🗨️「高潮の浸水想定区域に入っている土地は、家を建てるのに制限がかかるのでしょうか」
高潮浸水想定区域そのものには、建築の制限も開発の許可制もありません。根拠になっている水防法を最後まで読んでも、建ててはならないという条文は1つも出てきません。建てることを止められるのは、同じ「高潮」という言葉を使っていても建築基準法第39条の災害危険区域のほうです。
[災害] この記事の要点
2026年9月19日 発表
- 海の近くの土地を買おうとしていて、高潮浸水想定区域に入っていると言われた人
- 自分の家が高潮のハザードマップで色のついた場所にあると気づいた人
- 高潮浸水想定区域図が新しく公表されて、自分の土地の扱いが変わるのか心配になった人
指定しているのは都道府県知事で、目的は逃げることです
高潮浸水想定区域を決めているのは、市役所ではなく都道府県知事です。根拠は水防法の第14条の3で、条文の書き出しはこうなっています。
都道府県知事は、次に掲げる海岸について、高潮時の円滑かつ迅速な避難を確保し、又は浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、国土交通省令で定めるところにより、想定し得る最大規模の高潮であつて国土交通大臣が定める基準に該当するものにより当該海岸について高潮による氾濫が発生した場合に浸水が想定される区域を高潮浸水想定区域として指定するものとする。
水防法 第十四条の三 第一項(e-Gov法令検索)
長い一文ですが、目的は真ん中に書かれています。「高潮時の円滑かつ迅速な避難を確保し」。この区域は、高潮が来たときに人が逃げられるようにするために引かれたものです。そして条文はそこで終わります。区域の中で家をどうしなさい、という話は続きません。
もう1つ、「想定し得る最大規模の高潮」という言い方も見ておいてください。毎年来るような台風ではなく、その海岸で考えられるいちばん大きな高潮を前提にした図です。だから区域は広く引かれます。広いことと、そこが建てられない土地であることは、別の話です。
水防法を最後まで読んでも、建ててはならないとは書いていません
水防法の全文を通して読むと、建築や開発を制限する条文が出てきません。「建ててはならない」という言い回しも、「許可を受けなければならない」という言い回しも、法律の中に1つもありません。
「制限」という言葉が出てくる場所は2か所だけで、どちらも建物の話ではありません。第21条の、水防活動が緊急を要する場所で水防団長や水防団員が警戒区域を設定して立入りを禁じたり制限したりできる、という規定と、それに従わなかったときの罰則です。つまり、大雨の現場で人を近づけないための制限であって、その土地に家を建てる話ではありません。
水防法がこの区域について定めているのは、指定すること、区域と想定される水深を明らかにして公表すること、市町村に知らせること。この3つです。洪水浸水想定区域(第14条)も、雨水出水すなわち内水の浸水想定区域(第14条の2)も、同じ作りになっています。
地図で調べたあと、家に置いておくもの
色がついていても、白でも、家に置くものは変わりません。自治体の備蓄は数日分が前提なので、最初の3日をしのぐ分は各家庭で持っておくものとされています。
一から集めると抜けが出ます。まずセットで用意して、家族の人数分と常備薬だけ足すのが早いです。
飲料水は1人1日3L。4人家族の1週間分で84L=2Lボトル42本なので、6本入りだと7ケースぶんです。5年保存タイプなら入れ替えの手間が減ります。
断水で最初に困るのがトイレです。備蓄で見落とされやすい一方、代用が効きません。
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建てるのを止められるのは、災害危険区域のほうです
では「高潮の危ない場所には家を建てさせない」という仕組みが日本に無いのかというと、あります。ただし別の法律です。建築基準法の第39条で、条文は2項だけの短いものです。
地方公共団体は、条例で、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として指定することができる。
2 災害危険区域内における住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限で災害防止上必要なものは、前項の条例で定める。
建築基準法 第三十九条(e-Gov法令検索)
1項に「津波、高潮、出水等」とあります。高潮という同じ言葉が、水防法と建築基準法の両方に出てきます。ところが後に続くものが正反対で、水防法のほうは地図を作って公表するところで終わり、建築基準法のほうは2項で「住居の用に供する建築物の建築の禁止」まで条例で決められる、と書いてあります。
ここが、この話でいちばん取り違えられやすいところだと思います。高潮のハザードマップで色がついていることと、その土地に家を建てられないことは、根拠にしている法律が違います。決める人も違います。地図を引くのは都道府県知事、建築を制限するのは市町村などの地方公共団体が作る条例です。

洪水と内水には、許可のいる区域がもう1つあります
水の災害で建築に許可が要る区域は、災害危険区域のほかにもあります。特定都市河川浸水被害対策法の第56条が定める浸水被害防止区域です。2021年の法改正で作られた、比較的新しい区域です。
条文は、洪水または雨水出水が起きたときに建築物が壊れたり浸水したりして人の生命や身体に著しい危害が生じるおそれがある土地について、一定の開発行為と、居室のある建築物の建築や用途の変更を制限すべき区域として指定できる、という組み立てになっています。指定するときは区域と「基準水位」を明らかにすることになっていて、その水位が、許可を出すかどうかの判断のものさしになります。
ここで気づいてほしいのは、条文が挙げているのが「洪水又は雨水出水」の2つだけだということです。高潮はこの区域の対象に入っていません。つまり高潮については、いまのところ許可制の区域という道具そのものが用意されていません。
土砂のほうには同じ形の仕組みがあります。土砂災害特別警戒区域、いわゆるレッドゾーンでは、住宅や学校などを建てる予定の開発行為をするときに都道府県知事の許可が要ります。こちらはレッドゾーン 土地 売買 売ること自体は止められていませんで、売買と評価の扱いまで整理しました。
6つの区域を並べると、性格がはっきり2つに割れます
ここまでに出てきた区域を、根拠の法律と「建てることへの制限があるかどうか」で並べてみます。
| 区域の名前 | 根拠の法律 | 指定するのは | 建てることへの制限 |
|---|---|---|---|
| 洪水浸水想定区域 | 水防法 第14条 | 国土交通大臣(1項)・都道府県知事(2項) | なし |
| 雨水出水(内水)浸水想定区域 | 水防法 第14条の2 | 都道府県知事・市町村長 | なし |
| 高潮浸水想定区域 | 水防法 第14条の3 | 都道府県知事 | なし |
| 災害危険区域 | 建築基準法 第39条 | 地方公共団体(条例) | あり。住居用の建築禁止まで条例で定められる |
| 浸水被害防止区域 | 特定都市河川浸水被害対策法 第56条 | 都道府県知事 | あり。開発と、居室のある建築物に許可(高潮は対象外) |
| 土砂災害特別警戒区域 | 土砂災害防止法 第10条 | 都道府県知事 | あり。住宅などの特定開発行為に許可 |
上の3つと下の3つで、性格がはっきり分かれています。上は「ここまで水が来ます」と知らせる地図で、下は「ここでは建てるのに許可が要ります」という規制です。高潮は上の段にしかいません。この一覧を1枚で持っておくと、不動産の広告やハザードマップを見たときに、どちらの話をされているのかが混ざらなくなります。
区域の外にある土地でも、売り買いのときは位置を示されます
建築の制限が無いからといって、取引で何も言われないわけではありません。宅地建物取引業法施行規則の第16条の4の3第3号の2で、市町村が配っている水害ハザードマップに物件の位置を示すことが重要事項説明の項目になっています。洪水・内水・高潮の3種類が対象で、売買だけでなく賃貸も含まれます。
しかもこの説明は、区域の中にある物件だけの話ではありません。浸水想定区域の外にある場合でも、地図の上でどこにあるかを示さなければならない、と国は整理しています。だから「うちは区域の外だから説明は省略されるはず」という読み方は当たりません。
その説明で業者がどこまでやれば義務を果たしたことになるのかは、重説 ハザードマップ/中身の説明は義務ではないに条文の原文ごとまとめました。地図を出してもらえることと、危ないかどうかを教えてもらえることは、同じではありません。
この住所は浸水しやすい場所ですか?
住所を入れるだけ。ハザードマップの指定(浸水・土砂・津波)と地盤の強さが5秒で出ます。会員登録も電話番号も要りません。
自分の土地がどれに当たるかを見る順番
順番を決めておくと迷いません。
最初に、国土交通省のハザードマップポータルサイトで、同じ住所について洪水・内水・高潮の3枚を開きます。ここで色がついていたら、それは「水が来る想定がある」という意味で、建築の可否とは別の情報です。
次に、市町村のサイトで「災害危険区域」を探します。条例の名前がついているので、検索するときは市町村名と災害危険区域を並べて打つのが早いです。ここに載っていれば、建築の制限は条例の本文に書かれています。
最後に、都道府県のサイトで「浸水被害防止区域」の指定があるかを見ます。指定はまだ全国に多くありませんが、これから増える性質のものです。高潮は対象外なので、海沿いの土地については災害危険区域のほうだけを確認すれば足ります。
なお、道路が水につかる場所は、この3つのどの地図にも出てきません。国と自治体が別に一覧を持っていて、そちらは道路冠水マップ どこで見られるの?に市ごとにまとめてあります。家が浸からない土地でも、そこへ行く道が閉まることはあります。
私はこう読みました
私は、この区域に「建築制限」という言葉が結びつけられてしまうのは、土砂災害のレッドゾーンの印象が引っぱっているからだと考えています。土砂のほうは警戒区域と特別警戒区域が2段構えで、特別警戒区域には実際に許可制があります。その形を水の側にも当てはめてしまうと、高潮浸水想定区域も同じように見えてきます。
けれども水のほうは、洪水も内水も高潮も、水防法の枠の中では地図だけです。規制を掛けるときには別の法律が呼ばれます。だから調べ方も2本立てになります。地図は国のポータルで、制限は市町村の条例で。この2つを別々に見る癖をつけておけば、「色がついているから建てられない」とも、「制限が無いから安全だ」とも取り違えずに済みます。
そして最後のほうが大事だと思います。制限が無いというのは、その土地に水が来ないという意味ではありません。区域の線は、想定し得る最大規模の高潮で引かれています。建ててよいかどうかを法律が黙っているぶん、どのくらいの深さまで来る想定なのかは、自分で地図を開いて確かめるしかありません。
よくある質問
Q. 高潮浸水想定区域に入っていると、住宅ローンや火災保険に影響しますか。
A. 法律上、この区域の指定が金融機関や保険会社の判断を縛る仕組みはありません。ただし火災保険の水災の保険料は、市区町村ごとに分かれた水災等地区分で決まります。区域の指定とは別の物差しなので、両方を見る必要があります。
Q. 区域図が新しく公表されると、うちの土地の扱いは変わりますか。
A. 変わるのは重要事項説明で示される地図のほうです。建築の可否は、災害危険区域の条例が新しく指定されない限り変わりません。
Q. 高潮と津波は同じ区域で見ていいですか。
A. 別です。高潮は水防法、津波は津波防災地域づくりに関する法律で、地図も区域も別に作られています。津波のほうには津波災害警戒区域と津波災害特別警戒区域という2段構えがあり、特別警戒区域のほうには開発の許可制があります。
Q. 災害危険区域はどの市町村にもありますか。
A. 条例で指定できる、という定め方なので、指定していない市町村もあります。無いことも珍しくないので、見つからないときは市町村の建築担当課に確認するのが確実です。
生活・仕事にどう効くか
- 土地を買う前:高潮浸水想定区域に入っていること自体は、建築確認の通り方にも用途にも影響しない。確認するのはその区域ではなく、市町村が条例で指定する災害危険区域のほう。
- 区域図が新しく公表された:水防法の指定は区域と浸水の深さを明らかにして公表するところまでで、あとから建築の制限が付いてくる仕組みにはなっていない。
- 売るとき・貸すとき:区域の内側でも外側でも、重要事項説明では水害ハザードマップ上の位置を示される。示す義務は区域の外にある物件にもある。
結局どうすればよいか
- 国土交通省のハザードマップポータルサイトで、洪水・内水・高潮の3枚を同じ住所で開く
- 市町村のサイトで「災害危険区域」を条例の名前ごと探す。建築の制限があるとすればここに書かれている
- 都道府県のサイトで「浸水被害防止区域」の指定があるかを見る。こちらは洪水と内水が対象で、高潮は入っていない
あわせて読む・調べる
くわしく知る(保存版の記事)
公式出典
- 水防法(昭和二十四年法律第百九十三号)第十四条の三・第十四条・第十四条の二・第二十一条(e-Gov法令検索)(2026年9月19日発表)
- 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第三十九条 災害危険区域(e-Gov法令検索)(2026年9月19日発表)
- 特定都市河川浸水被害対策法(平成十五年法律第七十七号)第五十六条 浸水被害防止区域の指定等(e-Gov法令検索)(2026年9月19日発表)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律 第十条 特定開発行為の制限(e-Gov法令検索)(2026年9月19日発表)
- 宅地建物取引業法施行規則 第十六条の四の三第三号の二(e-Gov法令検索)(2026年9月19日発表)
- 国土交通省 ハザードマップポータルサイト(2026年9月19日発表)
更新履歴
- 2026年9月19日 初版を公開
※本記事は2026年9月19日時点で公表されている情報にもとづきます。数値・制度・進路などは今後変わる可能性があるため、最新の内容は各公式発表をご確認ください。
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