した人が、そこに残った仏壇と位牌を引き取っても、それだけで放棄が消えるとは民法に書かれていません。民法の全文に「仏壇」は0回、「位牌」も0回で、仏壇が入るのは第897条の「祭具」という言葉——相続財産の外に置かれた、たった1か条だけの言葉です。
ただし、外に置かれているというのは、放棄しても切れないという意味でもあります。家は手放せて、仏壇とお墓は手放せない。分かれ目はこの1か条にあります。
この記事でわかること
- ✓ 仏壇・位牌・お墓は民法897条で相続の外に置かれていて、放棄しても手放せない
- ✓ 神戸市立墓園は、名義の承継に710円・遺骨を移す証明に1体300円
- ✓ 墓石の撤去に神戸市の助成金は無い。空き家の解体には最大100万円の補助がある
「仏壇と遺影がそのままになっています」に、5人が答えた
2024年5月、Yahoo!知恵袋にこの相談が出ました。1,616閲覧、回答は5件です。
相続放棄した実家(空き家)に仏壇と遺影がそのままになっています。
飛行機の距離に住んでおりなかなか行く事が出来ず気になっています。
補足には「お墓に遺影位牌を入れるのは良くないことでしょうか?」とありました。放棄はもう済んでいる。家は自分のものではない。それでも仏壇のことが頭から離れない、という相談です。
5件の答えは、きれいに割れました。ベストアンサーは「相続放棄しているので所有権はないです。」と書いたうえで、魂抜きをして仏壇を閉じる手順を教えています。2人目は「あなた以外の相続人に仏壇終いをしてもらえばいいのでは?」。3人目は「相続放棄したのなら、質問者さんにできることはないですし、空き家の相続人が何か行動するまで待つしかないと思います。」と、逆に手を出すなと言いました。4人目は「全部ゴミとして捨てられてると思います。」でした。
読者
放棄したのに、まだ関係があるんですか?
そこが分かれます。家との関係は切れますが、仏壇との関係は別の条文で決まっているからです。
5人目だけが、この件の本当の言葉を出しました。カテゴリマスターの回答で、全文はこれだけです。
祭祀継承者(相続人)がどうにかされると思います。
「祭祀」を名指ししたのはこの1件だけでした。ところが、そのすぐ横で祭祀を引き継ぐ人を「(相続人)」と言い換えています。ここが入れ替わっています。民法は、その2つを別のものとして書いているからです。

民法は、仏壇を「相続財産」の外に置いている
相続の原則は第896条です。「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」——一切の権利義務、と書いてあります。
その次の第897条が、こう始まります。
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。
「前条の規定にかかわらず」の一言で、家系図と仏壇とお墓は、相続の枠から外に出されます。承継するのは相続人ではなく「祖先の祭祀を主宰すべき者」です。誰がそれに当たるかを決めるのは、順に、亡くなった人の指定、慣習、そして家庭裁判所です。897条2項は「前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。」と書いています。
一方、相続放棄の効き目は第939条です。「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」——消えるのは相続人という肩書きであって、祭祀を主宰すべき者という立場ではありません。
民法の全文を数えると、「仏壇」「位牌」「遺影」はいずれも0回でした。「祭具」「墳墓」「系譜」は897条ただ1か条にしかありません。法律は仏壇という言葉を一度も使わずに、「祭具」という言葉ひとつで、家一軒とは別の道筋を用意しています。
条文は2026年9月3日時点。e-Gov法令検索で民法の全文を取得して数えました

位牌を持ち出したら、放棄は取り消されるのか
知恵袋の3人目は、こう心配していました。位牌を持ち出すとなると、「今後の祭祀はあなたがやるということね、じゃあお願いね」と言われる、と。
順序が逆になっています。持ち出したから引き継ぐのではなく、引き継ぐ人だから持ち出せる、というのが897条の書き方です。
単純承認とみなされる条件は第921条にあります。1号は「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。」で、ただし書に保存行為が除かれています。ここで問われているのは相続財産の処分です。祭具は897条で相続財産の外に置かれているので、条文の文言だけを追えば、位牌を引き取る行為はこの1号に当たりません。
読者
じゃあ、遠慮なく持って帰っていいんですね
仏壇と位牌はそうです。ただし同じ棚に現金や骨とう品が置いてあれば話は別になります。そこは相続財産です。
国税庁も同じ線を引いています。相続税がかからない財産の1番目は「墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物」ですが、そのすぐ後ろに、骨とう的価値があるなど投資の対象になるものは相続税がかかる、と書き足されています。日常礼拝の道具か、値段の付く物か。同じ仏具でも扱いが分かれます。
これは条文の読み方であって、家庭裁判所や次の順位の相続人が同じように見るとは限りません。持ち出す前に写真を撮り、何を持ち出したかを説明できるようにしておくほうが安全です
なお、家そのものについては、放棄した人に残る義務は2023年4月1日から狭くなりました。第940条が「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限る形へ書き換わっています。飛行機の距離に住んでいて、鍵も持っていない人は、そもそもこの条文の対象に入りません。詳しくは相続放棄しても空き家の管理は必要?保存義務が残る人と引渡しまでの手順にまとめています。
神戸で墓じまいをするときの窓口と金額
仏壇は運べます。お墓はそうはいきません。神戸市の公表値で、順番と金額を並べます。

最初につまずくのが名義です。神戸市のページは「神戸市立墓地の使用権は、市条例に基づき市長が許可し、許可を受けた者が墓地を使用できる権利です。」と書いています。民法897条が承継させると書いているのは「墳墓の所有権」なので、条文の言葉と、市の帳簿に載っている言葉が違います。だから市の側には別に承継の申請が要り、手数料710円と、戸籍謄本・印鑑登録証明書・誓約書がそろって初めて名義が動きます。
次が遺骨です。改葬の許可を出すのは、墓地埋葬法5条2項により「改葬に係るものにあつては死体又は焼骨の現に存する地の市町村長が行なうものとする。」——自分が住んでいる市ではなく、お墓がある市です。神戸市のページには「遺骨1体ごとに1通の改葬許可申請が必要です。」とあり、祖父母と両親で4体なら4通になります。手数料は1体300円です。
ここで止まる人がいます。施行規則2条は、申請書に「墓地使用者等以外の者にあつては、墓地使用者等の改葬についての承諾書」を添えろと定めています。名義人が亡くなったままだと、承諾書を書ける人がどこにもいません。名義を先に動かさないと、遺骨も動きません。
読者
撤去は市がやってくれるんですか?
いいえ。市のページに「神戸市ではお墓の撤去は行いません。使用者ご自身で石材業者などへ依頼してください。」と書かれています。
同じページにもう1行あります。「神戸市では助成金制度は設けていません。」——空き家の解体には神戸市の補助があり、条件が合えば最大100万円が戻ります(神戸市の空き家、解体費は最大100万円戻る)。家とお墓で、市の構えが正反対です。
時間の使い方にも癖があります。年間使用料は「なお、年間使用料の前納はできません。」と書かれている一方、返還のときは届出をした年度の分を満額納めます。返還手続きの案内には「月割りの制度はありません。」とあります。4月に返しても3月に返しても、その年度は1年分です。

家の値段は区で5.8倍。お墓の手数料は、どの区でも同じ
神戸市の中古戸建ての成約価格は、区によってまるで違います。国土交通省の取引価格情報1,040件(2025年4月〜2026年3月・住宅地)で総額の中央値を出すと、東灘区5,700万円に対して長田区は990万円。5.8倍の開きです。
ところが、名義を引き継ぐ710円も、遺骨1体の証明300円も、どの区でも同じ額です。年間使用料も同じで、3平方メートル以下なら年額3,900円、それを超えると1平方メートルあたり1,300円で計算します。
この1,300円を、同じ区の住宅地1平方メートルの値段と並べてみます。

灘区は0.34%、北区は2.02%。5.9倍の差が付きます。土地が安い区ほど、お墓の年額が重く効きます。神戸市内で実家の価値がいちばん小さい側の人ほど、お墓のほうの負担割合は大きい、という並びです。
墓地は使用権、住宅地は所有権です。掛け合わせて資産価値を比べられる数字ではありません。同じ「1平方メートル」で横に置いただけの比較です
私はこう見ています
相続放棄の相談で、仏壇とお墓が最後まで残るのは、制度の作りがそうなっているからだと見ています。
家と預貯金と借金は、家庭裁判所に申述すれば一度に切れます。ところが祭祀の側には、放棄の手続きがそもそも用意されていません。民法897条は誰が承継するかを書くだけで、承継しない方法を書いていない。墓地埋葬法にいたっては、全文に「祭祀」「承継」「相続」「所有」のどれも一度も出てきません。お墓を誰が引き継ぐのかは、墓地の法律には1文字も書かれていないのです。
だから、決まらないまま残ります。決まらないうちは、市の窓口も動きません。名義人が亡くなった墓地は、承諾書を書ける人がいないので改葬も止まる。年間使用料だけが、毎年きちんと請求されます。
税の側にも同じ非対称があります。仏壇と墓石には相続税がかかりません。ところが国税庁は債務控除の説明で「被相続人が生前に購入したお墓の未払代金など非課税財産に関する債務は、遺産総額から差し引くことはできません。」と書いています。財産としては数えないのに、そのローンは引かせない。税も民法も、祭祀を財産の外に置いた結果として、片側だけが残る形になっています。
遠方にいて動けないなら、まず決めるべきは仏壇の置き場所ではなく、誰が祭祀を主宰する人になるかだと考えます。そこが決まれば、市の申請書に名前を書ける人ができます。決まらないときのために、897条2項は家庭裁判所を用意しています。
よくある質問
相続放棄したら、仏壇や位牌も一緒に放棄できますか
できません。民法897条は「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。」と定めていて、これは相続の枠の外です。相続人でなくなっても、祭祀を主宰すべき者に当たれば承継します。
位牌を持ち帰ると単純承認になりますか
民法921条1号が単純承認とみなすのは「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。」です。祭具は897条で相続財産の外に置かれているため、条文の文言だけを見れば位牌の引き取りは当たりません。ただし骨とう的価値のあるものや現金を一緒に持ち出せば別の話になります。何を持ち出したか写真で残しておくことをおすすめします。
神戸のお墓を墓じまいすると、いくらかかりますか
神戸市に支払う分は、使用権の承継が710円、改葬の証明が遺骨1体につき300円、いずれも郵送料110円が別途かかります。年間使用料は3平方メートル以下で年額3,900円です。墓石の撤去費は石材業者への支払いになり、神戸市は金額を公表していません。神戸市のページには「神戸市では助成金制度は設けていません。」とあります。
改葬の許可はどこの市役所でもらうのですか
墓地、埋葬等に関する法律5条2項により、改葬の許可は「死体又は焼骨の現に存する地の市町村長」が出します。今住んでいる市ではなく、遺骨が納められている場所の市区町村です。神戸市内の一般の墓地からの改葬は、市役所1号館20階の斎園管理課が窓口になります。
出典
- 民法(明治29年法律第89号)第896条・第897条・第921条・第939条・第940条 / e-Gov法令検索
- 墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)第5条・第8条、同施行規則第2条 / e-Gov法令検索
- 神戸市「墓じまい」(ページID65668・最終更新2026年1月16日)
- 神戸市「改葬の許可」(ページID2208・最終更新2026年5月15日)
- 神戸市「神戸市立墓園の届出等・年間使用料」
- 神戸市「神戸市立墓園・墓地の返還について」(R07.09)
- 国税庁 No.4108 相続税がかからない財産 / No.4126 相続財産から控除できる債務
- 国土交通省 不動産取引価格情報(神戸市9区・宅地(土地と建物)・住宅地1,040件/2025年第2四半期〜2026年第1四半期)
- 2026年地価公示(国土数値情報 L01-26_28・神戸市9区の住宅地280地点)
- 題材にした質問 / Yahoo!知恵袋(2024年5月29日・1,616閲覧・回答5件)


コメント